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全日本可哀想選手権  作者: 千東風子


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12/15

12 妻ですがなにか?

 

「こんにちは~。(つっま)でーっす」


 女の態度はちゃらんぽらんで、幼少期からの不遇で自己肯定感がなぎ倒されてはいたが、けして馬鹿でも弱くもなかった。

 相手の顔色を窺って空気を読んで先回りして生きてきた女は、その能力を反転させて、どういう言動が相手の怒りやプライドを刺激するのかを読むことに長けていた。


 あまりの態度に息をのんだ二人の隙を突き、女が続ける。


「お二人のことはぁ~、夫から聞いていますよぅ。きゃっ、『夫』だって……照れる! それで聞いてて疑問なんですけどぉ~元彼女さんはぁ~夫よりもそちらの男性を選んだんでしょう? なのになんで今でも自分がパートナー(ヅラ)できるんですかぁ? すごーい(ツラ)の皮ぶ厚くないですかぁ? そんな図々しいことマジで言う人がいるなんてぇ、驚きぃ~! それにぃ~、モラハラ受けたって言ってる割に自分から必死に会いに来るしぃ? いい大学出ていい会社に勤めていい給料もらってるんでしょう~? それなのになんで他人のお金を自分のものに出来ると思っているのか~思考回路が超摩訶不思議アドベンチャーなんだけど! そっちの、お友達の仮面被って彼女寝取って悦に入る人? 何も知らねぇで疑いもしない馬鹿なあいつに勝った……的な、くだらない優越感に浸ってこじれた劣等感を慰めてたんでしょう? 小っさぁ~。あ、どことかじゃなくて人間としての器がね? ずっと蔑ろにしてきたのに縁を切られたら慌てて縋るか、マジな小物感、隠しもしない小ささ! 会えば取り繕えると信じて疑わない脳みそ機能停止中なところとか、マジウケる~!! うちの夫に会っても会わなくても謝っても謝らなくてもこちらの主張は変わりませーん! もう関係の修復は今世でも来世でも無理でーす。元彼女さんの不貞行為で関係は終了してもう無関係なので、そちらの主張する財産を寄越せ? に応じることはありませ~ん。主張するのは自由らしいので、裁判で決着をつけるしかないらしいですね? 争いについて私たちはこちらの先生にす・べ・てお任せしてますので、先生にお話ししてくださいな。それじゃ!! ばいなら~!!」


 女はものすごく楽しそうに話し切り、颯爽と弁護士を連れてその場を去った。


 その姿を二人は唖然としながら見送っていたが、じわじわと言われた意味が浸透するにつれて元友人がワナワナと震えだし、大声で「ふざけるな!!」と叫びながら女と弁護士を追いかけてきて、女の肩を掴もうとした瞬間。


 ころ~ん。


 伸ばした手を女に取られて漫画のように回された元友人は、気が付けば背中を地にして女を見上げていた。

 何が起こったか理解できていない元友人を見下ろして、女は笑った。


「だっさ」


 女は強かった。

 幼少期、姉と別れて引き取られた遠い親戚の家は空手道と合気道を愛する一家で、稽古に加わるうちに女は身体も心も鍛えられていったのである。

 植え付けられた恐怖で兄の前では身体がこわばり動かなかったあの日。姉を殴る手が女にはちゃんと見えていたのに掴むことが出来なかった。何も出来なかったことに悔しい思いをした女は、姉の頬と腕を冷やしながら、兄の形が変わるまで殴ってくると決意したところで、姉が「私のことだから私がまずきちんと言う」と譲らず、次の日一人で行かせてしまったのだった。

 そして、姉は帰ってこなかったのである。

 女は、次に誰かに攻撃されたら絶対にためらわないと覚悟を決めた。さもなくば大切な人を失うことにつながることを女は身をもって知ったから、泣きながら女は更に強くなった。


「正当防衛だよね~? 先生、警察呼ぶ?」


「呼びました。ここは私が対応しますから家に入って休んでてください。終わったら向かいます」 


 女が元恋人を見ると、元恋人は「ひっ」と息を吸いながら一瞬怯んだが一瞬で持ち直し、叫んだ。


「暴力を振るうなんて信じられない!!」


「先に殴りかかってきたのはそっちだけど? ああ、大人しく自分たちに殴られろってこと? どんだけ人格破綻してんの? ウケるんだけど?」


 言葉はちゃらんぽらんでも、目線が鋭い女に元恋人がまた怯んだ。転がっている元友人は未だ呆然としていた。

 女はそんな二人に構わず「じゃ先生後はよろしくお願いしまーす」とその場を去った。


 弁護士はその後ろ姿を見送りながら、求婚した後、男に言われて女のことを調べた調書を思い出していた。概ねは女が男に語ったとおりだったが、調書はそれよりも詳しく記載されていた。

 女は父親に有り金持って逃げられた後、ヤミ金をはじめ国をまたいだ犯罪組織に拉致されたのは本当だった。なんらかの被害に遭う前にすぐに警察に保護されたのも本当。ただ、そんなタイミング良く警察が踏み込むなど奇跡でも起こらない限り考えられない。


『殺される! 助けてくれ!!』


 通報があった現場に駆けつけた警察官たちが見たものは、異様な光景だったという。

 マンションの一室の床に転がり呻く男たちを見下ろしながら一人佇む女。

 男たちは肩を外され鼻を潰され、中には指があらぬ方向を向いている男もいた。通報したのはそこから逃げ出した顔面血だらけの男だった。



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