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第3幕 一難去ってまた一難

 何か長くなりましたが…まぁキニシナイキニシナイ。←

 それにしても本当にキャラの立ち位置とか性格が定まらないなぁ(笑)


 時刻は17時も30分を過ぎていたその頃、俺は生徒会長――小清水葵こしみずあおい先輩に連れられて、生徒会長室へと訪れていた。すまん小陰こかげ、夕飯は遅くなりそうだ。

 ちなみにに小陰とは妹の名前だ。今年で中学生に上がった。


「あまり固くならないで大丈夫よ?」

「いえ……お構いなく……」


 ただでさえ女子と2人っきりってのは辛いのに、さらに生徒会長室と言う、明らかに普通教室と同等の広さの部屋に通された事で、プレッシャーが半端なかった。

 ちなみに、生徒会長室とは別に・・生徒会副会長室なる部屋もあるらしい。

 と言うか、とてもどうでもいいけど、会長ちっちゃいな~。悪いけど、パッと見て小学生と見間違ってもおかしくない。小陰といい勝負な気がする。


「今、失礼な事を思わなかった?」

「気のせいじゃないですか?」


 何故か考えてる事がバレそうだったから、俺は慌ててそう答えた。

 ……やっぱりやりにくいなぁ。距離は空いてるとは言え、会長のようなクールで冷静な人、苦手なんだよな。恐怖症以前に。


「あの……俺に何か用があったから呼んだんですよね?」


 早く帰りたかったから、俺から聞いてみる事にした。

 すると、会長は少し驚いたような表情を浮かべ、微笑んだ。

 素直な気持ち、可愛いと思った。


「そうね、早速本題に入らせてもらうけど、稲葉いなばくん、あなた、副会長になってみる気はない?」


 ………………………………………………………………は?

 しばらく会長の言葉が理解出来なかった。と言うか、今もしてない。


「え……副会長? 俺が!? 何の冗談ですか?」


 むしろ何のイジメですか? と問いたくなった。

 さっきの会議室で女子生徒が言っていた通り、彼女達にとって男子は邪魔な存在である訳で、それなのに男子である俺が副会長なんかやったら…………暴動が起きる!? 例え暴動が起きなくても、女子生徒ばかりの生徒会の上から2番目だなんて、考えただけでも呼吸がしづらくなった。


「これは私の推薦でもあるし、稲葉先生――あなたのお姉さんからの推薦でもあるのよ」

「……姉さんの?」


 予想外の名前に、俺はオウム返しのように聞き返してしまった。

 会長からの推薦も驚きだけど、それよりも姉さんだ。俺が女性恐怖症だって知ってるのに、何でわざわざ危険な所に放り込もうとするんだ?

