転校生の見られ方
怜央くん目線です。
あつかった夏が終わって、これから秋になろうかとしていたこんな中途半端な時期に、うちのクラスに転校生がやってきた。
同じクラスのヒロトが、職員室にいた転校生を見てきたようで、その情報をみんなに大きい声で言っていた。
「なんかちょっと暗い感じのやつだった!」
「ふーん」
「男子? 女子?」
「女子!」
ぼくは遠くで見ていただけだったけど、ヒロトのまわりにはいつもだれかいて、クラスの人気者だった。
そんなヒロトが、ぼくのところにやってきた。
「怜央ー! 転校生、かわいかったぞ!」
「それはよかったね」
ヒロトが動くと、みんな動く。
そしてぼくとヒロトを中心にして輪ができる。
「なんだよ。すましちゃってさ。かっこつけてるつもりかよー」
「かっこつけてないよ。ヒロトがおおげさすぎるんでしょ」
「そんなことねぇって! 転校生とかワクワクするじゃん!」
そういうと、周りで『私もー』とか『俺もー』って声が聞こえだす。
ヒロトは悪いやつじゃないんだけど、ぼくはこういうテンションは苦手だ。なんかどうやってまざればいいのかわからない。
「はーい席についてー」
先生がドアを開けて入ってくると、みんな自分の席にもどる。
担任の酒井先生は、若い先生だけど、怒ると怖い。
みんなそれを知っているから、言うことはちゃんと聞く。それをちょっと下がったところから見るのは、なんか面白い。
「朝の会を始める前に、みんなに新しいお友達を紹介しまーす」
「転校生っ?」
「そうですよー。じゃあ入っておいでー」
先生によばれて、教室の中に入ってきたのは、おとなしい感じの女の子だった。
「瑠璃ちゃん。みんなにあいさつしてくれるかな?」
「は、はい」
緊張してるのかな?
前の人の机を見たままで転校生の女の子が言った。
「は、はせがわるりです。よろしくおねがいします」
小さい声だったけど、みんなが静かにしていたので、一番後ろの席のぼくにもちゃんと聞こえた。
「オレは高橋ヒロト! よろしくな!」
「はい。ヒロト君も仲良くしてあげてね」
「任せてよ先生!」
「期待してるねー。じゃあ瑠璃ちゃんは、一番後ろのあそこの空いてる席に座ってね」
長谷川さんはコクンと首を縦にふると、ぼくの横の席に座った。
「長谷川さん。ぼく、神田怜央っていうんだ。よろしくね」
「・・・よろしくおねがいします」
ぼくが自己紹介をすると、長谷川さんはビクッとしてからていねいにおじぎをしてくれた。
同じクラスにいる女子よりれいぎただしいと思った。
朝の会が終わると、さっそくヒロトが長谷川さんの席に向かっていき、そこでまた人が集まった。
「長谷川さんはどこから来たの?」
「好きな食べ物は?」
「どのへんにすんでるの?」
「好きなマンガとかある?」
もうヒロトの質問をスタートに、長谷川さんは質問攻めにあっていた。
長谷川さんは、あまりにたくさん質問されたもんだから、困ってしまって下を向いている。
ヒロトはあまり人のことを考えずにつっこんでしまう。
いつも幼なじみとして、ヒロトを落ち着かせるのがぼくの役目だ。
「ヒロト。長谷川さんが困ってるよ」
「だって気になるじゃん!」
「気になっても困らせたらダメでしょ」
「悪かったよ。怒んなって」
「怒ってないよ」
僕が止めると、ヒロトはいつもぼくが怒っているとかんちがいする。
べつに怒ってないのに。
ぼくが止めたせいでヒロトはテンションが下がったのか、違う人と話を始めた。
それに続くかのように、周りにいた人たちも移動していった。
「あ、ありがとうございました」
「ヒロトがごめんね。べつに悪いやつじゃないから勘違いしないでね?」
長谷川さんにお礼を言われた。
ぼくがヒロトのフォローをすると、長谷川さんはわかってくれたのか、首を縦に振って、教科書をペラペラとめくっていた。
そのあとも女子が話しかけに行っていたけど、長谷川さんは困ったように下をむいてしまったので、女子もあきらめてはなれていくのが多かった。
人見知りなのだと思った。
給食の時も、ヒロトがぼくの席に来て食べたのだけど、みんな質問に答えてくれないっていうのに気づいたのか、長谷川さんとは誰とも話さずに食べていた。
放課後になって、みんなが帰りだすのを見てから、長谷川さんも席を立って教室を出ていった。
「怜央ー! 帰ろうぜー!」
「あーうん。帰ろっか」
「怜央んちでゲームしようぜ!」
「ヒロトの家のほうがゲームたくさんあるじゃん」
「怜央んちのほうがおもしろいのたくさんあるじゃん!」
「はいはい」
そんな大人しい転校生の長谷川さんが、うちのクラスに入ってきた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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小学校の怜央くん目線です。
こんな落ち着いた小学生いるのか?
次回もお楽しみに!