表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/31

3

 担任の緑川陽菜子先生がオフィスデスクにテスト用紙を並べてため息をついた。並べられた九枚の内八枚は大きく赤いチェックマークが付けられていた。

「三珠さん、なんで呼び出されたかわかるよね」

 六月のある日、わたしは担任の教師に捕まって放課後早々職員室で説教をされていた。高等部に移って最初の中間テスト、ここで遅れると後々響いてくるぞ、中等部とはレベルが違うからなと、どの教師も似たようなことを口を酸っぱくして言っていた。蓋を開ければわたしは九教科中八教科で赤点を取っていたらしい。この教科数はもう学年ではもう一人しかいないとか。総合順位は下から二番目。

 そうは言っても別にわたしの頭が悪いわけじゃない。わたしは今学期始まってから朝から帰りまでの出席が記録されているのは一回しかないのだから。つまり、ただわたしは授業に出ていないだけで、つまり知識が入っていないから当然出てくるものもないわけ。

 それに。

「陽菜子先生。わたし今日体育で後方二回宙返りを決めたんです」

「あー、うん、赤尾先生から聞いてるよ」

 聞けば、初めてであれは天才だとか百年に一度の逸材だとか大興奮だったという。赤尾という名前でいつも赤い服を着ている体育大出のおじさん先生だ。もうこの二か月で三回はコーチを紹介されたので面倒な印象が強かった。

 対して、担任の陽菜子先生は二十代半ばの若い国語の教師で生徒からはひなこせんせーと呼ばれて親しまれている。丸首と七分丈がトレードマークだ。授業なんかの時は結構はきはきと喋るのだけれど、どういうわけかわたしが見るのはダウナーな姿ばかりだった。

「体育を頑張ってるのはわかるけどね……その、勉強の方もね、私もあんまりこういうこと言いたくないんだけど」

「勉強……ですか。勉強ってそんな大切ですか?」

 劣等生の常套句だ。陽菜子先生はへらっと困ったように笑った。

「とりあえずは授業に出るところからかな~」

「先生。わたし仕事があるので授業に出られない日があるんです」

 わたしはとっておきの言い訳を口にした。仕事を受けているというのは事実だった。少し前にイヴの知り合いの人から職場で広報ポスターを作るので出てくれないかとお願いされ、それから気に入られて何度か写真の仕事を頼まれていた。

「さすが三珠さんだねといいたいところだけど、それは今年まだ一回しかなかったってイヴさんから聞いているからね」

 舌打ち。びくっと陽菜子先生の肩が跳ねた。この先生は劣等生の親とは緊密に連携を取っているのだ。

「三珠さんはさ、学校とか勉強とか嫌い?」

「別に勉強が嫌いだからサボってるわけではないです」

 また先生はへらっと笑った。癖らしい。

「や、嫌いなら嫌いでいいんだよ。私も結構嫌な時期とかあったし。クラスの人と馴染めないとか」

 馴染めているわけはなかった。ここ、春風台中学高等学校は中高一貫で基本的に学年の人間はほとんど変わらないまま六年間を過ごす。その間人間関係は温存され続ける。わたしは一度クラスメイト相手に大立ち回りをしたことがあったからクラスでも浮いていたし(友達の数に反比例するように喧嘩の腕はみるみる伸びた)、初めから先生方の中でも問題児扱いだった。

「特に、ないです」

 協調性がないのもブレーキが効かない性質なのも全部わたしのせいなのだけれど、いつだってどこにいったってわたしは歓迎されていないような気がする。身の置き場がない空間は息が詰まるから、わたしは逃げ出して、一人になってしまう。根本的に人といることに向いていないんだろうと今は思っていた。その証拠にわたしは路上をうろついたってインターネットに身を置いたって人間関係というのを作れたためしがない。所詮山育ちには無理なのかもしれないと半ば諦めかけてもいた。

