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Prologue

 

 私が目覚めた時、世界が全く別のものに思えた。

 これは呪いなのか、それとも──運命なのか。

 それを知る為に、私は……私を救ってくれた“彼女”と共に生きる事にした。





 そこは地下深くに作られた実験場だった。

 数々の電子機器には明かりが灯り、暗いドームの中を青白く照らしている。

 機器の周りには白衣を着た科学者らしき人物が何人も忙しく歩き回り、モニターに映る数値を観測し、まとめていく。



「主任、解析完了しました。 被験体の状態は正常、魔力も安定しています」



 一人の若い科学者が年配の男に話し掛けた。男は満足げに頷くと、巨大なドームの天井付近に浮かぶものへと視線を向ける。


 それは、少女であった。


 長く伸びた真っ白な髪。雪の様な肌。全てが白に染まっているかの様に白い少女が浮かんでいる。

 膝を抱える体勢で浮かぶ少女は、重力など初めから存在していない空間にいるかの様に、ただ静かに、その場に浮いていた。

 瞳はうっすらと開かれている。ただ、その蒼い瞳からは全く意思を感じられない。今見ているものは人形だと言われても納得できるだろう。

 その少女の周りを奇怪な模様が浮かんだ半透明の膜が覆い、薄く発光していた。

 心臓の鼓動に合わせるかの様に光が明減し、それと同時に小さな紫電がバチバチと音を立てる。



「よし、予定通り開始する。一番から四番までの出力を上げろ」


「はい、一番から四番の出力をあげます」



 研究者達がパネルを動かし、それに合わせてドームの周囲に取り付けられた十の装置の四つが動き出す。

 少女を囲う膜をなぞる様に紫電が輝きを増した。



「───っ」



 バチバチと紫電が弾けるのに合わせて少女の顔が僅かに歪む。それでも微動だにしない少女はすぐに無表情へと戻る。



「続いて五番から七番を起動させろ」


「了解。五番から七番、起動します」



 新たな装置が起動し、再び紫電が強くなる。

 少女も再び苦痛の表情を浮かべ、今度は僅かに自分の体を抱きしめる様に腕を動かした。



「もう少しだ……もう少しで世界で二番目の“神子”が生まれる。そうすれば私の理論が正しいと証明される!!」



 男は狂気に満ちた笑みを浮かべ、宙に浮かぶ少女を見上げる。



「被験体の状態は安定しています」


「くくく……八番を起動しろ」



 新たな装置が稼動し、紫電の量が一気に膨れ上がる。

 バチバチと音を立てながら、少女を囲う膜に絡み付いていく。



「……ぅ…………がっ、あぁ!?」



 それまで顔をしかめるだけだった少女が苦しそうに自らの体を抱きしめる。

 びくびくと体が痙攣し、息も荒くなっていく。

 少女の体調を示すモニターの数値が目まぐるしく変わっていった。



「主任、被験体のバイタルに異常発生!!」


「構わん、続けろ。体の作りが変わるのだ、その変化は今までの実験でも観測済みだ」


「は、はい」



 男は何でもない様に指示を出すと、少女の姿を眺め続けた。


 これまで行った実験回数は200を越えている。それらの失敗から絶対に今回は大丈夫だという自信が彼にはあった。

 失敗によって多くの被験者が無惨な死を遂げてきたが、そんな事はもはやこの男の頭には残っていないのである。


 完全に隠蔽されて進められてきた今回の計画は、かつてこの世界に突然現れた“天使”と呼ばれる存在を人工的に作る計画であった。


 “天使”は強大な力を持っていた。

 一晩で一つの国を滅ぼす程の力と傷ついた者を瞬時に癒す優しさを持ち、当時、戦争が多発していた世界を飛び回っては争いを集結させていった。

 そして突然出現した時と同じく、突然姿を消した。

 多くの国が彼女の存在を探し回ったが、誰一人としてその姿を見た者はいなかった。

