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依頼と名前


皆様お久しぶりです。

テストが終わり、やっと暇な時間ができました。しかし、久しぶりに執筆すると文章が出て来ませんね(泣)



 



 リリィは困惑していた。

 原因は隣を歩くローブで全身を隠して歩く少女だ。


 街中での騒動が一段落した後、目の前にいた少女からの一言に茫然としていたリリィは再び少女からの一言で我に返った。


 ──ギルドへはどう行けばいいのか。


 もともと買物ついでにギルドへと行くつもりだったリリィは道案内として、少女の隣を歩くことになってしまったのである。

 口数の少ない二人の間に会話はなく、ただ黙々とギルドへの道を歩いていた。


 この街のギルドは街の東側にある巨大な門の側にあった。

 少しぼろいが宿屋もある三階建ての建物である。


 ギルドから許可をもらっている旅人のことを一般的に冒険者と言う。

 許可を取るのに特に決まりはなく、老若男女問わず誰でもなることができる。


 リリィは横目で隣を歩くローブ姿の少女を見る。


 フードを深く被っているので表情は判らないが、きっとあの蒼い瞳と白髪の童顔が真っ直ぐ前を見据えているのだろう。

 リリィがボロボロで辛うじて全身を隠しているローブへと視線を向けると、そこにいくつかの動物の毛や草がついていた。



「──ねぇ、貴女」



 気づけば声をかけていた。



「……何か?」



 前を向いたまま答える少女。歩みは止まらない。



「そのローブ、だいぶボロボロじゃないの。脱がないの?」


「………」



 ぴくり、と少女の肩が少し跳ねた。

 一拍の間を開けた後、少女は初めてリリィへと顔を向けた。フードの中から蒼い瞳が見上げてくる。



「……服、着てない」


「──え?」


「お金がないから」


「───」



 一瞬絶句したリリィは徐に少女の手を掴むと、足早に近くの服屋へと駆け込んだ。




◇◇◇◇◇◇




「……ありがとう」


「……どういたしまして」



 先程と同じく道を歩く二人の姿は、片方だけが様変わりしていた。


 深々と被っていたローブはなく、長い白髪を風に靡かせながら歩く少女。

 空色の瞳に合うような水色の上着と動きやすい黒のロングパンツ。

 どこか妖精の様な少女はその無表情がなければとても可愛らしいと思える容姿だった。


 服を渡して着替えるまでを淡々と無言でこなした少女はぽつり、とお礼を言った。

 リリィは少し軽くなった財布を仕舞いながらそれに答えた。


 無言のままギルドについたリリィと少女は中に入る扉を開く。

 ギギギ、と軋んだ音を立てて扉が開き、二人は中に入った。



 ギルドの中は沢山の人で溢れていた。

 机が並び、それぞれに数人の男達が座っている。

 一人で座っている者もいればグループで座っている者もいた。


 扉の開く音で振り返った人達はリリィの姿を見つけると手を振った。



「よう、リリィちゃん。今日もまた行くのかい?」


「ううん、今日はこの子を案内しただけよ」


「へぇ、可愛らしい子じゃないか。友達か?」


「違うわ。ただ知り合っただけよ」


「………」



 リリィがすれ違う冒険者達といくつか言葉を交わし合う。

 少女は目も向けずにただ前を向いて歩いていた。


ギルドの中には依頼の書かれた依頼状が張り出されている掲示板がある。

少女はその中から一番報酬の高い物を無造作に手に取ると、カウンターへと持って行く。

カウンターに座る年配の男性は依頼状を見ると申し訳なさそうに顔を歪めた。



「すまねぇな、嬢ちゃん。その依頼は既に開始済なんだ」


「……開始済?」



聞き慣れない単語に少女は首を傾げる。

その横から不意に手が伸びると、依頼状をつまみ上げた。

首を傾げた少女を見下ろすのはリリィだった。



「既に依頼が開始されているってことよ。その場合、いかなる条件であっても他人がその依頼を引き受けてはいけない。

ただし、命の危険がある場合は例外とする。……だったわね」


「あぁ、そうだ」



そこまで言うと、リリィは依頼状をもとの場所に戻した。

そして、そのまま振り向かずにギルド内にある雑貨屋へと足を向ける。

少女はただ、その後ろ姿を見えなくなるまで見送った。



「すまないな、お嬢ちゃん。あの子も根は優しい奴なんだ。嫌いになってやらないでくれ」


「えぇ、わかってる……」



リリィが本来優しい性格をしているのを少女自身も気づいているのだろう。買ってもらった服を見下ろし、少しの間目を閉じた少女は再び掲示板へと視線を向けた。

今度は森の中にある高級な薬草を採集してくるという内容の依頼を手に取る。

その依頼状をカウンターに出しながら、少女は再び先ほどの依頼状に目を向ける。

沢山ある依頼状の中でも特別古いそれは改めて見るとかなりくしゃくしゃで、いたる所が破れている。色も褪せており、最近開始されたものではないのが一目でわかる。



「気になるかい?……お嬢ちゃん」



カウンターの男性が煙草に火をつけながら少女を見下ろした。

それを見上げる少女に、男性は紫煙を吐き出しながら語り始めた。



「あの依頼はな……さっきのリリィが受けてる依頼なんだ。もう、開始されてから五年経ってる。

内容はフェンリルって馬鹿でかい狼の討伐だ。十五年くらい前から森に住み着いていてな……最初は子犬程度のデカさで人懐っこい奴だった。

だが、それから五年後……突然それまでの態度が嘘みたいに凶暴化したんだ。

彼奴は普段は絶対に人を襲わなかったんだが……森に薬草と鉱石の採集に出ていたある家族三人が奴に襲われた。

父親と母親は死亡、助かったのは娘一人だけだった……」


「……それが」


「あぁ……リリィさ。それからの彼女は荒れたよ。まだ八歳にもかかわらず魔道書を読み漁り、武術を身につけ、十三歳になった時にあの依頼を受けにやって来た。

大人しくて、親の後をついて回る姿が可愛らしかった姿は無くて、まるで抜き身の剣みたいな目をしてた。

それから、森に出かけては傷だらけで帰ってくる日が続いたよ。フェンリルと何度も戦ってな……。だが、まだ決着はついてないらしい。

リリィはまだフェンリルに勝てないでいるんだ」



男性は吸い終わった煙草を灰皿に押し付けると、少女の提出した依頼状にハンコを押した。そのままいくつかの内容を記入すると、名前の欄でペンを止める。



「そういえばお嬢ちゃんの名前を聞いてなかったな」


「私の名前はーーー」



一瞬だけ目を閉じた少女は、その蒼瞳を開きながら己の名前を口にした。



「エルダ……エルダ・シャルイン」




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