私が娘で、いいですか……?
あと、ひょっとしたらだけど、この養母様の仰りよう、養母様なりのお気遣いも入っているんじゃないかなって思う。
だって、私がそういう”いつかはブチ当たらなければならない壁だった”と解釈すれば、きっと私が今後、二度と過去に戻ってやり直したいと心悩んで苛まれること、もう、きっとないもん。むしろ今既に、早めに経験しといて良かったかもって、思っているくらいだ。
ああ、何だろう、この感覚……手のひらの上で転がされてるって、感じ?
光の一族を裏で牛耳ると噂される養母様、マジで恐るべしだな……
養母様は、おもしろ発言が謎に謎を呼んで、いつも謎過ぎるんだけど、それも一種の『能ある鷹は爪を隠す』的なやつなんだろうか。
いやでもあれがさすがに演技とは、やっぱり思えないけれど……
まあ分かんないけど、とにかく私は養母様の今のお話、本当に有り難く、心も軽くなり、感謝の気持ちでいっぱいになった。
「養母様はもちろん、私の周りにいらっしゃる皆さまに問題点などは全くなかったと、私の視点からはそう思いますが、ですが今後も気にかけて頂けること、本当に心強く思います。また、養母様のお話は、本当に的を射ていて、曇った視界がクリアになるようで、心まで軽くなりました。本当にありがとうございました」
私は満面の笑みで感謝の意を現した。
すると、養母様も笑顔で答えて下さる。相変わらず、お美しいな……
「あと、もう必要のないことですけれど、一応伝えておきますわね。もしもイジメっ子のボスがクラス全員に貴女を無視するよう指示し、皆が無視し始めたとします。そのときに、無下に扱われても、毎日根気よく、話しかけるという解決方法も一応ありました」
「……あの、私が話しかけても、次のイジメのターゲットになるのを恐れて、返事をしてくれない人がほとんどと思うのですが」
「もちろん、最初はそうです。ですけれどね、案外人を無視するのって、疲れるものなんですのよ。二週間もしつこく話かけていれば、中にはウッカリ返事返しちゃったって子も出てきて、なし崩し的にだんだんと無視するのも面倒になって、突破口が開けることもあったりします。もちろん、絶対にそうなるとは限りませんので、期限を決めて、ダメ元で一度試してみても良かったかも知れないというレベルですけれど」
なるほど……確かにそうだ。
私なんかも、もし誰かに誰かを無視しろって言われて、最初のほうは罪悪感を持ちながら、しぶしぶ言う通りに仮にしてたとしても、数日くらい話しかけられたら、うっかり返事を返してそうだ。
そして、ハンナ様もそんなタイプのような気がするし、クラスにいた関わりたくない派の生徒たちは、案外そうだったかも知れない。
まあ、養母様の仰る通り、上級悪魔がからんでいることもあり、絶対とは言えないけど、どうしても自分自身で解決したいなら、期限を決めてチャレンジするっていうのは、良い方法だったのかも知れないな……
養母様……子供に対して諭したり、提案したり、これが本当の、親の姿なのかも知れない……
私も、最初からこの家の子供に、生まれたかったな……
って、なんだか養母様を見て、本当の親のあるべき姿を見て、なんだろう、思わず目頭が熱くなっちゃった。
でも、今はこうして養母様の養女にはなれたんだから、この出会いに今はとにかく感謝はしたいと思った。
「養母様の仰ること、心から理解できました。ただ、このような事件があったばかりで、また王立学院の先生方も『モーゼの杖所持者伝説』?みたいなのを学院中に広めていらして、もうそのような状況に陥ることもないかも知れないですが、もしも万一のときには、すかさず皆さまにご連絡しつつ、かつ、自分なりにも状況改善の努力をしていきたいと、心から思いました。ボールドウィン侯爵家の養女として恥ずかしくないよう、努めていきたいです」
私はみなぎる決意と共に、キッパリと言った。
その私の様子に養母様も少し安心されたのかな、今までで一番ほっとされたような、心からの安堵の表情をされた。そして、
「まあまあ、お茶でも飲みましょうね。堅苦しいお話は、これくらいに致しましょう」
と養母様は仰って、一緒にお茶菓子もすすめて下さった。
今日のお茶菓子は、チョコレートタルト。
タルトを見ると、一番最初のディナーを思い出すんだよね。あのときはそう、カスタードタルトだった。養母様が満月に見立てて、月面着陸を模索されたんだ。
そして今日は、チョコレートタルト。ひょっとして、新月でも表現されてるのかな?