 いくら考えてもそればかりは聞かないと分からない。だから今は、会長が何で俺を推薦したのかを聞こう。


「……何で俺なんですか? 俺より優秀な男子生徒なんて、沢山居るでしょう?」

「そうかもしれないわね。でも、私はあなたが気に入ったのよ」


 気に入った? 特に何もしてないし、会議には遅刻したからむしろブラックリスト行きだと思っていたのに。


「やってみない?」


 もう一度尋ねられ、俺は首を振った。


「すみません、お断りします」

「!? ……理由を、聞いてもいいかしら?」


 俺が断った事に動揺したのか、少し早口でそう言ってきた。


「俺には荷が重いし、普通の役員とかクラス委員の仕事で手一杯です」


 何より、周りが女子だけとか無理です。それに面倒くさいし。


「でも、副会長になれば特待生の待遇も受けられるのよ? それに、他にも良い待遇があるわ。あなたにとって、悪い条件では無い筈よ?」


 確かに悪い条件では無い。むしろ、校外そとから来た俺には嬉しい待遇だ。

 だけど、その待遇欲しさに頷くのは嫌だった。と言うか、命懸けたくはない。


「稲葉先生も特待生だったのだから、あなたも特待生になりたいのではないかしら?」


 会長のその言葉――言い方を聞いた瞬間、俺は会長に背を向けて部屋の扉を開こうとしていた。


「失礼しました」

「ま、待ちなさい。まだ話は終わって……」

「俺、姉さんに追いつこうとか、姉さんみたいになりたいとか、そんな事一度も思った事無いですから」


 昔から、姉さんと比べられるのは嫌いだった。出来の良い姉なのに、俺は出来が悪かったから。今のは何か比べられた気がした。

 だから、会長の言葉を遮って、俺は言葉を続ける。


「だから、俺には構うなよ?」


 最後に会長を一瞥してから、俺は部屋を出た。




 * * * * * * * * * * * * * * 





 バタンと扉が閉められても、私はそれから視線を離す事が出来なかった。


稲葉和希いなばかずき――やっぱり、面白い子ね……」


 今までの人生の中で、私の誘い事を断ったのは、お父様とお母様を除けばあの男子生徒が初めてだった。

 しかも、私を恐れずに睨んできたあの度胸にも……。


「ふふっ……」


 不意に笑みが零れた。

 断られたのに、何故だか全く気分は悪くない。むしろ高揚感がある。

 やっぱり、稲葉くんのような人材は生徒会の、副会長の座に欲しい。


「……懇願したら、なってくれるかしらね?」


 誰に言うでもなく呟いて、私はもう一度小さく笑うのだった。




 * * * * * * * * * * * * * * 




 ああ……俺は何て事をしてしまったんだろうか? 生徒会長とか言ったら学生のトップだ。会長がその気になれば、一生徒の俺なんか簡単に捻り潰されるだろう。

 初日からやらかしてしまった……。俺の高校生活……もう終わったりはしないよな?