 それから、陽菜子先生は落第生にする必要のあるお小言をいくつかくれて、成績補填のための課題をうんざりするほど出した。一生かかっても終わらなそうな量だった。一通り話が終わって、イヴに手伝ってもらうための作戦を考えながら踵を返そうとした時、先生は躊躇うようにわたしを呼び留めた。

「三珠さん、本とかって読む?」

 わたしは虚を突かれてうんともいやともつかない返事をした。小さい頃はよく読んでいたけれど、ここしばらくはめっきり読んでいない。確か冬美さんがたまに和室に寝そべってイヴの読み古しを読んでいて、その横で後を追うように読んでいたのだっけ。

「これ、読んでみて」

 陽菜子先生は一冊の本を差し出した。なぜか清水の舞台から飛び降りるような顔をしていた。勉強をしろと言った後に本を読めというのは変な話じゃないかと思った。彼女は早口で続けた。

「こういうのうざいかもしれないけど、勉強するのに抵抗があるんだったら本とか読んだらいいんじゃないかなとか。私も半分くらい本読んでたから大学まで行ったみたいなものだし。いらなかったらいいんだけど」

 わたしはじっと差し出してきた本の表紙を見た。外国人のおじいさんの顔が映っていた。しばらくそうしていたけれど、いらなかったらいいと言いながらも彼女は引っ込めることはなかったのでわたしはそれを受け取った。本の天は真っ白だった。全部鞄にしまって職員室を出た。


「三珠――三珠ありすさん。待ってたんだ」

 わたしが職員室を出るとすぐ、一人の男子生徒に声をかけられた。制服の学ランをきっちりと着ている割に髪にパーマをかけていて鼻が高い。クラスで左後ろの方にいる女子が好きそうな男だ、と思った。

「なんの用?」

「話したいことがあって、来てくれない?」

「いや」

 わたしが彼の横を抜けようとすると、壁に手を伸ばして行く手を遮る。模造紙の壁新聞が耳障りな音を立てた。彼は真剣な表情でわたしを見つめる。こんな顔をした男はだいたい同じことしか言わないことをわたしは知っていた。そしてしつこい男がこうなると話に付き合ってやるまで終わらないのだ。しつこい男しかこんなことはしてこない。

 わたしの顔を覗き込むようにして彼は話し始めた。

「三珠さんってさ、週末なにやってるの」

「生きているわ」

「ははっ、三珠さんって意外とお茶目なんだね」

 しつこくて鬱陶しい男。

 それから彼はずっとポケットに入っていた右手を取り出して、わたしに微笑みかける。その手には細い水色の封筒が握られていた。

「五条ビルで井上クニオの写真展覧会をやってるんだ。チケットが二枚あるんだけどさ、週末行かない?」

 それがいわゆるデートの誘いだということは人付き合いに疎いわたしにもすぐにわかった。

 わたしは、自分が他の女子よりも容姿が良いという自覚がある。

 別に自慢がしたいわけでもナルシストなわけでもない。ただ生まれ持ってしまったもので、むしろわたしにはどうしようのないことだった。これについては客観的事実といっていいくらいの傍証は揃っていた。

「なんで?」

「なんでって……三珠さんと仲良くなりたいからだよ。同じクラスなんだしさ」

 初めて男の子から好きだと言われたのは小学校に入ってすぐのころだった。それから、声をかけてくる男はなにかといえば遊びに誘い、無暗に物を買ってくれるばかりで、中学になると別の学校からわざわざナンパしにくる男も現れる始末だった。

