エミール様の買収方法と驚愕の入学式
……ちょっと待って、ちょっと待って、ちょっと待って!?
今日一番の、キラーワードじゃないですか??
私は俯いていた顔を、さらに下に下げて、めちゃ顔真っ赤で思わず目をぎゅっと瞑ってしまった。
考えろ、考えるんだ、この状況をどう切り抜ける? まず心を落ち着けなきゃ!
私はとりあえず、心の中で深呼吸して、次なる手を考えた。
あ、そうだ。そもそもエミール様は、入学式でのアドリアーナ先生とエミール様の様子を伝えるために来られたんだったんだ。
しかも、一年生を買収するとか何とか?
そうだ、そのことについて訊いてみることにしよう!
「え、エミール様は、確か情報収集するのに、ば、買収とか、買収が得意のようなことを仰ってましたね!?」
わ、私いったい何言ってんだ? ちょっとテンパりすぎ! 私の心、落ち着いて!
って私は心の中で悲鳴を上げていると、エミール様は、いと穏やかに、
「……あの、一年生を買収するとは言いましたが、買収が得意とは、言ってなかったと思うのですが……まあ、得意か不得意かと言われれば、得意ですが……」
と、少々困惑気味に仰った。
で、私は未だにテンパってるので、
「私、ちょっとその買収方法に、興味を持ちました!」
と、思わず大声で宣言してしまった。
エミール様は少々驚かれ、目をぱちぱちされている。
うう、めちゃ恥ずかしいよう。
そもそも話題を変えつつ、顔真っ赤なのから逃れたかっただけなのに、『買収に興味あります!』宣言じゃあ、さらに顔が真っ赤になってしまうじゃない?
私はもう、無駄な抵抗は諦めようと思い、またしょんぼりと、肩を落とした。
すると、その様子をご覧になったエミール様は、またクックックとお笑いになった。
「ソフィー様が、買収に興味がおありとは、さすがに私も存じ上げませんでした。ちなみに、私を買収するのは、非常に簡単ですよ? 私を側近にして下さるのなら、命に代えてでも、何でもやり遂げて見せましょう」
って仰るんで、思わずエミール様の顔を見たら、めっちゃ優しい顔で微笑んでらっしゃる……もうまた恥ずかしくなって、俯いちゃうよね、ホント。
で、エミール様は、今がさらなる”押しポイント”と思われたのか、
「ソフィー様、私を買収する方法、よく覚えておいて下さいね?」
って仰って、エミール様は私の顔を、覗き込むようにじっとご覧になった。
だから、そんなに見ないでってば! めちゃ恥ずかしいんですから!
でも、エミール様には私の心の声は聞こえないので、さらに私をじっとご覧になってる。
あんまりにも恥ずかしいので、とりあえず私は、
「あの、エミール様を買収する方法ではなくて、エミール様が施した買収方法が、その、気になります」
と、それだけ頑張って、言った。
するとエミール様は、少し落胆されたご様子で仰った。
「それはそれは、少々興醒めですね。いえ、大した事などしてないのですよ。聞いてもつまらない話ですよ?」
「いえ、私には、それくらいが丁度良いのです。『命に代えてでも』とか、ちょっと仰々しくて……」
「なるほど、『命に代えて』ではなく、『人生を賭けて』のほうが、お好みだったのでしょうか……」
「いえ、そういう話ではなく、単にシンプルなほうがいいんです。リアルな買収話を聞くのは、今回が初めてですので」
って、『シンプルがいい』とかなんか自分でも言ってて意味わかんないけど、とりあえず、”私の側近”系の話からは話題を逸らさないとと思ったので、めちゃ頑張った。
「……そうですか、では非常につまらない話ですが、お伝えいたしますね」
エミール様はそう躊躇い気味に仰って、数々の買収方法を、私に教えて下さった。
まず、エミール様は、いつ何時人を買収するかも知れないと思い、全校生徒の家族構成含む簡単なプロフィールは頭に入っているそうだ。
……つまらない話というよりか、私にとってはとても恐ろしい話が始まったように思えた。
で、生徒たちは基本、貴重な魔石を欲しがるので、神体山でしか取れない魔石や、領地セプテントでしか取れない魔石などで、まずは交渉するという。
で、それでもなびかない生徒たちには、魔法陣を付与した魔石にグレードが上がるらしい。
「どうしてもその人間の情報が欲しいと思ったときに限りますが、その情報源である人間の悩みが解決するような魔石と交渉するのです」
「例えば、どんな魔石ですか?」
「例えばですね、ファイフの授業で緊張し過ぎて実力を発揮できない者には、人間が全員石ころに見える視界誤認の魔法陣が刻まれた魔石と交渉するとか、視界誤認と言えば、聖具を持たれたアドリアーナ先生は非常に有名で、新入生ですら噂を聞いて、戦々恐々としていますので、そのアドリアーナ先生対策を施した魔法陣が刻まれた魔石と交渉するとか……」
「どんな効果があるのでしょう?」
「その魔石を持つとですね、人が全員黒いシルエットに見えるようになるのです。顔の表情は分からなくなってしまいますが、全身黒い以外は人間そのものですので、戦いもできますし、何よりアドリアーナ先生の……その、目のやり場に困るようなことは、なくなるというわけです」
おお、それは実に素晴らしい魔石じゃないですか!?
