授業の進め方
「ふぁあああぁぁぁ・・・・」
「眠いの?」
「あぁ、ごめんごめん。ちょっと寝不足で」
授業中。
生徒に教科書の問題をさせている間に、つい大あくびをしてしまったのを、一番前の席の女子生徒があざとく見つけてくれた。こっちじゃなくて教科書見ててよ。
「夜のテレビでも見てたの?」
「君らと一緒にしないでもらえるかな? 先生は授業の準備とかあるの。授業の流れとか考えたりしないといけないから大変なの」
「ふーん。先生も大変だねー」
「ちゃんと一日の流れを考えて進めてるんだから、ちゃんと問題とかやってよ?」
「もうやったもん。家で」
「それはよろしい」
俺がそう言うと、女子生徒はエヘヘと笑った。
俺が受け持っているのは、1年生の数学だ。そろそろテストも近いということで切羽詰っているはずなのだが、そんなのは教師だけのようで、生徒たちはのんびりといつも通りに授業を受けている。
それぞれのクラスの中にも馴れ馴れしい・・・言い方が悪いか。フレンドリーな生徒というのはいるもので、この女子生徒もそのうちの一人だ。名前は天野恭子。キチンと予習をしてくる良い子で、授業中の空いた時間があるとすぐに話しかけてくる。偉いんだかおしゃべりなんだか。あ、両方か。
「正親ってまだ彼女いないの?」
「いないって言ってるでしょ」
「私と付き合わない?」
「遠慮します」
「なんでー? JKと付き合えるチャンスなんてめったにないよ? この若いからだを好きにし放題だよ?」
「年下には興味ないの」
ついでに言うと、積極的な女性には興味はないの。
「はいはい。テンプレありがとうございました」
「どういたしまして」
いつも同じ答え方をしているからいい加減に飽きてくれないかなぁ。
どこまでが本気なのかどうかもわからない。困ったものです。
「はぁーあ。つまんないのー」
「授業中なんだからしっかり勉強してください」
「はいはい」
「はーい。じゃあ答え合わせするよー」
クラスの生徒の手を止めさせて答え合わせを始める。
んー・・・どこのクラスにもいるんだよなー。
隠れてマンガ読んでる人。
ここから見てると結構丸わかりなんだけどなぁ。
そういう人に答え合わせをやってもらうのが俺流だ。
「じゃあ吉田と田中と中村ー。前出てやってくれー」
「マジかよー」
「武田マジありえねー」
「はぁ・・・」
そう言いながらマンガを机の中に入れたようで、立ち上がったときにはもう持ってなかった。当たり前か。
吉田と田中が男子。中村が女子。
3人がダラダラと歩いて黒板に答えを書いていく。
「やべー。全然わかんね」
「今やる時間あげたでしょ」
「わかんねーもんはわかんねーんだから仕方ないべ」
「マンガばっかり読んでるからでしょ」
「・・・読んでねーし」
うん。わかりやすくてわかりやすい。
吉田は別に不良というわけでもないけど、よく授業中にマンガを読んでいる。
「武田。ここの答え何?」
「自分で考えなさい」
「じゃあわかんね」
「はぁ・・・」
田中は勉強する気がないらしく、吉田からよくマンガを借りて授業中に読んでいる。
仲が良いわけではないようで、特に会話らしい会話をしているところは見たことがない。
「あれ? 中村は?」
「香恵ならさっき教室出てったよ」
「はぁ。またかよ。じゃあ天野やって」
「はーい」
中村は授業逃亡の常習犯だ。
指名するといつも教室を抜け出す。しかも気配を感じさせずに。将来はスパイか何かになるつもりなのだろうか。
天野に当てると喜んでやってくれるのだが、中村もこのくらい真面目だと嬉しいんだけどな。
そんなわけでこの3人がこのクラスの問題児だ。違う意味だと、天野も含めて4人だ。
「先生できたー!」
「マジかよ。天野、俺にも教えろ」
「ここはねー。3xー2yかな」
「さすが天野ー。サンキュー」
「こっちは?」
「そっちは4yだと思う」
「天野、教えるな」
サッサカサーと黒板に答えを記入した3人は、書き終えると自分の席へと向かっていった。
俺は小さくため息を吐いて授業に戻った。
目の前に座る天野は、楽しそうな笑みで俺のことを見上げていた。
俺は数学教師。生徒に馬鹿にされてるような気もしなくもないが、この借りはテストで返してやりたいと思う。いや、絶対に返してやる。
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みんなのアイドル瑠璃ちゃんは、今回はお休みです。
次回もお楽しみに!