エイデン先生が聖槍をゲットされたので
イルスガウディム山の神体山解放が終わったので、皆んなで山を下りようとすると、山頂ではまだエイデン先生が聖槍を振り回していらっしゃるし、そして、今度はウルルの代わりにアドリアーナ先生が、宝帯でエイデン先生のお相手をされていて、なんか目にもとまらぬ速さで何が何だか全く分からない。
でもなんとなく、その熱い戦いっぷりを見る限り、その攻防が終わる様子はないなと思った。
そして、アドリアーナ先生の登場でウルルはお役御免となり、一枚岩に帰れたようで、それも合わせて良かったなって思った。
って安心していると、クラウス先生が、私に話しかけて来られた。
「エイデン先生とアドリアーナ先生は、聖具の使い勝手を色々試されているようですから、お二人は山頂に残し、他の者は下山する事に致しましょう」
そして、騎士団の皆さまや、選抜生徒たちにも指示を出し、皆んなで下山することになった。
「そう言えば、私が神体山解放中の、アドリアーナ先生の宝帯を用いた実戦、どんな感じだったのでしょうか」
私はクラウス先生に尋ねると、凄く感心されたように、仰った。
「それはもう、凄かったですよ。さすが聖具といった感じです。対抗戦のときと同じように、四方八方に帯を飛ばし、遠方にいる雑魚魔物を撃退したり、キマイラアグリネスが現れたときも、帯で縛り上げ、身動き取れなくなったところを、エイデン先生が真上から槍でひと突き、連係プレーを披露されたり、正直、キマイラアグリネスが選抜生徒たちの前に現れたら不味いと思いましたが、その猶予もなくお二人が、あっけなく片付けてしまわれました。アドリアーナ先生は、間近にいる魔物を剣で捌きながら宝帯を駆使しておられましたから、その動体視力と瞬発力にも、非常に驚きましたね」
と、アドリアーナ先生と宝帯を大絶賛された。
そうか、聖具はめちゃスゴイんだな。そして、それを使いこなせるアドリアーナ先生は、もちろんのことだ。
私とガードの皆さんが山道から一枚岩まで最初進んで行ったとき、アドリアーナ先生は斜め後ろにいらっしゃったので、俯き加減の私には良く見えなかったけれど、恐らくは宝帯も剣も、大絶賛活躍中だったんだと思う。
そして今回エイデン先生が、聖槍を手に入れられた。なんかさらに、心強くなったな。ホントに嬉しい限りだ。守りが厚いと神体山解放に集中できるもんね。
まあ、唯一の心配事と言えば、聖槍をエイデン先生に授けたのが、神のメッセンジャーである大天使ガブリエルなので、妙な言い回しに拍車がかかって、武術を専攻している生徒たちを呆然とさせ、皆んなの呼吸が止まったりとかしないといいなって、ちょっと思うくらいだ。
そう言えば、大天使ハニエルはアドリアーナ先生とどことなく似てたけど、大天使ガブリエルはどちらかと言うと中性的な感じなので、筋肉隆々なエイデン先生と似ているとは、全く思わない。
なので、きっと大丈夫じゃないかな? そうはならないと、心から祈っていよう。
それはそうと、私は大天使ウリエルが守護天使になってくれるってウリエルから教えてもらったけど、大天使ハニエルと、大天使ガブリエルはそんなこと言ってなかった。
守護天使には、ならなかったのかな?
クラウス先生にちょっとお伺いしてみると、
「大天使が宣言されてないのなら、守護天使にはなってないと思います。私もですが、アドリアーナ先生やエイデン先生にも大天使の姿は見えないようですし、やはりソフィー様はモーゼの杖所持者なので別格なのだと思いますよ。モーゼの杖は、七つの聖具の中で最も重要ですので」
と仰った。
モーゼの杖は、七つの聖具の中で最も重要なのか。
まあ、魔王サタンも倒せる聖剣は除くとしても、それでも七つの聖具の中で一番重要というのだから、さすが”救済の杖”であり、“静粛の杖”とも言われるだけあるなと思った。それに見合うだけの働きをしなければと思うと、本当に身の縮む思いだけれど。
まあとりあえず、三つの神体山を解放して、三つの聖具を入れたのだから、いろいろ順調と言えるんじゃないかな、うん。
しかも、今回イルスガウディム山の解放だった……これはつまり、お魚さんがめちゃ近くなったということでは?
