ルシフェルとエミール様の初対面は……
すると、助手の先生が、さらにエミール様に質問された。
「他領地から見て、王都はどのような印象なのでしょう?」
するとエミール様は、とても朗らかなご様子でお答えになる。
「以前は魔力枯渇で、七ツ山がある王都を管理している王族への忠誠心が揺らぐ人々が増え、私の領地でもそのような気運が高まっている時期もありましたが、今は、”ソフィー様のおかげ”で、三つもの神体山が解放され、魔力枯渇状態も徐々に改善がみられ、王都や王族に不満に思う者は大幅に少なくなりました」
えっと、だからなんで、変なところで”強調”されるのかな?
微笑みも妙に妖しく深くなってるし。
おまけに美しカッコ良すぎるから、怒るに怒れないし、困っちゃうよね、ホント。
そんなことを思いつつ、私はまた顔赤くなって、めちゃ俯いてしまう。
でもまあ、他領地の皆さまからの不満は減っていると他領地出身のエミール様から聞けたのは、とてもいいことだと思った。他領地の皆さまの生の声って、王都にいると、なかなか聞けないからね。
あとは、生徒からの質問も募られ、「魔法属性は何ですか?」の質問には、
「闇属性が強くはありますが、光属性も使えます。闇属性は最上級魔法を半分くらいまで、光属性は上級魔法も少しばかりですが使用可能です。あと、魔法陣の作成や改良、魔術具作りも得意です」
と仰った。
なんか、クラスにいる生徒たち、驚きまくって空気がめちゃ”しーん”ってなって、固まってしまっている。
一応王立学院ではおおまかに、一年生で初級、二年生で中級、三年生では上級魔法を習うことになっていて、適性があれば最上級魔法まで学べるようになっている。でも、適性があっても卒業までに、上級魔法の半分くらいしか修得できない生徒がほとんどの中、二年生になったばかりのエミール様が、適性のない光属性でも適性があるかのように順調に修得出来ること自体、信じられないことだし、また、適性のある闇属性魔法が、これまた二年生になったばかりで最上級を半分も修得っていうのが、さらに輪をかけて、めちゃ凄ポイントなのだ。
……まあ、私はもっと使えるんだけどさ。でも私は異世界転生チート&クラウス先生のシゴキとかモーゼの杖持ってて守護天使がついてるとか別枠感満載なんでとりあえず置いといて、それだけの魔法を使えるなると、生徒たちがドン引きするのめっちゃ分かるし、まだ二年生、この先さらに伸びるかも知れない。
で、魔法陣や魔術具作りは研究員なみだし。
確か、王立学院での数学は、魔法陣の作成や改良に適性があるかどうか見極めるレベルの数学しかしないって、クラウス先生から聞いた。
……適性があるの超えて、もう作っちゃってるもんね。しかも、得意とかまで言っちゃってる。
助手の先生の仰ること、全然大袈裟じゃなかったんだな。もうそれ学生レベルじゃないよ、研究所レベルだ。
助手の先生を見てみると、なんだか自分のことのように誇らしげだ。恐らく、魔法師団の研究所にいらっしゃる先生なのだろう。卒業後は引き抜く気満々なのかも知れない。
うん、王様の側近もいいけど、研究者の道もいいよね。
武術を使う機会がなくなるのがもったいないっちゃもったいないけど、まあ、助手の先生には、ぜひとも頑張って頂きたいと思う。
そして、助手の先生はエミール様の凄さを全て伝えきって満足されたのか、とても満たされた表情で、今日のオリエンテーションを終えられた。
助手の先生が扉から出ていかれるのをぼんやり見つつ、ふと教壇のほうへ目をやると、エミール様が私のほうへ歩いて来られた。
わあ、迫りくる美少年、さらさら銀髪に青い瞳がめちゃキラキラしてるよ? 超ドキドキしてしまうっ
私は顔を赤くしつつも速攻俯いて、帰る支度をしていると、ルシフェルが言った。
「俺、ソフィーのこと女子寮手前の吹き抜けんとこまで、送るわ」
「え、別に送らなくていいですよ? 道、ちゃんと分かりますから」
うん、この教室が二年生の新しい教室とは知らなかったけど、この教室のことは知ってるもん。大丈夫、帰れる、帰れる。
私は自信たっぷりに言うと、ルシフェルは少し困った顔をして、
「まあとにかく、送るから」
と言って、私の肘を引っ張った。
すると、すかさずエミール様が、私に声をかけてこられた。
「ソフィー様、またお会いできて光栄です」
とキラキラ笑顔で仰るエミール様、めちゃ見惚れちゃうんだけど、見惚れてばかりもいられない。隣には、ルシフェルが険しい顔で立っている。
「エミール様、先ほどはありがとうございました。入学式には間に合いましたか?」
