他領地からの編入生による自己紹介
二年生からの新教室に入ると、一番賑やかな生徒たちの中心にいるのはルシフェルなので、すぐルシフェルの居場所は分かった。
どうしよう、ちょっとあの場所には行きづらいな……
ふと周りを見渡すと、闇クラスで最後のほう登校してこなくなった生徒が教室の中にいた。
ちゃんと登校再開できてよかったなって嬉しく思い、俯き加減で少しだけ、口角を上げた。
で、当然のことながら、ハンナ様はいない。とても残念だな……さて、どうしようか……
と悩んでいると、ルシフェルが話しかけに来てくれた。
「遅かったじゃん?」
ってニカって笑い、おでこのところで右手をチャって前後に振った。
いつもならキザだなあとか思うんだけど、今はちょっと、ほっとした。これからどうしようかなって思ってたところだったから。
「うん、実はちょっと、迷っちゃってさ」
私は苦笑いして言う。
迷ったというか、行き先をそもそも知らなかったというか、辿り着いても通り過ぎちゃったというか、真実はそんなところなんだけど、ちょっと話が長くなりそうなんで、めちゃ端折った。
「相変わらず天然がひどいなあ、俺、隣に座るから、ソフィー座んの、ここ?」
と言って、もう勝手に座っちゃった。えっと、隣に座っても、いいのかな?
「ルシフェルは、お友だちと一緒じゃなくてもいいんですか?」
「ああ、いい。どうせ武術とかでも一緒だし。それにちょっと、空気悪い奴もいるから」
とルシフェルが言ったので、さっきルシフェルがいてた男子のかたまりのほうを見ると……リカルド様がいた。
ああ、そうか。同じクラスになるんだよね……
私は、なるほどって感じで頷くと、ルシフェルは私の隣の席をぽんぽんと叩き、
「っちゅーわけだから」
と言って、私に隣に座るよう、促した。
「あと、言われてるんだよね。しばらくはソフィーのそばにいてやれって」
へ? クラウス先生がそう仰ったのかな? それともルーク兄様かな?
確かに、去年度の事を思えば心配されても致し方ない。
まあ、ルシフェルのいつものニカってした笑顔見てたら、それが一番いいなと思えてきて、有り難くご厚意に甘えておこうと思った。
すると、助手の先生が教室に入って来られた。
主要な先生方は入学式に出席されてると思うので、オリエンテーションは助手の先生が担当されることになっているようだ。
助手の先生が、生徒たちに席に着くよう促されると、色々お話を始められた。
一番は、今年からクラス編成が変わったことだ。これは去年度の上級悪魔事件が一番の理由なので、お話を聞いている間、私は顔を上げられず、ずっと俯いていた。
するとルシフェルが、私が俯いている視線の先に、さっと紙を出してきた。
で、その紙をよくよく見ると、なんか文字が書いてある……
『上向け、前向け、ソイヤソイヤソイヤソイヤ!』
って、これって例のエイデン先生作詞作曲、謎の歌、ルシフェルオリジナル相槌部分じゃん!?
私は驚いてルシフェルのほうを見たら、ルシフェルは相変わらず、ニカって笑ってる。
なんかもうめちゃ笑えたんだけど、でも教室内は、凄く重要な話をされてるのもあり、めちゃ静まり返っていて、とても笑い出せる雰囲気じゃない。私は思わず太ももを自分でつねって、笑い出すのを堪えた。
するとルシフェルも、隣で声を殺して笑っているのを視界の端でとらえた。
もう、しょうがないなあ。もしルシフェルが噴き出し、笑い出して先生に怒られたら、私も一緒に怒られてあげるからね。
私はルシフェルと目が合うと、声には出さないけど口先だけで『ありがと』って言い、笑いを堪えつつ微笑んだ。するとルシフェルも笑いを堪えつつ、”Good”って感じで親指を立て、笑顔で返してくれた。
あんまりにも笑いを堪えるのに集中しすぎて、笑いが収まるまでは先生の話、ほとんど聞いてなかったんだけど、なんか、最初の申し訳なさでいっぱいになる重要なお話はいつの間にか終わっていて、そのあとは二年生になるに辺り、増えていく授業だったり注意事項だったり、様々なお話をされていた気がする。
まあ、鬼教官?であるクラウス先生の下で学んだ私なので、ある程度のことは対応できると思っておこう。
そうこうしていると、なんと、先ほどのエミール様が教室に戻って来られた。
え、ちょっと早くないかな?
