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闇と光の物語 ~神が人間を創造した理由~  作者: synaria
転生から王立学院一年生
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養母様、おもしろ義弟の上を行く

「神と王族に仕える我がボールドウィン侯爵家は、モーゼの杖所持者であるソフィーを養女として迎え、心より歓迎する。乾杯!」


 養父様がそう仰ったのち、私たちは乾杯ドリンクを飲んだ。すると、ボールドウィン侯爵家の皆さまを筆頭に、周りにいるメイドさん、給仕人の皆さんも、歓迎の拍手を私に向けてして下さった。

 私は恥ずかしくて俯きながら、「ありがとうございます」と、頑張って小声で呟いた。

 うん、声が小さくなったのは、皆さまの拍手が盛大だったということにしておこう。

 と、心の中で言い訳していると、前菜が運ばれて来た。

 給仕人が言う。


「こちらはモーゼの杖を模した、生ハムの前菜でございます」


 よく見てみると、確かに私の持っているモーゼの杖と似ていた。

 柄の部分は飴色に焼かれた玉ねぎで、渦巻きの部分を表現しているのかな?

 その下の棒の部分はソースみたいだ。お花にあたる部分が生ハムで、葉の部分はルッコラで飾られていた。

 めちゃ美味しそう。

 あと、豪華にも金粉がたくさん振りかけられていて、とても贅沢な感じだった。


 隣に座っている養母様が、自信たっぷりに仰った。

「前菜は、モーゼの杖と光の一族のコラボレーションですのよ。金粉で光の一族感を出してみましたわ」

 と、笑顔を私に向けられた。


 養母様、面白すぎですよ……。

 でもお味のほうは、見た目の期待感通りでとっても美味しい、他の皆さまもお食事を楽しんでいらっしゃるようだ。


 私の周りで笑顔が溢れる食卓…… 前世ではそんな経験したことなかった。家ではインスタントラーメンを自分で勝手に作るだけだし、学校でも友達もいなかったから、楽しいという気持ちはなかった。ただ、学校の給食は貴重な栄養源だったし、給食のおばさんに感謝しつつ、美味しく食べていたけれど。


 こういう食卓、とっても楽しいなって、すごく思った。緊張してマナーがどうしようとかテンパってたけど、なんか、そんなに気にしなくてもいいかっていう気になって、食事を楽しもうって思う自分がいた。

 私をこんな風な気持ちにさせるのも、養母様の采配なのかな?

 だったら本当スゴイ……ちょっと分かりづらくはあるけれど。

 まあ、その点に関しては、あえて気にしないでおこうと思う。


 そんなことを取りとめもなく妄想していたら、前菜が終わり、次はスープがやってきた。

 給仕人が言う。


「モーゼの、海割れ風スープで、ございます」


 な、なんか給仕人さん、言いながら笑い堪えてて、大丈夫かな? ちょっと心配になってきたよ?

 よく見たら、確かにスープ皿の真ん中が道のように空いていて、コンソメスープかな、黄金色の美味しそうなスープが、両サイドに分かれていた。

 養母様が自信たっぷりに教えて下さった。


「スープをジュレで堰き止めておりますのよ。古来より伝わるモーゼの海割れを、スープで表現したくて、わたくしもアイデアをひねり出しましたわ。スプーンで崩して頂くと良いですわよ」


 おお、養母様のこだわりが見えるな……まあ、努力する方向性が正しいか正しくないかは、よく分からないけど。

 私は、せっかく堰き止められているの、崩すのちょっと勿体ないなあとか思いながら、でもゆっくり崩してひとくち口に運んでみた。


 おいしい……。でも、前世で食べたことある寒天みたいな感じかな? っていうか、前世でジュレって食べたことないんだった。イメージ的には給食に出たことあるゼリーみたいなやつって勝手に想像してるんだけど、それよりもここのジュレは、少し硬めなイメージだ。


