お客さまです
不定期更新です。
誤字・脱字などがありましたら、こっそり教えてくださると有難いです。
ここは、穏やかな気候に建てられた、少し大きめな孤児院。
草花が広がる草原では、幼い子どもたちが追いかけっこをして遊んでいる。
建物の近くでは、真っ白なシーツやら、孤児院の住人達の衣服やらが、穏やかな風で揺れている。
青年や少女が、女性の手伝いをしながら、洗濯物を干しているのが見える。
建物の中にも、子ども以外の人達が見える。
昼食だろうか、大きな寸胴で何かを煮込んでいる人もいる。
リビングのようなところでは、ソファーで寝転がっている人や、小さい子供に絵本を読み聞かせている人もいる。
ただただ平穏なこの孤児院___“希光孤児院”。
そんな所にある日、一人の訪問者が訪れる___
「あ、あの………」
___建物の玄関前。
小さな子ども達の様子を見ていた男に、深くフードを被った人物が声をかけた。
「………珍しいお客さまですね。どうかされましたか?」
フードの人に答えた男は、優しい目を向けて尋ねる。
「あ、えっと………旅をしている、者なのですが………
この近くに、宿はありませんか?今日の宿を探しておりまして………」
「宿、ですか………残念ながら、近くにはありませんね。
一番近くて、徒歩であれば半日か一日か………」
「そ、そうですか。困ったな………」
フードの人は指で頬をポリポリ掻きながら、「うーん」と悩み始める。
「………旅人さん」
「あ、は、はいっ」
男に声をかけれれて、フードの人はハッとした様子で、そちらに再度顔を向ける。
「もし、“院長”が許可を出せばですが………此処に泊まって行きますか?」
「えっ!?い、いいんですか………!?」
「空いてる部屋はありますし、偶にこういう事もあるので許可は降りると思いますし」
フードの人が嬉しそうな声で聞き返すと、男はクスクスと笑った。
「こちらへどうぞ。元気な子が多いので、騒がしいかも知れませんが」
「い、いえっ。お邪魔します………!」
男に連れられて、フードの人は建物の中へと入って行った。
建物の中にも、子ども達が元気に遊んでいた。
「あー!お兄ちゃんしらないひとつれてきてるー!!」
「だあれー?」
フードの人を案内している男は、この中では面倒見が良いのか、小さい子ども達からすぐに話しかけられる。
「お客さまだよ。“院長”はどこにいるかな?」
「りびんぐ〜!!」
「そっか、ありがとう」
男が子どもの頭を撫でてあげると、撫でられた子どもは嬉しそうに笑った。
「いまは“どっち”がいいの〜?」
別の子どもが、男を見上げながら訊ねる。
「そうだね………“優太”でいいよ」
「わかった〜」
「「「ゆーたにぃばいば〜い!!」」」
「はーい、あとでねー」
子ども達が手を振って、どこかへと走り出す。
“優太”と呼ばれた男は、微笑みながら手を振り返して、子ども達を見送った。
「………ユータ?」
「ああ、僕の名前です。“優しい”に、太郎の“太”で優太と言うんです」
フードの人がフードの下で首を傾げるのを、横目で見て答える男…優太。
「珍しい、名前ですね?」
「………そうですかね?」
フードの人の不思議そうに聞き返す声に、優太は小さく反応をする。
「え、ええ………
優しい、は分かりますが、“タロウ”?は………。
え………わ、私は、知らぬ間に、遠い異国に来て………?」
フードの人は歩き続けながらも、少し首を傾げながら考え事を始めている。
「………まあ、ここは少し珍しい所ではありますから、聞いた事がない名前とかもありますよ。
それより、リビングに着きましたよ」
優太に言われて、フードの人は俯き気味だった顔を上げた。
「どうぞ、お入りください」
「し、失礼します………」
優太がドアを開けた先。
広めのリビングの中央辺り、ローテーブルの傍にあるソファーには、数人が座っていた。
「“院長”、お客さまです」
優太がそう言うと、ソファーの中央に座っていた男が顔を上げた。
「………随分と珍しそうだな。お前の客か?」
「旅人さんだそうで。近くに宿がないので、僕から打診したんです。
『泊まっていかないか』、と」
「成程。とりあえず、座ってもらおうか」
「はい。どうぞ、向かいへ」
「は、はい。失礼します」
優太に導かれて、フードの人は“院長”と呼ばれた男の向かいのソファーに座る。
“院長”と呼ばれた男は、髭を生やした隈の濃い男だった。
肘を膝上に置き、猫背のままフードの人を見ている。
その隣に座っているのは、優太のように優しそうな雰囲気を出している男だった。
微笑んでいるからか、フードの人への警戒心はないように見える。
「泊まる場所を探しているのかい?旅人さん」
“院長”はフードの人を見つめて、そう訊ねる。
「は、はい。
昨日までは、人に会えていたので宿をとれたりしていたのですが………
今日は無理そうで、野宿をしようか迷っていたところで………」
「野宿は確かに出来そうな服装ではあるな」
「あっ、そうだフード…!」
“院長”に言われて、フードの人は慌てて、深く被っていたフードを脱いだ。
「___すみません………客側なのに、フードを取らず………」
___フードの中から現れたのは、端正な顔の男だった。
金色の髪はサラサラとしており、エメラルドグリーンの瞳は光が当たると光って見える。
「………よく野党に攫われたりしなかったな、客人」
“院長“は少し目を見開きながら、フードの人にそう言う。
「い、一応鍛えてはいるので………」
「うん、そう言う事ではないんだがな」
“院長”にそう言われて、フードの人は首を傾げる。
「まあ、伝わらないならそれでいいか。
それで、客人の名前は?」
そう聞かれると、フードの人は姿勢を正した。
「えっと………
私は、“ライゼ・グリュック”と申します。しがない旅人でございます」
「わあ、美人さんだ〜」
自己紹介をしてくれたフードの人___ライゼの顔を見て、“院長”の隣に座っている男が目を輝かせてそう言う。
「び、美人だなんてそんな………」
「美人さんですよ〜?
