15 最終話 順位改定
女はこれからも波乱万丈な人生を歩んでいくのだが、己の名を最期まで呼んでくれた男の存在が生涯の支えとなり、「波乗りやっほぅ~!!」と人生の荒波を楽しんで百三歳まで生きることになる。
今際には、夫と八十五歳の三つ子と数え切れない孫とひ孫と玄孫に囲まれて、「ばいなら〜!」と言って元気に旅立って行った。
大往生の和やかな葬儀が終わり、お茶を飲みながら三つ子がしんみり笑って言った。
「俺たちも孫たちも誰一人として欠けることなく母さんを見送れてよかったな」
「先に逝ったのは四人の父さんたちだけだもんな。五回結婚して四人看取ったからなぁ」
「それな」
「一人目の父さんは若くして死んでしまって写真を見るしかなかったけれど、生さぬ仲なのに俺たちの名前をつけてくれて、住む家と金を遺してくれて」
「父さんが止めなきゃ俺たちの名前『陸海空』だったらしいからな。それも別に悪くはないけれど、正直一人目の父さんに感謝だな」
「それな」
「二人目の父さんは自称冒険家で、一年のうち半分以上はどこかに行ってたよな。結局山で遭難して救助されたけど助からなくて」
「ニカッと笑う熊みたいな人だったな。懐かしいなぁ。一人ぼっちで無人島に置き去りにされても生き残れるようにって、夏休みにはサバイバルの旅に連れて行かれたよな。虫嫌いの母さんは絶対来なかったけど」
「火の熾し方も魚の釣り方も罠の置き方も獲物の捌き方も仕込まれたけど、今のところこの年まで無人島とは縁がなかったな」
「それな」
「三人目の父さんは血の繋がった父さんだったけど、俺たちを妊娠していた母さんを放り出したくせに、いなくなった母さんを探し出して、二人目の父さんが死んで沈み込んでいた母さんを五年も口説いてようやく結婚してもらったのに」
「自称『妻』の妄想ストーカーに刺された傷が元で死んでしまって……母さんの落ち込みようが半端なかったな」
「そのストーカーを半殺しにして母さん捕まって前科ついたもんな」
「声をかけなきゃご飯も忘れて曲書いてるような人で、顔は俺たちに似ているのに理解不能な生物みたいだったな」
「俺たちが似てるんだろうよ」
「それな」
「母さん、『もう男も結婚もいいわ~』なんて言っておきながら、足腰が弱ってから自分で見つけて入った看護付きマンションで『独りで死にたくない』って泣いていた天涯孤独な爺さんに『じゃあ結婚してあたしが看取ってあげる!』と言って本当に結婚したのが四人目で」
「俺たち一回しか会ってないけど、新婚一ヶ月で老衰だったな」
「あのあと『次は俺と結婚してくれ』って母さんに謎のモテ期が来て、カオスになってマンションを移らざるをえなくなって大変だったな」
「それな」
「五人目の今の父さんと結婚したって話を聞いた時には、顎が落ちて入れ歯が飛んだよな」
「なんせ俺たちの孫世代」
「母さんみたいな境遇の育ちで、母さん、生前整理した自分の分の財産を譲ってやりたいって。養子でも良いけど結婚なら今日すぐできるでしょ? って籍入れてたな」
「未だに俺たちに『父さん』って呼ばれる度に大爆笑するよな、あの人。孫よりも孫らしく最期まで母さんと楽しく遊んでくれて、ちょっと笑いながらだったけど、喪主まで務めてくれて。感謝感謝だな」
「笑ってたの皆だけどな。……最期の言葉まで母さんらしいし、湿っぽさ皆無」
「それな」
「父さんたちは母さんを迎えに来てくれたんだろうか」
「来ただろ」
「四人いっぺんに迎えに来て、母さんは誰の手を取ったんだろうな?」
「どうだろうな? 母さんはどの父さんも大切にしていたけど、ベタ惚れってヤツで一方通行だったのは、たぶん父さんたちの方だったじゃん」
「でも母さんが今の父さんと再婚する時に言っていたよ? 成り行きと勢いと顔がイイのと同情だったけど、父さんたちをそれぞれそれなりに愛していたって。自分はちゃんと愛することができる人間だったって、笑顔で言っていたよ。今の父さんとは入籍するけれど、自分に与えられた幸運と恩を巡らせるためだって」
「そっかぁ。じゃあ、迎えに来た父さん全員の手を取るかな?」
「それはどうだろうなぁ。二股とか不倫とか同時進行絶対拒絶派だったじゃん。お前の息子の浮気が発覚した時の母さんの物理な暴れっぷりを忘れたのか?」
「息子がなんかすまん。お前の前歯が差し歯なの、その時止めに入ってくれたからだもんな」
「いやいやいや、お前がグレて帰って来なくなった時に『うちの子を悪の道に引っ張り込んだのはお前たちか?』って、そこにいた全員フルボッコにした時の方が暴れていただろ」
「一番の重傷は母さんに拳骨連打されたお前というオチつき。入院したのもお前だけ」
「黒歴史だからヤメれ゙」
「じゃあ誰か一人を選ぶかな」
「もしくは誰も選ばないかも」
「選ぶだろ」
「いずれにしても、選ばれなかった父さん、日本一可哀想~」
「「それな!!」」
読んでくださり、ありがとうございました。
全十五話、いかがでしたでしょうか。
不遇で不憫で可哀想な二人ではありましたが、ちゃんと幸せを感じて生きた二人でもあったかと思います。
本当に可哀想なのは誰なのか。
それは考え方ひとつで変わり、人によっても答えは違うな……と思いながら書いたお話です。
それではまた、違うお話でお会いできたら嬉しいです。
ありがとうございました!




