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闇と光の物語 ~神が人間を創造した理由~  作者: synaria
長期休みから王立学院二年生
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ソフィー、異世界クッキングPart 2

 それからもクラウス先生の家庭教師の授業を受けつつ、クラウス先生がいらっしゃらないときは、たまに宮廷舞踏と乗馬の練習をドミに付き合ってもらいつつ、日々は過ぎて行った。


 一応ドミに、なんで宮廷舞踏できるの?って気ままに訊いてみたら、

「メイドになるための勉強をしておりますと、マナーの一環として宮廷舞踏も学ぶ事になります」

 と教えてくれた。ちなみに乗馬はできないという。

 私はボールドウィン侯爵家に来たときに、簡単なマナー講座をドミから受けたことがあったけれど、小さなお子さまを受け持つこともあるだろうメイドは、主人の役に立つために、ひと通りの礼儀作法などは修得してるんだろうなって思った。


 そんな充実した日々を過ごしていると、今日はクラウス先生から事前に言われていた通り、調理実習……いや、食材を使った魔法の授業をすることになった。魔法の課題は、モーゼの杖なしで繊細な微調整、だという。

 一応この世界ではロッドでも(私の場合はモーゼの杖だけど)手でも魔法を使うことが可能なんだけど、ロッドを使ったほうがより細かい調整ができたり、威力を大きくも小さくもできるので、魔法師の方々はロッドを使われることが多い。でも今回は、モーゼの杖なしに微調整ができるか、それが本日の魔法の課題だそうだ。


 そして今日作るのはサンドイッチ、これも前回同様、前世での調理実習メニューだ。

 この世界には、まだいわゆる私たちが知っているサンドイッチはない。

 あるのは、古くて固くなった粗末なパンを、お皿代わりにして食材を乗せて食べるくらいだ。当然、お皿代わりのパンと具材を一緒に食べることはなく、具材から沁み出た水分を吸って柔らかくなったパンを、そのまま食べたり、もしくは下げ渡したりするくらいにとどまっている。

 おまけにサンドイッチに使うマヨネーズも、まだこの世界にはない。なので、新しいメニューになるんじゃないかな? きっとクラウス先生もボールドウィン侯爵家の皆さまも、そして、宮廷料理から王立学院の寮メニューになったら、ハンナ様も喜んで下さるんじゃないかなって思った。


「それでは始めましょうか」

 クラウス先生の笑顔が、いつもより二割増しほど輝いているように見える。今日の料理を楽しみにして下さっているからだと思うけれど、イケメンの輝きが増すのは実に素晴らしいな。頑張って期待に応えたいって思った。


 前世で作った調理実習メニューは卵サンドだったので、今日もそれにしようと思う。

 お鍋に水と卵をを入れて火にかけ、ゆで卵を作りつつ、まずは、マヨネーズ作りだ。

 ボールに卵黄とビネガー、塩少々を入れて、魔法を唱える。


「ミッシェーレ」


 私はボールに手をかざすと、一瞬だけパッと具材が混ざりあった。


「ソフィー様、モーゼの杖がなくても魔法の調節が見事ですね。素晴らしいです」


 おお、お褒めの言葉を預かってうれしいな。

 まあ、ひょっとしたらクラウス先生的には、モーゼの杖を調理器具代わりに使うのは、少し抵抗を感じられるようなので、うれしさもひとしおなのかも知れない。

 うん、笑顔が二割増しから三割増しに、なったかな?

 私は、よかったよかったと内心思いながら、食用オイルを用意してもらって、もう一度『ミッシェーレ』を唱えた。そして、ちょろちょろと食用オイルを足していく。

 前世では、当然魔法もなければブレンダーみたいな機械も使えないので、泡だて器でめっちゃ腕だるいとか思いながらかき混ぜていたのを思い出した。

 魔法って楽だなってめちゃご機嫌でいると、


「ソフィー様、先ほどの具材とは違い、どうしてオイルはそのように、ゆっくりと足されるのでしょう?」

 と、クラウス先生が質問された。


 そういえばなんだったっけ、なんか理由があったはずなんだけど?

