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闇と光の物語 ~神が人間を創造した理由~  作者: synaria
転生から王立学院一年生
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セレスティア・マジック

 朝になった。窓から差し込む陽の光が眩しい。

 どうしてだろう? 陽の光を見ると光の一族を思い出して、笑いが込み上げてくるのは。ちなみに私は昨日から、その光の一族の一員になったらしい。

 そう言えば、昨晩も満月で、とっても美しいまん丸お月様だったんだけど、やけに笑いが込み上げてきたっけ。お月様を見てあんなに面白いと思ったのは、生まれて初めてと思う。


 そんなことを考えてたらニヤケ顔が止まらなくて、体を起こし、顔をパンパンと叩いていると、ドミが起こしに来てくれた。

 着替えやら朝食の準備やらを手伝ってくれて、私が席に着き、朝食を食べつつ、ドミが今日の私の予定を教えてくれる。

 教えてくれるんだけど……どうにも笑いが込み上げてきて、どうしようもない。


「どうかされましたか? ソフィー様」

「いえ、あの、このローズティーを見ていると、昨日の養母様の面白ディナー歓迎会を思い出して、その……」

 私はもう笑いが込み上げてきて、それ以上言葉を続けることができなかった。

「ソフィー様、お気持ち分かります。笑いが込み上げてきて止まらないその症状……私たちの間ではその症状を”セレスティア・マジック”と呼んでおります。その症状は個人差ございますが、概ね三日間ほど続くと思われます」

 と、ドミが説明してくれた。


 三日間か。結構続くな。何にもないときなら、むしろ楽しくていいんだけど、シリアスな場面でこの症状が出ると困っちゃうな。この三日間は、シリアスな場面に出くわさないよう心から祈っていよう。

 ちなみにボールドウィン侯爵家では、”セレスティア・マジック”の他に”ルシフェル・マジック”もあるという。光の一族、マジ恐ろしいな。


「その”セレスティア・マジック”や”ルシフェル・マジック”はどれくらいの頻度で披露?されるのでしょうか。さすがに毎日だと症状が治まらず、従業員の皆さんも大変だと思いますが」

「昨日ほどの”マジック”は、さすがにそれほど頻繁ではございません。昨日は奥様もたいそう張り切っていらっしゃいましたから。

 こちらのお部屋を調えたのも奥様ですが、奥様にはお嬢様がいらっしゃいませんので、娘ができて嬉しいと、それはもうお喜びでいらしゃいましたので」


 そうなんだ、知らなかった。そんなに私、養母様に歓迎されてたんだな。

 ……歓迎のお気持ちを表す方向性が個性的と言うか、ちょっと面白過ぎなんで、スゴい気づき辛いけれど、でも、とても嬉しいなって、素直にそう思った。


「あと、ボールドウィン侯爵家の皆さまはお心広い方ばかりですので、従業員が多少笑っていても、微笑ましくご覧になるだけなので、よほど高貴なお客様がいらっしゃって、お出迎えしなければならない限り、特に問題はございません。

 ただ、ルシフェル様付きのメイドは、少々大変なようですよ? ”ルシフェル・マジック”は突拍子なく発動されるので、心の準備をしている暇がないそうです。ちなみにそのメイドは少しばかり年配者で、私も少々心配しております」

 ね、年配者の方がルシフェル付きのメイドって、大丈夫なのかな? ウケ狙ってるとか、笑いじゃ済まない場合、あるよ??

 ぜひともそのメイドさんは、お体を大切にして欲しいと思いつつ、そう言えば、養父様やルーク兄様に”マジック”はないのか、ちょっと尋ねてみた。

 すると、

「ご主人様とルーク様は、”Magic”というより”Logic”、ではないでしょうか。筋が通っていて芯があり、それでいてとても紳士的でお優しく、本当に人間できた方々です」

 と教えてくれた。

 ”Magic”より”Logic”とは、ドミも上手いこと言うなあと感心しつつ、なるほど、養父様チームは”論理的マジメ系”、”養母様チームは面白おおらか系”、というわけか。

 にしても、見た目だけじゃなく性格までルーク兄様は養父様似、ルシフェルは養母様似なんだなあ。面白いなってちょっと思った。


 面白いと思いつつ、お茶をひと口頂こうと思ったんだけど、ローズティーなんで、昨日のこと思い出して、飲みづらいな。

 それにしても、”セレスティア・マジック”が三日間も続くというのに、なぜにドミはローズティーを朝食と共に持って来たんだろ? 笑い込み上げてきて、噴き出さずに飲むの、大変なんだけど? ま、まあ楽しい気持ちで食事はできるけどさ。


 私がティーカップ片手に、悩ましいんだか、笑ってんだか、良く分かんない表情をしていると、ドミがローズティーを入れてきた理由を説明してくれた。

「こちらのローズティー、昨日のディナーに出されたものと同じものですが、”ソフィー・ロシャス”というバラを使用していて、ソフィー様の名前にちなんでいるのですよ。

 昨日はあまりにも、その、”ノアの箱舟”や”月面着陸”などで話が盛り上がってしまい、奥様もお話するのをお忘れになったご様子で、私が差し出がましくも、お伝え致したいと思いました」


 おお! このローズティーは私の名前にちなんだローズティーで、デザートでもちゃんと、光の一族とモーゼの杖所持者コラボレーションを実現されていたのか!

 養母様の想像力には、ホント恐れ入るな。


 ドミはさらに続ける。

「ちなみにこの”ソフィー・ロシャス”、ボールドウィン侯爵家で自家栽培されているんですよ。バラ園もございますし。そう言えばソフィー様も、こちらのお屋敷にお越しになるときに、門のところでご覧になられたと思います」

 ああ、そう言えばあった! めちゃ豪華な門だなって思ったもん!