僕は“流亜”って言います、よろしくね〜」
「よ、よろしくお願いします………?」
「おい、俺まだ許可してないんだが?」
勝手に自己紹介を始める隣の男___流亜に、“院長”はため息を吐く。
「え〜?でも“院長”が中に普通に入れてる時点で、悪い人ではないんでしょう?
だったら別に自己紹介してもいいかなって」
流亜はニコッと“院長”に笑いかけてから、再度ライゼの方に顔を向ける。
「ライゼさん?は何日泊まるの?1週間?」
「いっ………!?い、いえっ、そんなに泊まる訳には………!!」
「えー?いいんじゃないの?そんなに急いでる旅なの?」
「そ、そう言う訳ではありませんが………」
「こーら、流亜?ライゼさんが困ってるからストップだよ」
“院長”が座っているソファーの、後ろに立っていた優太が、流亜を優しく制止する。
「あら?はしゃぎすぎました………?ごめんなさい」
「い、いえ、大丈夫ですっ」
流亜がしょんぼりと眉を下げると、ライゼは慌てて首を横に振った。
ライゼが嫌がっていないのが分かると、流亜はまた先程までの笑顔に戻った。
「………で、急いでるのか?旅人さん」
“院長”は流亜からライゼに目線を戻して、彼の目を見て訊ねる。
「急いで………急いではー………いない、ですかね………?」
「あれ?目的とかはないの?急いでないなら、次の目的地とか決まるまで泊まって行ったらー?」
「え!?そ、それは、ご迷惑では………?」
「空いてる部屋もあるし、いいんじゃないかな〜?ね?“院長”」
流亜はニコッと笑いながら、隣で話を聞いている“院長”に訊ねる。
「お前はまた勝手に………」
「怪しい人なら“院長”、ここまでのんびりしてないでしょう?」
流亜がそう訊ねると、“院長”は何も言わずに、一度だけ息を吐いた。
「(………ず、ずっと同じ態度の気がするんですが………!?)」
対面の様子を見ていたライゼは、笑顔を保ったまま、内心焦っていた。
流亜のマイペースな様子にも驚いてはいた。
そして、“院長”と呼ばれている男はずっと無表情か、眉を少し顰めて流亜を見るか、しかなかったからだ。
彼ら3人にとっては日常の事なのか、普通に会話をしている。
「………まあ、特に急いでいる訳ではないなら………
気が済むまでウチにいればいいんじゃないか?少々騒がしいがな」
「へっ?」
“院長”の提案に、ライゼは目を見開く。
「この孤児院は食料も豊富だし、調べることがあるなら小さいが書庫とかがある。
衣食住の提供はするし、対価は家事手伝いでもしてくれればいい」
「そ………そんな、好待遇を受けても良いんですか………?」
「ここ、大人が子ども達よりちょっと少ないから、人手が足りない事が多くて………。
だから動ける人が来ると、力を貸して欲しくなるんです」
優太がそう言うと、流亜はウンウンと頷き、“院長”はただ黙っている。
「どうですか?ライゼさん。
貴方がよろしければ、しばらくここで暮らしてみては?」
優太に訊かれて、ライゼは「うーん」と考える。
「(好意はとても有難いし、私にとって良い事ではあるけれど………
好条件しかないから怖くはある………!でも、急いでる訳では………)」
ライゼが悩んでいる間に、優太はその場から離れ、“院長”はそのままライゼの様子を見ている。
流亜はニコニコとしたまま、ライゼに訊ねる。
「そこまで悩まなくても、そのまま悪い事させたりしないよ?」
「え」
ライゼは心を読まれたのかと思い、流亜の方を見る。
「旅人さん的には好条件だろうねぇ、今の提案。
僕も警戒しちゃうけれど………。
でも、見た感じでは、ライゼさんはその身一つで旅してる感じでしょう?
金品を盗むにしても何もないし、どこかへ“飛ばそう”にも大変だし」
「と、飛ばす………?」
「こっちの話〜。とにかく、ここは本当に平凡な孤児院だよ?」
流亜はニコニコと笑ったまま、ライゼがどう答えるのかを待つ。
ライゼは何か事実を隠された事を感じ取ったが、向かいのソファーに座る二人から敵意を感じない為、とりあえずはそこに触れないことにした。
「えと………院長さん、が………よろしければ」
「だってぇ。どうですかー?“院長”?」
流亜はライゼから、“院長”に目線を向けて、彼に訊ねる。
「………ようこそ、“希光孤児院”へ。院長の“希光凍和”だ」
そう言って“院長”___凍和は、片手をライゼに差し出した。
「!よ、よろしくお願いしますっ………!」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
次の話まで、お待ちいただけたら幸いです。




