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全日本可哀想選手権  作者: 千東風子


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01 開催宣言

ちまちまと書き続けて50作目の投稿です。

虐待や暴力などの描写があります。本編前にあらすじをご覧ください。よろしくお願いいたします。m(_ _)m


誤字報告、ありがとうございます!

順次訂正しております。m(_ _)m


 

「それでは、ただいまより全日本可哀想選手権を開催いたしまーす! どんどんどんぱふどんぱふっ!」


 まだ幼さの残る女が「イエーイ!」と拍手しながら男の側にやって来てそう告げると、お茶を飲んでいた男は軽く咽せた。


「……なーした、藪から棒に」


「藪から棒なんて普通に言う人いるんだ!? ところで、なんで藪から棒が出てくるの? 罠?」


「知るかよ。なんだよ、その『可哀想選手権』って」


「だってさ! おにーさんの話、ちょー不憫じゃない!? でもさ、あたしだってちょー不憫なんだよ!? ここはどっちがより『可哀想』か決着を付けるべきかなって!!」


 男はげんなりした雰囲気を隠しもせず、女を見た。

 男とは違う入院着を着た女の腹はパンパンに膨らんでおり、妊婦であることが一目で分かる。

 制服を着ていたら中学生でも通るような面立ちの女は、重たそうな腹を抱えて「よっこいせ」っと男の向かいに座った。

 最近のいつものことなので、女は男に相席の許可すらとらない。


「不憫なら『不憫選手権』じゃないのかよ。しかも全日本って、俺とお前だけだろうが」


「同じような意味なんで、語呂? どっちかってーと、本当は『全日本ヤヴァァァァ選手権』? いーじゃん参加者二人でも全日本で」


 椅子に座るだけで息を切らしながら、女は興奮気味にまくし立てた。


「あほくさ……。ほれ、無理すんな。温かい茶でいいか? 座ってろ」


 男はそう言うと、女を座らせたままゆっくりと立ち上がって、ガラガラと点滴スタンドを杖代わりに給水器へと歩き出した。

 設置されている無料の給水器は水と茶が冷温どちらも出るタイプで意外に味が良く、密かに男のお気に入りだった。


 ここはとある病院の談話室。

 談話室といっても、コンビニと食堂の周囲に椅子とテーブルと給水器と自販機があり、面会のセキュリティを通れば誰でも入れるエリアの休憩所である。入院病棟にも談話室はあるが、自販機と椅子が数個程度しかないので、歩ける患者はここまでやって来ることが多い。

 散歩用に陸屋根が庭になっており、院外に出ずとも外気に触れて目で四季を感じることも出来る。


 男は少し前に腰痛で自宅近くのクリニックにかかったところ、その足でこの大きな病院へ検査に行けと言われ、来たら来たで即検査入院となり、完治の難しい病名を告げられた。


「ほれ、熱いから気を付けろ」


 男は女の前にカップを置き、元から座っていた席に座り直した。


「おーありがとう! さすがシゴデキな男! こんなに気配りも出来るのになんで彼女さんは浮気したんだろうね?」


「うるせー。まだモメてんだから放っておけっての」


 男は温くなって飲み頃になった自分のお茶に口を付けた。

 女もフーフーしてから口を付ける。


「……で、エントリーナンバーワン君、どうにかなりそうなの?」


 女が静かに問いかけた。

 子どものようにおちゃらけてうざったいこともあるが、心根は優しく、お節介婆のような女だと、男は女の本質を見ていた。


「あー……。ならんっぽいのだよ」


 男はため息をついた。「お前に心配されることじゃねぇ」と女の詮索を突っ張ねる時期も過ぎ、またその元気も無かった。

 女は「あらまあ」と呟いた。


 男と女がこうやって雑談するようになったのは、ほんの少しの偶然からだった。


 それは男が医師から病状の説明を受ける際に「家族を呼んでください」と言われた日。

 その日が入院初日の女は院内を探検し、大きくなってきていた腹を抱えて休憩がてらにこの談話室で座っていた。

 たくさんあるテーブルの中でも、そのテーブルは角度的に陸屋根の庭に射した陽がきらきらと輝いて見える位置で、女は吸い寄せられるように座ってゆっくりと庭を見ていたのだった。

 四人がけテーブルは対面に二脚ずつ椅子があり、室内は空いているので女は遠慮なく一人でそのテーブルを占拠していた。


 すると、検査着の男が談話室にやって来て、フラフラと女の隣に黙って座った。

 他にも空いているテーブルはたくさんあるのに、女が見えてないかのように女の隣に男は座ったのである。


 驚いて固まったのは女だった。いきなり見知らぬ男が相席、しかも対面の席ではなく隣に座ってきたのだ。「え、え???」と混乱しながらも女が隣の男をそっと窺うと、男は感情が抜け落ちた顔をして、ただ前を向いていた。

 その目には光もなく、庭も何も見ていないのが女にはすぐに分かった。


 女は顔を正面に戻した。

 放心している男に文句を言うのも憚られたが、自分が先に座っていた席を立つのも何か違うと思い、害が無さそうなので放っておくことにしたのだった。


 知り合いでもなんでもない二人は、ガラガラの談話室で同じ方向を向いて並んで座り、そのまま時間と共にゆっくりと影が動く庭を、ただ見ていた。


 やがて男が浅く息を吐き、身じろぎをして目を巡らせ、ほぼ隙間なく横に座る女に気が付いて「おぅわ!?」と飛び退いた。


 その声と驚いた顔と飛び退いた格好が女のツボにはまり、笑いながら「こんにちは? 言っておきますけど、先に座っていたのは私ですよ?」と会話が始まったのだった。


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