ルシフェルと二人で作業に
一枚岩のある山頂まで出てくると、視界が開けて一気に明るくなった。
ルシフェルの横に並んで歩く私、ふとルシフェルを見ると、お日さまの下で髪をなびかせて、めちゃキレイな水色の髪は、光も含んでとてもキラキラしている。ホント、イケメンオーラを出し過ぎだと思う。
あと、身長もさらに伸びたんじゃないかと思った。私も少しは伸びてると思うんだけど。
「ルシフェル、身長伸びましたね。養父様にも随分と近づいたんじゃないんですか?」
「うん、今だいたい目線が父上の顎とか口くらいかな? 兄上はもうちょい高いけど。成人したら、父上を超すかも知れない」
おお、そのようなことになっているのか!
イケメンが健やかに成長していて私もうれしい限りである……って、義姉義妹視線ではなく、母親目線になっちゃってるな、私。
それにしても、成人か……
この世界では、十五歳になり王立学院三年生を無事に終了すると、成人になるというシステムだ。
ルシフェルと私はこの八月から二年生、そしてルーク兄様はいよいよ最終学年、三年生だ。そして、三年生が終わると、兄様は成人なさるということになる。
ルーク兄様が成人とか、なんとステキすぎる響きだろう? おまけに、養父様の身長を超すかもしれないほどお健やかにお育ちだ。今どきの子は成長が早いというか、発育が良いみたいな話を聞いたことがあるので、ひょっとするとホントにそうなっちゃうかも知れない。そして、お顔も男性成人らしくスッとされるだろうし、一段とご立派になられるに違いないな。
今からめちゃ楽しみにしていよう。
「それは本当に、とても楽しみですね」
私は思わず、めちゃ目をキラキラさせながら言った。
そんな私の様子にルシフェルは、少々面喰いながら呆れて言う。
「あの、つまり俺も成人したら、そうなるかも知れないってこと、分かる?」
おお? ルシフェルもルーク兄様と同じような、”すくすくお健やかなる成長の軌跡”を無事に辿っているのか! まあ確かにそうだよね、ルシフェルの目が養父様の顎や口辺りなら、初対面の顔合わせで見たときよりも、随分背が伸びたと思う! これはルシフェルも期待大! 今からさらにめちゃ楽しみにしていよう。
なので私はさらに満面の笑みで言った。
「それはそれは本当に、とても楽しみですね」
あんまり私が笑顔全開で言うもんだから、ルシフェルは目をパチパチとして、どことなく頬を赤らめ、私から目を逸らし、前を見て言った。
「まあ、楽しみにしてろ。ビビらせてやっから」
おお! 私を驚愕させるレベルのイケメンになってくれるとは、これはホント頼もしい! 今から二年かけて、驚く練習、いっぱいしとかないと! 礼には礼を持って返さないとね!
私はルンルン気分でそんなことを思いつつ、でも、いつものルシフェルなら、ニカって笑ってくれるのに今日はそうじゃないんだなって不思議に思いつつ、ルシフェルの歩幅に合わせて私も歩いた。
あれ、ちょっと歩く速度が早まったかな? ルシフェルは足が長いから、私はちょっと早歩きをしないといけないんだけど、今は急いでいるから丁度いいと思う。
でも、話すこともないから、ちょっとちょっかいかけてみよっと。
「ところでルシフェル、今日はどうしてそんなに早歩きなんですか? 足の長さのアピールですか? 私、早速ビビっちゃいましたよ」
ホントは、貪汚膿に侵されたヒノキの浄化任務のために早歩きになってるんだろうと私は思っているんだけど、あえて知らんぷりして、ちょっとクスって笑いながら言ってみた。
するとルシフェル、先ほどよりもさらに顔が赤くなったようで、私を見てまた目をパチパチしたあと、すぐ目を逸らした。
そして、歩くスピードが少しゆっくりになる。
あれ、別に歩くスピードが不満で言ったわけではないんだけどな。ここは、訂正したほうがいいのかな?
「ルシフェル、先ほどのスピードでいいですよ。早くお仕事終わらせないとダメですもんね」
私がそう言うと、またルシフェルは私を見て、困ったように頭を掻き始めた。
……どういうことだろう。
ルシフェルの歩行速度が早くなったのが、丁度私が『それはそれは本当に、とても楽しみですね』って言ったあとだったから、それと何か関連してる?
……まあ、男子心はよく分かんないな。
ルシフェルは歩行速度を再度上げることもなかったので、私は普通にルシフェルの隣を歩くことにした。
すると、ルシフェルはどこか明々後日のほうを向きながら、ぼそっと言った。
「まあ、あれだ。ソフィーは全然成長してなくて、逆に俺をビビらせんじゃねーぞ」
なるほど。ルシフェル流、ちょっかい出した私に対する心ばかりの仕返しのようだ。
ルシフェルはそれだけ言うと、手で鼻をちょっとこすって明々後日のほうを向いている。ルシフェル的に、一矢報いることできたのかな?