 私が料理上手なら、アニメの異世界レストランみたいな感じで色んな料理を披露して教えてあげられるのにな……。

 なんせ、まともな料理は調理実習くらいしか経験ないもんだから、知ってる料理もそんなにないんだよね。後は、アニメで見たメニューを調理実習の経験でどれほど再現可能かっていうところか……。

 調理場貸してもらえるなら、ちょっと何か挑戦してみたいな……もちろん、生活に余裕がでてきてからだけどさ。

 養母様のアイデア料理見ながら、そんなことが頭に過った。

 給仕人さんが笑い堪えるほどのアイデア料理は、まあ、ある意味できないとは思うけれど、前にアニメで見たあるあるのやつ? 現代から転生してきたんで歴史を百年ほど早めてしまった、的なやつ? ちょっとやってみたいな。

 でもとりあえずジュレがあるし、結構進んでいる気もする……一体どこまで早められるだろう…… 逆に、後退させてしまうかも? まあ、それはそれで新しいか?


 などと、しょうもないことを取り留めもなく考えていたら、次はどうやらメインディッシュらしい。

 給仕人が言う。


「ノアの箱舟風、色とりどり、肉のつがい、盛り合わせで、ございます」


 おお、なんということでしょう! 一流貴族に使える給仕人が、こんなに笑いを堪えて声震わせているなんて!?

 どんなお肉かの説明するのも声が震えていて、なんかよく分かんないところもあった。

 どうやら豚、鶏、鹿はあるらしい? あと猟で獲った鳥とか、けっこう鶏肉が多いように聞こえた。

 それと、”つがい盛り”という名前がつけられてるだけあって、右側がオスで、左側がメスだと教えてくれた。

 養母様はこれまた自信たっぷりに、仰った。


「ノアは箱舟には、動物を”つがい”で乗せられたと伝わっておりますのよ。ですので、”つがい”というところには、特にわたくし、こだわりを持ちましたわ」


 養母様、相変わらず面白すぎます……。

 美味しそうな焼き色がついていて、見た目にはオスだのメスだの全く分からないんだけど、養母様にとっては一番のこだわりどころらしい。

 おまけに、


「料理名を『色”とりどり”』にしましたのは、様々な種類の”鶏肉”が入っている”盛り合わせ”であるという一種のジョークを、メインディッシュには取り入れてみようと思いましたの」


 などと、意気揚々と仰る。


 フルコースのメインディッシュのネーミングに、ダジャレいれる人、初めて見ましたけど?

 これは給仕人さん、料理名言うとき笑い堪えるの、相当大変だったろうな。プロって凄いな、改めて思った。


 ふとルシフェルのほうを見ると、ちょうど給仕人によって料理が運ばれてきたようで、相変わらずお腹抱えて大笑いしている。


 わ、分かるな。ちょっとルシフェルとは気が合うかもしんない。ルシフェルの好感度を第一印象よりもやや上方修正しておこう。


 私は自信たっぷりな養母様に、思わず質問してしまった。

「非常に愉快な……、いえ、想像力溢れるお料理の数々ですが、いつもボールドウィン侯爵家ではこのようなお料理が並ぶのでしょうか?」

「まあ、さすがにそれはございませんわ。今日は歓迎会ですので特別ですのよ。お食事、楽しんでいらっしゃいまして?」

 楽しむというより、どちらかというと面白いほうが勝つんだけど……

 とか内心思いながら、私はうっと堪えて、

「とても楽しんでいます、養母様」

 とニッコリ笑顔で答えた。

 今のはなかなか貴族風スマイル、上手にできたのではないかと思っている。

 でもまあ、こんなお料理が毎日続いたら、笑い堪え過ぎて腹筋が鍛えられ、シックスパックとかできちゃうかも知れないんで、毎日じゃなくてホントに良かったなあって思った。


 すると、私の向かいに座るルシフェルが、「俺は、こんな面白い料理なら、毎日でもいいけどな」などと言って、まだ大笑いしている。

 ん、ルシフェルは、シックスパックを目指しているのだろうか?

