とび箱のとび方
2度目の怜央くん
長谷川さんが転校してきてから、2週間が経った。
長谷川さんは真面目で、手を上げて発表とかはしないけど、授業をキチンと聞いてノートに書いている。
勉強が好きなのかな?
転校した次の日ぐらいからは、みんな長谷川さんが話しかけても答えてくれないっていうのがわかってきたのか、自分から話しかけに行くことはなかった。ヒロトも同じようだった。
でもぼくは、長谷川さんは答えないんじゃなくて、話すのが苦手で怖がっているようにしか見えなかった。だからぼくは今日も長谷川さんに話しかけていた。
別に怖がらせるのが好きとかじゃなくて、長谷川さんと仲良くなりたいと思ったんだ。
「おはよう、長谷川さん」
「おはようございます」
丁寧におじぎをしてあいさつをする長谷川さん。
「長谷川さんって真面目だよね。そんなにていねいにすることないのに」
「・・・ごめんなさい」
シュンとして悲しそうな顔をする。
「ご、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃなくて・・・」
うーん。
長谷川さんと話す時はどうしてもうまく話せない。会話の仕方がわからなくなる。
ヒロトと話す時はもっと話せるのに、長谷川さんとは少し話しただけで会話が終わってしまう。なんかくやしい。
3時間目は隣のクラスと合同の体育でとび箱だ。
体育館に並べられた6段か3段までのとび箱。
それを飛ぶために少し離れたところに列を作っている。
ヒロトは運動神経抜群なので、6段のとび箱なんか簡単に飛んでいた。
ぼくはヒロトほど上手に飛べないので、1段下げた5段をなんとか飛ぶことができている。
そして長谷川さんは一番低い3段で苦戦していた。
「怜央ー」
「ん?」
「まーた長谷川のこと気にしてんのか?」
「まぁ、うん」
「3段なんて手を使わないで飛びこえたほうが早いのにな」
「それじゃとび箱じゃないでしょ」
「でも3段も飛べないってどうなんだよ」
「長谷川さんは運動苦手みたいだよ」
「アレ見てればだれだってわかるよ」
3段を飛べないのは、全部で8人。
太っている男子が2人と太っている女子が2人、普通の女子が3人。そして長谷川さん。
ヒロトが言うには、『太っているやつは運動できないから太ってるんだ』とのこと。
でも長谷川さんとか普通の女子なんかは太ってるわけではないのに、運動が苦手みたいだった。だからヒロトの言うことは間違ってる。ほら、太ってる子だってとび箱飛べてるじゃん。
ぼくは、運動をできない人っていうのは、やり方がわからないんだと思っている。とび箱なら飛び方がわからない。ボールを投げるのだって、投げ方がわからない。そんな感じだと思ってる。
そんな3段を飛べない人には、酒井先生が付きっきりで教えてる。
「俺みたいに飛べば簡単に飛べるのに」
「じゃあヒロトがおしえてくれば?」
「嫌だよ。だって長谷川ってあんまりしゃべらないじゃん」
「しゃべるのが苦手なだけだよ」
「はぁ・・・怜央はやさしすぎるんだよ」
「そう?」
「そうだよ」
自分の番が来たみたいで、ヒロトが走って飛んでいった。
ぼくも順番が回ってきて、走っていき、とび箱を飛びこえた。
元の列にもどりながら、長谷川さんを見てみると、とび箱の上にチョコンとすわってしまっていた。
「瑠璃ちゃん。次はもっと遠くに手をついてみようか」
酒井先生に言われた長谷川さんは、うなずくと小走りで列に戻っていった。
そのあともぼくは長谷川さんをちらちらと見ていたけど、長谷川さんがとび箱を飛ぶことはなかった。
教室に戻ると、ぼくは長谷川さんに話しかけた。
「とび箱、苦手?」
長谷川さんがうなずく。
「こうやって手を伸ばして、いきおいつけて飛べば飛べるよ」
「ありがとうございます。わかりました」
うーん・・・
「あのさ」
ぼくの言葉に首をかたむける長谷川さん。
「もしかして、ぼくのことキライ?」
フルフルと首を振った。
ぼくはちょっとホッとした。本当はきらわれてるのかとも考えてた。
「よかった。もしかしたらきらわれてるかと思って、どうしようかと思った。これからも話しかけてもいい?」
「はい」
「じゃあよろしくね。長谷川さん」
長谷川さんはコクリとうなずいた。
ちょっとだけ長谷川さんと距離が近づいた気がした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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瑠璃ちゃんの学校生活は、玲央くん視点で進んでいきます。
次回もお楽しみに!