 ……

 一所懸命ちょろちょろ足していく理由を考えてはみるんだけど、うーん、どうしても思い出せないな……


「えっとその、どれだけオイルの量が必要かが分からないので、少しずつ足しながら、粘度を確かめています」


 と適当に返事しておいた。でもまあ確かに分量がわからなかったので、そういう理由もあるんだけどね。

 そして、魔法でかきまぜていたらあっという間で、なかなか程よい粘度のマヨネーズになった。


「クラウス先生、マヨネーズの粘度は、だいたいこれくらいの粘度です」


 私はスプーンで少しかきまぜ、クラウス先生に見せた。


「なるほど、これが『マヨネーズ』というソースなのですね? 卵の黄身とビネガーとオイルを混ぜたらこのような形状になるとは……非常に興味深いです」


 どうやらクラウス先生の知的好奇心を刺激したようだ。そういえば、前世では確か『乳化を確認しましょう』って先生が仰ってた気がする。

 でもまあ、ここで乳化の話をする必要ないよね……っていうか、私自身が乳化の説明、できないもん。

 クラウス先生はめちゃ賢いので、もしも興味がおありならご自身で研究されるんじゃないかなって、とりま勝手に思っておいた。


「ところで、このソースはどうして『マヨネーズ』という名前なのでしょう?」


 ……ヤバい、痛いとこ突かれた。

 っていうか、私もマヨネーズの名前の由来、知らないし。

 ハンバーグのときは、『ウリエルのお告げ的発想によりネーミングした』とか、適当なこと言ったけど、今回もそれで、通じるのだろうか?


「これも、『ウリエルのお告げ的発想によるネーミング』なのでしょうか?」


 私は激しく首を縦に何度も振った。


「そうですか……大天使ウリエルは聡明や哲学などを司ってはいますが、料理や名付けなどは司ってはいないのですが」


 クラウス先生が訝しそうに私を見る。

 私は内心めっちゃテンパりながらも、頑張って平静を装いつつ、言った。


「これは、あれです。恐らくウリエルの問題解決の力ではないでしょうか? 私が料理の名付けに関して問題を抱えていたので、ウリエルがその問題解決のために、脳内にひらめきという光を照らしたのだと、お、思います!」


 苦し紛れも甚だしい、ホント。私はめっちゃ冷や汗かきつつ、クラウス先生をじっと見た。


「名付けに苦しまれたソフィー様に、大天使ウリエルが問題解決のため、お告げに似た光でソフィー様の脳内を照らしたので、このように名付けが出来たと?」


 私はもう一度、めっちゃ思いっきり首を縦に振った。

 クラウス先生の仰ってること、私が言い出しっぺのくせしてあれなんだけど、ぶっちゃけ意味分かんない。でも、とにかくその路線で、何とかなればいいなあって思った。

 でも、クラウス先生は追及の手を緩めてはくれない。


「それに、ソフィー様は次々とこのような新しいメニューを考えられ、これも、ウリエルのご加護なのでしょうか?」


 うう、そりゃそうだよね、確かに変だよね、こんなの作れるのって。でも、時が流れたら、誰かが発明して、皆んな当たり前のように食べることになるんだよ、ホント。

 とか思いつつ、とにかく必死で弁解した。


「そ、それは恐らく、ウリエルの予言効果かなんかじゃないでしょうか? きっとちょっと先の未来では、皆さん当たり前のように食されていると思うんですけど、ウリエルのイタズラ心か私へのご褒美か知りませんが、この食事を作ってもいいんじゃないかなあっていう気に、ちょっとなるんですよね」


 私が必死にそう言うと、クラウス先生は、半ばあきらめたようなご様子で、軽く息を吐かれて、仰った。


「……まあ、少々納得がいかないところがございますが、私が料理に名前を付けられるわけでもありませんし、また、新メニューを開発できるわけでもございませんので、今日のところはこれでよろしいという事にしておきます。ですが……」


 ……で、ですが?

 クラウス先生は片眼鏡に手をかけて、じっと私をご覧になった。


「もし何か思い出された事などあるのでしたら、私に教えて頂かなければ困ります。私はソフィー様担当ですので、漏れがあって大事に至っては大変なことになります。ご理解いただけますか?」


 うう、現世の記憶は確かに一切ないんだよね、これはマジホント。ただ、前世の記憶のことについては、一切誰にも何も言ってなくて……


 でも、この料理の最中に話が長くなりそうな話をする気になれなくて、私はとりあえず、うんうんと頷いて、

「その、ウリエルの閃きが自分なりに解釈できて、説明できるようになればいいなって思います」

 と、言葉を探しながら、やっとの思いで答えた。

「もし何か分かり次第、ぜひ教えて下さいね。どんな些細なことでも結構ですから」

 とクラウス先生はそう仰って、にこやかに微笑まれた。

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