「カズにぃ、焦げてるよ?」

「へ? うわっ! しまった! 小陰、皿出して!」


 考え事をしながら料理していたからか、今晩のメインであるハンバーグが焦げそうになっていた。

 小陰に言われなかったら、危うく炭になる所だった。

 会長室から出た俺は、やらかしたと思いつつもウダウダ考えるのはナシ! と帰宅して、夕飯の支度に着いていた。

 家はマンションの一室で、家族構成は両親に俺、姉さんに小陰の5人家族だ。

 しかし、父さんは単身赴任で滅多に家には帰ってこないし、母さんも仕事が忙しい。姉さんも2年程前から教師をやっているから帰りは遅い。

 だから、ほとんど俺と小陰の2人で住んでいるようなものだ。偶に+姉さん。稀に+母さんと父さんが居る。家族全員が集まるのなんか、年末年始の数日間だけだ。

 まぁ……俺はもう慣れたけどな、この生活。


「ハンバーグ、コゲコゲ?」

「いや、セーフだ。小陰のおかげで助かった」

「カズにぃに褒められた。……えへへ」


 頭を撫でると、いつものように微笑んだ。

 ……何と言うか……癒しだな。今日は得に……。

 熱くなる目頭を押さえながら、俺は食卓に着くのだった。

 明日は平和になるんだろうか? 不安は募るばかりだった。





 そして翌日。

 入学2日目の今日、教室に入って「おはよう」と言っても、返してくれる人はあまり居ない。と言うか皆無だ。


「お、おは……よう、ござい、ます。稲葉くん」


 と、わざわざ席の近くまで――とは言え1メートルは離れてるけど――来て挨拶してくれたのは、昨日友達となった宮伽みとぎだった。

 友達と言っても男は慣れないのか、距離を置いても言葉がつっかえていた。

 そういえば、何で宮伽には『さん』を付けなかったんだ? 慌てたからだろうけど……まぁ、別にいいか。


「おはよう、宮伽」

「お、おはようございますっ!」


 俺が返すと、何故かまた挨拶を言われた。

 俯きがちだったけど、顔を上げた時の表情は嬉しそうだった。

 よく分からんけど、気まずい思いをさせないで一安心だ。

 とか思っていたら、宮伽の姿を確認した新宮あらみやさんが、ゆっくりと近付いてきた。足を止めたのが俺のちょうど横で、座っていたからか見下ろされる形になった。

 ……何というか、この人は何かにつけて近過ぎるんだよな……。もう少し距離を開けてくれれば話しやすいのに。


「あら稲葉さん、柚菜とお知り合いだったんですの?」

「え? ああ……昨日少し話をしたからな……」


 俺が答えると、新宮さんが「へぇ……」と頷いて、俺と宮伽を交互に見やる。

 宮伽は宮伽で、何故か視線が泳いでいた。ふむ、もしかして宮伽は新宮さんが苦手なのか? と言うか、新宮さんは宮伽の事を名前で呼んだよな、今。

 まぁ、おそらく2人とも中等部なか出身だろうから、別に不思議でも何でもない。


「柚菜と話が出来るなんて、いったい何をしたのかしら?」

「何をって……別に普通だったけど」


 答えながら、ほんの少しずつだけ距離を置いていく。基本的に1メートルは離れていれば、何とかなる。

 が、そんな俺の思惑を知ってか知らずか、新宮さんはバンッ! と、机に手を置いて顔を近付けてきた。


「嘘は感心出来ませんわね? ホントの事を仰って!」

「はっ!?」


 ホントの事も何も、普通に会話したぐらいの記憶しかない。後、彼女が男性恐怖症だという事ぐらいか。

 それだけなのに、よく分からない罪を被せられたみたいだ。クラスメート――まぁ女子だけだが――がひそひそと何かを話しているのが微かに聞こえて、俺はまた苦しくなってきた。


「あの……紗菜さなさん……稲葉くんの言ってる事は……ホント、です」


 そんな時、フォローしてくれたのは、先程まで視線が泳いでいた宮伽だった。


「何を言ってますの? あなが男性と話せる訳が……」

「稲葉くんは……接しやすい、から……」


 つっかえて出てきた言葉は、正直かなり嬉しかった。


「だから、稲葉くんを責めるのは……止めて、ください……!」

「う……」


 宮伽の言葉に、新宮さんが後ずさった。表情には困惑の色が見えた。


「……今回は私の勘違いでしたわ。でも、もし柚菜に手を出したら……容赦しませんわよ?」


 仕方なくといった様子で俺に向き直った新宮さんは、謝る訳でもなく脅しに掛かってきた。

 まぁ……謝るより先に早く離れてほしいから、俺は作り笑いで頷いた。

 それから宮伽は新宮さんに手を引かれて去って行った。それを何となく目で追うと、和久月さんと視線が重なった。それに気が付いた和久月さんは、慌てて視線を逸らした。

 ……誤解の話は、放課後になりそうだな。何か嫌われてるっぽいし。

 はぁ、と溜息を吐いてから、俺は1限目の授業の準備に取りかかった。





 今日の授業は、午前が普通教科で、午後からは部活動紹介があった。

 しかしまぁ、さすがは元お嬢様校。運動部がめちゃくちゃ少ない。

 普通の学校にあるようなメジャーな部活動の野球部、サッカー部は単語すら出て来なかった。

 その代わり、と言うのは変だが、文化部の種類は豊富だった。茶道とか生け花とかあったし。

 まぁ、俺はどこにも入らないつもりだけどな。と言うか、入りたくても入れない。女性恐怖症はこんな所でも不自由なのだ。


杵島きしまは何か入るのか?」

「オレ? それ聞いちゃう?」


 部活動紹介が終わり、体育館からの移動中に、近くにいた杵島に尋ねると、軽い調子でそう言ってきた。


「……面倒だから聞かない」

「何だよそれ! そこは頷いて聞く所だろ?」

「知らねーよ、そんな事!」

「仕方ねえなぁ、教えてやるかぁ」


 俺のツッコミをスルーして、言葉を続けていた。

 そんな調子で教室に着くと、ちょうど和久月さんが居た。


「実はオレな――」

「あ……和久月さん」

「茶道部の部長に惹かれ――って居ないし!?」


 後ろで杵島がうるさいけど、それは無視して和久月さんに近寄る。


「な、何、稲葉くん? ……って、何か遠いよ?」

「ああ……気にしないでくれ。いろいろ事情があるんだ……」


 俺と和久月さんの間には、約1メートル程の距離がある。一応放課後だから生徒は帰るけど、俺と和久月さんの間を通る生徒は、訝しむように俺を見ていった。

 ……キニシナイ、キニシナイ……。


「昨日の誤解の件だけど――」

「ここに稲葉くんは居るかしら?」


 またしても、誰かに呼ばれてしまった。生徒の嬉々とした声が聞こえてくるものの、今の呼んだ声、悪い予感しかしない。


「おい、稲葉……あれってまさか、生徒会長じゃねえ!?」


 杵島に肩を組まれて入口に方向転換。そこに居たのは、やっぱりちっこ可愛い生徒会長だった。

 悪い予感が当たってしまった。

 俺……捻り潰されるのか……?

