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第1幕 最悪な初日


 先程最悪な出会い方をした少女が、まさか扉を開けてすぐ目の前に居るとは誰が予想出来ただろうか?

 ……いや、それよりも少女との距離に、俺の身体は扉を開けた時から硬直していた。1メートルにも満たない距離は、俺にとっては即拒否反応が出る距離だ。身構えていないとこうなる。

 少女も驚いているのか動かずに、目を見開いていた。

 と思ったら、俺を指差して、


「さ、さっき花壇踏み荒らして、あ、あたしを襲おうとした人っ!」

「んな事するかッ!?」


 あまりに予想外だったから、思わず素でツッコんでしまった。

 少女の言葉にクラスメートはどよめき、俺のツッコミで若干引いていた。

 これは……あれだ。中学の時と同じだな。


「和くん、そんな事したの?」

「してねえよ!」

「したじゃない! あたしの事も……ジロジロ、見てたし……」

「花壇は誤解だしジロジロも見てないっ!」


 実際は確かに見惚れていたけど……それ言ったら誤解が増える。


「えいっ!」

「は――?」

「きゃっ……」


 何故か後ろからいきなり押されて、予想外の事に驚いた俺は咄嗟とっさの反応が出来ずに、少女とぶつかってしまった。

 それが頭で認識する前に、俺は少女から離れて後ずさった。


「ね……姉さ……何、すんだ……?」

「2人とも、今は授業中よ? 喧嘩は後にしなさいな」


 教室に入ってきた姉さんが、笑顔でそう言ってきた。

 呼吸を整えて冷静を取り戻す。つまり、姉さんが俺を押したのは、喧嘩を止める為と、ただ単に教室に入りたかっただけだろう。

 と言うか……今は授業中だった。……入学初日で女子と口喧嘩。しかもこんな拒否反応も見られた。

 ははっ……友達が出来る気がしねぇ……。


和久月わくつきさんも、和くんの事、悪く思わないでね? 少し事情があるから」

「は、はい……」


 さっきぶつかってしまった事に戸惑っている少女――和久月と言うらしい――に姉さんが謝っていた。

 ……後で俺も謝っておこう。いきなりこの反応は傷付くだろうから。


「あと和くん、学校では先生よ。公私は混合しないようにね? それじゃ、席に着いて」


 混合してんのはあんたもだろ。といつもならツッコむ訳だが、今はそんな気力も無く、俺と和久月さんは席に着いた。


「この時間は各委員を決めようと思います。まずクラス委員ですが……先程の事もあるから、和久月さんと和くんでいいわね?」

「あ、あたしですか!?」

「な、納得出来ませんわ!」


 俺が、「はぁ!?」とリアクションをする前に、教室のどこからかそんな声が聞こえた。

 声を上げたのはクラスの女子。長い腰まである金髪が先の方でクルンと巻かれている。第一印象かなり強気なお嬢様な感じの少女だった。

 誰だか知らんけど助かった。クラス委員なんて面倒そうな役職に、誰が好き好んでやるもんか。しかも確実に悪印象を持たれてる相手と一緒に。


「クラス委員がどれだけ大事な役職か、それは稲葉先生ならお分かりでしょう? それをどこの馬の骨かも分からない男に任せるなんて、わたくしは反対ですわ!」


 馬の骨って……何か非道い言われようだな。

 しかも喋り方からしてやっぱりお嬢様を絵に描いたような子だ。


「今年の1年生は共学になったから、男女で組むようになったのよ」

「ならその男子の事は言いません。ですが、私は和久月さんがクラス委員になる事に反対ですわ。クラス委員には、私が立候補します」


 少女がそう告げると、教室内がざわつき始めた。

 すると、今まで沈黙を守ってきた和久月さんが立ち上がった。


「それはあたしも反対だよ! あたしもクラス委員やりたいもん!」

「あら、あなたはやりたく無いのではなくて?」

「そ、それは……あの男子生徒と組むのが嫌なだけっ!」


 あれ……俺何もしてないのにめちゃくちゃ嫌われてるんですけど?