 男子の中には鍛えるのが好きな子、いるもんね。

 でもまあ、できれば私のいないランチにしてもらいたいな。

 時々なら全然楽しくていいんだけど、毎日となると、さすがにこれ、色々大変過ぎる気がするなって思った。


 ふと養父様に視線を向けると、

「もう笑うのはその辺にしておきなさい……気持ちはわかるが」

 とか仰って、ルシフェルを窘められるのか、同調路線なんかよく分かんない。

 ルーク兄様はというと、

「味は美味しいのだが、この奇想天外な発想は我が母上ながら……」

 と、どうやら困惑されているようだ。


 養父様の微妙なお気持ち、よく分かるな。

 ルシフェルの気持ちも確かに分かるんだけど、でも笑いすぎて、いつまで経っても食事進まないし、気になっちゃうよね。

 ルーク兄様のお気持ちも、ホントよくわかる。なかなか船盛りにお肉って発想、ホントないよね。


 いや、ちょっと待って。でもそれってひょっとして、私が日本人だからそう思うのかな?

 そういえば、船盛りと言えば、魚のお刺身だと思うんだけど、お魚さんはこの辺りでは獲れないのかな?

 養父様にお伺いしてみたところ、魔力枯渇が海も深刻で、とりあえず海辺近くの神体山を解放して魔力を奉納し、海にも魔力エネルギーを注ぎ込まないといけないらしい。今も魚は海に住んでいるには住んでいるんだけど、瘦せ細って数も少なくなり絶滅の危機もあるらしく、今は漁猟禁止の王命が出ているのだそうだ。


 それは残念。お魚さん食べたかったのに。


 次の神体山解放は、海辺近くの神体山でありますようにって、自分の部屋に戻ったらモーゼの杖に、人知れず願掛けしとこうと思う。


 そうこうしてるとあっという間にデザートになった。

 給仕人が言う。


「カスタードタルトと、ローズティーで、ございます……」


 おお? 最後はやけにまともな感じ? いやまあこれが普通なんだけどさ、でもおかしいな、給仕人さん、やっぱりまだ笑い堪えてる感じがする。


 見ると、カスタードタルトとローズティーには薔薇の花びらが一枚ずつひらりと浮かび、タルトにはまた金粉が、たくさん降りかかっていた。

 うーん……見た目にはとても可愛らしい感じで、特におもしろ要素はないように思うんだけど……。

 この金粉は分かるよ、光の一族感を出してるんだよね。

 すると養母様が、これまた自信たっぷりに仰った。


「薔薇の花びらは、ノアの箱舟をイメージしておりますのよ。ローズティーに浮かぶ花びらは、海の上を漂う箱舟、カスタードタルトの上の花びらは、”ノアの箱舟、月面着陸”のイメージですわ。やはり、スケールは大きくないといけませんものね、ほほほ」


 と、満面の笑みを私に向けられた。


 いやいや、面白すぎるよ養母様?

 あと、ちょっと待って、”月面着陸”とか意味わかんないよ?

 ノアの箱舟が海を航海したのちに、行き着く先が”月面”なんですかね?

 そんな宇宙規模のお話でしたっけ、これ??


 養母様の言葉に、周りにいる皆んな、ボールドウィン侯爵家の皆さまだけでなく、メイドや給仕人たち全員、思わず大爆笑してしまった。

 向かいの席でルシフェルが、「ノアの箱舟って月面着陸すんのかよ! 聞いたことねー!」とか言って、お腹抱えて大笑いしている。

 でも、養母様は真剣そのもので、ルシフェルに、


「まあ、何を笑うのです? わたくしが『大船に乗ったつもりで』とソフィーに言ったからには、海どころか宇宙すらも航海できるほどの頑丈な大船であるということを、最後にアピールしなければ、全く何の意味もございせんわ。

 とにかく、我が家に養女として来たからには、何の心配も要らないと、これでお分かり頂けましたわよね、ソフィー?」


 わ、私に振らないで下さい! 養母様!

