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全日本可哀想選手権  作者: 千東風子


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07 まあ適任

 

「二人目は一人目と同じ会社からベテランの四十代女性。三人目は会社を変えてこれまたベテランの五十代女性。四人目と五人目はまたまた会社を変えて三十代の男性と大ベテランな六十代の女性のペア」


 女は一気に言うと、息を整えるように「みんな双子かその兄を狂ったように好きになっちゃってストーカーが量産されまして」


 ストーカー。

 男は混乱した。仕事先は妻と母を亡くした家庭だろう。親戚とはいえ、なぜそこに双子とその兄が出てくるのか。


「待て、六十代と……男もか?」


「うん。六十代女性は双子その弐のバンドマンの方。三十代男性は双子の兄の方」


「ちょっと、理解が追いつかん。六十代が男子高校生に恋愛感情を持ってストーカー? 男は、まあ、男は……まあ」


「なんで二回言ったのよオモロ。双子の兄、アメリカだかドイツだか留学してた時に男性三人がその兄を取り合って刃傷沙汰になったらしいよ」


「魔性かよ」


 男が冗談で言ったのに、女が真面目な顔で答えた。


「いや、マジでそう。別にその三人とも付き合ってたわけでもないのに勝手に奪い合いになって超トラブルだったって。この三兄弟、いつもそんな感じらしいよ。確かに双子も学校でめちゃくちゃモテてたし、しかも恋愛感情向けてくる人には冷たい塩対応なのに、顔が良いからか金持ちだからか芸能関係だからか、まあよく追っかけられて本人たちの知らぬ場外でもキャットファイトがすごかったもん」


「だが、いくらなんでもなんでストーカー? 職場の家とは別家庭だろう? ハウスキーパーやベビーシッターは魔性三人組とそんな接点なかろうに。……有名人ってことで最初から狙って会社に潜り込んだのか?」


「魔性三人組……しっくりきすぎて草。いくら界隈では有名でも、たぶんその全員は魔性三人組の存在自体知らなかったんじゃないかな」


「ならどうして」


「みんな同じマンションに住んでるの」


「は?」


「マンション自体その芸能一家の持ちマンションで、十階建てなんだけど、八階以上は一家の住まいで、七階までと入り口もエレベーターも別というセキュリティーバッチリ物件の八階の一室が職場なの。マンションの上に大きな戸建てが乗っかっているようなものね。んで、姉大好きっ子の魔性三人組は、もちろん姉が遺した子どもたちも大好きで、時間があると普通にやって来るのよ。別家庭だけど接点ありまくりよ」


「だからって」


「んで、この魔性三人組は生活不能者です」


「は?」


「外では頑張って普通を装っていたけど、ほっとけばごはんも忘れる、風呂も忘れる、ヒゲはボーボー、服もヨレヨレです。しかし顔は良い。……さて、問題です。ハウスキーパーやベビーシッターでお金を稼げる人種は、総じて人の世話が苦じゃない人たちです。否は認めません。世話の手を出さずにいられるでしょうか? いや無理でしょう。なんてったって顔が良い」


 女の勢いに押されながらも男が反論した。


「いや、でもそいつらの世話は契約の範疇外だろうよ」


「そこ!!」


 女が目を見開いて男を指さした。


「だからこそ、プライベートだと思ってしまったみたい? プライベートでこんなにも世話をして、近くにいて、もはや私は妻……夫では? と、ストーカーになっていったと推測されます」


「その口調誰のマネだよ。雇い主の姉の旦那がしっかり線を引かないと、いくらなんでもダメダメすぎるだろうよ。世話する人がトラブル起こしてコロコロ変わっちゃ子どもらも落ち着かんだろうし」


 女が「おにーさんって本当にまともな大人なんだねぇ~」と感心し、「まあ、だから食い物にされるのか」と呟いて男にチョップを食らった。


「まあ、トドさんも、あ、雇い主は車三つで(とどろき)さんだからトドさんっていうんだけど、トドさんも最初の騒動から懲りて、三人組が誰かしらやって来ても世話はしないようにしっかりと言い聞かせていたようなんだけどね、魔性が勝ったと。なんせ顔が良いからね。そして、『内緒』で世話をしていくうちに秘密を共有する親密な仲だと思い込んじゃったんじゃないの?」


 そんなに顔が良いのかと男がスマホで検索しようと三人組の名前を尋ねるも、女は「ミイラ取りがミイラになるって、アレは本当の話よ? やめておいた方がいい」と真顔で教えなかった。


「トドさんも考えて男女のペアで派遣してもらったのに、両方魔性の虜になっちゃって、んで、その四・五人目が辞める時、いよいよもうどこに頼んでいいか分からなくなったトドさんは、自分側の親戚の集まりの時に、夏休みとか長期休みの時に助力をもらえないかという話をしたんだって。そうしたら巡り巡って私のところに話が来たというワケ。そもそも現在進行形で双子と同じ高校で、二人を追っかけていないのも決め手になったかもね。それに私は正式な職業としてじゃなくて、居候の身として小さな子たちの面倒を見てお小遣いをもらうみたいな立場になったから、契約とか関係なくて、多めにご飯を作って、洗濯する時は籠に入ってたら回して、ついでに九階と十階も掃除して……って、好きに動けたわけ」


 女は双子の兄と初めて会った時、「しかし顔が良い」としか思わなかった。

 学校で双子を初めて見た時もただの感想として「イッケメーン」としか思わなかった。

 女は家庭内暴力を見て育ってきた弊害をもろに受け、男性という生き物に対してトキメイたことはなかったし、きっとこれからもないのだろうなと自分でも思っていた。

 まあ適任ね〜、と冷めた笑いが出たくらいである。



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