設定、走り書き
『説明』
習作。需要を満たす作品が無いため自給自足。故に描写不足有り。納得するまで編集しますが、それでも読みたい方はどうぞ。あらすじ:ある日自分がゲームの登場人物だと気がついたメイドのリリー。自分の「目的と命運」を握るのはマリアお嬢様と、その敵役のクゥ様。バッドエンドを避けるために彼女は東奔西走の日々を送る。
リリー……黒ウサギ。最初は大人しく優しい性格だったが、前世の記憶を思い出したあとは"騎士"の様にマリアを守るために冷徹な仮面を付け始めた。しかしマリアの前では時々素に戻ってしまう。原作のゲームではマリアのよき理解者でありボディーガード。だが実際は肩書とは程遠くアリアとの会話はごくわずか、肝心の危機も攻略対象の活躍のために事が終わった後に駆けつける無能に近い役だった。さらにハッピーエンドでは攻略対象との会話ばかりでもはや空気。バッドエンドもイベント前にすでに処刑されているとテキストで書かれる程度の空気っぷりだった。総括すると、無くても物語に影響がない端役だった。
本物語では幼少の頃、とある事件で左腕を失うがそれを補うように鍛錬をするようになる。隻腕のため戦い方が独自にアレンジされる。背中に太刀を帯刀し、主に蹴り主体の戦い方を学ぶ。
マリア……金色のイヌ。垂れ耳で子犬のような従順な性格。その分け隔てなく振り撒く優しさによって多数の男を虜にする罪な女性。原作ゲームではその純真無垢と、たぐいまれな才能で攻略対象を魅了し逆ハーレム状態を作る。当の本人はその状況に我関せずにいるが周りの同性には快く思われておらず、次第にクゥ主導でいじめられることになる。それを阻止するべくリリーは行動を起こすが、それが彼女を同性愛へと変化させたため、攻略対象へは一切興味がなくなる。
クゥ……白色ネコミミ。親のために自分を殺し(その事情を客観的に描写する)、淑女として振る舞う気難しい女性。その性格は家庭の環境によって作られた。彼女は親の政略結婚(爵位が違うにも関わらず偶然攻略対象がクゥに惚れたことでこれ幸いに話を進めた)で婚約を結んでいるが、本人はそこまでの情は無く親のために自分を殺して生きている。原作ゲームでは攻略対象がヒロインに魅入られていくことを知り、婚約が解消されてしまう恐れを抱いた彼女はあの手この手でヒロインを妨害しようとする。
リリーの行動により彼女は次第にリリーに惹かれるようになる。それは親のために殺してきた自身の内なる思いをリリーに引き出されたから。抑えが効かなくなった彼女は次第にリリーをあの手この手で独占しようとするが、それがある悲劇に繋がる。
ニィーダ……攻略対象の一人。作中ではもっぱら"彼"呼ばわりで本名で呼ばれるのはごくわずか。"雷音の天童"と呼ばれ、生まれてからあらゆる才能を開花し文武両道の天才。だが性格は自己中心的で縦社会を好むため歯向かう者は悉く叩き伏せている。
この物語の特徴……神様によって転生された主人公は、そのゲームでヒロインとライバルが両方生存するルートを開拓するために奔走する。ゲームはその運命力をもってヒロインかライバルを死なせようと修正を図る。主人公は何とか裏をかきながらゲームの終盤の大イベントを回避しようとする。
・士官学校
近くの士官学校の実技訓練を覗いて見稽古をするリリー
それをみた教官が戯れで野試合を持ちかける
結局は圧倒的差でリリーは負けてしまうが、教官は筋が良いと評価しヒロインの父から承諾を受け裏口入学する事に
正規の生徒ほどの授業は受けられないが、実技のみ参加する事ができた
士官学校で学園でも親しい知り合いができる
ゲーム側が用意したヒロインライバルの敵対イベント
・入学式、ヒロインとライバルが出会い頭に険悪ムードを作る
↳それを主人公がヒロインを更生させドジを踏まないようにして回避
↳その気配りを見たライバルがリリーに関心を持つ
・ヒロインの小さなミスによってギスギスになる
→リリーがライバルと時々接触し、ヒロインの事を予め認識してもらうことで多少のミスを見過ごしてもらう
→その気配りや、彼女自身の優しさを知ったライバルが徐々に好感度が上がっていく
・舞踏会の時にヒロインが普段見せない魅力に魅入られた攻略対象、それに焦り憤りを見せるライバル
↳男装したリリーがヒロインと躍ることで攻略対象の接触を断つ
↳男装したリリーにわずかながら頬を染めるライバル。同性に心動かされる自身に戸惑いを覚える
→この一件で執拗にマリアを守るリリーに不信感を覚える父
・暴漢撃退イベント、攻略対象二人が活躍しヒロインに関心持つ。それを知ったライバルが焦る
↳※本来は無名の暴漢が出てくるが、攻略対象がリリーを排除するために依頼した経緯に変わった
↳なぜかライバルを居合わせた状態で暴漢を撃退。攻略対象とは関係なくヒロインは助かる