海に突出している神体山、エレガンドゥード山の南北に位置し海に接しているのが、南のイラエ山と、北のイルスガウディム山、つまり、海に接する神体山は、全部解放できたというわけだ!
いやっふぅ!
って、思わず心の中で雄たけびを上げてしまった……おお、やばいやばい、今日はエイデン先生と一緒にいる時間が長かったので、あらゆるところに影響が出始めているようだ。
まあ、心の声が表に出なかっただけ、よしとしよう。
もちろん、お魚さんゲットは今すぐというわけにはいかない。魔力奉納で、海に魔力を満たさないとダメだからね。私はいつ魔力奉納のお呼びがかかるか分かんないけれど、もしお呼びがかかったら、めっちゃ張り切って魔力奉納しよっと。
そんな風に未来のお魚さん料理に夢を膨らませていると、後ろからルシフェルとルーク兄様の話し声が聞こえて来た。
「エイデン先生の聖槍、めちゃカッコ良かったな! リアル『ブルー・スリー』のランスロットみたいだった!」
どうやら、ルシフェルが大好きな少年小説が話題のようだ。そう言えばルシフェル、以前私に”酔剣”の真似事させて、めっちゃ怒られて、続編の新刊買わせてもらえないとか嘆いていた気がするけれど、その処分は解けて、結局今は買ってもらえたのかな? それともまだ、おあずけなのかな?
私がちょっと気にしていると、ルーク兄様がお返事された。
「ああ、本当に。エイデン先生は槍の達人だから、聖槍に適性があるのも納得だしね。ただまあ、ランスロットはエイデン先生ほど熱い男ではないけれど……」
ほほう、なるほど。少年小説『ブルー・スリー』、まだ読んだことないけど、勇者、しかも槍の勇者は正統派勇者というんで、一番正義感に溢れていると思うから、少々熱いところもあるとは思っているけれど、エイデン先生までの熱さはないのか。
……まああの熱さは、超特殊だもんな、最後の締めには歌をチョイスするくらいだからね。
「一度エイデン先生にお願いして、ランスロットの必殺技『全関羽・青龍の呼吸 豪傑ノ型 偃月冷艶鋸大車輪』、目の前でやってもらいてー! なんて言えば、やってくれるかな?」
「……またルシフェルは、以前の二の舞を踏もうとしているのか……小説の中だけにある技を現実に人にさせて、先日こっぴどく叱られたばかりなのに、まだ分からないのか? ソフィーの”酔剣”のときに、懲りたんじゃないのかい?」
ルーク兄様はため息交じりに仰った。
ホント、もっと言ってやって。小説の中の出来事を、他人にやらせるのはマズいよね、うん。
「いや、超初心者のソフィーと違ってエイデン先生なら熟練の技で、ちょっと出来るんじゃないかなーって思っただけなんだけど……」
……なんか、沈黙が流れている……これは、ルーク兄様は相当ルシフェルを睨みつけているときに生じる“間”に違いない。ルーク兄様、怒ったら、マジ怖いからなあ、うん。
でもルシフェルは、
「もう、分かったよー、じゃあとりま俺が成人したら、酒飲んで、自分で”酔剣”やるわ」
とか、めちゃ怖いことを言い始めたんで、今度はクラウス先生がこの会話に参戦し、
「では、私がボールドウィン侯爵夫人に早速、ルシフェル様のお考えをお伝えし、成人してもルシフェル様には酒を出さないよう、提言させて頂きます」
と、きっぱり仰った。
「せ、先生、それは止めて下さい! そんなことしたら、また『ブルー・スリー』の新刊が遠のいてしまう!!」
……なるほど、ルシフェルは、私に”酔剣”の真似事させたために課せられたお仕置き、”『ブルー・スリー』の新刊不買”は、今もなお続行中のようだ。