 だから、こういうのにはもう飽き飽きしているのだ。

「仮によ」

 職員室の前であることはこの時すっかり忘れていた。たぶん結構大きな声を出していた。男はたじろいだが、離れたりはしないくらいには根性があったようだ。

「仮にわたしが、あなたとそのなんとかいう展覧会に行って一緒に仲良く絵を見たとして、それで本当に仲良くなったりできると思ってるわけ?」

「そ」

 なにやら口を開いて言い返そうとしたが、わたしは止まらなかった。

「いい加減にしてほしいの。あなたたちは毎回毎回ワンパターンすぎる。最初はわたしだって意味があるのかと思って行ったこともあるわ。旭山に連れて行かれて、ご飯を奢られて、帰り際には手を握られて、『付き合ってください』よ。もういいんだってそういうの。わかってるから」

「で、」

「ロマンス目当てに誘われても迷惑」

 ぱりん、と何かが割れる音がした気がした。真剣な顔をしたり微笑みを浮かべたり、堅牢な鎧のようだった彼の表情が壊れて傷ついた顔を見せる。

「他を当たってもらえるかしら? 田淵くん」

 彼はこらえるように背を向ける。それから、精魂尽き果てた戦士が遺言を呟くようなか細い声で一言だけ。

「加瀬だよ」

 それだけ言い捨てて、彼は去っていった。その名前を聞いて、わたしはこの男がまだわたしに告白はしていなかったことを知った。

 

 わたしは最悪の気分で階段を昇っていた。

 彼は最後までわたしに怒ったり乱暴に振る舞ったりしなかった。それだけでも立派だと思う。あれだけ言われたら、そうしてしまっても仕方がないだろうに、こらえて去っていったのを見ると本当にわたしのことが好きだったのかもしれない。さすがに言い過ぎたかな、とわたしは後悔した。去っていく時の彼の傷ついた表情を思い出す。自分が間違ったことを言ったとは思ってはいないが、過去の男のことは彼には関係ないし、冷静になってみればあそこまで言ってしまったのは大量の課題に対する鬱憤をぶつけただけだッタような気もする。

 もう一度顔を合わせたら気まずいし、一度頭を冷やすべきだと思ったわたしは、旧館の屋上を目指した。

当然ながら春風台の屋上は解放されていない。分別のない中高生は高いところに立つとすぐに下をのぞき込んだり、飛び降りたりするからだ。だからわたしは中二の頃誰も使わない屋上の鍵を職員室からギってきて、合い鍵を作ってここを学校の自分専用空間にしていた。鍵はこっそり返しておいたけれど、なくなったことに気づいた先生は誰もいなかった。今日までわたしがここを使っていることに気づいたのはたった一人だけだ。

 数年前に改築してどこもかしこもガラス張りのピカピカの本館に対して古くて汚い別館はあまり生徒が寄り付かない。別館の中身同様、どこもかしこも古びていた。屋上に続く扉は半分までしか開かず、コンクリートが黒ずみ、ザラついて転んで擦りむきでもしたら妙な菌をもらって助からないだろうなと思わせる。けれど風が気持ちよくて、誰も来ないから静かで居心地がいい。それにここからだと教室の様子が良く見える。一人でここにいてもここから見下ろせばそれだけでスッとした気分になる。あいつらはここに来たくても来れないのだ。

 けれどその日は、鍵を開けようとすると手ごたえがなくて、ドアノブを回すとすんなりドアが開いた。蝶番が軋んだ音を立てて、空の眩しさに目がくらんだ。

 男が立っていた。

 制服を着た同年代くらいの男。でも春風台の制服じゃなかった。ここの制服はよくある学ランセーラー服だ。でもわたしは後ろ姿からでもその服がなにかわかった。黒い制帽。肩に入ったライン。襟や袖に着けられた特有のシンボル。ここ旭川は悪魔に対する前線基地であり、駐屯地も設置されているからわたしでも知っている。

 陸上自衛隊の制服だ。

 なぜ自衛隊がここに? わたしは胸中で呟いた。悪魔が出たならもっと大騒ぎになっている。ましてここは立入禁止の屋上だった。部外者がふらりと立ち寄る場所じゃない。進むか戻るか、わたしは少しも迷わなかった。