↳気になっていたリリーを追っていたところを暴漢と遭遇。撃退後にリリーへの好意が更に上がっていく
◎異常事態。ライバルがリリーに対し恋心を覚える。それを攻略対象が知り、逆にこちらがライバルキャラへ変貌する。
↳他の攻略対象と結託し、リリーの排除を画策する
↳リリーが二人を誑かしたと両家の親に密告
◎異常事態。ライバルがリリーとの密会を求めそれに応じる
↳ヒロインがそれを快く思わなかった
↳リリーはヒロインは純真だと思い込み彼女の嫉妬に気が付かなかった
◎異常事態。リリーとの密会を知った攻略対象は来たるべき時(成人式典でリリーの好意を白日にさらす)に向けて行動を移す
↳ヒロインの気持ちに気が付かないリリーはこのままうまくいけば目標達成できると思っていた
◎異常事態。ヒロインの印象をよくしようと頻繁にライバルのところへ密会しにいく
↳ライバルはリリーと会えることに喜ぶ
→しかしヒロインの依存性が想定より強く、ある日リリーに感情をぶちまける
◎異常事態。喧嘩別れに近い状態でその日も密会に行く
↳ライバルにヒロインとのいざこざを吐露し相談する
↳ライバルはヒロインもまたリリーに恋をしていると知り、次に会うときは同席してほしいと頼む
↳そこに攻略対象が乗り込んで、リリーがライバルをたぶらかしたと罪状を突き付けられ捕縛される
↳ここに来て最大の危機に迫ったリリー。どこで間違えたのかと必死に考える
↳突然の拘束にライバルが驚愕し、弁明するが、興味が薄れていた攻略対象は見向きもせず取り合わなかった
↳後日ヒロインもリリーの投獄を知る
◎異常事態。牢獄で自問自答するリリー。攻略対象の婚約者を誑かした罪で処刑されることに
↳ヒロインは直ぐ様ライバルのところへ赴き事情を求める
↳切羽詰まるヒロインに対しライバルは落ち着きを払いながら事情を説明する
↳その態度にさらに怒りをぶつけるヒロイン
↳そこへライバルはヒロインの頬を叩き冷静さを取り戻させた
↳ライバルは体を震わしながら心情を吐露し、ヒロインと同じ気持ちだと伝えた
↳ライバルがリリーを誑かしたと思っていたヒロインは彼女に謝罪する
↳ライバルも後日ヒロインと話をするつもりだったと説明した
↳ここでわだかまりがなくなり二人はリリーを救うべく結託する
◎異常事態。ヒロインとライバルが奮闘する。
↳同級生の生徒たちがリリーを救うために申し出る。今までの恩を返すために
↳リリーの投獄を聞き付けた騎士団が協力しに来る
◆原作ゲームのシナリオと本編の差異
・幼少期に家庭の圧迫感から館から抜け出し街で攻略対象と出会うイベント
↓
リリーとマリアの親密度を上げて館から抜け出すイベントを回避
・学生時、暴漢に襲われるところを攻略対象に助けてもらうイベント
↓
幼少期にマリアの父の伝手で紹介してもらった騎士育成所に数年鍛えることで回避
"彼"を拘束する男に近くで拾った鉄パイプを投げつけ拘束を解く
↓
動揺したところをすかさずお嬢様を抱える男に近くの住民に渡されたコショウ入りの小瓶を投げつけ、怯んで話したお嬢様を救出
※住民の行動理由…ごろつきはここの住民ではない。だが不用意にかかわりたくない。さっさと出て行ったもらうために助力した。成功しようがしまいがごろつきがここから立ち去るだろうと踏んで。
↓
"彼"を拘束から解いた理由はあの正義感で多少ごろつきとやり合うかもしれないから。
しかし"彼"はまっすぐこちらに向かってくるのでリリーはお嬢様を引っ張りながら逃走。
↓
そして荷物が積まれている細い路地を通り抜け、追っ手を撒こうとした。
逃げた先へ先回りするには相当な時間がかかると知っていたから。
↓
ごろつきはためらいもなく同じ道を通ってくる。
↓
そこで"彼"が軽率に端材を崩し通せんぼを作ろうとした。
↓
通せんぼを作ることに成功し、三人はその場でへたり込む。
↓
しかし不安定な端材はさらに崩れ、三人の頭上へ落ちてくる。
↓
リリーはとっさにお嬢様を庇う。
一方"彼"は無傷で崩落から逃げ出していた。
↓
下敷きになったリリーは気を失う。
↓
眼が覚めた時には眼前にお嬢様の顔が、その周りにはさっきまで視線だけ送っていた住民の姿が。
↓
お嬢様に「てめーの親父に一つ借りを返したぜと伝えな」と言うと彼らは去っていった。
