ハンナ様のクラス分けテスト再受験計画
「ハンナ様は、クラス分けテスト再受験には、興味ございませんか?」
「え、再受験ですか? ですがわたくし、魔力量が……」
「実は私もハンナ様と同じように闇属性が強いタイプなんですが、ボールドウィン侯爵家の養女になったおかげで、光の属性が著しく伸びたんですよ。それで、養女に来て一年半以上経ちましたが、おかげで光属性の魔法、今は最上級まで使えるようになりました」
「え? 最上級まで!?」
ハンナ様のくりくりお目々が、驚いてさらにくりくりになる。
本当は、ウリエル効果もあるのかも知れないけど、今はまあ、黙っとこう。
「ですので例えばですが、私、基本しばらくはルシフェルと一緒にいますので、明日から授業が始まり王立学院校舎内でランチを取るとき、ご一緒にどうですか? 私の義弟はとにかくユニークで、一緒にいてたら笑いが絶えることがないんです……どうでしょう?」
「ルシフェル様のことは存じ上げております。楽しいお方ですよね。ソフィー様も一緒ならさらに楽しくて、確かに光系の気持ちが増しそうです」
ハンナ様はとっても可愛らしく微笑んで、快諾して下さった。
本当は、ルシフェルだけじゃなくルーク兄様もいるのが一番ベストなんだけどね。楽しいだけじゃなく、いっぱい優しく励まして下さるから。私もどれだけ励まされて、前向きな気持ちになれて、心救われたか分からない。
……でも、ルーク兄様まで巻き込んじゃうと、それこそルーク兄様ファンの女子たちに睨まれそうで、それだと兄様にも、ハンナ様にも、そして兄様ファンの女子たちにも、余計に不快な思いをさせてしまうだろう。
生きていて、人生の中で、不快な思いをしないことなんて絶対にないけど、だからこそあえて自ら作り出す必要は、全くないと私は思っている。この身に降りかかる災難を振り払うだけで、ホント充分だ。
なので本当に余計なことはする必要ないな、うん。
私たちと楽しく過ごすだけでも、結構光属性が増えることに引きずられて魔力量、増えると思うし。
……でも、それだけじゃやっぱり、遅々としすぎているような気もする。
「あとはですね、私、その、去年の例の事件で、結構人間的に成長したというか、勉強になったことがあって、その出来事が私の魔力量を、さらに増やす結果になったと思います」
克服系なんで、闇属性UPによる魔力量増加だけど、とにかくなんでも魔力量が上がる方法は、試したほうがいいと思う。
ハンナ様は、やっぱりこの話題はまだ少し抵抗があるようで、一瞬ドキっとされたようだったけど、すぐに私の目を見つめ直された。
「私は凄く弱くて、そういう自分を見て見ぬフリしてたんですけれど、それで結局あのような事件を引き起こす一端を担うことになってしまって……それで、家族の皆に諭されたんです。要約すると、自分の弱い部分を見つめること。見つめられるのは強い人。見て見ぬふりやごまかす人は弱い人。そしてその弱さを克服すれば、人間的にも成長できるし、困難を克服するんで魔力量もさらに増える、みたいな感じです」
私は、人間的にまだまだのクセして、こんなこと偉そうぶって言っていいのかとすごく迷いつつも、でも、ハンナ様の魔力増量をめちゃ期待しちゃって、ちょっとでも魔力増幅の足しにならないかと思って、躊躇いながらも言ってみた。
するとハンナ様は、真剣な表情で頷いておられる。
「非常に興味深いお話をありがとうございます。わたくしもどうしても、人間だからでしょうね、”逃げ”てしまうことが多くて……ですが、それを一度、やめることを意識しつつ過ごしていこうと思います」
「ですが、自分を追い込み過ぎてもダメなような気がします。私は家族に助けられて、乗り越えることができました。ハンナ様は、どうですか?」
「そうですね、心に無理が生じたときは、わたくしも家族の力を借りたいと思います」
「ハンナ様を育てたご両親ですから、芸術の心溢れる、素晴らしい方に違いありません」
「それは光の一族である、ボールドウィン侯爵家も、同じですね?」
私たちは、思わず微笑みあってしまった。ハンナ様とお話をしていたら幸せな時間が流れるな。今私は現在進行形で光の気持ちが高まっていることだろう。
そしてハンナ様も、私と同じであればいいなと思った。
……でもそれでも、それだけじゃまだやっぱり足りないと思う。
だって、ハンナ様だもん。ハンナ様が私みたいに自己中っていうか、自己解釈甚だしすぎるタイプだったら、それを直すだけで充分効果があったかも知れないけど、ハンナ様は見るからにお育ちが良い感じがする。もちろん人間完璧じゃないから、時には少し”逃げ”の気持ちや”負“の気持ちも持っておられるとは思うけれど、その”ちょっぴり”を直すだけで、大幅に魔力アップとは、ならない気がするんだよね……
じゃあ、どうしようか。
ルシフェルにランチのときに一緒にいてもらうのは一応そのつもりで伝えようと思うし、じゃあ、ルーク兄様以外に、一緒にいるだけで光の属性が増すような人材、この王立学院にいたっけ……
パッと思いつくのはまあ、エイデン先生だ。
あの前向き思考は、ホント恐ろしいレベルだと思う。
でもあれは、特にハンナ様にとっては、刺激が強すぎないだろうか?
