第6章 正面対決
ホテルに戻り、彼女が早々に寝たのを確認し、俺はフロントへと向かった。
「あの、支配人の・・・。」
「お呼びですか、伊吹さん。」
「・・・!」
呼び出そうとしたが、向こうからやってきた。フロント前で一礼する。不格好に俺もお辞儀を返しながら、彼をまっすぐ見た。
着こなした制服、きりっとした表情、筋の通った姿勢。
元同業だからこそわかる。
彼は、一流の支配人だ。
だが、彼女を渡していい相手ではない。
「こんなところで立ち話もなんです。最上階のバーにご案内いたしますよ。」
沈黙のエレベーターを経て、俺はバーに案内された。
「カクテル、お好きなものあります?」
「じゃあ、カリフォルニア・レモネードを。」
「いいですね、同じものを。」
かしこまりました、というバーテンダーの声を聞いてから、彼はゆっくりとこちらを向いた。
見てくれも悪くないなあ。と思いながら、何か?と尋ねる。
「時ちゃんとはどこで出会ったんですか?」
「俺の勤め先であった茶会で。俺、ホテルマンだったんです。」
「同業だったんですね。僕は、時ちゃんが小さいころから知ってます。親同士に縁があってね。それからずっと一緒だった。でも、茶道の師範になって都会に出て行ってしまって、すごく寂しかった。久々に会えたと思ったら旦那さん連れ。僕はものすごくショックだった。」
カクテルを呷り、窺うような目でこちらを覗く。そしてそのまま言葉をつづけた。
「でもね、伊吹さん。あなたに時ちゃんは任せられない。」
「は?」
勝ち誇ったように彼は笑う。俺はその顔をキッと睨んでいた。
「ってね、言うつもりだったんですよ。」
「・・・は?」
グラスに視線を移し、彼は静かにそのグラスを傾ける。中身を飲み切ると、俺のほうを見て優しく微笑んだ。
「時ちゃんが帰ってきたら僕はこの思いを伝えよう。そう思っていたんです。でも、時ちゃんにね、言われてしまった。・・・なんて言ったかは本人に聞いてください。僕が言えるのはここまでです。」
「楓さん・・・。」
「時ちゃんは間違いなくあなたを愛していますよ。数日前の喧嘩、きっとまだ仲直りできていないんでしょう?明日の夜、ホテル・ドゥードゥルで特別な席をご用意させていただきます。どうかその時に素敵な仲直りを。」
「楓さん、あなたは・・・。」
言いかけた俺の口に手を当て、彼は首を左右に振った。その仕草から、彼の恋路がどうなったかは想像に難くない。彼は新しく中身が注がれたグラスを掲げて言った。
「同じ女性に恋した男たちに祝福を!」