幕間 モルス国のとある小さな家庭の会話
とある小さなダークエルフの家の、ごくごく普通の会話。
「......ねえねえお母さん、人間ってどんな生き物なの?」
「お母さんは知ってるんでしょう?人間がいた時のこと。」
「ええ、知ってるわよ。でも人間は、お母さんが子供の時にはもうとっくに少なくなっていたわ。ただその頃はまだ、街はずれの森にいけば小さな集落があったものよ。」
「でも女王陛下が、人間をみんな殺してしまったのでしょう?」
「そうね。女王陛下が即位なさったのが、お母さんが生まれる五十年前だったかしら。女王陛下は人間を見つけたら、差し出すようにとおっしゃったの。お母さんも何度か、女王陛下に人間の集落をお教えしてご褒美をいただいたのよ。」
「何で女王陛下は人間を殺してしまったの?」
「人間は狡猾で、傲慢で、強欲で、残虐な生き物なのよ。大した魔力も持っていないくせに、自分達以外の種族をとことん傷つけたり、慰み者にしたり、おもちゃにしたり、たくさんひどいことをしたの。だから女王陛下は、人間を絶滅させようとしたのだと思うわ。」
「メリバ女王陛下以外にも、ローシュの女王とかいろんな国が人間を嫌っているよね。でも、レイナ・アヴェーグル宰相は人間でしょ?なんでメリバ女王陛下はアヴェーグル宰相を殺さないの?」
「なぜかしらね。それはお母さんにもわからないわ。でもアヴェーグル宰相がこの近辺の国では最後の人間だというから、殺すのが惜しくなったのかもしれないわね。」
「たしか他にも、東の果ての国や北の果ての国にも、人間がいるらしいって聞いたよ。」
「そうね。でも彼らもいずれ死んでしまうでしょう。女王陛下はアヴェーグル宰相を嫁がせようとはお思いにならないでしょうし。なにより、ああなってしまったからね...。」
「人間はもう、滅んでしまうんだね。」
「――でもきっと、人間の崇める神様はお喜びにならないでしょうね。きっと、”世界の終わり”が、人間がいなくなる事だと信じてやまなかったでしょうから。」