メモ…家出イベント。本来は一人で街に行き、迷っているところを攻略対象が発見。街を案内し、夕方にメイドたちによって回収される展開。だが、今回はその攻略対象に会わせないようにリリーが追跡する。すでに合流してしまった攻略対象とマリアは、リリーから逃れようと街の中を走り回る。追いかけっこの末裏路地に迷い込み、攻略対象とマリアはごろつきと出くわす。邪な思惑を馳せるごろつきに攻略対象が果敢にも挑むが結果は返り討ちに。そこへリリーが合流、ごろつきは今度はリリーを相手にする。ごろつきの意識が薄れたところを攻略対象は近くに積まれてた端材を崩し、ごろつきを押し止めする。結果的にごろつきからマリアとリリーを分断することができたが、端材はいまだ不安定だったためさらに崩れ逃げ切れなかったマリアを襲う。リリーはとっさにマリアを押し出し、代わりに落ちてきた端材によって左腕が圧潰する(原因を作った攻略対象は無傷)。その後大きな音を聞きつけた周りの住民によってリリーは救助され(救助された理由はマリアの父がこの街に以前から介入していたおかげ。リリーに手を出さなかったのは彼らが一方的に彼女を知っていたから。そして一つ借りを返すという名目でリリーを救助した)、捜索していた先輩たちに見つけられる。目を覚ました時は自室のベッドの上、旦那様や先輩方に見守られながら目を覚ます。そこで左腕を失ったことを知る。後日父親に説教される二人。リリーは自身の甘さで責任を負い、マリアは自身の軽率な行動で責任を負おうと父親に進言する。それを見た父親はため息を一つ、1週間の懲罰で不問とした。この騒動をきっかけにマリアはリリーにほのかな感情を抱き、リリーは自分の不甲斐なさを嘆き、次回の士官学校編入につながる。ここで出会っていたごろつきが、後の暴漢事件に繋がる。
次回メモ…片腕を代償にイベントを回避したリリーだが、まだ序章に過ぎないと気を引き締め、自身の力をつけるために休みの日を使い、"私"の記憶頼りに攻略対象が通う士官学校へ赴く。当然入学する資格がないので実習風景を隠れながら見稽古することに。そこへ攻略対象その1の婚約者であるミリアが登場。政略結婚の一環で攻略対象の様子を時々見に来ている。リリーはもちろんそのことを知っているが、今はまだマリアとのイベントが無いのと自身の鍛錬に集中しているせいもあってかあまり彼らの事を気に掛けていなかった。だが、ある日偶然散歩していたミリアは鍛錬していたリリーと鉢合わせしてしまう。リリーは事情を説明し、邪魔はしないから秘密にしてほしいと頼む。しかしミリアは自分の立場を優先し、部外者として士官学校の先生に通報する。連行されたリリーを見た先生は片腕の件に触れ、事情を知ったのち彼女の見稽古の成果を見せてもらった後、特別に実習のみ参加させることを許可した。ただし金は必要で、数日後旦那様に事情を話すことに。事情を知った旦那様は最初はごろつきの件を考え断ろうとしたが、なぜか先生がリリーの肩を持ち、彼女の熱意と才能に免じて通わせてほしいと頼まれ、爵位の立場上渋々承諾することになった。マリアはその時リリーの鍛錬を知り、以後家で自主鍛錬をしている彼女を傍から見守るようになる。
検討メモ
攻略対象が鬼からヒロインを助けるイベントがあるが、実は攻略対象のマッチポンプだった。これは主人公の記憶にもない製作者側だけしか知らないお蔵入り設定だったのを"物語"が強引にこじつけたもの。
◆大まかな話の流れ
序幕『幕が上がる、その前に』・転生、幼少期
第2幕『再オーディション』・士官学校編入試験
第3幕『楽屋裏の猛特訓』・鍛錬、遭遇、ライバルの事情
第4幕『開幕』・学園入学式
第5幕『演者にアドリブを』・学園生活
第6幕『すり替えられた主演』・舞踏会
第7幕『舞台の裏側』・暴漢事件
第8幕『台本に無いト書き』・帰省、恋心の芽生え
第9幕『狂言回し不在につき』・密会とすれ違い
終幕『閉幕』・暗殺、投獄、二人の衝突
第11幕『彼女の幕は、下させない』・集結する仲間、奪還、没落
第12幕『端役の私が成し遂げたこと』・その後のお話
◆『入場前の館内放送』◆
皆様、"前世"という言葉をご存じでしょうか?
簡単に申しますと、今あなたが生きている人生の前の人生のことを指します。輪廻転生の概念を前提とした必然の理ですね。
ここでは詳しく語ることはありません。ですが、もしあなたに"前世"の記憶がありましたら、
どうなさいますか?
◆『幕が上がる、その前に』◆
失礼。自己紹介が遅れました。
私の名前はリリーと申します。とある家のメイドを勤めてさせております。
家名はありません。なぜなら私は孤児だったので。
私はとある貧困層の家庭に生まれました。生まれを選ぶことができない私は両親の家計難により、早々に小さな教会に預けられることになりました。いわゆる捨て子です。
当然親は引き取りに来ることもなく、私は両親の顔を覚えないまま教会で育てられました。
それから数年。私の性根がよかったのか、はたまた状況の適応力が高かったのかは分かりませんが、結果的にまっすぐな性格に育ちました。
そして、私は今の屋敷の主であるフィン男爵家に引き取られることになりました。今思えば親と暮らすよりもよほど幸せな生活を送れているだろうなあ、と思っています。
私がフィン男爵家に引き取られた理由ですか?