 ここはわたしの居場所だ。誰かにそう簡単に渡してなるものか。

「そこの男!」

 呼びかけとともに足を踏みだす。

 わたしの上履きの底が黒ずんだコンクリートの屋上に触れた時、ひゅうっと強い風が吹いた。六月には珍しい流し風。振り返りざま、男の頭に乗っていた制帽が宙を舞う。自然に目が追いかけた。帽子はフリスビーみたいに気持ちよく青い空に孤を描いた。私は背伸びするくらいに手を上げる。

 いっぱいに伸びたわたしの指先に引っかかって帽子はだらんとぶら下がった。男はわたしに顔を向けていた。琥珀色の瞳とまっすぐに目を合わせてしまう。少しだけ怯んだわたしは負けじと言った。

「ここは立入禁止よ」

 男は後ろ姿から想像していたよりもずっと若かった。たぶん同い年かちょっと上くらいだろう。自衛隊というからには想像する強面とも違う。これなら負けない、と思った。喧嘩なんてしたこともなさそうな、クラスの片隅にいるような男子に見えた。顔は整っているから、黙って座らせておけばさっきのほどではないにしろ女子人気も出そうだ。わたしはさらに畳みかけて言った。

「どうしてここにいるわけ? それ、自衛隊でしょう」

 彼は黙ってこちらを見るだけだった。

 しびれを切らしたわたしは初対面の男を睨みつける。

「なんとか言ったらどうなの」

「帽子、返せよ」

 帽子の代わりに鞄を投げつけてやろうかと思った。山のような課題と本の入った鞄。これが当たったら痛いどころでは済まないだろうと思って我慢する。

「取ってもらったお礼とかないわけ」

 男は少し考えたようだった。切れ長の目が空を泳ぐ。浮き出た首筋が鍛えられた筋肉を感じさせる。教室で見る男子たちよりもいくらか男っぽい感じがした。彼は歩いてきて筋っぽい手をわたしに差し出す。

「立入禁止は黙っておいてやるから、交換条件。どうせ鍵は盗ってきたんだろ」

 図星。

 正確には盗んできたんじゃなく借りてきたものを合い鍵にしたんだと言うまでもなく観念したわたしはしょうがなく彼の手にぼふんと帽子を置いた。満足そうに制帽を被る。それだけでずっと大人に見える。時折見かける自衛隊に混じってしまえばもうわからないだろう。わたしは腕を組んで防衛姿勢を見せつつ、質問を続けた。

「……どうしてこんなとこにいるの」

 また彼の瞳は空を泳いだ。癖なんだろう。一拍考えるのはよく言えば思慮深い、悪く言えば臆病。

「ある人から、ここがおまえの居場所だと言われたんだ。ここでもう一度やり直せと。けど、もうどこにも俺の居場所なんてないと思っていたから」

 そのくせ話し出すことははっきりしない。

「笑ってしまうよな。受け入れられない俺も、そんなことを言うあの人も」

 うるさい。知るか。

「だから、どんなものかと思って見ていたのさ」

 彼が立っていた柵の向こう、下に見えるグラウンドでは運動部たちが放課後を謳歌している。青春の象徴といえばそうかもしれない。いろんな場所で描かれる最良の時代は常にああいう物を指している。

「それもまた、俺の光になるのかと思ったんだ」

 むかつくひねくれポエム野郎。

 こいつの第一印象はそれで決まった。

 馬鹿馬鹿しくなって、わたしはもう帰ろうかと思い始めた。なにが悲しくてこんな奴の相手をしていなくちゃいけないんだろう。これじゃあ放課後の学校を練り歩いた方がいくらかマシだった。ため息を吐く。踵を返そうとして、また風が吹いた。わたしはばさばさと靡くうっとうしい髪をばちんと押さえた。