もちろん、それを欲しない男子生徒もいるだろうけど、目のやり場に困って戦いに集中できないという話は、ルーク兄様からも伺っている。
ぜひ、ルーク兄様にも差し上げたい魔石だな、うん。
「ただ、時間設定が二時間くらいですので、効果が切れれば、元通りとなります」
「どうして二時間だけなのですか?」
「そちらのほうが、何度でも買収できるでしょう?」
と、エミール様はニヤリと笑い、闇属性の強さを発揮するような口ぶりで、仰った。
えっと、私だって、めちゃ闇よりだけど、私はそういうタイプじゃないな。私はどっちかっていうと、卑屈系だ。
光系でもルーク兄様とルシフェルが違うように、色々あるんだなって思った。
あと、エミール様の口ぶりが、昔アニメで見た『越後屋、お主も悪よのう』が、ちょっと頭に過った。
「そういう時間設定を魔法陣に組み込むのは、難しくないんですか?」
「大したことありませんよ。魔法陣を作成するのには基本数学なんで、ついでに組み込めます」
と、めちゃ事も無げに仰った。
エミール様は、凄すぎるな。私には想像もできない世界だ。だってそんなの、大したことないはずがないよね。
そしてエミール様は、話をさらに続けられる。
「あとはですね、授業中の居眠り対策をしたいという生徒には、目を開けて寝られるようにする魔法陣付きの魔石とか……もちろん、時間限定です。あとは、朝起きるのが苦手な生徒には、目覚まし機能を付けた魔法陣を魔石に組み込んで、それを天蓋に付けると起きたい時間に『ラババントゥール』が発動、上から豪快に水が降り注ぎ、ベッドが綺麗になるだけでなく、自身もこざっぱりし、目覚めもスッキリ、すぐに朝の身支度が整えられる優れものです。当然、一回しか使えません」
と、これまた事も無げに仰った。
何それ、その『ラババントゥール』のやつ、私がめっちゃ欲しいわ。
基本ドミが起こしに来てくれるから、目覚ましはいらないんだけど、朝から自然とこざっぱりできるのは、いいよね。
で、その便利魔石も一度しか使えないっていうところが、”ミソ”よ。
その『ラババントゥール』魔石だって、アドリアーナ先生対策シルエット魔石だって、使い始めたら麻薬のように使いたがる人が、いるんじゃないかな?
ホントマジで、『お主も悪よのう』だ。
「ね、ソフィー様、つまらない話だったでしょう?」
えっと、何がつまらないんですかね? 私、めちゃ恐ろしい話だと思って聞きましたけどね?
ホントはちょっと、『ラババントゥールの魔石欲しい』って思っちゃったけど、でもそれを言うと、『私を側近に』とか言い出すに決まってるんで、ぐっと堪えた。
「エミール様、私、つまらない話どころか、とても興味深く拝聴しました。あとエミール様って、正直、天才ですよね?」
「おや、このような、ほとんど子供騙しの魔法陣作成で評価を得られましたか? これしきのことで天才とは程遠いですが、ソフィー様に少しでも私の能力の一端をご理解頂けたのでしたら、お話してよかったなと思います」
と、めちゃ爽やかに美しく微笑まれた。
正直、これがまだ”能力の一端”だっていうから、ホント恐ろしいよね。
魔法陣作成もそうだけど、それに加えてその”使い方”もよ。
あとはいったい何ができるんですかって感じだ。なんか、訊いてはいけないような、気がするな、うん。
それで、入学式のお話だよ。エミール様はそれを私に伝えに来られたのに、私が妙なこと言って話を逸らしちゃったから、なかなか本題に入れなかったな。
『つまらない話なので』としぶっていたエミール様に答えさせたのは、全て私の責任なので、すぐさま自らエミール様にその質問することにした。
「それで、それほどの努力の甲斐あって、入学式でのアドリアーナ先生とエイデン先生のご様子は、分かったのですよね?」
「ソフィー様、大した努力ではありません」
「ま、まあ、大した事ないかも知れませんが、情報をゲットされたんですよね?」
私がそう尋ねると、エミール様は「はい」と答えられ、入学式でのアドリアーナ先生とエイデン先生が、どのようにはっちゃけられたのかという本題にようやく入った。
エイデン先生は自分の挨拶の番が来ると、おもむろに聖槍を手に出し、何故か上に高く突き上げ、
「私はエイデン! 武術を教えている! ほとばしる汗! きらめく太陽! 君たちは無限の可能性を秘めている! 共に夕日に向かって走ろうではないか!!」
と、去年同様の挨拶をされたらしい。
で、相変わらずめちゃ意味不明な挨拶なので、新入生の皆さんは、口をぽかんと開けていたそう。
でも、それがエイデン先生には、ちょっとお気に召さなかったようだ。
「何だ、その間の抜けた顔は! 私のこの聖槍が、目に入らないのか!? 見るだけで心躍るだろう! さあ、私と一緒に拳を高く、空へ、突き上げろ! そして、未来へ羽ばたくんだ!!」
相変わらず仰ってる意味が、全く分からないな。
人の顔を”間抜け顔”と言ってディスりながら、聖槍を水戸黄門の紋所扱い、だいたい聖槍どころか普通の槍だって、目には入らないと思うよ?
