第4章 不機嫌ボーイ
それからその日は足湯巡りをしたり、ロープウェイで紅葉狩りをしたりそれはそれは楽しい時間を過ごした。
夕飯後の発言を聞くまでは。
「はぁ!?」
思わぬ言葉に思わず大きな声が出る。ホテルの客室で良かった。ある程度防音されているだろう。俺は彼女のことを掴みながら今言われた言葉を繰り返した。
「楓くんに誘われたから飲みに行く!?なんでですか!?」
「いや、文字通りだけど。滅多に来れる場所じゃないし。」
「仮にも新婚旅行中ですよ!?他の男のところに行くなんて。」
「1時間位別行動するだけじゃない。何をそんなに騒いでるの?」
「男といるってのが問題なんですよ!」
「・・・うるさいな。」
「・・・は?」
羽織を引っ掛けながら彼女が言う。己の耳を疑った。今、彼女はなんと?
「いつもいつも過保護なんだよ。あんたは。たまには放っておいてくれ。」
冷たい一言。
俺の怒りは、俺自身の想定を越えた。
「じゃあ、勝手にしろ!」
「・・・で、時子さんは楓さんのところに行き、頭を冷やしたおバカ伊吹くんは俺達のところへ来たと。」
「うぅ、うえぇ、どぎごさんのばがぁぁぁぁ!」
「ドアのノックからして怪しいとは思ったが出来上がってんなあ。」
「おで、おれが、どんだけ好きだと思ってえええ!」
「隣まで聞こえたぞ。伊吹ー。・・・だめだこれ。」
「時子さんはどうしたんじゃ?」
ズビズビ泣き喚く俺に、4人が顔を見合わせる。
先生が俺のポケットをあさりスマホを取り出す。
「どうせ盗聴しとるんじゃろ?聞けば時子さんがなんで行ったか分かるんじゃないのか?」
「こいつ、いつの間に犯罪者に。」
「やだもうぅ、ラブラブな話聞こえたらむりぃぃぃ。」
ベッドの方にスマホを放り投げながら、絨毯の上で咽び泣く。
「伊吹、しっかりしろ。せっかく嫁さんもらったのにラブコメの一つや二つなくてどうする。」
「ラブも怪しいときに何言ってんですか。」
元同僚の一人がうーんと首を傾げる。すると、ベッドの上に放り投げたスマホを取った。
「まずはさ、様子を見たらどうだ?明日以降も親密にしているようなら浮気かもしれないし、もしかしたら他の意図があるのかもしれない。それが分かってからでもおかしくないんじゃないか?」