まあ端的に言えば、娘の遊び相手です。同年代の友達がほしいとせがまれた旦那様が教会に足を運び、私を選んだそうです。
その教会――私の元の家――ですが、近々取り壊す予定だったそうです。なにせ、教会の運営者であり育ての親であるお婆様はかなりのお年寄りで、もう引退してもおかしくない状態だったので。取り壊しを知ったのはつい最近ですが。
「リリーのことを、よろしくお願いします」
別れ際に告げたお婆様は深々と旦那様へ頭を下げました。その光景を私はなぜか鮮明に忘れずにいました。
そう言えば、気になる方がいるかと思います。普通ならば孤児など与えず他の爵位持ちの家と交流すればいいのでは?と。
確かにそちらの方が利点が多いです。
ですが、残念ながら旦那様の爵位は男爵。金さえ払えば誰でもなれる低爵位なので、そうそう格上との関係を築くなんてできません。無茶な話です。
まあ、今はもう脱却したとかどうとか。
さて、そろそろ本編へ参りましょうか。
今からお聞きいただくのは、私と"私"による『私』の為の劇。
どうぞ、御拝聴ください。
◆『客席で起きた異変』◆
『ふぅ、これでコンプかぁ。長いようで、終わるとあっけなかったなぁ――』
『アンケート……一応送っとこうかな。次回作の励みになるだろうし――』
『キャラクター……良し。ルート……は少なかったけど濃いから良し。ストーリー……あー、うーん。良かったんだけど、あれは――』
『……これでよし。今時ハガキでアンケート送るのって一周回って趣あるわね――』
『おかーさーん! ちょっとポストまで行ってくるー!――』
『え、なにあの車。こっちに――』
◆『演劇の闖入者』◆
「――――ッ」
とある日和。日差しが幾ばくか強く差し込む午後の昼間。
お茶の準備をしていた私は、突然の出来事に体が強張ってしまいました。
「………………。」
「リリー……?」
――今のは一体……。
「リリー? ねえリリー!」
「は、はい! お嬢様! なんでしょうか?」
外部からの呼び掛けに、私は直ぐ様現実に戻されました。眼をしだたかせ、瞬時に呼び掛けていただいたお嬢様の方へ向き直ります。
「むぅ」
この少しほほを膨らましたお嬢様の名前はアリア・フィンと申します。フィン家唯一のご息女で、私のご主人様です。
髪は赤色が強い茶髪で、私のカラスのような黒い髪よりずっときらびやかで美しく、瞳も燃えるような深紅の色を持っており、見るもの全てに印象を抱かせる、そんな美貌があります。
「『なんでしょうか?』じゃないよ。突然固まってどうしたの? 具合でも悪いの?」
アリアお嬢様が私の様子を見て心配そうに声をかけました。
確かに、テキパキと動いていた私が急に制止すれば誰でも気になります。
「い、いえ。何でもありません。アリアお嬢様……」
私は取り繕うに返事をして、直ぐ様お茶の準備を再開しました。
適温に暖められた紅茶をティーカップに注ぎながら、しかし私は未だ集中できず、先程の光景を反芻していました。
――私ではない誰かの……光景。いえ、この場合、記憶というべきでしょうか。
自分が知らない光景を記憶で知るという初めての体験に、私はまた作業を滞らせてしまいました。
そしてやはり、その浮わついた行為をお嬢様は不審がり、声をかけてきました。
「顔色が悪いよリリー。昨日の仕事が大変だったの?」
「い、いえ! 決してそのようなことではありません。私にとって、マリアお嬢様に仕えるとこは至上の喜びと自負しております!」
お嬢様の誤解を解くために早口で答えました。
因みにこの言葉には嘘偽りはありません。あのまま教会で過ごす未来を考えれば、今の生活は雲泥の差があります。
メイドとしての教育に多少の気苦労はありましたが、旦那様や奥さまの厚い待遇に、お嬢様の優しい振る舞い、同僚との円滑な関係等々。それらを加味しても今の境遇に不満など一切ありません。
その真摯が伝わったのでしょうか。お嬢様は怪訝な表情を緩め、不思議そうに私を見つめました。
「そう? でも疲れたらちゃんと休まないと。……そうだ! お茶を淹れたらリリーもそこに座って私とお茶しましょ?」
「そ、そんな畏れ多いことを……」
「むー」
私の遠慮に頬を膨らませるお嬢様。その表情は、失礼ながら可愛らしく、さながら子犬の威嚇のような雰囲気にしか見えませんでした。
「じゃあ命令よ。そこに座って、私の話し相手になって!」
「……ご命令ならば」
肯定しない私にしびれを切らしたお嬢様は反対側の席に指を指して私に命じられました。
こう言われてしまったらどうしようもありません。私はテーブルに二人分の紅茶を用意し、「失礼します」と断りをいれて、席につきました。
「それで、さっきのリリーについて聞きたいんだけど。なにかあったの?」
先程というのは間違いなく私の不審な行動でしょう。一瞬、誤魔化そうかと逡巡しましたが、お嬢様のご気分を阻害するわけにもいかないので、素直に吐露することにしました。
「……お嬢様、"前世"と言う言葉をご存じですか?」
「ぜんせ……? 始めて聞く言葉だね。どういう意味なの?」
想定通りの返しに改めて無知な人にどう説明すればいいか、考えを巡らせながら答えました。
「説明が難しい言葉なので……。噛み砕いて言えば、私ではない誰か別の人の記憶を持っている、とでも言えば良いでしょうか……」
「別の……? うーん。確かに難しいね。私たちは私たちそれぞれの記憶しかないんじゃないの?」
――実際その通りだと思います。私も"私"からの受け売りなので、はっきりとは言えないですが。
「それで。その"ぜんせ"と、さっきのリリーとどう関係があるの?」
「はい。実は……」
私のおおよそ、夢物語のような話をしました。身ぶり手振りを使いながら話す私をアリアお嬢様は最後まで聞いていただきました。
十分くらいでしょうか。聞き終えたアリアお嬢様は、思案して一言言われました。
「やっぱり疲れてるよリリー。それは俗に言う白昼夢ってやつじゃない?」
「白昼夢。そう……でしょうか」
心配そうな顔で私を見つめるアリアお嬢様に気圧されて言葉を反芻していました。
「うん、絶対そうよ。今日のところはゆっくり休も? 私の世話は他の者に任せるから」
アリアお嬢様はそう言うと、手元にある小さなベルを鳴らし、メイドを呼び出しました。
「何かご用命がありますでしょうか?」
「リリーが疲れで白昼夢を見たそうよ。休ませたいから今日の残りはあなたが代役してくれる?」
メイドは「かしこまりました」といい。直ぐ様引き継ぎを行いました。
「……ご配慮感謝いたします。では失礼します」
私は席を立ち、アリアお嬢様に深々とお辞儀をしてその場から離れました。
「ゆっくり休んで、明日からまた元気な顔を見せて」
「はい」
去り際にアリアお嬢様からの言葉をいただいてすこしだけ振り返りました。
私を見送るお嬢様のお顔はにこやかで、またいつもの毎日が送れるだろうと確信しているようです。
◆『私と"私"』◆
自室に向かうまで、私は先程の"白昼夢"について考えていました。
――本当にあれは夢だったのでしょうか……?