 

「お前……あの人の事知ってんのか?」

「トーゼンだろ? オレが知らない女子はこの学園に存在しない」


 あたかも当然かのように――というか当然って自称してるけど――杵島がカッコつけながら言った。

 うわぁ……何かツッコミしづれぇ……。


「って、そんなもんナシで誰だか分かるっての。昨日の入学式でも祝辞言ってたし、さっきの部活動紹介の時にも司会進行役っだったろ?」


 そうだっけか? 特に部活に興味無かったし、……女子が多過ぎてあんまり顔上げてなかったしな。


「あの容姿だからか、頼まれるとついつい引き受けたくなるんだよなぁ。ほら、上目遣いとかで」

「あぁ……何となく分かるな……」


 昨日早速断りましたけどね……。


「稲葉くん、生徒会長に呼ばれるって、何したの?」

「何って、そんなの知ら――っ!?」


 いつの間にか隣に和久月さんが居た。杵島に肩を組まれていたから気付かなかった。

 こういう不意打ち……本当に止めてほしいわ。命が縮むから。マジな話。

 まぁ、和久月さんに悪気があった訳じゃないから責められないんだけどな。


「……稲葉、またその反応……」

「ご、ごめ……でも、いろいろ、あって……」


 杵島を振り解いて窓の方に逃げる。

 新鮮な空気を肺いっぱいに吸ってから、俺は振り返って窓を背にした。

 ――目の前には、会長様がいらっしゃった。


「――っっ!?」


 また呼吸困難が襲ってきた。だから不意打ちは止めてほしい。

 俺は呼吸を整えて、生徒会長に尋ねた。


「何か、用……ですか?」

「ええ。稲葉くん、副会長になってくれないかしら?」


 会長の言葉に、教室中にどよめきが走った。

 くっ……またその話かよ……。昨日断った筈なのに、意外にしつこいな。


「昨日も言いましたが、お断りします」


 俺が答えると、また教室中が騒がしくなった。

 いったい何なんだ? と思うけど、今生徒会長から視線を外す事は、何故か危険な気がした。そもそもそんな余裕が無かった。


「そう……どうしようかしら?」


 会長が悩む仕草をしながら、何故か近付いてきた。

 それに合わせるように後ずさるけど、後ろは窓だ。入口は会長の背後。

 逃げられない!?


「どうしても……ダメ?」


 身長差を利用したのか、上目遣いで言われてしまった。

 何だか美味しい所を見れた気はするけど、そしてかなりの罪悪感を感じるけれども、残念ながら俺の答えは変わらない。


「すみません、無理です」


 そう答えると、今まで余裕な表情をしていた会長が、少しだけ不機嫌そうな表情を浮かべた。

 ――刹那。空気が凍りついた気がした。それから、どこからか殺気みたいなものを感じた。

 会長に気付かれないように視線を動かすと、ほとんどの生徒――やはり女子だけ――が俺を睨むように見ていた。

 と言うか、睨んでない女子は和久月さんと宮伽の2人だけだ。

 あ、新宮さんはとてつもなく微妙な表情だ。特に睨む訳でもなし、かと言って心配は100%確実に無いだろう。

 さっき杵島が言ってたように、会長の頼み事を断ったからなんだろうな。それも生徒会副会長と言う重要な役職を。

 とは言え、俺にもちゃんと拒否権と言うものはある訳で、断ったから責められるのは何か理不尽だと思う。

 会長はまだ諦めきれないのか、ずっと涙目で上目遣いを……って、涙目!? 顔も少し赤く染まってるし、何と言うかこれは、『泣いてなんかないもんっ!!』と泣きながら言っていた小陰に少し似ている気がした。

 つまり……泣かせた? 俺が!? 意外に精神年齢低いんだなぁ。とか場違いにも思ってしまった。

 状況的には俺が悪いのかもしれないけどさ、むしろ泣きたいのは俺の方だ。断ったら悪いなんて誰が決めたんだ。


「あの……そういう訳で別の人に声掛けてください」


 そう言って去ろうとしたけど、教室を出るには会長の横を通らないと行けなくて、さらにクラスメートや他のクラスの生徒が居るから、自分の机に戻るのに気絶してしまいそうだ。逃げ場は一点。後ろの窓だけだった。