「おまえ――」

 その時、片手で帽子を頭に押し付けていた男が、思いつめたような顔で口火を切ろうとする。これも何度も見たことがある。タイミングもばっちりだ。もうさっきみたいなことはごめんだった。わたしはそれを遮った。

「先に言っておくけど」

「なんだ?」

「わたしのこと好きだとか彼氏いないのかとか言い出すのはやめてね。そういうの、うんざりだから」

 彼はぽかんと口を開けて言葉を失った。

 それから、しげしげとわたしの顔を眺めて首を捻る。

「友達とかいるのか、おまえ」

「うっさいだまれ」

 わたしは唸るように言い返す。別に作ろうとしてできなかったわけじゃないと誰も聞いていない言い訳をする。睨みつけてやると、彼はにやにや笑いを浮かべながら続けた。

「おまえ、名前は?」

 素直に答えるのも癪だったけれど、答えないと友達がいない理由を答え合わせするようで嫌だった。

「三珠ありす」

 不貞腐れた子供みたいな声が出て恥ずかしかった。またにやにや笑っているのだろうと彼の顔を見上げたら、真剣な目でわたしを見つめていた。

「そうか」

 もうこの感じがすごくむかついた。納得したみたいな相手にしないみたいな態度でなんかいい顔をしてわたしの横を通り過ぎようとしていた。いい感じに帰ろうとしているのがむかついたけれど引き止める理由はもっとなかったから黙って見送る。嘘。振り返りもしなかった。彼はひらひらと手を振りながらギシギシと軋むドアから中に戻っていった。

「またな」とか言っていたけど「もう二度と会わないわ」と言ってやるしかなかった。でもこれじゃ捨て台詞みたいだ。

 とにかくこいつはむかつくやつだったのだ。


 翌朝の教室はざわついた空気だった。

 今日中なんて無理な締切を用意された課題もあって、昨晩はイヴに手伝ってもらいながら必死にやっつけていたわたしは寝不足の頭で教室に足を踏み入れた。その時はただ、なんとなくしゃべっている人が多いと思っただけだった。それから、わたしがぐったりと机に突っ伏して朝の時間を過ごしていると、隣の席で話している内容が聞こえた。

 嫌な予感がした。

 チャイムが鳴って、先生とともに入ってきた人影を目にする。

 学ランだ、とわたしは思った。

「黒部有だ。なるべく迷惑はかけないようにする」

 教室の後ろになんとか届く低い声であいつは言った。何様なのか。転校生が来ると聞いた時点で見たくもなかったのだけれど、色めき立つ女子の声で顔を上げてしまった。クールで大人っぽくてかっこいいらしい。ホームルームは質問タイムになって、休み時間も囲まれていた。馬鹿らしくなったわたしは再び突っ伏して眠っていた。

 四限の終わり際に目を覚ましたわたしは昼休みに昨日と同じように屋上に向かった。いつもはこうやって昼食を食べるために使っている場所だ。そこに彼はいた。

「ここは生徒立入禁止よ」

 よ、とあいつは軽く手を挙げる。一体どうやって入っているんだ。

「昼休みすぐにいなくなったから探されていたわ」

「ああいうのは慣れる気がしないな」

 初めだけよ、と応えて少し離れて弁当を広げる。彼は購買で売っているパンを食べていた。しばらくすると近づいてきたから、わたしは睨みつけた。「昨日言い損ねたことを思い出した」と言って、わたしに向けて指を指す。

「マル特のポスター」

 舌打ち。



 確かに自衛隊なら貼ってあるだろう、と思った。結局こいつがなんでここにいるのかはわからないままだった。でも今はそんなことはどうでもいい。ぐいと無礼な指を外に向けさせる。指の主はわたしの顔を見てにやにやした。膝の上の弁当を顔に叩きつけてやろうかと思ったけれどイヴの料理の方が大切なので我慢する。

つまりはこれも交換条件、ということだ。

「今度はなによ」

「これからもここ、よろしくな」

 あいつは爽やかに笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