未来のことの考え方
家に帰ってくると、瑠璃ちゃんがいつものように座って教科書を読んでいた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「学校どうだった? 楽しかった?」
コクンと頷く瑠璃ちゃん。
それは良かった。もし初日からいじめられているとなればどうしようかと思った。
まだ話すのが上手じゃないから心配してたんだけど、とにかくホッとした。
「勉強はどう? 全然わかんないんじゃない?」
また頷く瑠璃ちゃん。
わからないのも無理はない。だって授業を受けてなかったんだから仕方ない。
でも勉強の面なら俺が教えることができるけど、人間関係ばかりは俺がどーこー言うことはできない。
瑠璃ちゃんとの会話もそこそこに、夜ごはんの準備にとりかかる。
時刻は7時。
どうしても明日の準備をいろいろとしてから帰ってくると、このぐらいの時間になってしまう。
一応は超特急で帰ってきてはいるんだけど、夜ごはんは遅くなってしまう。
瑠璃ちゃんにとってこの環境はどうなのだろうか?
文句を言わない子だからどうなのかがいまいちわからない。
今聞いたところでまともな答えが返ってくるとは思えないから、もう少ししてから聞いてみようと思う。
そして今後瑠璃ちゃんにも料理を教えていくのも悪くないと思っている。女の子が料理できて困ることはないだろうし、今後結婚したときに・・・いや、瑠璃ちゃんにはまだ早いか。結婚なんてまだまだ先の話だ。考えるのはやめよう。でも遅かれ早かれ・・・いやいや。考えるのはよそう。いやでも瑠璃ちゃんだって結婚する前に彼氏とか連れてくるよな。最近の子は小学生から恋人がいるって言うし、瑠璃ちゃんだって可愛いんだから彼氏の一人や二人ぐらい、って二人も彼氏がいたらダメでしょ。瑠璃ちゃんにはまっすぐな子に育って欲しい。でも彼氏かぁ・・・
「ん? どうしたの?」
服の裾を引っ張られたような気がして見てみると、瑠璃ちゃんが裾をつかんでいた。
「おゆわいてます」
「え? あっ、ごめん」
あまりにぼーっと考え事をしていて気付かなかった。
いかんいかん。俺がこんなにボーッとしてたら、瑠璃ちゃんに示しがつかない。
ここは親代わりとはいえ、瑠璃ちゃんを育てる立場にいるんだからしっかりしないと。
沸騰したお湯にパスタの乾麺をぶち込む。今日のメニューはミートソースのパスタとサラダ。
土日はもっとしっかりしたものを作るんだけど、平日は適当になってしまう。
瑠璃ちゃんには申し訳ないけど、しばらくはこれで我慢して欲しい。
今まで一人暮らしだったもんだから、どうしてもこんなメニューが続いてしまう。というか冷蔵庫の中に物がない。
バターにポン酢、玉子が2個、あとはチューブのしょうがとにんにくとわさび。以上。
台所の戸棚の中にはカレールーとか入ってるんだけど、それを作るための材料もない。
徒歩10分ぐらいのところにスーパーあって、一人なら仕事帰りとかに行ったりしてたんだけど、さすがに瑠璃ちゃんがいるときにそれをするのは申し訳ない気がする。
茹で上がったパスタに、一緒に鍋に入れておいたレトルトのソースをかける。
「はい、お待たせ」
テーブルの上にパスタとサラダを並べて、食事を始める。
「はい。じゃあいただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせていただきますをする。
フォークにクルクルとパスタを巻きつけながら食べていると、瑠璃ちゃんが見よう見まねでフォークに巻きつけながら食べようとする。
パスタも食べたことないのか?
今まで何食べてきたんだろう?
そんなことが頭をよぎったが、忘れようと思った。
瑠璃ちゃんが今までどういう生活をしてきたかどうかなんて考えたくもない。
だって瑠璃ちゃんの生活はこれから始まっていくようなもんなんだ。
だから今までのことは忘れるつもりでいたほうが良いと思っている。
余計なことは考えない方が良いと思っている。
だから頭をよぎろうが、誰かに問い詰められようが、気にしないし深く考えない。
それが俺の覚悟だ。覚悟って言ったら変か。俺が瑠璃ちゃんを育てていく上で気を付けていくことだ。注意事項みたいなもんだ。
俺は心の中で改めて気持ちを固めて、瑠璃ちゃんの頭を撫でた。
「おいしい?」
コクンと頷く瑠璃ちゃん。
フォークでパスタを食べる瑠璃ちゃんを見ながら、幸せに育ってほしいと思ったのは言うまでもない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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冷蔵庫に納豆がないなんて、ダメな冷蔵庫だ。
終わってるぜ。
次回もお楽しみに!