私は、一番最初のおもしろディナーを思い出し、ちょっとクスっと笑ってしまった。
「まあソフィー、どうしたの?」
「いえ、一番最初のディナーのデザートで出された、カスタードタルトを思い出してしまって……カスタードタルトが満月なら、このチョコレートタルトは新月なのかな、とか」
私がそう言うと、養母様は自信たっぷりに仰った。
「まあ、わたくしの大船は、満月はもちろんのこと、新月にも着陸できますのよ? 例え暗くて視界不良でも心配ございませんわ。わたくしたちは、光の一族。船ごと光らせて、無事に着陸してみましょう」
養母様、相変わらず面白いな……やっぱり、ステキすぎる。
「それならば、私も安心しました」
私も笑って乗っておく。
「ですがわたくし、今回の件で思いましたの。ボールドウィン侯爵家に養女に来たからには、大船に乗ったつもりでと申しましたのに、わたくしの大船は、侯爵家くらいの大きさでは足りないことが、判明致しましたわ。わたくしとしたことが、痛恨のミスですわね。ここから王立学院、いいえ、その隣の王宮全てを呑み込むくらいのの大きさにしないとと、わたくしも心新たに致しました。ですのでソフィー、本当に安心して、大船に乗って頂戴ね」
そう仰って養母様は、これまでにないほど優しく微笑まれた。
エメラルドグリーンの瞳が一瞬キラっと光ったのは、少し涙潤んでいらっしゃるのだろうか。
心配かけちゃったな、いろんな人たちに。大好きな人たちに。本当に。
もう、こんなことは二度としない。私もホント、生まれ変わりますから。心新たにしますから。養母様にも安心して頂ける、自分になりたいな……
そんなことを考えていたら、私の頬に、一筋の涙がつたった。
「まあ、どうして泣いてるの? おかしな子ね。ひょっとして、もっと大きい箱舟のほうがいい、王宮どころか王都をカバーするくらい大きな船のほうが、いいということかしら?
さすが、わたくしの可愛い娘、安心なさい、わたくし、頑張りますわ」
養母様がそう、笑顔で話して下さる。
そのお言葉が優しすぎて、余計に涙が込み上げてくる。
……わたくしの可愛い娘。
本当に心が震えるくらい、嬉しい言葉だった。
「……私も、養母様に安心して頂けるよう、ノアの箱舟の立派な乗船者になれるよう、日々、頑張りたいです」
私は泣きながら、それだけ必死に伝えた。これ以上は涙が溢れて、何も言えない。
変な言い回しなのは百も承知だけど、これ以上話せないんで、言い繕うことはできない。
すると養母様は、優しく仰った。
「ソフィーはただ、元気に明るく笑っていれば、それで良いのですよ」
養母様の満面の笑みは、光の一族の名に恥じないほど輝いていて、私の心を明るく照らした。
だから私は、さらに余計に泣けてきて、思わず顔を、両手で覆った。
昨日は養母様とのお茶会のあと、ディナーもボールドウィン侯爵家で取り、養父様にも笑顔の私を見せ、「安心した」という言葉を頂き、楽しく過ごした。
そして、王立学院には今朝戻って来て、毎週日曜日に行われる礼拝を受けるため、そのまま講堂へ直行した。
一時間半ほどの礼拝が終わると、そのまま朝礼、全校集会になった。
今回の上級悪魔潜入事件については、既にクラス単位で先生からお話はあったんだけど、全校集会でのまとまった話はまだなかったので、今日は何故かエイデン先生が壇上に立ち、季節的にはまだ初春なのに、春の訪れどころかそれをすっ飛ばして夏真っ盛りなんじゃないかと思うほど暑苦しく、事件の経緯を説明され始めた。




