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序幕 出逢い

 少子化問題は本当に困った問題だ。と、高校生になってすぐの俺が言うのは、もちろんだが理由がある。

 去年、俺が中学3年だった頃に受験しようとした近くの公立の高校が、その少子化問題の波に直撃して廃校になってしまった。

 その高校の在校生も不憫だし同情するけど、他人事では無かった俺はかなり焦った。自分が受験しようと思った学校が突然廃校になるなんて、いったい誰に予想が出来るんだ?

 だけど、不幸の中にもちゃんと希望はあるものだ。近くにあった私立校が、廃校になった公立校の受験生を迎え入れると言う話が持ち上がった。

 正直、家の家計で私立校は厳しいけど、公立校に通うとなると電車で最低4駅先だし、県内の公立校では一番偏差値の高い学校で、俺はギリギリアウト――どころか全く足りず、受験するだけ無駄と言う事で、さらにその私立校は昔姉が特待生で通っていた学校と言う事もあり、両親の承諾を得られた。


 この時、姉さんが通っていたという事に不信感を抱けば良かった。と言うか、自分の行く学校ぐらいちゃんと調べれば良かったんだ。

 偏差値はそれ程高くなく――むしろ俺には楽勝だった――家から自転車で20分、徒歩30分という学生ではありふれた理由で納得した事を、俺は入学式で後悔した。


 何たってその私立校――聖稜せいりょう学園は、女子校だったのだから。しかも上流階級の。所謂いわゆるお嬢様学校、って奴だ。

 いや、さすがにマジで女子校に入った訳じゃない。男の俺が入れる訳ないから。

 去年、公立校が廃校になる寸前に聖稜学園は共学になったらしく、受験生だけを取る事にしたとか。

 受験する時に気付けば良かったけど、学園の広さにビビったのと、受験生の男女比が大差無かったから気付かなかった。


 だから、本日、入学式で、俺は激しく後悔をしていた。

 校門をくぐった後、女性恐怖症の俺には地獄だった。だって、男女比が1:9ぐらいで、男子を捜すのが困難なぐらい。

 入学式なんか、前後左右が女子だったから、自分の意識を保つのに精一杯だった。

 あまりに顔色が悪かった所為か、隣の少女には「大丈夫ですか?」と声を掛けられたし。まぁ、声を掛けてくれるのはありがたいんだけど……身体が拒否するんだよな……。

 少し悪い事をしたなと思いつつも、引きつった愛想笑いを浮かべるしかない俺は、さぞかし気味の悪い奴だったろうな。



 そんなこんなで入学式典は終了。それぞれ各教室でようやくクラスメートとご対面だ。

 まぁ……正直期待はしてないんだけどな……。周りは確実に女子だし……。


「はい、じゃあ自己紹介よろしく。ちなみに、私はこの1年3組担任の稲葉日向いなばひなたです」


 と、大人っぽい綺麗な教師が教卓に手を着いて言った。ちなみにこの人、俺の姉さんだったりする。

 俺がシスコンな訳じゃなく、家族贔屓無しで綺麗だとは思う。学生の頃は生徒会長+ミスコンで優勝らしいから。

 そんな事をぼーっと呆けながら思っていると、自己紹介の順番が回ってきた。


「あ、えと……」


 視線が集まって、息苦しくなった。右は壁だけど、前後と左は女子だ。

 ちなみに、このクラスの男子は俺を含めて7人だ。クラス全員では40人で、少な過ぎだよな。

 とまぁ、それは置いといて、今は自己紹介だ。


稲葉和希いなばかずきです。よろしく……」


 かなり無愛想になってしまって、席に座る時に姉さんが何か言いたそうな表情をしてた事に気付いたけど、もちろん無視した。

 とりあえず、女子にあんまり関わらなければ問題は無い。ふぅ、と短く息を吐いた。

 自己紹介はそれからも円滑に進んでいき、HRホームルームが終わるチャイムが鳴るのと同時に、自己紹介は終わっていた。

 高校生活最初の休憩時間だ。賑やかになるのかは分からないけど、とりあえず男子は肩身が狭いだろうな。7人居るのに不幸にも全員バラバラだからな。

 さて、俺は俺で身動きが取れないんだけど、とりあえず、一番近い席の男子生徒にでも話し掛けてみるか。

 そう思って男子生徒の席を確認しようと、首を動かして教室を見回そうとした。

 ちょうどその時、


「ねぇ、あなた先生と同じ名字だけど、もしかしてご家族?」

「あ、それ私も知りたいなぁ~」

「っ!?」


 左隣に座っていた女子生徒と偶然にも、偶々目が合ってしまい、聞かれた話題にいつの間にか回りの他の女子生徒も混じってきた。


「いや、その……い、一応……姉、です……」


 少し呼吸困難になりつつも、とりあえず答えられた。

 ……くっ、厳しいな。初日からこれかっ!