確かに、今の風景からはあまりにも逸脱した情景です。服装も家具も、みな見たこともない代物で、全てが異質でした。
――ですが……。
私はそれを"違和感"とは思えませんでした。いえ、むしろ"普通の光景"だと思っていました。
――この気持ちが本当ならば、やはりあの時に……。
記憶の奔流。と呼べばいいでしょうか。その異質な光景と共に、私ではない別の"私"が、私の記憶にドッと流れ混んできたようです。
――そして、その記憶の中で気になるものがありましたね。
未だ残る、滓かですが鮮明なその白昼夢。その中に、ひとつだけ私の知っている物がありました。
それは絵画のようで、でもあまりにも鮮明な描写。
私とって、それは"日常"そのもの。
でも"私"にとってそれは、
――その創作物の登場人物であるということ。
「……これは本格的に休んだようがいいですね」
真実に気づいた私は足取りが重くなり、フラフラとなんとか自室に向かいました。
その後、ベッドで横になっていた私は睡魔に襲われ、ゆっくりと"私"が私と混ざり合う不思議な感覚を翌日の朝まで味うこととなりました。
◆『鏡の前でお色直し』◆
翌朝。
「なるほど、あの時車にぶつかって死んだ"私"が、なぜか私と合体したと……」
――端から聞けば世迷い言のようにも聞こえますね。
いつもより早く目が覚めた私は着替えを終え、余った時間を"私"が利用し鏡の前でいろいろなポーズをとりながら考えていました。
自分の体なのに、さも始めて見るかのような感覚。
――始めてみる"私"の体。でも私はすでに知っています。
目覚めたときには昨日の違和感はなくなり、変わりに"私"の人格が同居していました。この言葉の表現は私ではなく、"私"からの受け売りです。
「果たして神様のイタズラか、使命か……」
"私"は今この状況の理由を求め思案しています。
なぜ私なのか。全く関係ない、しかも創作物のいち端役であるメイドに"私"が流れ込んだのか。
「……ん〜、わからないですね」
パンパン!
両手で軽く頬を叩き、気を取り直しました。
悩んだところで双方に記憶がなければ答えは導き出せません。大人しく今日の業務にいそしむことにしましょう。
◆『開幕前に届けられたファンレター』◆
その日の夜。
「あ……」
今日の仕事が滞りなく終わり、寝室でゆっくりしていた時です。ふと、"私"が何かを思い出したようです。
――なるほど、あれですか。
"私"からの記憶の参照に、私は理解することができました。
一枚のハガキ。そこに記入した項目の中から、"私"はひとつの文を指しました。
――「主人公と悪役令嬢が和解するルートが欲しかったです」……か。
"私"がプレイし、概ね好評だった中で唯一の不満点。
ヒロインがヒーローを勝ち取り悪役令嬢が獄中死するハッピーエンド。
悪役令嬢がヒーローを死守しヒロインが暗殺されるバッドエンド。
あらゆるルートの終わりを向かえても、二人の溝は最後まで埋まることがなかったそうです。
――ヒロインとはアリアお嬢様のこと、でしょうね。
"私"の記憶に写るヒロインが今のアリアお嬢様の未来の姿と思うくらいに面影がありますから。
美しい顔立ちはそのままに、髪が今より伸びてよりきらびやかな赤黒いウェーブになっていました。
――そして彼女がアリアお嬢様の恋敵……ですか。
"私"が見せた"彼女"の姿。アリアお嬢様に引けをとらない美貌で、さながら夜の空を表すような深い紺の髪。目は細く、まぶたの先にある瞳は星のように輝く琥珀色をしており、アリアお嬢様と対峙する二人はまさに太陽と月の様でした。
記憶の参照を終えた私は、まだ見ぬアリアお嬢様の成長した姿と恋敵の彼女に見惚れてしまっていました。
それをよそに"私"はある答えを見出だしました。
――もしかしたら、神様は"私"に「それを実現させてみろ」と仰られているのかもしれませんね。
一体誰からか。と言われても答えることはできません。ですが、こう言われると私も納得してしまいました。
――主人公様、ではなく、端役に来た理由も『それを端から見るため』。
「ならば」と、"私"は意思を固めました。
――それを為し得てみましょう。
私はもう"私"。二人の記憶があっても意思は一つ。"私"の願いは私の願いでもあります。
「まだ『幕』は上がっていませんね。それまでに……」
――私が"私"の望みを叶えるために。
誰かのためではなく『私』のため。明日から行動することにしましょう。
この一夜より、私の人生は大きく動き出しました。
◆『共演者にアドリブを』◆
その日から数ヵ月後。
「え……休暇を増やす?」
「はい、正確にはお嬢様に相応しい侍女になるための研鑽する時間、ですね」
「で、でも。私はリリーと一緒にいたい……よ?」
"私"からの提案に、アリア様の顔が少しだけ強ばっていました。
――いい感じに私への依存が上がっていますね。
この数ヵ月に"私"が施した行為は、順調に実りつつあるようです。
だからこそ、このタイミングで少し距離を置きます。与えられる日常から、焦がれる日常へ。
「なにもずっと会えないわけではありません。毎日が、数日おきになるだけです」
「あの、えと、お父様お母様は……」
既に外堀は埋めております。予想通りの質問に、用意した答えを返します。