「覚えています。とても豪華で芳しいステキな門でした。バラは、養母様のご趣味でいらっしゃるのですか?」

「はい、特にバラの香りがお好きなようです。またこの”ソフィー・ロシャス”は四季咲きで年中楽しめますし、つるバラとしてフェンスやアーチなど様々な場所にも仕立てられますので、奥様はたいそうお気に召していらっしゃいます」

 ああ、四季咲きっていうのがお花の中にはあるのか。そう言えば冬なのにお花咲いてるって、ちょっとおかしいなとは思ってたんだよね。まあ、異世界だしいいのかな?って頭に過りつつ、それ以上に、豪華さに圧倒されて、疑問は頭の隅へ追いやられてしまっていたけど。

 一応前世では、年中枯れない木があるのは知っていたけど、年中咲いてるお花っていうのがこっちの世界にはあるんだなって思った。いや、ひょっとしたら前世にもあったのかな? 教養がないんで、よく分かんないや。


 にしても、バラがお好きだったり、月面着陸を模索したり、養母様は振り幅広すぎるな。いい意味でだけどね、もちろん。その視野の広さは、私も憧れる。


 最初、養母様とのご挨拶のとき、確か『世界が滅びそうなときでも、楽しく美味しく食事ができる食卓』がどうとか仰ってらして、「いったいどんな食事だよ、それ?」って正直思ったんだけど、ボールドウィン侯爵家の食卓なら実在しちゃうんだろうなって、本気で思っちゃった。


 朝食をとりつつドミが今日の予定を教えてくれる。午前も午後も、クラウス先生の授業があり、十時ごろ、クラウス先生が私の部屋までやって来て下さるそうだ。

 なんか、緊張してきたな。予習のひとつでもしながら、先生がお越しになるのを待っていたほうがいいのかな?

 とは思うものの、何をしていいのかさっぱり分かんない。本棚には本が何冊かあるものの、こっちの文字、読めるのかな? 後で確認してみよう。


 私が朝食を終えると、ドミは手際よく朝食を片付け、クラウス先生をお出迎えする準備をするとかで、部屋から出ていった。


 私は早速本棚に行き、本を一冊取ってみた。

 最初は全く読めない記号みたいな文字が、段々とぼんやりしてきて馴染みのある日本語になった。


 おお! 異世界転生特権、会話だけじゃなく読むこともできるようだ!

 ちなみに書くことはどうかな?


 ドミが授業のために用意してくれていた紙に、自分の名前を書いてみた。


 ”ソフィー・ボールドウィン”


 うーん、特に文字がこっち文字に変化するとかはないな……。

 こっち文字になってはいるけど、私には日本語に見えるっていうことなのか、文字に関しては転生特権がないのか、どっちかな?

 後でクラウス先生にそれとなく見せてみることにしよう。


 色々本棚にある本を手に取りパラパラしていると、ドミがクラウス先生を連れてきた。

 おお、相変わらず知的な雰囲気MAXで、美しくカッコいいな。

 と見惚れていたら、

「今日は随分ご機嫌麗しくいらっしゃいますね、ソフィー様。お顔がほころんでいますよ」

 と、クラウス先生にニヤケ顔を指摘されてしまった。

 私は、クラウス先生に見惚れていたと正直に言うのが恥ずかしいので、

「昨日、ボールドウィン侯爵家の皆さまと、初めてディナーをご一緒させて頂いたのですが、それがとても楽しくて……その、先生は”セレスティア・マジック”ってご存じですか? その“マジック”にかかってしまい、朝からニヤケが止まらないのです」

 と、養母様に責任をなすりつけておいた。ごめんね、養母様。

 でも、実際それも理由のひとつだから、仕方ないよね。うん。嘘はついてない。

 すると、クラウス先生は笑いながら仰った。

「”セレスティア・マジック”のことは知ってますよ。私もかかったことありますので」

 おお、やはりそうか。この界隈では有名なのかも知れないな。なんせ、三日間は”マジック”解けないんだもん。


「実はここに来る前に一時間ほど、ルーク様とルシフェル様に弓の稽古をつけていたのですが、ルシフェル様が少々稽古に身が入らないというか、よく笑っておられましたね。

 的を見たら一枚岩に見えるとかで、『矢が岩面着陸かよ』などと仰っておられました」


 る、ルシフェル、朝から飛ばしてんな。思わずクラウス先生と一緒に笑っちゃった。


 それにしても、クラウス先生の笑顔は、朝からホント眩しいな。

 で、いつもなら、自分の表情を誤魔化すために、俯いてるところだけど、今日は何て素晴らしい日だろう? ”セレスティア・マジック”にかこつけて、ニヤケ放題できる、まじ、ビューティフル・デーだ。

 確か昔、そんな歌があった気がする。なんか歌でも歌いたくなってきたな。

 私が、ニヤケ放題、ビューティフル・デーを満喫するかのように、満面の笑み全く隠さないでいると、


「ソフィー様がボールドウィン侯爵家の養女として、素晴らしい第一歩を歩みだされたようで、とても嬉しく思います。私も安心致しました」


 と、優しい笑顔で仰った。

 私のこと、心配して下さっていたようだ。

 まあ、それもそうか、私を拾ってきたの、クラウス先生だもんね。


 私、めっちゃ大丈夫、超楽しいよ! っていう気持ちを前面に出して、

「とても良くして頂いています」

 と言い、にっこり微笑んだ。


 でも、私の笑顔があまりにアホ丸出しだったのか、クラウス先生はすぐさま目をそらされたのだけど、でも、俯き加減でも、にこやかにしていらっしゃるのは、分かった。

 私の気持ちは伝わったようだ。良かった、良かった。

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