 回りは俺が先生と姉弟と言う事で、何故か騒いでるけど……もう限界だっ!


「ご、ごめん……ちょっと通して!」


 囲まれていた空間から逃げるように走り出す。

 クラスの女子には悪いけど……体質だから仕方ない。と言うか、初日から変な奴と思われてるだろうな。

 廊下をしばらく走ってふと足を止めた。


「はぁ……またやっちまったなぁ……」


 体質だから仕方ないとは思ってるけど……さすがに直さないとだよな。じゃないと、本気で命に関わりそうだ。


「……てか……ここはどこだ?」


 落ち着いてから辺りを見回してみると……どこだここ? 夢中過ぎて訳分からん場所に来ちゃったみたいだ。

 そこからさらに適当に歩くと、右手に中庭らしき所が見えた。

 中庭……噴水なんかあるんだなぁ。少し興味が湧いて中庭に出てみると、他にも小さな庭園らしき所がある。

 どこかの豪邸みたいだと思ったけど……実際そういう場所だっけ、ここって?

 そう思いながら中庭を眺めていると、不意に人影が見えた。その人に道を教えてもらおうと近付くと、俺は思わず立ち止まってしまった。

 その人影の正体は、女子生徒だった。

 立ち止まったのは、その人が女子だった事もあるけど、不覚にも見惚れてしまった。その女子生徒に。

 肩まで掛かる栗色の髪を、両側でツーサイドアップに結っている。その綺麗な髪が風に揺れて見えた横顔が、何と言うか……凄い、可愛かった。

 何かを眺めていた少女が、不意に俺の方を向いた。その瞳は蒼色で、凄く澄んでいた。

 この学園の学年は男子はネクタイ、女子はリボンで分かるらしく、少女のリボンは俺と同じ緑色――つまり同学年みたいだ。

 しばらくして、少女と目を合わせてる事に気付いた俺は、目を逸らした。

 そうだ、帰り道聞くんだった。……同学年みたいだけど、分かるのか?

 一抹の不安を抱えながら、そして苦手な女性に自ら近付く勇気を振り絞って一歩踏み出すと――何かを踏んだ感触があった。

 と言うか、何か足下でくしゃっ、とかいった。

 少女を見ると、何故か目を見開いている。何だろうと足下を見てみると、そこにあったのは花だった。回りにも花が咲き誇っていて、どうやらその一輪を踏んだらしい。

 ……もしかして、足があるここは花壇では?

 何気になく見回してみると、さっき見ていた庭園の中にいつの間にか居た。

 慌てて足を上げて後ろに引く。少女を見ると……何で涙目!?


「あ、いや……これはその、気付かなくて……」

「さ……」


 何で泣いてるのかは分からないけど、俺の所為なんだろうな多分。

 そう思ったけど、少女は涙目のまま俺を見つめて叫んだ。


「最っ低っ!!」


 そして泣きながら走り去って行って、途中でパタリとコケていた。

 ……どうしよう、道を聞けなかった挙げ句、あらぬ誤解を生みそうだ。

 とりあえず踏んでしまった花に添え木を施しておく。枝が近くにあって助かった。

 ……ついでに俺も助けてくれないかな?



 結局、休み時間中に教室に戻る事は叶わず、偶然通りかかった姉さんに合い、教室に連れて行ってもらった。


「「あ……」」


 と、教室に入って目の前に居た生徒と目が合って、同時に声を上げた。

 そう、目の前に居たのは、先程中庭で出会って最低と言ったあの少女だった。



 これが、女性恐怖症の俺と少女の、最悪で運命的な出逢いだった。

誤字脱字があるかもしれませんがごゆるりと読んでくれるとありがたいです。

感想などもお待ちしております。

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