優しい生き方
俺はじいちゃんに宝くじで大金を手に入れてしまったことを話した。
「ふむ。それは大変だったのぅ」
「いや、大変じゃないだろ」
「これからのことを考えると大変じゃと思うぞ?」
確かにじいちゃんの言うとおりかもしれない。
宝くじがあたった瞬間に詐欺にあった人もいるわけだし。
「それはそうと、正親は何に使うつもりなんじゃ?」
「特に決めてないんだけど、ゆ、夢にでも投資しようかと」
「夢じゃと?」
「うん、まぁ」
「どんな夢なんじゃ?」
「その・・・いや、これはいくらじいちゃんでも言えないなー」
「ということはやらしい夢だってことじゃな」
「じいちゃん! なんでそうなるんだよ!」
図星とかマジでこのじいさんこえぇ。
「正親がこんなに小さいころから知ってるんじゃぞ? 何を考えてるかはお見通しじゃ」
蟻と同じくらいの大きさだと言わんばかりの小ささを表すじいちゃん。俺の幼少期は蟻だったのだろうか?
「冷静に考えるとさ、やっぱり自分でパーっと使うのもありかなーとか考えたんだよ。可愛い女の子がいっぱいいるお店とかに遊びに行くのもいいかなーとか考えたりさ」
「正親がか? それは無理じゃろ。ホホホ」
・・・図星ですよ。
どうせ俺はヘタレ男子ですよ。草食系よりも草食系な男子ですよ。あー見えて草食動物だって必死に求愛活動するんだから、草食系男子っていう言い方はおかしいよな。これからはヘタレ男子でいいじゃんね。
俺が図星なことを言われてしまってちょっと悔しがっていると、じいちゃんが口を開いた。
「ワシは正親には優しい人間に育って欲しいんじゃ」
「なんだよ急に。遺言ならやめてくれよ」
「まだ死なんわ。まぁ聞け。昔の日本はな、貧しい家庭から裕福な家庭までいろんな家庭があったんじゃ。今で言うところの格差社会じゃな。そのころはもっと酷かったらしいんじゃ。食べるためには働かなきゃいけない。でも働き口がない。そして人が餓死したりして減っていく。するとその村なり地域なり人口が減っていくじゃろ? それを防ぐために、裕福な人間たちは、貧しい人間を奴隷として使い、金や食料を与える代わりに労働力として使ったんじゃ。今でも奴隷ほどではないにしろそういう仕事はあるじゃろ。それをもっと酷くしたのが奴隷制度じゃ」
じいちゃんの話を俺はじっと聞いていた。
昔からじいちゃんは急にこういう話をしていた。
俺はこんなじいちゃんの話を聞くのが好きだったのかもしれない。
「それでじゃな。正親も大金を手に入れたんじゃったら、いっそ貧しい人を救ってみるというのはどうかの?」
「・・・はい?」
「じゃから、それだけ無駄に遊んで金を使い果たすよりも、誰かのためにお金を使ってみるのもいいんじゃないかと言ってるんじゃ」
「いやいや。この時代に奴隷だなんだっているわけないじゃん」
「昔からの文化は、今も律儀に守られてるもんじゃ」
「ってことは・・・」
「奴隷だっているということじゃ」
・・・マジすか。
俺は信じられないことばかりでもう何が本当のことなのかわからなくなってきていた。
「えっ、ちょっと待って。その奴隷ってどういうことなんだよ。ってゆーかじいちゃんはなんで知ってるんだよ」
「ワシも昔はちょっとは名の知れた小金持ちじゃったんじゃ。その頃に知り合いから教えてもらったんじゃ」
「そんなマンガみたいな話あるわけ・・・」
そこまで言ったところで俺は思った。
宝くじが当たったのだってマンガみたいなことじゃないか。だったらこのままマンガみたいな話を信じてみてもいいのではないかと。
だから、その思い込みのような覚悟だけでじいちゃんの話を半分ぐらい信じてみることにした。
「・・・んで、その奴隷市場ってのはどこにあるんだ?」
「市場なんてもんはありゃせんよ。それこそ正親の言うまんがのような話じゃ」
「あれ? 違うの?」
「ちょっと待っとれ」
そう言ってじいちゃんは隣の部屋の奥へと向かった。
隣の部屋にはばあちゃんの仏壇がある。5年前に風邪をこじらせて死んでしまった。
じいちゃんは悲しんだ様子もなく、『ばあさんの分も生きてやらんと報われんじゃろ』と言って、毎年健康に生きている。ばあちゃんがじいちゃんの生きる原動力になっているのだと思う。
じいちゃんが一枚の紙を持って戻ってきた。
「ここに行きなさい。ワシの紹介で来たと言えば大丈夫じゃから。連絡はしておいてやるから」
「俺一人で行くのかよっ」
「正親もいい大人じゃろ。まだじいちゃんが居ないとさみしいのか?」
「別にそういう意味で言ったんじゃねぇし」
「ホホホ。そういうことじゃ。頑張って可愛い嫁さんでも探してこい」
そう言ってじいちゃんは笑った。
俺はもう意味が分からないままその場所へと向かってみることにした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
なかなかコメディ的なところまで進んでませんが、もう少しの辛抱です!
みなさん頑張ってください!
次回もお楽しみに!