ハンナ様はどちらかというと内気で大人しいタイプ、引っ込み思案でいらっしゃり、エイデン先生みたいなタイプは、真逆のタイプに違いない。
それに、王立学院の先生に、”魔力増幅のご協力お願いします”みたいなそんな個人的なこと、できない気もするし……
またハンナ様はそもそも、武術を専攻していらっしゃらないので、エイデン先生と接点もないだろう。
じゃあ、どうしようか……
「エイデン先生の光の魔力は、見ようによってはとても魅力的なんだけど……」
って、私が思わずぼそっと呟くと、なんとハンナ様、
「そういえばエイデン先生の、去年年度末のあの自作曲は、あれは本当に素晴らしかったですね」
と、目をキラキラさせて、仰った。
へ? あの歌、素晴らしかったんですか!?
私はというと、とにかく歌詞が超意味不明で、聞いてるだけでも恥ずかしいと思い、まともに聞いてなかったんだけど……
そう言えば少し、力強いメロディーと共に、讃美歌風の神々しさもあり、メロディーだけに関しては、ちょっと良かったのかも知れない……
「ハンナ様、それは、メロディーだけのお話ですよね?」
「すいません、歌詞の内容は、あんまり良く聞いておりませんでした」
なるほど、歌詞の内容は頭に入って来なかったのか。これは不幸中の幸いだな。他の生徒の皆さんも、歌詞の内容は全く頭に入って来なかったと、勝手に解釈しておこう。
「じゃあハンナ様、エイデン先生の面白……いえ、名曲に、ファイフで伴奏されたらどうですか?」
「へ? 何を仰ってるんですか!?」
「いえ、エイデン先生、とても気持ちよく歌ってらしたので、それにハンナ様のプロフェッショナルな伴奏がつくと、さらに喜ばれるに違いないと思ったんです。ただ、エイデン先生の許可を取ったわけではありませんし、実現できるかは分からないのですが……」
私はハンナ様の顔色を伺うように見てみる。ハンナ様は少し、考え事をされているようだ。
そして、ひと呼吸ついてから、仰った。
「……そうですね、それで魔力増幅が計れるのなら……わたくしもファイフは一番得意で、演奏するのも大好きなので、ぜひ挑戦してみたいです」
と、力強く決意を表明された。
「では、私も武術を専攻していなくてエイデン先生との接点がありませんので、ルシフェル経由でお伺いしてみますね。きっとルシフェルもノリノリでエイデン先生を説得し、自分も参加すると思いますよ。もちろん私も参加します。結果が分かり次第、お伝えしますね」
私がハンナ様に笑顔でそう言うと、ハンナ様は笑顔で頷かれた。
……正直、ハンナ様やルシフェルは普通に光属性が伸びるんだろうけど、私にとっては名曲&面白可笑しく光属性が伸びるのか、もしくは逆に、歌詞が超意味不明で恥ずかし過ぎて闇属性が伸びるのか、一種の賭けみたいなところがある……
まあ、だけど、どっちにしろ魔力が伸びるならいいかと思って、早速ルシフェルに相談してみようと思った。あともちろん、ハンナ様と一緒に取るランチの話もね。




