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全日本可哀想選手権  作者: 千東風子


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06 エントリーナンバーツー

 

 女の両親は離婚しており、女は母親と歳の離れた姉と兄の四人家族だった。

 父親に似ているという兄を溺愛する母親は、姉を蔑ろにするくせに頼りにはする、いわゆる搾取をナチュラルに行う毒を持つ母親だった。姉に与えられるべきほぼすべてのものを取り上げ、姉にとっての弟である女の兄のために生きることを強いてきたのである。


 姉は幼少期に抵抗を諦め(いびつ)に育ち、兄はとてつもなく傲慢で乱暴者に育った。

 そんな家庭を嫌って父親はいなくなったのだった。家庭に関心を持たない父親をつなぎ止めるために三人目を妊娠したというのに、結局逃げられた母親は、やがて生まれた女に無関心だった。


 それが女の世界だった。


 女はまだまだ子どもだった姉に育てられた。

 物心ついたあたりにはもう、女は自分の家族は他の家族と違うということを認識していた。

 女は母親に抱き締められた記憶はない。話しかけられたことさえ稀。女にとって母親とはそういう存在だった。

 兄の機嫌を損ねると殴る蹴るの暴行を姉が受ける。そうなると女はただただ泣きながら謝るしかなかった。生まれてきてごめんなさいと。


 そんな母親と兄は外面が良く、挨拶くらいしか交わさない周囲には片親だけどしっかりした家庭だと認識され、家の中で息を潜めて生きていた姉と女のことなど誰も気が付かず、気にもしなかった。


 女が小学校に上がる年、姉は高校を卒業して就職した。

 給料はすべて取り上げられ、家のことはすべて姉。数年間その状況は続き、とうとう姉は過労で倒れた。

 そんな姉に早く飯を作れと激高した兄が殴打し、姉は意識を失った。死んだと思った女は外に行き「ねね、死んじゃった」と泣き叫びながら走り、警察官に保護された。


 ここでようやく女の歪な家庭が世間の明るみに出たのである。


「その後はみんなバラバラになった。ねねが……おねーちゃんが成人していたから私を引き取ると言ってくれたけど、私は断ったよ。私のせいでよく殴られていたから……忘れられるものではないでしょう? キッパリと、悪い縁()は切った方が良いと思ったのよね」


 男は無表情に「そうか」とだけ相槌を打った。寂しさと申し訳なさと安堵が入り交じった女の表情を見て、返す言葉など見つけられなかった。


「その後は遠い親戚のところにお世話になって、高校入ってすぐの頃かな、この家のお父さんが病気になっちゃったからお金的にもう無理ってなった時、その遠い親戚の遠い遠い親戚のところで家事をする代わりに面倒見てもらうことになったんだ」


 男が「遠い親戚の遠い遠い親戚」と呟くと、「要は他人よ。でも『親戚』ってくくっとかないと身寄りのない女子高生が住み込む理由がないでしょ?」と女が笑った。


「同じ高校にさ、超絶有名人な男子がいてさ」


「急に話が飛んだな」


「双子でさ。超イケメン。双子その壱はテレビドラマとか出ちゃってる駆け出した俳優で、その弐は一部界隈に売れてるバンドのボーカル」


「……それはまた、絵に描いたようなキャラクター設定だな。公立の高校だろ?」


「そ。高校までは公立って家庭の方針らしいよ。それよりも驚くのはまだ早いよ? その双子の両親は映画? 音楽? 芸能関係で世界を飛び回り、双子には兄がいて、外国に留学して活動してる作曲家? っての? しかもこれまた超絶なイケメン」


「設定が渋滞し始めたな」


「その双子にはお姉さんもいて四人兄弟だったの。お姉さんは有名な芸能一家に生まれながらも、普通に公立の高校で青春を謳歌して、普通にその辺で出会った人と恋愛結婚して、普通に専業主婦になって、普通に子どもを二人産んだの」


「超絶美人そうだな?」


「それがね、写真でしか見たことないけれど、美人! ではなくて、穏やかな笑顔が綺麗な普通の人。普通じゃなかったのは、普通じゃない周りに本当に愛されて大切にされて生きて、そして病気で死んじゃったこと」


「病気で……そうか」


 自分と同じくらいだろうか。それとももっと若かったかもしれない。そう思いながら男は静かに呟いた。


「私がお世話になった遠い遠い遠すぎる親戚が、そのお姉さんの旦那さん」


 繋がった話に男は目で続きを促した。


「奥さんを失って意気消沈している場合じゃなかったみたい。お母さんを失った子どもたちはまだ八歳と二歳で、父親である自分は仕事が激務過ぎて家に帰れない日もあるから、これから子どもたちをどうしようかということになって、自分の両親は他界しているし、妻の実家の方も多忙でしょっちゅう頼むわけにはいかないし、日中は家事代行とシッターさんをちゃんとした会社から頼んでいたみたいなの。でもね……」


 女の不穏な様子に男は身構えた。


「一人目は三十代の女性。家事と育児で週五日の通いだったけど、近くに住んでいたから緊急時も対応してくれて、とてもよくしてくれたって」


「一人目。ということは二人目がお前か?」


 女は「ぶっぶぅ~」と言ってニヤリと笑った。


「私は六人目です」


 六人目。男は目を見張った。ということは女の前に五人辞めているということである。



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