偶然の会い方
仕事帰り。
いつものように帰ろうと地下鉄へ向かう地下道を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「あれ? 正親か?」
「は?」
急に声をかけられた俺は、なんともマヌケな声を出してしまった。
振り返ると、そこには懐かしい顔があった。
「なんや変な声出して」
「ビックリするだろ。いきなり声かけてくるんだもん」
「せやったらどうやって声かけたらええねん」
ケラケラと笑いながら大きめの声で喋る黒縁メガネの関西人。
このお笑い芸人にいそうな関西人は、俺の友達で中尾宏太。
高校の時に大阪から転校してきて、なんとなく仲良くなって、卒業してからもちょくちょく連絡を取り合っていた。一応親友というポジションにいるのが宏太だった。
こうやって会うのは半年ぶりぐらいだ。
「久しぶり」
「せやな」
「あいかわらず声がデカいんだよ」
「そうか? 自分じゃわからんねん」
そう言ってまたケラケラと笑う宏太。
「まだ教師やってるんやろ?」
「まだってなんだよ。教師やってるよ」
「ええよなー。だってJKと一緒にほぼ一日過ごすんやろ? そんなん毎日ハッピーやん。毎日仕事楽しくなるわ」
乗る地下鉄が同じなので一緒に改札へと歩きながら、とても羨ましそうに目を細めて、身振り手振りを加えたオーバーリアクションで話す。
もしこれが満員電車の中だったらどうなるのだろうか。やっぱり周りの人にボコボコぶつかりながら『すんませーん』とか言いながら話すのだろうか。
「せっかくあったんやし、どっかで飲んで行かへん?」
「あー俺まっすぐ帰らないとダメなんだわ」
「なんやノリ悪いわ。なんか用事でもあるん?」
「用事っつーか、今ちょっと親戚の子預かっててさ」
「親戚? へー。正親って子どもとか好きやったんか」
「まぁね」
「はぁ。正親も大人になったんやなぁ」
「お前と同い年だよ」
2人でアハハと笑い合う。
改札を通り抜け、ホームへと続く階段を降りる。
「その親戚の子っていくつなん?」
「えっと・・・8歳」
「8歳!? 犯罪やん!」
「わっ! バカ、声がデカいんだよ!」
「正親のほうがデカいやん」
ホームで『犯罪』とか声を張り上げる宏太の気持ちがわからない。
慌てて宏太をなだめようとした俺を見て宏太はまた笑った。
宏太は昔からよく笑うやつだった。
どうでもいいことも、勝手に話を広げては自分で笑っている。笑い上戸なのか、関西人の血なのかはわからないが、とにかく明るいのを売りにしているのが宏太だった。
ホームにやってきた地下鉄に2人で乗り込む。
「俺も会いに行ってええか?」
「えっ!?」
「そんなに嫌がらなくてもええやん」
「でも瑠璃ちゃん、人見知りだからなぁ」
「へー瑠璃ちゃんっていうんや。可愛い名前やん。将来は美人になるで」
「すごい人見知りなんだよ。初対面でそこそこ仲良くなった人はいままでいないぞ」
「攻略難やな」
「攻略とか言わないでくれる?」
少し抑えた声でケラケラと笑う宏太。
どうやら車内では自重するらしい。
そうこうしているうちに俺の降りる駅に着いた。
宏太はもう1つ先だ。
「んじゃ、またなんかあったら連絡するな」
「おう、待っとるわ」
宏太に背を向けて電車を降り、階段を昇って改札を出る。
そして地上続く道を通り出口へと向かう。
「うわー。結構このへんも変わったなぁ」
「そうか?」
「だって俺めったに降りへんもん」
「それもそうだな」
「んじゃ、行こか」
「おう、って何してんだ!」
「ナイスノリツッコミ!」
親指を立ててグッと俺に向ける宏太。
気付かなかった。ずっと後ろを歩いてたなんて気付かなかった。
俺はその手をバシッと叩くと、宏太を置いて歩き出す。歩きだした俺の横に宏太が並んできた。
「なんで付いてきたんだよ」
「瑠璃ちゃんに会いたくなってしまってん」
「はぁ・・・」
「ため息は肯定とみてええんやな?」
「どういう理屈だよ」
「まぁまぁ。差し入れも買ってくからさ。それで勘弁してや」
両手を合わせて形だけ謝ってくる。どうせ断っても家を知られているんだから、どこまでもついてくるに違いない。
だったらこのまま一緒につれていくのが無難と考えた。
「はぁ。わかったよ。好きにしろよ。そのかわり飯食ったら帰れよ」
「やったね! 久々に正親の飯が食える!」
「そんなに食べさせたことあったっけか?」
「そうやったっけ? まぁ細かいことはええやん。今日のメインイベントは瑠璃ちゃんなんやから。待っててねー、瑠璃ちゃーん!」
ここまで来たら、宏太はもう止まらない。
はぁ・・・瑠璃ちゃんが心配になってきた。
果たして大丈夫なんだろうか・・・
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
関西人の登場は、僕の作品の中で初めてじゃないないですか?
関西に住んでいた時に耳にしていた関西弁です。
多少柔らかく書いてますが、変なところがあればツッコンでください。
そして今回のタイトルは『会い方』です。
『会い方』。宏太は『相方』。
なんつって。
おあとがよろしいようで。
次回もお楽しみに!