 そして、いつしかその存在が伝説となり始めた頃、彼女の力を欲しがったとある国が一つの計画をスタートさせる。


 そう、人工的に“天使”を作り出すという計画である。


 そして、今から五年前、初の人工天使が生まれた。

 人工天使は神の子という意味をこめて『神子』と名付けられ、様々な実験が行われた。

 かつての“天使”の様に、神子もまた強大な力をその身に宿していた。

 だが、神子が生まれて二年後、突如として彼女は姿を消した。突如実験場を破壊し、空へと飛んでいったのだという。

 今だにその神子は見つかっていない。かつての“天使”と同じ戦闘能力を有した存在故、世界中の国が彼女の来襲を危険視している。


 それから三年。現在、この場所で二人目の神子が作られようとしていた。



「よし、最後の仕上げだ。これから一気に出力を最大にする!!」


「了解、出力を最大にします!!」



 機材から発せられる音が一気に大きくなり、今までで一番巨大な紫電が発生した。

 少女の絶叫と同時に、彼女を包む膜が大きく脈動する。

 まるで巨大な心臓の様に動く膜の上から、更に紫電が包み込む形で纏わり付き、少女の姿が隠れる。あまりにも神秘的な光景に、誰もが魅入っていた。しかし───


 それと同時に、モニターに大きく『警告』の表示が現れ、警報が鳴り響いた。

 その音で、我に返った研究者達が慌ただしく走り回る。



「何事だ!?」


「高魔力反応探知!! 数値、依然上昇中です!!」


「場所は何処だ!?」



 怒声が飛び交う中、一人の研究者がモニターに表示された座標を見て、一気に顔を青くする。



「ざ、座標……でました」


「何処だ!?」


「こ、この研究所の───真上です」



 直後、鼓膜を跡形も無くす程の轟音がドームの中を震わせた。

 天井が崩れ、瓦礫が研究者達へと次々に落下し、一瞬で研究者達は絶命していく。

 瓦礫は少女が包まれている膜だけは綺麗に避けて落下していた。


 しばらくして、天井に開いた巨大な穴から一人の少女がゆっくりと降りてきた。

 長い黒髪に紅い瞳。黒いワンピース。そして、背中にある黒い一対の翼。

 全てが黒い少女は悪魔の様で──しかし、見る者によっては可愛らしい天使にも見えた。


 ゆっくりと部屋を見渡せば、瓦礫を回避したのであろう、数十人の研究者が自分を見上げているのを感じる。

 少女は、それらを気にも留めずに白い少女を包む膜へと近づいていく。



「くっ……あれは、まさか───」



 黒い少女が慈愛の表情を浮かべ、優しくその膜を撫でると、風船が割れるのと同じ様にその半透明な壁が弾けた。


 中から現れたのは先程と変わらない純白の少女。

 ただ、その背中に少女と同じ純白の一対の翼があるという点を除いて。



「ようこそ、新しい貴女。そして──さようなら、昔の貴女」



 凛とした鋭くも優しい声が黒い少女から紡ぎ出される。

 その顔には喜びと、少しばかりの悲しみが浮かんでいた。



 その日、一つの研究所が跡形もなく消滅した。

 生存者はたったの一人。研究所の主任のみだった。


 これ以降、神子を作り出す研究は行われていない。

 生き残った研究所の主任は発狂寸前の状態で、譫言の様に同じ言葉を繰り返したという。



 ──消えた神子の再臨だ、と。



 以降、大陸の一部に大穴を開けたこの事件は『再臨』と呼ばれる様になった。


 その後、全ての国が厳戒体勢に入るも黒い少女が再臨することはなかった。






 ───そして、20年の月日が流れた。





 

 『天使として…“完全版”』を執筆するにあたって、前回の作品の登場人物を使い、別の作品として執筆することになりました。

 できれば、こんどこそ最後まで執筆できればと思いますので、どうか応援よろしくお願いします!!



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