「既に了承を得ています。娘の為なら、と快く受けてもらいました。それにお嬢様ももうすぐ学園に入学するお年頃。それ相応の教師による基礎教育が必要だと、旦那様が仰られておりました」
「あう。そう、だよね」
その顔には年頃らしい憂いを含めた顔があり、若干の動揺が生まれました。しかし、"私"が成すべき目的のためには致し方無い、と割りきるしかありません。
翌日、私はフィン家を離れ、とあるところへ赴きました。
――できればもっと時間がほしかったのですが、わがままは言っていられませんね。与えられただけでも感謝しないと。
そう心で呟いた私は、『マクラウダ』の名が刻まれた門を潜り、建物に足を踏み入れました。
◆『台本をすり替えて』◆
###ここにミリア様との邂逅、および暗躍するシーン###
◆『そして幕が上がる』◆
それから数年。アリアお嬢様も世間を学ぶ学舎へ赴くお歳になりました。
その間には様々な事がありましたが割愛させていただきます。
"私"の記憶が確かならば、今日から登校するこの学園で、『彼女』と出会うことになります。
「ではお嬢様。私はここでお別れさせていただきます」
「え、ええ。わかったわ」
「お嬢様。緊張するのはわかりますが、ちゃんと周りを見ていてください」
「わ、わかっているわ」
「ちゃんと周りを見ていれば、余計なやっかみには会いません。慎重に、特に足元に注意してください」
「わ、わかった。じゃあ行ってくる」
緊張しすぎで最後の方で口調が戻っていましたが、まあ大丈夫でしょう。これで"彼"に認知されることはありません。
さて、私も移動しましょうか。
「ごきげんよう。私の名前はミリア・ノーティス。ノーティス家の御息女ですわ。皆様、お見知りおきを」
一学年全てが集まった講堂で彼女の声がハッキリと響き渡る。
"私"は既に知っていますが、私にとっては初めての御対面です。
――なるほど、確かに綺麗な方ですね。
同性の私ですら惚れてしまいそうな凛とした佇まい。しかしその口から発せられる声には確かな意志を感じ、思わず身構えたくなります。
「この学園での身分による差別はありません。ですが生徒である以前に、貴族としての立ち振舞いをお忘れないよう、お願い致しますわ。それと――」
――あの方が将来アリア様と対立するのですか……。
対立する理由はいたって単純。婚約者のニィーダ様との恋愛争いです。アリア様の魅力にニィーダ様が移ろい、それに憤慨した彼女がアリア様に噛みつく。それだけです。
――ですがそれは敵対すればのこと。しなければ、彼女は完璧な淑女ですね。
"私"からの記憶に頷き納得していると、挨拶を終え、壇上から降りる彼女こと、ミリア・ノーティス様。教師陣からの拍手を皮切りに生徒たちも手を叩きじめ、さながらコンサート後の喝采の様でした。
「流石ノーティス家の御令嬢ですわね」
「ええ。あの淑女然とした佇まいに威厳あるお顔。素晴らしい方ですわ」
「私たちも見習わないといけませんわね」
その拍手の騒音に混じり、各々身近な者との会話をする生徒がいました。私はお付きのメイドとして講堂の壁で待機しているので、マリア様が何をしているのかはわかりません。ですが、その後ろ姿はとても回りと同じ温度ではないのを感じとることができました。
◆『端役が主役を囃し立てる』◆
ノーティス伯爵家。この国で有数な貴族の一人であり、国王の息子、皇太子のニィーダ・マクラウダの婚約関係を持つ家です。
貴族の中の貴族としてミリア・ノーティスも、その名に恥じぬ風格があります。
入学式から一年。何事もなく過ぎ、二年目の春を迎えました。
ミリア様の人気は衰えることはなく、今や学園の中心人物の一人として、君臨していました。普通ならば綻びの一つや二つ、その人の弱味などが見え隠れすると思っていますが、ミリア様はいついかなるときでもでもその態度は崩れず、彼女の周りにはいつも人だかりが出来ていました。
そして私のお嬢様も例外……でした。
「気に入りませんわね」
「……何がでしょうか?」
遠巻きで見るマリア様。その溢れた言葉に幾つもの思案を巡らし、素直に聞き返しました。まさか"マリア"様からそんな言葉が出るとは思わなかったからです。
「ミリア様の態度よ。あんな窮屈な生活でよくも毎日過ごせるものね。私ならすぐに根をあげてしまいそうだわ」
その言葉に異を唱えようと思いましたがただの皮肉でしょう。求めている答えは、
「……それが、ノーティス家の姿だからでしょう」
アリア様は顔を動かさず視線だけ動かし私を見ました。その眼差しは
「ほんと、貴族というのは贅沢で不自由な暮らしよね」
「地位とは、得るだけではなく、維持してこその意味ですから。維持する努力は得てして華々しくありません」
ミリア様を見つめて数秒。マリア様は私の方に向くと、
「リリー。もし、私たちがミリア様の心の癒しになれるとしたら。どうすればいいのかしら?」
とても抽象的な質問でした。
「心の癒し、ですか」
「そう。ミリア様は多分」
「ものすごく、失礼な事を申し上げすが……」
「続けて」
「……マリア様が、皇太子様の婚約者になればよろしいかと思います」
「……随分な事を言うわね、貴女」
