第2幕 不穏な空気――生徒会
何だか登場人物の性格が定まらない…。
そんな第2幕の始まりです(笑)。
「――っ!?」「ひっ……!?」
教室に戻った矢先、ちょうど教室から出てきた女子とぶつかりそうになり、俺は身体を瞬時に引いた。そしてそのまま硬直。
ぶつかりそうになった少女も、何故か同じように身を引いて硬直していた。
そんな訳でまじまじと見て(もしくはみられて)しまう形になった。
あの新宮さんと同じく、髪は腰まである。違うのは彼女が黒髪という事。他に違う所を上げるとすると、何とも弱々しい感じが……。第一印象はお淑やかなお嬢様って所だった。
と、身体が動かないから観察してしまった。
「おっと、大丈夫かい? どこかぶつか――」
「ご、ごめんなさいぃーーっ!?」
杵島が近付き手を伸ばした瞬間、少女が叫びながら逃げ去った。
「お、オレ……何かしたか……?」
伸ばした手をフラフラしながら、杵島が呟いた。何かショックを受けたらしい。
あの身体の引き方――もしかしたらあの子は、俺と同じなのかもしれない。
「杵島、ショック受けてんな。あの子多分『男性恐怖症』だ」
「だ、だん……何で分かんの?」
「あの身の引き方。俺と同じ感じがしたからな。だから杵島、ショック受けるのはあの子に失礼だぜ?」
悪気が無いのに引いて傷付けるのは、こちら側にとっても傷付くんだよな。
これは一応経験談だ。
杵島は渋々納得した様子で教室に入って行く。俺も後に続くと、入った所で同じクラス委員になった和久月さんと目が合った。
と言うか、こっち見てたのか? そう思って会釈しようとしたら、目を逸らされた。
もしかしたら、さっきの少女を泣かせたように見えていたんだろうか?
また誤解が増えて肩を落とすのと同時に、予鈴が鳴り響いた。
午後の2コマは普通の授業で、数学と現国だった。ちなみに、数学の教師は姉さんこと稲葉先生だった。
どうにも『稲葉先生』ってのには違和感があるな。自分の名字を言うからだろうか?
それと、姉さんが生徒に大人気だった。授業中のクラスメートの言っていた事をまとめると、何か伝説的存在らしい。いったい何をしたんだ姉さんは?
何はともあれ最初の授業だからか、先生の自己紹介とかで授業らしい事はあまりしなかった。
と言う事で、来てしまったよ放課後が。生徒会役員の顔合わせが!
正直逃げたい。
逃げてタイムセールに行きたい。……ってタイムセールてこんな時間にやってねぇよ!?
「………………うん、現実見よう」
1人で大して面白くもないボケツッコミやってないで、諦めて生徒会役員会議に行こう。
確か第2会議室って言ってたけど……そういや場所が分からねえ。
いやでも、クラス委員は俺1人じゃない。嫌われてる感じはあるけど、和久月さんに頼んで場所を教えてもらおう。
そうと決まれば即行動だ。
「和久月さん……って居ないっ!?」
教室の中を見回してみても、あの綺麗な栗色の髪の少女はどこにも居なかった。
「和久月さんなら、もう教室から出ましたわよ?」
「あ、そうなん……だっ!?」
声がした方を見て、思わず絶句してしまった。
何と、新宮さんがすぐそこに居た。目がつり上がってるのは本からと信じたい。
俺は自己防衛の為に、少しずつ後ずさる。と思ったら、後ろにはまたもや壁が!?