 別の意味で、余計に心配になりましたとか、言えるわけないですよね!?


 私はもう顔真っ赤になって、俯き加減で両手で顔を覆いつつ、必死に笑いを堪えていた。


 でも、まあ、物は考えようよ。

 私が最初一瞬頭に過った陰険系の心配は、もう全く必要ない。そんなの絶対ありえないというのは、本当に良く分かった。

 養母様は良くも悪くも想像力溢れ、楽しすぎる方だ。

 私が養母様にどこまでついていけるか分からないけれど、これもきっと私の光の魔力を増やす修行の一環なんだろう、とにかく必死に頑張ろう、私はもう、腹を括った。


 私は少し笑いが落ち着いてきたので、

「養母様のご厚意、感謝いたします。毎日が楽しみです」

 とだけ言ってみた。声が上ずって、これ以上喋ることができない。


 それにしてもこのタルトの上にたっぷり降りかかっている金粉、月面着陸イメージに、光の一族感を強調しているのかと思うと、余計に笑えてくるな、ホント。

 でも、よくよく見たら、昨日の神体山解放のイメージにも似てるかも? タルトが一枚岩で、金粉が祝福みたいな?

 ちょっと話題を、月面着陸から逸らしてみようかな。


「養母様のノアの箱舟月面着陸のイメージもステキですが……」

 だ、ダメだ、笑っちゃダメだ……

 私は笑いを堪えつつ、気を取り直して続けた。

「昨日の神体山解放のイメージにも少し似ていると思いました。ちょうど魔力が神体山解放レベルにまで満たされたときに、一枚岩がこのように黄色……というか、金色に近いイメージですが光りだし、周りに降りかかっている金粉は、正にその時神体山全体に降りかかった、光り輝く祝福とも重なるなあと、思いました」


 すると、養父様が、

「なるほど、神体山解放の情報が極めて少ない中で、ソフィーの話は参考になるな」

 と感心され、ルーク兄様が、

「予め情報を知っていると、現場で狼狽えずにすむ。貴重な情報をありがとう、ソフィー」

 と感謝されたのに、ルシフェルが、

「月面着陸の前に岩面着陸か、予行演習できるじゃん。良かったな、母上」

 と、話を元に戻してしまった……


 しかも、見事な三段オチ、芸人一家か何かですかね、こちらの皆さまは?

 まあ、面白いからいいんだけどさ。

 私だけじゃなく、周りにいる人たち皆んな巻き込んで、大笑いだし。


 それにしても従業員の皆さんも一緒に、こんな楽しい和やかな雰囲気。一流貴族っていうからもっと堅苦しいのかと思ってたけど、なんかほっとした。

 クラウス先生が心配しなくていいって、言うわけだ。


 で、養母様は養母様で、ルシフェルの言葉を受けて、


「まあ、岩面着陸なら、せっかくの大船が小舟になってしまいますわ、どうしましょう?」


 と、さらなる爆笑をさらっているし、従業員をも巻き込んだスケールの大きすぎる一家団らん、こうやって日々自然と楽しくハッピーな気持ちになって、光の魔力も自然と養われていくのかな?

 私は前世で色んなアニメ見たけれど、こんな魔力増幅法はなかったと思う。実に新しいな。しかも全然辛くない、というかむしろ楽しくて、幸せだ。


 ……幸せ。

 そんな気持ちになったの、生まれて初めてだ……。


 何か、色々心配して、ディナーの前は緊張し過ぎて、食べ物が喉通らないかもって思ったりしてたのに、誰が笑い過ぎで、食べ物通らないことを予想しただろう?

 さっきの緊張を返してもらいたいくらいだよ、ホントに。

 まあ、嬉しい悲鳴なんだけどさ。

 思わず顔が、ほころんじゃうもん。


 こんなに楽しく幸せな気持ちを教えて下さったボールドウィン侯爵家の皆さまと、この家に養女に来るように計らって下さった王様には深く感謝しつつ、この世界のために私ができること、精一杯取り組みたいなって、心から思った。

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