「申し訳ありません。失言で――」
「別に咎めるつもりはないわ、むしろ逆」
アリア様の表情が少し晴れる。
「そうね。確かに私がミリア様に変わって婚約者になれば、その重責から解放される……」
「申し上げた手前、このようなことを言うのもなんですが。お嬢様がその重責を肩代わりして……よろしいのですか?」
「なにかしら、私が重圧に負けて根をあげると思っているとでも?」
「いえ、お嬢様ならばミリア様と同じような振る舞いが可能だと思っております」
「はい。私にお任せください」
「」
◆『端役は時として裏方を担う』◆
前世の記憶を頼りに私は行動に移す。
今いる場所はほとんどの人が知らない廃屋の一室。
そこで二人の男と話しています。
「……これは、随分と危ないことをしますね、お嬢」
私が渡した計画書を見た男が顔をしかめた。となりの男も紙の中身を盗み見て「うげ」と小さくうめいた。
「危ないのは承知の上よ。でもこれが最適解なの」
「でもようお嬢」
「流石に無実な彼らを罰するのは気が退けますよ」
「これを見ても同じことが言えるかしら?」
あらかじめ用意してあった書類を彼らに渡す。
「「?」」
「証拠、と言えばいいかしら」
渡された書類を一つ一つ流し読みをしているのが目の動きでわかる。
「……これは」
「スゲェ、悪行のオンパレードじゃねぇですか。これが全部?」
「ええ。全て事実よ。でもこれはほんの一握り。まだまだあるわ」
「どうしてこんなに……貴族って皆こういう人ばかりなんですか?」
「いえ。彼らだけよ。それはあまりに力を持ちすぎたために甘い蜜を独占し、害虫を駆除するようになった。その結果がこれであり、他の貴族は到底なし得ない悪行よ」
「「……。」」
「だからこそ、唯一罪人に"なっていない"彼女だけは救いたい」
「お嬢の覚悟はわかりました。僭越ながら僕たちもお手伝いします」
「ああ、お嬢きっての願いだからな。俺もやるぜ」
「ありがとう。じゃあさっきの計画書に話を戻すわ。まず――」
◆『客席からどよめきが聞こえる』◆
長年の計らいでアリア様の"フラグ"を回避することができた今、計画は滞りなく進んだ。
結果として、アリア様が発端の"恋の戦争"は一度も起こりませんでした。
そして私は次の作戦に移ります。
――アリア様と、ミリア様の関係構築です。
私の"教育"により、アリアお嬢様は見事に性癖を歪ませることに成功しました。
あとはミリア様を"こちら"の世界に連れ込むだけです。
「ミリア様、お一人でしょうか?」
ひとり席についてお茶を飲んでいた彼女にアリアお嬢様が声をかける。私の"教育"の成果が今試されるときです。
「ええ、そうですわ。何か御用でして?」
「はい。もしよろしければミリア様のお茶会に参加してもよろしいでしょうか?」
アリア様の少しトゲのある言い回しに、ミリア様の顔が一瞬だけ歪んだのを確認しました。ですが流石完璧なお嬢様。その綻びはほとんどの方に気づかれないでしょう。
この行為にはちゃんとした意味があります。
まず、ただの擦り寄りではないということ。そしてミリア様にこちらの関心を持たすことです。
こうすることで、
「……ええ、よくってよ。ちょうど話し相手がほしかったわ」
相手にアリア様を探らせる意思を持たせます。こうすることで私たちは彼女の記憶に多少残るでしょう。
「それではご一緒させていただきますわ。リリー」
「はい。少々お待ち下さい」
席に座ったアリア様は私に給仕の仕事を指示しました。私は流れるように返事をし、席から離れました。
もちろん今回の邂逅で終わるつもりはありません。これはあくまでファーストコンタクトです。
(頑張ってください。アリアお嬢様)
メイドである私ではなし得ない、"貴族"のアリア様だからこそできるこの策略。果たして……。
◆『筋書きは手元の通りに』◆
「最近、ミリア様の周りが静かでとても快適そうで羨ましいですわ」
「……そうですわね。今まで私をしたってくれた方々ど疎遠になってしまいましたの。とても残念ですわね」
「でしたら、私が立候補してもよろしいでしょうか?」
「貴方が?」
「ええ。爵位は男爵ですが、それでも貴族の端くれ。貴女の品位を貶めるような真似はしないと誓いますわ」
「……。単刀直入に申しますわ。貴女、何が狙いでして?」
「愚問ですわ。私は貴女の心の癒しになりたい。ただそれだけですわ」
「何を言うかと思えば、私の心の癒し? さっきの誓いはどこにいったのかしら? その言葉が私の品位に傷つけたのを理解してないとでも?」
「まさか。私は今、貴方がひとりでお過ごしになられている姿に心痛めているのです。ならば、」
◆『彼女から脚本を取り上げる』◆
「ふう、貴女のおかげで多少、心に安らぎが増えましたわ。ありがとうアリア」
「私もミリア様の笑顔が増えて嬉しく思っていますわ。ふふ」
結果として、あれから半年でミリア様は私たちに心を開くようになりました。少し強引な部分もありましたが荒療治も思えばさほど気にはならないでしょう。
◆『アドリブをすれば、劇は狂う』◆
婚約を破棄されたミリア様の両親は、その禍根であるフィン家に復讐を画策する。
覚えのない罪状をつき出され、両親は投獄。そして程無く処刑される。
