第7章 ライバルの本性
次の日の夜。
「ようこそ、ホテル・ドゥードゥル、セレブレーションルームへ。今日は心ゆくまで楽しんでください。」
優雅な衣装に身を包んだ楓さんが深々と一礼をする。
昨日、あの会話の後、今日の詳細を聞かされた。
準備はできている。覚悟もできている。
隣の彼女の手を取る。
「行きましょうか。」
「ああ。」
にっこりと微笑んで、彼女は俺と一緒に足を踏み出した。すると、すぐに視界から消える。
繋いでいた手を離される。俺は。
俺はその手を放してしまった。
「あ、ああ、すまない。足がもつれてしまったようだ。」
「とっさに支えられずすいません。もしかしてもう酔ってます?」
「来る前に少し部屋で飲んだんだ。あんたが迎えに来る前。」
よく見ると顔が少し赤い。いったいどれだけ飲んだんだろう。これ以上飲ませない方がいいなと思いつつ、用意された席に腰かけた。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「あの、「ハネムーンを2つ。」
彼女が僕の言葉を遮って、オーダーをした。
聞いたことがないお酒だ。心配になって彼女に声を掛けようとすると彼女は笑った。
「ノンアルコールだから大丈夫だよ。付き合ってくれよな。」
「いいですけど。」
会話が途切れる。うまく彼女の顔を見られない。
数日前、怒鳴ってしまったことを思い出した。
やきもちと、罪悪感と、好きな気持ちがごっちゃになって上手く伝えきれない。
言葉に出せないもどかしさと闘っていると、落とした視線の先に影が映った。
「やっぱり僕とこのホテルを経営しよう。時ちゃん。」
彼女の手を取り、優しく微笑む楓さんがそこにいた。
彼はこっちを見ると、見たことがない醜悪な笑みを浮かべて見せた。
「だっさいなあ、お前。ここでなんか言おうものならと思ったけど、そんな根性もなさそうだから僕がやっぱり時ちゃんをもらうよ。」
「は、話が違う!そ、それに、センセは俺のものだ!」
「ほら、こんな時もセンセ呼ばわり。彼女の名前すら呼べないのかい?」
「そ、それは!」
手のひらを返したように嬉しそうに彼女を腕の中に抱きしめて、そのままキスを・・・。
そこは、俺の居場所だ。
椅子から勢いよく立ち上がり、彼につかみかかろうとしたところで、彼女が動く。
「勝手に話すなよ!大体あんたも・・・きゃっ!」
その体が、地面のほうへ倒れこむように動いていく。彼女が腕の中から離れた楓さんと、彼女を取り戻すため動いた俺。2つの手が、彼女のほうへ伸びる。
その手は。