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闇と光の物語 ~神が人間を創造した理由~  作者: synaria
長期休みから王立学院二年生
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モーゼの十戒のつづき

 あと、『隣人に関して偽証してはならない。』っていうのは、ちょっと解釈が難しいなって思った。嘘ついちゃダメってことなのかな?

 でも、この世で嘘ついたことない人なんて、いないと思うんだけど。

 よく分かんないのでクラウス先生に尋ねてみると、目の付け所が素晴らしいと、褒めて頂いた。


「偽証も、広い意味では嘘なのですが、ここであえて十戒の教えが、『嘘をついてはならない』ではなく『偽証してはならない』となっているところが、最も重要なポイントです」


 そしてクラウス先生は、丁寧に教えて下さった。

 偽証とは、主に裁判で用いられる言葉なんだけど、それと似たような意味を持ち、「公の場における証言」という重みを持っている場で「偽証」がなされていないか、つまり、嘘がつかれていないか、ということが重要なのだという。

 「公の場における証言」で嘘がつかれた場合、責任ある立場の者が、多くの者に不利益を与えることとなり、それを禁じている、ということだ。

 なので、王族は特に”神の御意志”を貴族たちに伝えて世界のために色々動くことがあるんだけど、その”神の御意志”を偽って、嘘を伝えるなんてことはありえないし、また、特定の人間に肩入れして、”神の御意志”を捻じ曲げて伝えるとか、そんなことなどもっての外だそうだ。

 もちろんこれは、”神の御意志”に限らず、責任ある立場の者は全員、『隣人に関して偽証してはならない。』という教えを守らなければならないと、真剣な顔でクラウス先生は仰った。


 ……それは、本当に重要なことだなあと思った。

 よくニュースで見る悪徳政治家が、献金くれる特定の”お友達企業”に肩入れして、有利に導いたり、他の真面目な企業には不利益を与えるとか、そんなことはこの世界ではもっての外なんだな。これが守れているならば、すごく良いことだと思う。

 他の教えは、ちょっとピンと来ないなあと思うのもあったけれど、この『隣人に関して偽証してはならない。』という教えはホント、前世でも皆んな守ったらいいのにって、めちゃ思っちゃった。


 という訳で、モーゼの十戒の私的感想は、生まれ育った環境が普通なら、守れそうな教えばかりだけど、前世の私のように虐待に遭ったり、貧しい生まれだったり、生まれながらに欲深かったり、普通以上の家庭環境だけど甘やかされ過ぎて後天的に欲深くなった人間には、守るのが難しい教えかも知れないと思った。

 でも、難しいというだけで、絶対に守れないというわけではないと思う。正直、その人の持って生まれた性格によるところもあると思うし……だって、生まれが貧しいからって心荒む人ばかりじゃないと思うから……


 で、私は一応十戒を守れそうなんで、十戒を守ったら、神は民を真の幸福に導くことを約束して下さるらしいけど、じゃあ私は真の幸福ルートに、これで乗れるっていうことなのかな?

 っていうか、前世の意識が私はやっぱりまだ強いんで、それ守ったからってホントに真の幸福ルートに乗れるとか、実はあんま信じちゃいない自分がいるんだけどね。

 なんか、この十戒を人々に守らせたいために、誰かが後付けで「神様が幸福にしてくれるから、守ってね」って、勝手に付け加えたんじゃないかとすら、思ってしまう。まあ、実際のところはどうなのか、わかんないけど。


 クラウス先生は説明された後、私のほうをじっとご覧になって、仰った。

「……どうでしょう、ご理解頂けましたでしょうか」

 なんか、クラウス先生の瞳が『十戒守れそうですか』って仰ってる気がして、私は笑顔で頷いた。

「はい、大丈夫です。ただ……」

「ただ?」

「その、個人的には『あなたの父母を敬え』のところが少々気になりました。今は、ボールドウィン侯爵家の養女となり、養父様や養母様のことは心から敬えますけれど、今はもういない生みの両親は、その……敬えと言われても、敬えないんですが……」

 私がそう恐る恐る言うと、クラウス先生が仰った。

「もちろん、ソフィー様のような過酷極まりない状況下にいる子供たちも、残念ながらこの世にはいます。色んな親がいて、子供に虐待する親がいたりもすれば、『神なんぞ信じるな! 敬うな! 親を敬え! お前は親の言うことだけを聞いていれば、それでいいのだ!』などという親も、実際にはいるわけです。ですのでこの教えは、どんな親でも敬えというのではなく、神の教えを守れていない親の事は、そもそも敬う必要ありません。神はこの世界の創造主であり、つまりそれは人類の父親という視点もあります。ですからそのような過酷な状況下に置かれた子供たちの場合は、親ではなく神を敬えば良い、という事になります」

 なるほど……とにかく創造主たる神様が絶対だという、”神様絶対主義”っぽいみたいだ。

 でもまあとにかく、虐待最低親を敬わなくていいというのは、朗報過ぎる、本当に良かったと思う。


 でも、その神様絶対主義っぽい視点で立って、モーゼの十戒を簡単にまとめちゃうと、上の四つの教えは『神様を信じてね』っていう雰囲気で言ってるような気がするし、下の六つは『欲に溺れないでね』っていう雰囲気で言ってるような気がしてきた。

 それにしても、教えが十あるうち四つを『私を信じてね』系にしちゃう神様は、ちょっとかまってちゃんっていうか、お子さま思想がおありなのかな?

 それでなくても熾天使には炎のごとく熱烈に敬われ、他の天使からもめちゃ尊敬されているというのに、人間からもそんなに敬われたいなんて、なんだろう、何を求めてらっしゃるのかなって、ちょっと思ってしまった。

 神様は創造主だし、この世界で作れないものなんてないはずなのに、その神様が求めていらっしゃるもの、もしあるのならばそれは、なんだろう……

 それにあと、後半部分の、『人を殺さないでね』とか『人のものや伴侶や財産を盗まないでね』とか『淫らな行為はやめてね』とか、もちろんそうなんだけど、あえて十戒入れる必要があるのかというか……十戒の中にある『隣人に関して偽証してはならない。』という教えに比べたら、ちょっとお子さまチックな発想だなあって思ってしまった。

 でも逆に、そのシンプルさがいいんだろうか。

 いやむしろ、そのような簡単なことでさえ守られないというか、守ることができない人間が、どうしてもやっぱりこの世の中にはいるので、だからこそきちんと書き記しておかなければならない、ということなのだろうか。

 もしくは私は前世からの転生者なので、私が十戒の教えをそんな風に、ちょっとお子さまチックだなあと考えてしまうだけなのだろうか……

 私がこんな風に考えてしまうのは、私がこの世界出身ではないことによって生まれる思想の誤差なのか、神様と人間の思想の違いによる誤差なのかどっちなのかは、私にはさっぱり分からないけれど……


 私が眉間に皺を寄せつつちょっと考え込んでいると、クラウス先生が心配そうに、私の顔を覗き込んで、仰った。

「ソフィー様に関しては、ボールドウィン侯爵夫妻を父母として敬えば、それでよろしいかと思いますよ」

 ああ、クラウス先生、今私が考え込んでるの、『父母を敬え』っていう教えに関して、まだ私が悩んでいると考えていらっしゃるみたいだ。

 心配かけて申し訳ない、すぐさま元気な様子を見せよう。

「はい、養父様、養母様を敬うのは、仮にモーゼの十戒がなくても既に行っております。教えのほうも守れそうですので、大丈夫です」

 と、私が笑顔で言うと、クラウス先生も安心されたように、笑顔になられた。

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