「午前にも思いましたが……その失礼極まりない反応は何ですの?」
「いや……これは……いろいろ、事情があって……。で、出来ればそれ以上、近付かないでほしいなと……」
じゃないと……マジで死ぬ……。
しかし、こういう気が強そうな人に「近付くな」は逆効果である事を、俺はまだ知らなかった。
「何ですのそれは! まるで私が汚らしい物みたいに!」
何が勘に触ったのか分からないけど、怒り出した新宮さんが更に詰め寄って来た。
「ちょ……マジ、やめ……」
上手く酸素を吸う事が出来ず、さらに肺の酸素だけはいつも通りに出て行くから、呼吸は次第に乱れていく。
マズい……これは本当にマジで死ぬ。それが考えるより先に頭に浮かんだ。
「ちょっと……どうしたんですの? 顔色が悪いですわよ?」
あんたが離れてくれたら万事解決なんだよ。と言いたくても言えない。
言ったら、さっき怒らせた事もあるからいろいろ誤解されるだろうし、傷付けるだろうし、……何より呼吸困難で言葉を発する事自体が難しい。
「おっと新宮、オレとお茶でもしねぇ?」
そこで助け舟を出してくれたのは、本日友達になった杵島だった。
「え? いや……今私はこの方とお話を……」
「まぁ、いいからいいから」
新宮さんにそう言いながら近付く杵島。逃げるスペースを作ってくれた。
今のは果たして演技なのか? かなり不思議だけど杵島に感謝しつつ、俺は鞄を持ってその場から逃げ出した。
最後に1つ――新宮さんいろいろとごめんなさい。
ある程度教室から離れた所で、俺は足を止めて息を整えた。
危うく気絶する所だったな。本当に危なかった。そして下手したら死んでたよ。
「それにしても……杵島には今度何か奢るか」
2回も助けてもらった訳だしな。と思っているとポケットの中の携帯が震え出した。
確認してみるとメールで、差出人は杵島。
内容は、
『礼は稲葉先生のお宝写真、もしくはスリーサイズを所望』
前言撤回。やっぱ礼は無しだ。
こんな事を実の弟に頼まないでほしい。と言うか、聞いたら普通に答えそうだから何か嫌だ。
携帯をしまってから、そう言えばと思い出す。
第2会議室って……どこよ? ってかもう始まってるよな、顔合わせ。
早々から遅刻してしまった。姉さんにも念を押されたのに。
「あの……どうかなさいましたか?」
うなだれていると、また声を掛けられた。優しい感じの声だった――決して新宮さんが乱暴だった訳では無く――から、呼吸を整えてから振り向いた。
そこには、昼休みにぶつかりそうになった女子生徒が居た。そして声を掛けたのはあっちなのに、俺と目が合ったら小さく悲鳴を上げていた。
「えっと……何か用かな?」
「あの、その……顔色が、優れないようなので……」
それはあんたもだ。と伝えるべきだろうか?
「いや、大丈夫だから、ご心配なく」
「そ、そう……ですか……すみません……」
俺がそう答えると、少女は俯いてしまった。そして、意を決したようにまた顔を上げる。
「あの……違うなら……いいのですが……1つ、よろしいですか?」
「まぁ、答えられる事なら」
「稲葉くん……って、女性恐怖症、ですか?」
言われた瞬間、何故か少女が身近に感じた。やっぱり似たような恐怖症を持つ者同士、分かるものがあるんだろうか?
嘘を吐く意味も無いから頷くと、少女はホッと胸を撫で下ろした。
「良かった、違ったらどうしようかと……。わたくしも……男性恐怖症なのですよ」
先程のような力無い不安な感じは消え去り、何故かにこやかになった。
まぁ……オドオドしてるよりかは、女性は笑顔の方が良いと思うけど。
「あの……同じ恐怖症同士、仲良くしましょうね?」
にこやかに嬉しそうに言う少女の瞳は、何故かキラキラと輝いていた。
けど、何だ……恐怖症同士って……前向きなのか、後ろ向きなのか……微妙な所だな……。
まぁ……仲良くするのには何の問題も無い。同じ恐怖症を持つなら距離感も分かるだろうし、友達は欲しい。
「うん、よろしく。えっと……」
「宮伽柚菜です。こちらこそ、よろしくお願いしますね、稲葉くん」
何だか妙な所で友達が出来た。これは素直に喜んでおこう。
「そう言えば稲葉くん、先程は、どうして、急いでいたのですか?」
つっかえながらも話す宮伽は、俺との距離は2メートルは空いてる。
第三者から見ればこの距離は不思議かもしれないけど、俺達にしてみれば許容範囲内だ。むしろ近いか?
あれ……宮伽の言葉をよく考えてみると……何か忘れて……、た! 生徒会!
「宮伽、第2会議室ってどこだ!」
「え、えっと、それなら――」
そんなこんなで、宮伽に聞いてから5分もしないで、俺は第2会議室に着いた。
とは言え、時刻は既に4時半を過ぎている。
俺は恐る恐る扉をノックしてから、「失礼します」と言って扉を開けた。
刹那――めっちゃ視線が集まった。しかもめちゃくちゃ冷たく鋭い。
「君が1年3組の生徒会役員か?」
「は、はい……すみません、遅刻してしまって」
「とにかく入りなさい」
言われて入ると、会議用の長机が円を描くように置いてあり、そこには女子生徒だけが座っていた。
……あれ、男子は?