でもクラウス先生は、ルシフェルの扱いに長けていて、やり取りちょっと面白いなって思い、思わずクスっと笑ってしまった。
さらにクラウス先生が続けられる。
「大体、酔っぱらった状態で剣を持つなんて、もっての外です。敵に攻撃するどころか、自分の身も危ういですよ? そもそも、弓の勇者アーチーの”アルティメットマギカアロー”などは、時空を超えるなんて、到底マネできると思えませんし、小説の中の出来事は、基本小説の中だけでお楽しみ頂ければと思います」
……なんか、クラウス先生も実は『ブルー・スリー』読んでらっしゃるのかな? やけにお詳しいと思った。全然いいんだけど。
でも、もしも誰かが弓の勇者のマネをして、”時空越え”に挑戦するのなら、それに関してだけは、ちょっとだけ見てみたいと思った。
で、クラウス先生の仰りように、ルシフェルはたじたじだし、ルーク兄様はそんなルシフェルを、「しょうがない奴だなあ」って仰りながら楽しく笑っていらして、私も思わずつられて密かに笑いつつ、なごやかな雰囲気で歩いていると、いよいよイルスガウディム山の山道入り口、凱旋門のところまで下りて来た。
そして、私たちが転移陣の上に乗ろうとすると、丁度そのときエイデン先生が、めちゃ超ダッシュで転移陣のところまでやって来られた。
あれ、山頂でアドリアーナ先生と聖具同志の試運転されてたと思ったんだけど、もう終わったのかな? でも、アドリアーナ先生はいらっしゃらないし……
私が不思議に思っていると、エイデン先生は、めちゃ汗をほとばしらせ、槍を空高く突き上げ、高らかに仰った。
「空は美しい! 聖槍は光を浴び輝かしい! そしてこの世は素晴らしい! では諸君! さらばだ! また会おう!!」
とか、目を爛々とさせながら仰って、ひとりでとっとと帰ってしまわれた。
……
あまりのことに、なんのこっちゃさっぱり分からない。
しかも、「ガハハハハハ!」って笑いながら消えて行くご様子は、見ていてちょっとシュールすぎるな。
でも、どうやってお一人で転移されたのかな? 転移の魔石とか持ってらっしゃるのかな? まあ、なんでもいいんだけど。
後ろを振り向くと、アドリアーナ先生は来ていらっしゃらないので、あのエイデン先生の様子から思うに、ひと言私たちにこの聖槍の素晴らしさを伝えたくて、いてもたってもいられず、ひと通り聖槍を試されたあと、お一人で速攻山を下りられたんだろうな。
まあ、アドリアーナ先生も、別にエイデン先生と共に下山するよりはおひとりのほうが気楽で良いとか思ってらっしゃいそうなので、ひとりで勝手に下山されるのは、全然いいんだけど。
……まあ、あんまり人を驚かせないで欲しいな、とは思うけどね。
なんか、聖具保持者がエイデン先生とかアドリアーナ先生とか、めちゃ個性的過ぎる面々に渡されていくので、ちょっと心配になってきた。
で、私も一応聖具保持者で、そういう視点では私もあのお二人と、一応同じ立場ともいえる。
あのお二人とは、ちょっと一緒に括られたくないかも知れない……
次なる聖具はどなたが持たれるか分かんないけれど、めちゃまともな方でいらっしゃることを、心からお祈りしようと思った。
で、空気が妙に真空状態みたいな、時が止まったようになってしまったので、この神体山解放の指揮を執られているクラウス先生、
「ま、まあ、それでは我々も、帰りましょうか」
と何だか言葉を濁されて、で、騎士団の皆さまや選抜生徒の皆んなも含めた私たちも、「ま、そうだよね」って感じで頷き合い、転移陣を使って帰って行った。