アリアお嬢様は私の手筈により匿うことに成功。
両親を殺されたアリアお嬢様は絶望になりながらも唯一の親友リリーにすがり、逃亡生活が始まる。
多少の誤差(復習に来るタイミング)があったが、この展開もまたリリーの計画のひとつだった。
◆『挫け、壇上から墜ちる』◆
次はミリア様の両親。その一族の滅亡を図る。
男二人を使い盗賊を煽動させ、領地へ移動中の旅団を襲わせる。
しかしここで予想外のことが起こる。
ミリア様の両親は命惜しさに盗賊に金を積ませ、娘をその場で売り飛ばした。
遠目から様子を見ていた私は直ぐ様行動を起こし、ミリア様の両親を暗殺。続いて持ち帰っていく盗賊を単騎で襲撃しミリア様を救出する。
◆『端役は主役より目立ってはいけない、が』◆
「……どうして私を助けますの? 私は、皆様を……」
「ですが貴女は"なにもしていません"。貴女はまだ"汚れていません"」
「……それでも、私に流れる血は確かに汚れています」
「それは、なんと言いましょうか……貴女のことが好きだからです」
「ふぇ!? なななな、何をいきなり!?」
「確かに私は貴女に数々の嫌がらせをしていました。しかし」
胸の前で握っていた彼女の両手を優しく包み込んだ。
「あ……」
「それは貴女のためでした。貴女の心のガス抜きを、私とマリア様で行っていたのです」
「わ、私の……ガス抜き?」
「はい。貴女の貴族然とした立ち振舞いには尊敬の念を抱いています。だからこそ逸脱した日常を、貴女に与えたい。がんじがらめに縛られた日常に、少しのスパイスを」
「そんなことのために、あなたは……」
「ええ。嘘ではないことは、貴女も承知でしょう」
包み込んだ手に少し力を加え、彼女の目を真っ直ぐ見た。その瞳は多少の揺らぎを見せるが、私の言葉を理解しているでしょう。
「本当に感謝しています。だから貴女が好きなのです。好きだから、貴女を助けたいと思うのです」
「あ……う……」
「そのような理由では駄目でしょうか……?」
彼女が顔を伏せた。数拍を置いて、小さな声で、
「……ズルいですわ、貴女。本当に、ズルい」
「ふふ。お褒めの言葉として受け止めてさせていただきますね」
◆『舞台袖は語られない』◆
協力してくれた男二人を祝いと称した称した茶菓子を差し入れ毒殺する。
◆『幕を下ろす、その前に』◆
ラスト
騒動後、爵位を奪われ勘当された二人のお嬢様に「お嬢様、ここは私にお任せください」と言う。
連れていった場所はとある協会。そう、私が生まれ育った場所。ここで孤児を育てるシスターになりましょうと二人に提案する。
もしここで断られても他の道は用意してあったが、二人は私に嬉しそうな顔で頷いた。
「だって貴女がそう言うのですもの。任せますわ」
「私も同意見ですわ。貴女が育てた子供たちはさぞ幸せでしょうね」
◆『"私"の罪と、私の罰』◆
もし、神がいるのなら、私は必罰の存在でしょう。
ならば、私はそれを心より受け入れます。彼女たちの幸せを享受できた身としては、如何様な結末であろうと構いません。
ヒロインのアリア様。悪役令嬢のミリア様。
"本来なら"二人はいがみ合い、やがてどちらかがこの世を去る運命を、私が"変えた"のですから。
私は附せていた顔を上げ、きびすを返し、来た道を戻ります。
行く先は、もちろん彼女たちがいる教会です。
「さて、その罰が下されるまで、今の幸せを噛み締めましょうか」
これから訪れる幸せに期待する私の足取りは、とても軽やかでした。
リリー…今作の主人公。元はアリアの親友ポジのメイドだったが"前世"の記憶を思い出したあとはいろいろ暗躍するようになる。
アリア…ヒロイン。乙女ゲーの主人公でもあるがリリーの策略により、ことごとく攻略メンバーのフラグを回避させられただのお嬢様のままに。ミリアには同情と尊敬の念を持っている。リリーによって同性愛に調教され、ミリアの気を引かすためにツンデレキャラを習得される。
ミリア…ヒロイン②。乙女ゲーではニィーダ(攻略対象)の婚約者である悪役令嬢。本来アリアとニィーダの関係を危惧して悪落ちするはずが、リリーの画策によりフラグ回避され完璧お嬢様のままになった。
男二人…三年の鍛練中で出会った傭兵ギルドの仲間。リリーの活躍に惚れ、手足のように彼女の任務を手伝う。が、後々の事を考えたリリーは彼らを毒入りの差し入れで殺害する。
ニィーダ…会話でしか出てこない婚約者。皇太子の地位を利用し悪行を繰り返す腐ったミカン。乙女ゲーでは腹黒キャラだったがアリアとのフラグがなかったため性格の悪さに拍車がかかった。
フィン家…土地の豊かさにより勝ち取った男爵家。しかし貴族を良しとしない領民と金で買った爵位に不服な上流貴族の板挟みによりストレスを溜め込んでいる。娘のアリアをどうにか上流貴族の息子に嫁がせ地位を手に入れようと学園に入学させたが、"前世"の記憶を持つリリーによってその計画は破綻する。
ノーティス家…マクラウダ家と裏の繋がりがある上流貴族。地位と金を両家で独占するためにあらゆる陰謀を企て実行してきた。しかしその秘密を"知っていた"リリーによって公にさらされることになる。
教会…フィン男爵領にある小さな孤児院。シスターは既に老婆で跡継ぎもなく近いうちに取り壊す予定だった。