 ……まぁ、慣れてるけどね、嫌われるのは……。

 ともあれ、理由は分からないけどクラス委員は何故か競争率の高い役職らしい。俺には荷が重過ぎる。

 2人が言い争っている間に、俺は静かに立ち上がって姉さんに近付いた。


「姉さ……稲葉、先生……。やっぱり俺が代わった方がいいんじゃ?」

「さっきも言ったけど、男女が組むのは決定事項なの。変更は無いわ」


 姉さんの返答に、俺は肩を落とした。

 そうしている間にも言い争いは続き、


「なら、とても不愉快ですがあの男子生徒に決めてもらいましょう?」

「いいよ!」


 何故か意味分からない流れになっていた。

 少女2人が俺の目の前に来て、俺は後ずさっていく。


「何で逃げるの?」

「その反応は失礼ではなくて?」


 んな事言われても、体質なんだから仕方ないだろっ!?

 ドンッと背中に壁が着き、いつの間にか壁際に追い込まれていた。何コレ……何の拷問!?

 2人の美少女が俺を睨みながら、ジリジリと距離を詰めてきた。

 や、やば……息が……出来なく……。


「光栄に思いなさい、私とクラス委員が出来るんですもの」

「あたしを選んで! お願い!」


 どっちの言い分も勝手だなぁ。と思うも、口から言葉として出ていかない。

 冷や汗が流れて、肺が鷲掴みされたように縮んで息が思うように出来ない。

 も、もう……、


「…………無理」


 ……いろいろと。


「「無理!?」」


 目の前で少女2人が驚いていたけど、そんなのを気にする余裕は無い。

 初日から何でこんな事になったんだろう?


「ちょっと待ったぁ!」


 意識を手放そうとしたその時、誰かがそう制止した。

 見ると、俺の近くの席の男子生徒が近付いてきていた。なんて言うか……第一印象チャラ男?


「そんなやって無理やり誘っちゃ、魅力が半減するぜ? お嬢様方」


 その男子生徒が発した言葉で、一気に冷静さを取り戻した。やっぱりチャラ男だ。

 少女2人も呆気に取られている。


「稲葉が決められないなら、これで勝った方がクラス委員って事で良いんじゃないか?」


 そう言って取り出したのはトランプ。

 なるほど、平和的に決着が着きそうだ。


「仕方ないですわね、それで手を打ちましょう」

「うん、あたしもそれでいいよ」


 2人も納得してくれたようで、何とか一安心。


「あ、ありがとう、助けてくれて」

「んな事気にすんな。数少ない男子なんだから仲良くしようぜ、稲葉」

「ああ、ありがとう。えーと……杵島きしまだっけ?」


 自己紹介は男子のだけは真面目に聞いてたからな。良かった、聞いておいて。


「そ、杵島弘文きしまひろふみ、よろしくな」


 よ、良かった……心配事が1つ減った……。何かもう泣きそうだ。

 杵島、チャラ男とか言ってごめん……。





 それから、杵島の案通りトランプで勝負が行われた結果、勝者は和久月さんだった。ちなみに、トランプで行ったのは2人で7並べ。何故か授業1時間丸々使った熱い戦いになった。

 ……のを、俺は1人離れた所で観戦していた。

 いや、だってさ……正直付いて行けなかった。あの意味分からんテンションに……。


「それでは、クラス委員は和久月綾音わくつきあやねさんと、稲葉和希いなばかずきくんの2人に決定します。ちなみに、和久月さんは知ってると思うけど、クラス委員は生徒会役員も兼任してるからそのつもりで」


 とりあえず、終業のチャイムが鳴って落ち着いた所で、姉さんがそんな事を言っていた。そして言うだけ言って教室から出て行った。

 いやいや……聞いてねぇよそんな話! クラス委員だけでも冷や汗物だってのに、なんで生徒会までやらないといけないんだ。しかも1年は・・・共学だから男女って言ってたけど、それはつまり他の学年は女子だけって事だ。

 この学園、1学年10クラスだから、1年生の生徒会役員だけでも女子は10人だと言うのに、他の学年はその2倍。単純計算で生徒会役員の女子人数は…………50人……?

 ……姉さん……俺に死ねと……?