 後になって思い返せば、きっと気が動転していたんだろう。そうでなければ、


「じゃ、お疲れ様です」

「稲葉くん! そこ窓――」


 例え2階であったとしても、窓から飛び降りよう・・・・・・・・・なんて思わなかったろうから。

 背中に和久月さんの声を感じた時には、既に俺は一瞬の浮遊感を体験していた。あぁ……鳥ってこんな感じなんだ。と認識した時には、落下を始めていた。




 * * * * * * * * * * * * * * 




 稲葉くんが飛び降りた瞬間、教室内に悲鳴が響き渡ったのは当然だった。

 あたしは叫ぶ事はしなかったけど、それは突然過ぎたのとショックで声が出なかっただけだ。

 生徒会長の小清水先輩が窓の下を心配そうに覗き込んだのを見て、あたしもすぐに窓に駆け寄った。ここは2階だけど、地上との距離は結構ある。下手をすれば大怪我では済まないかもしれない。

 小清水先輩の隣から見下ろすと、丁度下にクッションになりそうな小さな木があって、稲葉くんはそこに着地したのか制服の所々に葉っぱを付けていた。肝心の彼は、全くの無傷。と言う訳じゃないと思うけど、たいした怪我は無いみたいで、あたしは安堵の溜息をついた。

 って、何であたし、稲葉くんの事心配してるんだろう? や……クラスメートがいきなり窓から飛んだら、いくら嫌いでも心配するよね? それが普通だよね?

 と言うかあたし……稲葉くんの事、嫌いなのかな?

 ……あれ?


「稲葉くんっ……大丈夫、ですか?」


 悩んでいると、いつの間にか近くに居て下を覗いていた、宮伽さんが稲葉くんに言っていた。

 下の稲葉くんは、「大丈夫! 大丈夫だからっ!」と叫んで何故か走って行った。


「大丈夫って……あいつ意外に運動出来るのか……」


 呟いていたのは、確か杵島くん、だっけ?

 首を傾げていると、ひそひそと話し声が聞こえてきた。


「飛び降りて逃げないといけない程、やましい事でもしていたんですね?」

「きっとそうですわね」


 何やら聞きたくない内容の話。

 あたしも分からないけど、会長と稲葉くんの話で何故か稲葉くんが悪い事になってるみたいだった。

 そして、何故か話は「皆で稲葉くんを取り押さえる」と言う方向でまとまり、有言実行と言わんばかりに、生徒達がぞろぞろと走って行った。


「あの……先輩?」

「……話が変な方向にまとまったわね……」


 あの小清水先輩にもこの状況は想定外だったみたいで、少し不安そうな表情をしていた。


「……ってヤバい!?」「どうしましょう!?」


 と、杵島くんと宮伽さんが叫んだのはほとんど同時だった。2人は互いに意外そうに一瞬視線を交わすけど、宮伽さんが杵島くんから離れると同時に、何故か新宮さんが杵島くんに関節技を決めていた。


「いだだだだだ!? な、何で!?」

「柚菜に近付かないでくださる? それと、少し気分が晴れませんの」

「理不尽だ!」

「あ、新宮さん……それ以上は杵島くんが……」

「あら、ごめんあそばせ」


 凄くわざとらしい謝り方だった。

 それはともかく、あたしは床に倒れた杵島くんに手を貸した。


「はは……和久月って優しいな。オレとつきあだぁっ!?」


 言葉を遮るように、新宮さんが何かをして黙らせた。

 ……何をしたかは……うん、ご想像にお任せします。


「それで、どうしたの?」


 気絶した杵島くんは悪いけど放置して、あたしは宮伽さんに尋ねた。


「いえ……詳しくは話せないですけど……稲葉くん、危険な状態です……」


 宮伽さんが何故そんな事を言ったのかは分からないけど、あたし達はとにかく、危険な状態にあるらしい稲葉くんを捜す事にした。

 ……そう言えば、稲葉くんが言ってた誤解って、何だったんだろう?

 ~次回予告~


 教室からダイブした稲葉くんは、果たして無事明日を掴む事が出来るのか!? そしてヒロインの中で一番影が薄くなりつつあるあたしの運命は!? って、何よこの台本! べ、別にあたしは……ヒロインになんか、ならなくていいもん! 稲葉くんの事なんか何も思ってないし!


 以上、(影薄)ヒロインの和久月綾音でした。

 影薄くても気にしないよっ!


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