私がそう言うとルシフェルは、少し周りの空気を読む態勢に入ったみたいだった。私が礼を言うということは、私がエミール様に感謝しなければならない何かがあったと察知したようで、半歩、後ろに下がる。
少し、話を聞いてみようと思ったのかも知れない。
さすがルシフェル、朝のときも驚いたけど、こういう空気も読めるんだな。
ルシフェルの見事な対応に驚きと感動を併せ持ちつつ、私はエミール様に顔を向けた。
「もちろん間に合いましたよ。せっかくなので先ほどの教室までの到着地点を、百メートルほど伸ばしてもよかったと思うほどです」
と仰って、また右手を丸めて口元を押さえつつ、クックックとお笑いになった。
もう、相変わらずめちゃ恥ずかしいったらないな。
さっきのあれだよ、せっかく二年生の教室に到着してるのに、その教室の扉を過ぎても延々歩いている私のことを、ちょっと茶化していらっしゃるんだな。
もう、いいけどさ。
私は半分諦めて、何か質問してみようと思った。
「でも、教室に戻って来るのが早すぎたように思います。今年は入学式、そんなに早く終わったのでしょうか……」
するとルシフェルが、「俺もそれ思った」と、口を挟んで来た。
「あの、こちらは義弟のルシフェルです」
私はルシフェルを紹介すると、
「エミール・フォンベイリーです。初めまして」
そう言ってエミール様は、ルシフェルに手を伸ばした。するとルシフェルは前進してその手を取り、「ルシフェルだ」と言って、二人は握手をした。
おお! こういう男同士の握手って、初めて見た!
本来なら対抗戦とかで、お互いの健闘を称え合ってとかで見れるものかも知れないんだけど、去年はあれよ、ルシフェルの超奇策と、アドリアーナ先生の謎の妖艶特別試合でそんな雰囲気じゃなかったんだよね。
にしてもこういうの、めちゃカッコいいな!
私はこの男の友情風キラキラした光景を早速”心のサプリアルバム”に永久保存し、次の対抗戦ではこのような握手が見れるのを、めちゃ期待してようと思った。
「ソフィー様の弟君でいらっしゃいますね。お噂はかねがね」
「噂って、なんの?」
「ソフィー様のことを色々と調べるに辺り、ボールドウィン侯爵家の皆さまの情報は、自然と触れるものですから」
ルシフェルの眉が、ピクって動く。
「なんで、ソフィーのこと、調べんの?」
「それは、私が将来、ソフィー様の側近になるためです」
その言葉を聞くや否や、すかさずルシフェルは私の斜め前に立ち、私はルシフェルの背中に少し隠れる形となった。
なんか、さっきは握手までしてた二人なのに、今はすごい、ピリピリした雰囲気だな……
でも私は二人の間に口を挟むこともできず、ただ見守るしかできない。
「お前が、ソフィーの側近になる必要はない。そもそもソフィーは、光の一族によって守られるべき存在だ」
「そうは仰いましても、ルシフェル殿は卒業後、騎士団に入られますよね? ソフィー様の側近じゃなくて」
ルシフェルは痛いところを突かれたようで、言葉を失っている。
少しの時が流れ、ルシフェルは反論した。
「仮に俺が騎士団に入っても、ソフィーの側近になるのはお前じゃない。そもそも俺は、他領地出身の者を信用していない」
エミール様を睨みつけるルシフェル、するとエミール様は、悲しそうに微笑まれて仰った。
「……去年度の、フォータニア出身の女子生徒が上級悪魔で、この王立学院に侵入した事件の事ですね。ルシフェル殿……そしてソフィー様もでしょうか、他領地の者に警戒心を抱く理由、極めて残念なことではありますが、致し方ない部分があると思っています……」
そしてエミール様はじっと私の目を見据え、ご自身の決意を表明された。
「ですので私は、この王立学院在学中に、ソフィー様の信頼を得、私の実力、能力を、その目でご確認頂き、ソフィー様の側近として相応しい人材であると認めて頂くために、心血注いでこの学院生活を、ひとつひとつ、こなしていく予定です」
「お前……」
ルシフェルはすかさず口を挟むも、エミール様はキッとした目でルシフェルを睨み、凄味のある声で仰った。
「私の行動、私の未来を決めるのは、私自身。貴方では、ありません」
……
少しの沈黙が流れる。
そして、ルシフェルは少しトーンダウンをし、
「ただ、俺は認めない。それだけは言っておく」
とだけ言った。
きっとルシフェルは、自由大好き人間なので、『他人に未来を決められたくない』と言われたら、反論できないんだろうな……
そして、私のことを調べ上げてると言ったエミール様、流れでルシフェル含むボールドウィン侯爵家の情報にも辿り着くみたいなことも仰っていたから、このルシフェルの性格を熟知した上でこの言葉をチョイスしたのなら、恐るべき頭脳だなって、思った。