少し不思議には思ったんだけど、入学式が早く終わる可能性ももちろんある。去年だって、そんなに長くはなかったしね。
助手の先生とエミール様が、何やら話をしておられる。
相変わらず、ヴィルジールだなあ……
って、いけない、いけない。また見惚れてしまった。
先ほどはずっと間近でしか見てなかったけど、これくらい距離が離れているのも中々いいもんだ。何よりガン見、できるしね。
私はもう張り切って、”心のサプリアルバム”に、永久保存した。
すると、エミール様は私のことに気づかれたのか、目が合って、微笑んで下さる。
うう、さっきのことを思い出して、めちゃ恥ずかしいよう。
思わず赤面して、俯いちゃうよね、ホント。
まあ、またエミール様が右手を胸に当てて、私に敬礼とかされなかったのは、とても良かったんだけど。
助手の先生はエミール様を促し、教壇に立たせて、自己紹介をするようにと仰った。
「エミール・フォンベイリーと申します。領地セプテントから参りました。セプテントは王都の北隣にありますので、王都の噂は良く耳にし、強い憧れを抱き、編入して参りました。よろしくお願い致します」
と、めっちゃ私のことをガン見して、仰った。
いえいえエミール様、そういう自己紹介は皆さまに向けてするもんだと思いますけど?
私はめっちゃ顔赤くなるし、ルシフェルはめっちゃ訝し気に私とエミール様を見るし、これいったい、どうしようかな?
と、とりあえずまあ、俯いていよう。
すると、助手の先生が意気揚々と仰った。
「今年度から他領地からの編入生は成績のみの受付となりましたが、エミール様の成績はセプテントでもトップ、また、王立学院の中でも座学と、そして魔法陣や魔術具作りの実技に関しては、トップです」
すると、他の生徒が挙手をして、質問した。
「トップというのは、二年生でですよね?」
「いいえ、編入試験は様々な視点から試験がなされますが、エミール様の成績は、全校生徒の中でトップです。研究所レベルのものも多くあります」
助手の先生の言葉に、教室中はざわめいた。
私もめちゃ驚いちゃって、思わずルシフェルと顔を合わせちゃうんだけど、何の情報も持ってないんで、首を横に何度も振った。
すると、また別の生徒が質問した。
「武術のトップではないんですよね?」
「はい、武術のトップは三年生、ボールドウィン侯爵家のルーク様ですので」
さすがルーク兄様、光の一族の跡継ぎだけあるな。
でも、エミール様確か、武術もルシフェルより少し劣るレベルで、神体山解放の選抜生徒にも選ばれていると仰っていた。
学業ばっかりではない文武両道タイプなんだけど、特に”文”を極めてらっしゃるのか……と言っても武術がルシフェルよりちょっと下レベルということは、王立学院ではルーク兄様とルシフェルに次いで、三番目にスゴイってことだし、もしエミール様の言ってることがホントだったら、”武”だって半端じゃなくスゴイってことになる……
どえらい人が、編入してきたもんだ。
これは、私が扱いきれる人材ではない。絶対に。
クラウス先生みたく王様の側近になるべき人材だ。
で、どうしてもまだ私の側近とか、寝ぼけたことを仰るのなら、それこそクラウス先生みたいに、王様の側近兼モーゼの杖所持者担当になればいいんだ。まあ、実際に私の担当になれるかどうか、王族関係の人事については、さっぱり分かんないけど。
うん、そうだな、その路線も視野に入れて少しずつ説得してみよう。
まあ、その少しずつの間に、いろいろ私のボロが出て、自然と思い直して下さるのが一番いいんだけどね。
ふと周りを見渡してみると、女子たちはちょっと華やいだ雰囲気になってるなって思った。
気持ち、めちゃ分かる。アニメでもよくあったもん。美形男子転校生がやって来たら、めちゃクラスの女子にモテモテになるんだよね。
でもまあ王都の女子たちだし、他領地の男子生徒よりか、貴族最高位で光の一族のルーク兄様のほうが、まだモテモテのままだとは思うけど。
王都の女子が他領地の男子に好意を抱き、嫁ぎに行くのは、ちょっと敷居が高そうな、勇気がいることのような気がする。
まあ、私は女子友がハンナ様くらいしかいないので、あんまりその辺のこと、詳しく知らないんだけどね。
そして、さらに周りを見渡すと、男子は複雑な表情を浮かべてるな。
まあ、ちょっと優秀なだけならいざ知らず、そこまでレベルが違うとなると、普通に友だち付き合いとかできるのかなとか、思ってる男子もいるかも知れない。
で、ふとリカルド様が視界に入ると、なんか凄い怖い顔してエミール様を睨んでいる。
……
めちゃ恐ろしい、見なかったことにしよう。
そしてルシフェルを見ると、やっぱり険しい顔をしている。
そりゃ、そうだよね。だってエミール様、相変わらず私のこと、ガン見してるもん。
あのとき、最敬礼だけじゃなく、ガン見もやめて下さいって言っておけば良かった。っていうか、そんな風にガン見されるとは知らなかったから、言いようもないんだけど。
私はふとエミール様を見ると、さらに微笑みが深くなる。
もうちょっと、俯いてるしかないな、ホント。