「一応聞きますが、遅刻の理由は?」
その円の中で立っていた女子生徒が、俺に問い掛けてきた。
リボンの色が赤色だから、多分2年の先輩だ。
小柄な先輩のツーサイドアップに結った銀色の長い髪は、遠目から見ても綺麗で美しかった。
と言うか、さすが元お嬢様学校。美少女が多いな。
「えっと……広い校舎で道に迷ってました」
素直にそう言うと、何故か溜息を吐かれて呆れられた。
「……分かったわ。では、あなたもそちらに座ってください」
先輩が示した方を向くと……1年生男子が無造作に置かれた長机の席に着いていた。もちろん、円から遠い。
うわぁ……男子の扱い非道いなぁ……。
口には出さずに心に秘めて、俺は蚊帳の外の男子席に着いた。
席には資料が置いてあり、それぞれの学年のクラス委員兼生徒会役員の名前が書いてあった。
あの立っている先輩が生徒会長の小清水葵先輩だろう。他は……いいか。
「さて、全員集まった訳ですが……男子の皆さんには窮屈な思いをさせて申し訳ありません。ですが、こちらにも事情があるので、ご理解いただけますか?」
『どうぞお構いなく』
男子席全員の声が重なった。ある意味凄い団結力だな。
俺達が答えると、次は円の中の女子生徒が挙手していた。
「何ですか、鳩場さん?」
「やはり、この場に男子が居る事に納得がいきません」
思い切り男子は嫌われてるらしい。こんな端に追いやられてるって言うのにな。
「生徒会は代々女子だけのもの。男子は異端だと思います」
鳩場さんの言葉に、他の生徒も手を上げて賛成していた。
多分、ここに居る女子生徒は中等部出身なんだろうな。
この学園は中高一貫だから、高等部の女子生徒は8割は中等部だ。それ以外――もちろん男子も――は校外出身だ。
温度差もあるんだろうな。だから伝統となる生徒会を校外から来た男子に任せられない。多分そういう事だ。
「今年度から共学になりました。今までと違う様になるのは当たり前です」
しかし、生徒会長は鳩場さん達の言い分を軽く流した。
正論だしな。違う様になるってのは。
それからの会議は、特に誰が不平不満を言う訳でも無く、男子は終始蚊帳の外で話は進んでいった。
とにかく分かったのは、男子は雑用要員って事だ。しかも女子からは冷たい視線付き。やってらんないな、これは。
まぁ……やるけどさ……雑用。
「それでは、今回の会議はこれで終了します。お疲れ様でした」
生徒会長がそう締め括って、会議が終了した。
女子生徒が次々に退室して行く。俺達男子は少し遅れて退室した。
「何か……予想以上に疲れ「稲葉くん」うわっ!?」
出た瞬間に声を掛けられて、咄嗟に飛び退くと、そこに居たのは和久月さんだった。
「稲葉くん……昼もそうだったよね? 失礼とか思わないのかな?」
「いや……ごめん……これには少し事情が……。それで、何か用か?」
出来るだけ、穏便に、話を進める事にした。
「えと……ごめんね?」
「え、何で?」
何故謝られたのか、本気で分からなかった。
そもそも謝られる事自体があまり好きじゃないから、身に覚えがない事で謝られるのは本当に困る。
「遅刻したのって、あたしが何も言わなかったからだよね? だから、ごめんなさい」
「いや、謝らないでいいから。むしろ謝るのは俺の方だ。昼間嫌な思いさせてごめん!」
何でか謝り合う変な2人だった。
とは言え、これは昼間の誤解を解くチャンス。無駄にはしない。
「昼の……花を踏んだ事は、許すつもりは無いよ」
誤解を解くチャンス……最初から存在しなかった。
「いや、あの……あれは誤解だって」
「誤解?」
不思議そうに首を傾げた。
よし、チャンスが出来た気がする。これで誤解が解ける!
「稲葉くん、少しいいかしら?」
「………………」
誤解を解こうとしたその直前、後ろからそんな声が飛んできた。
会議室の前で話していた所為か、これは!?
「……何で泣きそうな表情なのかしら?」
「…………お気になさらず」
「? そう、なら話があるの。今から時間はある?」
「あー、えっと……」
今なら誤解が解けそうなんだけど……。
思わず和久月さんを見つめると、何故か顔を赤く染めた。
「ご、誤解の話はまた明日とかでいいから! じゃあね、稲葉くん!」
そして和久月さんが逃げるように離脱。
俺と生徒会長の2人が残った。
「……たった今時間空きました……」
「そのようね。では、行きましょうか」
「えと、どこに?」
俺を追い越して行く生徒会長の背中に、俺は問い掛けた。
すると、振り返った生徒会長は不敵な笑みを浮かべてこう告げた。
「決まってるでしょう――生徒会長室よ」
~次回予告~
不敵な笑みを浮かべた生徒会長に連れられた俺――稲葉和希の運命や如何に!? そして無事に誤解は解けるんだろうか? むしろそっちが心配だ。
こんな次回予告でいいんだろうか?
以上、主人公の稲葉和希でした! と。
感想出来ればよろしくです。