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全日本可哀想選手権  作者: 千東風子


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11 立ちはだかる

 

 早々に男の弁護士が女の支援を担当している方々(ほうぼう)と調整し、二人は入籍した。

 これで男に万が一があっても男の財産のすべては正式な妻である女へと渡り、元彼女には何も渡らない。懲りずに事実婚を持ち出しての争いが続いたとしても、弁護士が最後まで請け負ってくれることになっている。女のおかげで男の憂いは一気に晴れた。


 一方の女も、結婚によって行政の支援のほとんどは打ち切られることになったが、男の経済力によって働かなくても生活に不安はなくなった。

 当初の計画で子どもたちは生まれたら施設に預け、女が経済的に自立してから迎えに行こうとしていたことを考えると、退院後すぐに子どもたちと一緒に生活を始められ、しかも一人で三人の赤子の育児は難しいからと男は通いのベビーシッターと家事手伝いを予約してくれた。「ストーカーにならないといいね?」、「誰のだよ」と笑い合いながら子どもらの誕生を心待ちにした。


 湯水のように金を使うので女は心配したが、男は手元にまだ父親の遺産が残っている上、自身が堅実に貯めて運用してきた貯蓄としっかりとかけていた入院保険、それに会社からも各手当金が支給されるため、経済的に不安はない。死ねば更に保険がおりる。富豪とまではいかなくてもちゃんと必要なところに使う金があることに男は安心し、惜しむことなく金にものを言わせることにしていた。


「お前の腹の子たちはもう俺の子たちだ。誰にもやらない」


「生まれたらそのまま実子で届出をするから一人でブツブツ開催している名付け選考会に俺も参加させろ」


 そう男が女に強請ると、女は号泣してしまい警備員が駆けつける騒ぎとなったが、最終的には周囲に冷やかされて終わった。年の差のある二人が院内で出会い結婚した話は、患者職員関わらず院内を秒で駆け巡り、皆の知るところとなっていた。


 夫婦になったといってもそれまでの関係とあまり変わらず、あいかわらず短時間だけ談話室でお茶を飲む二人。

 時間はゆっくりと流れ、男が少し痩せて抜けた髪の毛を気にして帽子を被りだした夏の終わり。

 女は診察どおりの三つ子の男児を帝王切開で無事に出産した。

 赤子たちに心配されていた疾病などはなかったが、千五百グラム前後の体重がもう少し増えるまで入院することになった。

 女の回復が順調なので先に退院することになったが、女が入院前に役所と一緒に整えたアパートは弁護士の立ち会いで引き払い、男のマンションに帰宅することになった。

 弁護士の仕事ってなんだっけ? と女が遠い目をするほど、弁護士は係争だけではなく様々な場面で男と女を親身になってサポートした。

 男の父親と旧知の仲であった弁護士は、男のもう一人の父を自負しており、息子の嫁も子も既に守るべき存在となっていたのである。


 女の退院の日、これまた弁護士の付き添いで帰宅した女の前に、一組の男女が立ちはだかった。

 男の元彼女と元友人である。


「困りますね。何かご用の際はすべて私を通してくださいと先日も申し上げておりますが。後ほど私からご連絡しますので今すぐお引き取りください」


 普段はほわほわニコニコしているおじいちゃん弁護士の鋭い声に女が驚いていると、金切り声が響いた。


「……あんたね? この泥棒猫!! 返しなさいよ!! このマンションも貯金もあいつの生命保険も全部あたしのものよ!!」


 髪を振り乱して掴みかかろうとしてくる元彼女を元友人が「やめろって」と止めて頭を下げた。


「いちゃもんをつけに来たわけじゃないんだ。直接話がしたいだけ。顔を見て謝りたいし、もう関係が修復できないとしても、軽口叩いてしまったことで誤解があるだろう? それだけは解いておきたくて。会わせてもらえないだろうか」


 入院先も教えてもらえず、会社も休んでいる男に会うためには自宅を張るしかなく、二人は定期的に男のマンションの敷地入り口に現れていた。

 一度共用玄関の前にいたら他の住人に警察を呼ばれたことがあり、それ以降は敷地には入らず時折現れる弁護士に注意されながら、一時帰宅や退院で男が通りかかるのを待っていたのである。


 弁護士が口開こうとしたところで、女が「私が話しても?」と制した。

 それを聞いた二人の顔に喜色が浮かんだ。


 弁護士は散々この二人と話をしているので、性根の腐ったお勉強の出来る馬鹿だと見抜いている。二人とも謝罪など砂粒ほども本当のところは思っていないだろう。

 元彼女の方は割と直情的だが、元友人の方は己の欲望を小難しい言葉で煙に巻き、「あれ?」と相手が思っているうちに勢いで自分の有利に持っていくタイプである。弁論大会では優勝出来ても、実働を伴う現実では何かを成し遂げることは出来ず、その責任をいつも社会と他人になすりつけて生きてきたのだと想像に難くない。

 いずれにしろ、二人とも「自分が間違っていた、自分が悪いのかな」と思わせることには長けているハラスメント上級者、それが弁護士の評価だった。

 この二人が立てた弁護士もプライドだけは高く口先で金を稼ぐタイプで、弁護士は弁護の先輩として静かに鼻っ柱をへし折ってやろうとしているところだった。


 ともすれば男の妻となった女は攻撃対象でもあり、現に第一声が罵声だったので弁護士は関わらせたくないと思ったが、自分が同席しているならば女が何と言って応戦しようが、こちらの不利にはならないようになんとか出来るだろうと思い直し、黙って見守ることにした。

 弁護士は女のこともきちんと評価しているのである。



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