 荒療治とかショック療法とかそんなレベルじゃない! 俺の場合は、下手したら命に関わるってのに……。

 それからの午前の授業――委員とか決めるだけだったけど――は、ずっと頭の中真っ白だった。




 それから昼休み。

 俺は飯を食う場所を探すのと、極力女子が少ない所を探す為に、校舎を歩いていた。

 ……それが間違いだと気付くのに、時間はあまり必要無かった。

 だってここは元女子校。共学になったからと言って男女比は1:9。ほとんどの場所に女子が居るのは当たり前で、むしろ女子が居ない所を探す方が難しい。


 そしてたどり着いたのは、比較的人が少ない中庭だ。

 適当に人の居ないベンチに腰掛けて、頑張って購買で買ったパンを食べる。どうして頑張ったかって? 購買が混んでたからだよ、女子で。

 またあまりにも顔色が悪かった所為か、「大丈夫ですか?」と声を掛けられた。

 何かもう……いろいろしんどい……。


「お、稲葉じゃん。お前も購買?」


 と言ってきたのは、何だか豪華なビニール袋を引っさげてきた杵島だ。ちなみに、杵島が持ってるビニール袋は俺も購買で貰った。

 杵島は俺の隣に座ると、ビニール袋からカツサンドを取り出す。


「しっかしこの学園……購買まであんなとはな……」

「それには俺も同感」


 校舎自体も大きくてかなり豪華な学園だけど、まさか購買までもが豪華とは思わなかった。

 購買だけでいったい予算はいくら使ってんだろうか、この学園は?


「お前も大変だよな。クラス委員兼生徒会だなんて」

「そう言うなら代わってくれ」

「ぜってーヤダ。オレ保健一筋だから」


 どんなだよ?


「和くん、こんな所に居たのね?」


 ジト目で杵島を見ていたら、姉さんが目の前に立っていた。


「あら、あなたは杵島くんね? うちのクラスの」

「は、はいっ! 杵島っす! い、稲葉先生って、マジで稲葉――和希の姉さんなんすか!?」


 姉さんが杵島に視線を移すと、杵島が勢いよく立ち上がった。しかも背筋ピンとしてる。

 な、何だ? こいつのこの反応は!?


「ええ、和くんのお姉さんです。和くんと仲良くしてくださいね? 姉としてのお願いです」

「はいっ! もちろん喜んで!」


 ……何だろう? 凄い微妙な気分だ。

 俺は頼まれないと友達すら出来ないのか?


「で、俺に何か用ですか稲葉先生?」

「あ、そうそう、今日の放課後、さっそく生徒会役員の集まりがあるの。場所は第2会議室だから、ちゃんと出席してね?」


 マジか……今日から命の危機があんのかよ……。


「大丈夫よ、今日はただの顔合わせだけだから」

「……それでも俺にとっては厳しいんだって……」

「そんな緊張する事でもないだろ、顔合わせなんて」


 多分気遣って言ってくれたんだろうけど、それは違うんだ杵島。

 別に初対面の人と喋るのは苦では無いんだ。人見知りって訳じゃないし。ちなみにそれは男子限定だが。

 女子でも距離をとれれば話すのは簡単だけど、顔合わせとかだと距離は結構近い筈だ。


「違うのよ杵島くん。和くんは人見知りとかじゃなくて……その、女性恐怖症なのよ」


 俺が説明しようとしていたら、何故か姉さんが言っていた。


「女性恐怖症?」

「ああ……女性が近くに居るだけで拒否反応が出るんだ。それに加えて酷い時には呼吸困難にも陥る」

「あー、だから和久月と新宮あらみやに詰め寄られた時、顔色悪かったのか」


 新宮って誰?

 ああ、あの気の強そうなお嬢様か。そう言えば決まった後、執拗に睨んできてたっけ? 俺が何をしたってんだよ……。


「和くん、この学園に来た以上はちゃんと治さないとね?」

「分かってるよ……分かってるんだけどなぁ……」


 正直治る気がしない。

 最後に姉さんが、「顔合わせには遅刻しないようにね?」と言い残して去って行った。

 他人事と思って簡単に言ったなぁ。

 放課後の事で胃が痛くなりながらも、俺は杵島と教室に戻るのだった。

誤字脱字があるかもしれませんが、すみません。

書き方も勉強しときます。

感想も貰えたらなと思います。


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