多分始まり
『起きろ。浩太』
何処からか薄っすらと声が聞こえる。女の声…にしては随分と男らしい喋り方だが、この際誰が喋っていようとどうでも良いだろう。何故か分からないが体が死ぬほど痛いのだ。女が例えるなら妊娠した時の様な。でも俺自体が実際経験した事もないし、寧ろこっちの方が痛いかも分からない。そして、この締め付けられる様な何とも言えない痛みに対して苛立ちを覚えながら冷静に、神かそれとも宇宙人に近いのか分からない何かに問いかける。
---この痛みは何なんだ?痛すぎて…
『それは数秒前まで使っていた生体と今の肉体の差に魂が抵抗しているのだろう。薬で言う副作用のようなものだから多分その内直るだろう。それと喜べ。お前の体はもう別の者に所有権が回ったみたいだぞ?良かったな、新しい所有者が見つかって。』
---……は?今の体…?所有権、という事は今の姿は何なのだろうか。というか、こう冷静に対応出来る俺が怖くなってきたぞ。
『お前は覚えていないのか。フ…、数秒前の事くらい馬鹿な猫でも覚えていると思うが…、まぁ良い。お前は確かニホンと呼ばれる所のアキハ…バラと呼ばれる位置に居ただろう?数秒前までに。』
---え……ああ。確かに秋葉原に居た様な気もするが、もう体の痛過ぎてに(1+1)位簡単な計算も出来ない位に痛い。数秒前を思い出そうとしても頭の痛さとダルさだけが溢れて来て、もう訳が分からないのだ。徹夜後の頭痛ほど。
「あーそういえばな、コンビニに入ろうとドアに手を伸ばした瞬間に真後ろから迫り来る無差別犯に一刺されたんだぞ?運良く丁度見物していたが久々に見事なモンを見せて貰ったよ。」
---…って、おいおい……その時助けてくれたら良かったのに。見物じゃなくて助けてくれよ…
「フッ…、それは不可能な話だな。一応私達が現実を弄るのは大罪なんだ。でもその刺された瞬間に、お前の魂の欠片が此所に来たって訳だ。簡単に説明すると、これからお前の魂は違体に行く…所謂「転生」をする事となるのだが、準備は良いだろうな?体の方は一応ランダムだろうし分からないから何とも言えないが危険な場合も有る。」
---き…危険?と
「ああ。この前転生した運悪き女は魔物になって待ち伏せしていた勇者に生きかえった瞬間…一秒後に殺されてたしな。哀れだった…。折角転生させてやるんだから、有難く転生ライフを楽しめよ。それに全員が転生出来る訳じゃないんだ。それと勿論性別も何の生命体かもがランダムだから、もしかしたら微生物になる可能性も有るからな。人間になれただけでも十分運の有るヤツだと思えよ。」
---は…はぁ
「最後に。もしも転生ライフを満喫し、〝ある事〟をすれば…もしかしたら現実に戻れるかもしれない。まぁ…がんばれ。お前はただ、自分の幸運を祈ってれば良い。では、また会おう。……」
そして…------------俺の意識は遠のいていった。