一度エイデン先生が、お手本見せてあげればいいのに。
それに、高く空に拳を突き上げて、どっかに羽ばたくとか、新入生は全員、『総ウルトラマン化』を目指していらっしゃるんだろうか?
去年よりも相当ハードルが上がっているように思う。
で、エイデン先生のその仰りように、生徒たちはさらにドン引きし、唖然としていると、アドリアーナ先生が余計なお世話……いや、エイデン先生に助け船を出されたそうだ。
「エイデン先生、どことなくお顔が、険しくいらっしゃるようですわ」
「アドリアーナ先生、この新入生たちをご覧ください、去年、あのような事件があったばかりだというのに、ほとばしるヤル気も、みなぎる闘志も、全く見られません。非常に私、憂いております」
「……あたくし、よく分からないのですけれど、ようは、踊るように宙へ高く舞い上がり、いろいろほとばしっていれば、よろしいんですの?」
「……ちょっと良く分からないが……まあ、それでも宜しいでしょう」
「あたくしとエイデン先生は同じ聖具所持者ですもの。協力には惜しみませんわ」
とアドリアーナ先生は仰って、ご自慢の宝帯をバッとおもむろに広げられた。
そして、アドリアーナ先生好みの……いや、エイデン先生のせっかくのお話を、身を入れて真剣に聞いてないと個人的に解釈された男子生徒たちを、十名ほどピックアップし、宝帯で縛って宙へ放り投げ、その男子生徒たちで、『お手玉』を始められたのだ!
「エイデン先生、ご覧あそばして? 生徒たちが宝帯により、確かに『踊るように宙へ高く舞い上がり、いろいろほとばしって』おりますでしょ? おほほほほ」
と、悠々と自信たっぷりに仰った。
ちなみに、ほとばしっているのは、驚きと恐怖と恥ずかしさのあまり号泣して出た涙が、いろいろほとばしっているらしい。
その様子を見て、特に恐怖を覚えた他の男子生徒たちは、おもむろに立ち上がり、右手を高く上げ、『未来へ羽ばたく決意』を次々と、力強く表明されたという。
その様子を見たエイデン先生、突如として上機嫌になり、アドリアーナ先生にすぐさま賛辞を述べられた。
「アドリアーナ先生、これは流石ですな! お見事です!」
「まあ、これくらいは容易いこと……男は、女の手のひらの上で、転がされてなんぼですもの。まあ、あたくしの手中には宝帯がございますので、スケールがひと味もふた味も違いますけれどね。おほほほほほ」
と仰って、高笑いしながら、アドリアーナ先生もさらに上機嫌になり、さらに男子を宝帯で引っ張り上げては『お手玉』し、とっかえひっかえしてとても楽しまれたそうだ。
……正直それ、手のひらの上で転がすレベル、超えてますから。
いくらスケールがひと味違うといったって、どこの世界に『人間空中お手玉』で、男性を転がす女性がいるだろう?
なんのメリットがあんのかも、さっぱり分かんないし。
アドリアーナ先生に今後転がされる男性は、めちゃ大変だなって思った。
で、上機嫌のエイデン先生が、
「生徒諸君! やればできるのではないか! 何事も、出し惜しみをしてはいけない! いつ何時も全力を尽くすのだ! 君たちは若い! そしてフレッシュ! 未来ひらけた若人よ! 皆に幸あれ!!」
と仰って、自己紹介を終えられたという。
いったい、なんの自己紹介なんだっていう話だ。
そして、拳を高く振り上げた男子はもちろん、アドリアーナ先生の宝帯から解放された男子たちなんかは特に、周りの生徒たちと抱き合って、心からの安堵で号泣し、ようやく訪れた”幸”を仲間と共に分かち合ったという。
「というのが、入学式の詳細でございます」
と、エミール様は淡々と仰った。




