上手な言い訳の仕方
いつも使っているテーブルを囲むように天野と中村が俺と瑠璃ちゃんの向かいに座っている。
瑠璃ちゃんは完全に怯えてしまって、俺の背中側に隠れてしまった。部屋に入ってきた人間にいきなり抱きつかれたら、寝起きドッキリされるお笑い芸人でもない限りは怖がってしまうこと間違いなしだ。
「武田。この子はなんなのよ」
「なんで天野は俺の奥さんみたいな感じなんだよ」
「いいから答えなさいよ!」
「瑠璃ちゃんは親戚から預かってるんだって言ってるじゃん」
「それにしては似てないみたいだけど」
「同じ家系でも似てないのはいるだろ」
「ホントは隠し子なんじゃないのー?」
「もし隠し子だったとしても生徒にわざわざ紹介しませんー」
「うー! 香恵ー! 武田が生意気だー!」
そう言って、中村に抱きつく天野。
それすらもめんどくさそうに天野を突き放そうとする中村だったが、天野の力が思った以上に強くて、突き放すに突き放せない状態のようだ。
「あー・・・武田もさ、あたしらが見ちゃったのは悪かったよ。別に誰にも言わないからさ、ホントのこと教えてよ」
中村は俺が嘘ついてるのを分かっているようだ。
なんでわかったんだよ。じょしこうせいこわい。特に中村こわい。
だからと言っても答えられるものではない。
どうしたものか・・・
「とりあえずはさ、今日は帰るよ。邪魔して悪かったな。ほら恭子。帰るよ」
「なに? なんなの? 武田ってば私に嘘ついてるの!?」
「いいから今日は帰るよ」
「香恵はなんでわかってるのさー!」
「恭子。いい加減にしないと怒るよ」
「・・・帰る」
中村に怒られてシュンとした天野は、立ち上がってトボトボと玄関へ向かっていった。それに付き添うように中村も玄関へ向かう。まるで保護者だ。
俺も一応見送るためについて行く。
「なんか悪かったな」
「いいよ。押しかけたのはあたしらだし」
「武田ー。今度教えてね」
「まぁ・・・いつかな」
「むー」
「とりあえずは貸しとくよ」
「お、覚えときます」
「じゃあなー」
扉が閉まると、俺はとてつもない疲労感を感じた。フラフラと瑠璃ちゃんの元に戻ってくると、隣にドカッと座り込んだ。
そんな俺に瑠璃ちゃんが抱きつくようにして寄ってきた。
「あー、ごめんな。ビックリした?」
フルフルと首を振る瑠璃ちゃん。
「あれ、ウチの学校の生徒なんだけどね、もう問題児で困ってるんだ。はぁ・・・明日からどうするかな・・・あっ。でも瑠璃ちゃんのことは言うつもりないからね」
俺がそう言うと、瑠璃ちゃんは顔を上げて俺を見た。
そして掴んでいた手を離すと、からだをこちらに向けて、座ったまま頭を下げた。
「ありがとうございます」
「そんな丁寧にしなくてもいいって」
改まって言われて、俺の方が深いおじぎをしてしまったほどだ。
でも今後、俺と瑠璃ちゃんの関係を聞かれたときはどうやって答えよう。
今回みたいに中村のようなエスパーチックなやつに見破られたら、答えようがない。
いっそのこと親子って言ってもいいんだけど、それだと苗字が違うことからもなんとも答えにくい場面が出てくるだろうし・・・
その時、ポケットに入れていたケータイが鳴った。
誰かと思って見てみると、じいちゃんだった。
「もしもし?」
『おー正親か。元気か?』
「元気元気。なした?」
『なしたじゃないわい。大和田さんから聞いたんじゃが、女の子を買ったんじゃろ?』
「大和田さん?」
『あのワシが紹介したデブじゃ』
「デブって・・・まぁそうだけど」
『じゃったらワシに見せに来るのが筋ってもんじゃろ』
すっかり忘れてた。
「今度の休みにでも見せに行こうかと思ってたんだよ」
『嘘つけぇい。どうせお前のことじゃから忘れてたんじゃろ』
「わかってなら聞くなよな。こっちだって忙しいんだからさ」
『うるさい。なんか困ったことはないか? 相談できるのはワシぐらいじゃろ? 聞くだけなら聞いてやるぞ』
「聞くだけかよ。とりあえず困ったことは・・・あっ」
『なんじゃ?』
「いや、瑠璃ちゃんと俺の関係をどうやって説明するのがいいかなーって思ってさ」
『瑠璃ちゃんっていうのか。洒落た名前じゃの』
「最近はこういうのが普通なんだよ」
『関係か・・・。適当に親戚の子ども預かったとか言えばいいじゃろ』
「それを今日見破られた」
『じゃあ素直に言ってしまえばよかろう』
「いやいや。言ったって信じてもらえないだろ」
『じゃあ言っても大丈夫じゃろ』
「信じてもらえないから?」
『そうじゃ』
もうじいちゃんの言うことがわからない。
でも前も『奴隷を買え』とかわけわかんないこと言ってたけど、結局買って良かったと思ってる。
瑠璃ちゃんと生活をしていて楽しいのは確かだし。
またじいちゃんのことを信じてみてもいいのかもしれない。
「じゃあ今度聞かれたら答えてみるよ」
『ん。じゃあ今度その瑠璃ちゃんを見せに来るんじゃぞ』
「おう」
『ホホホ。ひ孫が見れるみたいで楽しみじゃ。じゃあな。おやすみ』
「うん。おやすみー」
電話を切った。
瑠璃ちゃんは黙って俺の横で話を聞いていたようだが、きっと内容もよくわからなかっただろう。
そんな瑠璃ちゃんの頭を撫でて、俺は言った。
「夜ごはん作るか」
そう言うと瑠璃ちゃんはコクリと頷いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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天野→天然バカ
中村→やる気なしだが敏感
次回もお楽しみに!