でも、それにしてもちょっと心外よね。だって、私だって成長してないわけじゃないもん。
ここはひとつ、自身の尊厳を取り戻すべく、反論しておこうと思った。
「私だって、ルシフェルほどじゃないにしても、少しは成長してますよ? 比べる対象は基本いつも一緒にいることの多いドミですが、目の位置がドミの鼻くらいまで来ていると思います。ひょっとしたら将来、ドミの身長を超えるかもしれませんよ? さすがに養母様は女性の中でもスラっと長身でいらっしゃるので、養母様越えは難しいかも知れないですが、そこそこの見栄えになるのではと、私も今から期待しています!」
そうだ、私だって身長伸びたんだもん。
養母様みたいなモデル体系にはちょっとなれないかも知れないけど、ボールドウィン侯爵家で食べるものはどれも美味しいし、私だってすくすくと成長しているのだ。今日のサンドイッチだって、めちゃ食べたしね。
成長期の私には、横ではなく縦に伸びると今から期待している。
私はめちゃ胸を張って、自信たっぷりに答えた。
するとルシフェルは、一瞬「あはは」って笑ってから、
「まあ、母上が一番最初のディナーのときに、大船に乗ったつもりでとか、ノアの箱舟とか、月面着陸とか妙なこと言いながら、自身の気合いのほどを、ソフィーに存分にアピールしてたんで、ソフィーが成長するのは、確かなのかも知れないな」
と言って、私の頭をぽんぽんとした。
おお、ルシフェルの頭ぽんぽん、めちゃ久しぶりだ。背が伸びるおまじないかなんかかな?
でもそう言えば、確かルシフェルに一番最初に頭ぽんぽんしてもらったのは、皆んなで神体山に蛍を見に行った時だったよね……
『そんなの、関係ねーから。シロツメクサだって雑草かも知れないけど、冠になれる。誰かに望まれるなら、ソフィーはその人専属の王冠だって被ったっていい。
俺、そーゆー身分みたいなことで雁字搦めになるの、そもそも大嫌いなんだよね。とにかく俺、自由でいたい人間だから。
まあ、この家に生まれたからには、光の一族の使命はもちろん果たすけどさ。好きな相手くらい、好きに選ばせろよって感じ』
ってルシフェルは真剣な表情で言ってから、そのあといつものニカって表情になって、私の頭をぽんぽんってしたんだった……
なんか、その時のことを思い出しているとめちゃ恥ずかしくなってきて、顔が赤くなるんだけど、ルシフェルを見てみると、いつもと変わらない笑顔だ。
お日さまの下で見るルシフェルの笑顔は、さらに元気になるなあ……
と、そんなことを考えていたら少しずつ顔の赤みもやわらいできて、また、養母様の最初の面白ディナーを思い出し始めちゃって、なんかだんだんと笑えて来て、私が堪えきれず吹き出し笑い始めると、ルシフェルも一緒に笑い出した。
「今絶対、”ノアの箱舟風、色とりどり肉のつがい盛り合わせ”思い出しただろ?」
「いえ、私が思い出したのは、”ノアの箱舟、月面着陸”です」
「ああ、どちらも思い出したんだな?」
「いえ、どちらもではなく、思い出したのはやっぱり全てのメニューでした」
私たちはそんな最初のディナーで披露された、養母様開発、特製面白ディナーのことを思い出し、笑いながら、先ほどとは反対に位置する山林についた。
山林に入ると、先ほどと同じくらい貪汚膿に侵されたヒノキが倒木していた。
私は早速『エフージオ』で貪汚膿を魔力エネルギーに変えて吸収していった。
「ソフィー、魔力の器的にはまだいける?」
ルシフェルが辺りを見渡しながら、私を心配して声をかけてくれる。
私はまだ余裕があるので、
「大丈夫、平気です」
と、笑顔で答えた。
ルシフェルと目が合う。
……あれ、今日のルシフェル、なんだかいつもと違って、笑顔が優しいかも知れない?
私がもう一回ルシフェルを見ると、ルシフェルは、何?って感じで首を傾げている。
いけない、いけない、集中しないと。
と思いつつ、それでも私は、貪汚膿を魔力エネルギーに変えて吸収しながら、色々考えにふけってしまった。
そう言えば、ルシフェルと二人きりになったのは、これが初めてな気がする……
去年の神体山での『酔剣騒ぎ』のときは、二人にはなったけれど、ちょっと向こうにクラウス先生とルーク兄様が剣の稽古をしていらっしゃったんで、二人っきりってことにはならないと思う。
……う、何かちょっと、恥ずかしくなってきた自分がいる。
そんなことを考えていると、向こうのほうからダークコヨーテが現れた。
「大丈夫、任せろ」
そう言って、剣を一振りしてスパっとやっつけてしまうルシフェル。
おお、間近で見ると、めちゃカッコいい!
さっき、ダークコヨーテと対峙してたときはルーク兄様が近くにいて兄様ばかり見てたので、そういえばルシフェルのほうほとんど見てなかった。
そして、ルシフェルが実際に敵と対峙しているのをちゃんと見るのは、初めてだ。
なので、今見れてめちゃ良かったなって思った。
ちなみに、ルーク兄様が実際に敵と対峙したのを見た一番最初は、あの恐ろしい上級悪魔だ。
今思い出しても、恐怖が蘇って来る。
あのときのルーク兄様は本当に、真剣な表情も、剣裁きも、めっちゃカッコよくいらっしゃったんだけど、でもその思いに浸ることができないくらい、恐怖が勝っていた。
でも今は、敵もそんなに強くないから、安心してルシフェルのカッコよさを堪能できる。そういう意味でも敵が弱いというのは、本当になんて素晴らしいことなんだろう。
これはまさに、真理のひとつだ。
そして今日はその真理を学べて、非常によい勉強になったなって思った。




