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闇と光の物語 ~神が人間を創造した理由~  作者: synaria
転生から王立学院一年生
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クラウス先生の事後処理案

 あとジョルジュ先生もなんだけど、反省しきりなのは、クラウス先生もらしい。


「私は今回、力不足を心より痛感致しました。……その、親から愛情を受けて育たなかった子供が、どれほどの傷を持ち、その傷と共に人格形成がなされていくか、私は本当の意味で、知らなかったんだなと、身に沁みて感じました」


 ……そんなの、知らなくていいよ。きっと、体験しないと、分かんないから。

 貴族のご子息ご息女の皆さまは、親の期待と愛情を受けてお育ちになるんで、それはそれでお辛いこともあるかも知れないけど、でも私と真逆の環境で育った方々が、私の考えややることが、その常識の中に入らず、理解できないのは極めて自然なことと思う。

 それにしても、そういうことが分からないほど両親の愛情を受けてこられたクラウス先生や他の貴族の皆さまが、心から羨ましいな……とは、思った。


「とにかくソフィー様は、何があってもご自分のことを一番に考えるのです。ボールドウィン侯爵家の養女となって、もう一年以上経ちました。モーゼの杖所持者だからという王命だけでなく、ひとりの家族として、侯爵家の皆さまはソフィー様を大切にしていらっしゃいます。

 そして……私もそう……言うなれば、大きなお兄さんという立ち位置でもよろしいでしょうか、私だって負けず劣らず、ソフィー様を大切に思っております。ですので、何よりもご自身の身を案じて頂きたい……ソフィー様、私とお約束、できますか?」


 クラウス先生は、黒に近い深い紺色の闇色の瞳で、私のことをじっと見つめられた。


 ああ、こんなにも心配させて、私はいったい、何やってんだろ……

 バカの浅知恵とはこのこと、私ひとりが必死に思い悩んだところで、何の問題の解決にもならないどころか、余計に問題をこじらせて、余計に酷い……っていうか、最悪の顛末を迎えることが、身に沁みて、よく分かった。

 だからもう、ルーク兄様にも誓ったけれど、私はもう自分ひとりで抱え込まない。

 私が、人から忌み嫌われる存在であると知られることが、どんない恥ずかしく、情けなくでも、もうそれは仕方ないって割り切らないと。だってそれが、私なんだから。

 もう、変に取り繕うのは、やめよう。

 そして、素直に助けを求めよう。


「はい、必ず助けを求めます……その……お兄、さま……?」


 私が、クラウス先生の様子を伺うように見ると、クラウス先生はすぐ視線を彷徨わせ、困ったように、笑われた。


「その、”お兄さん”というのは、家族のように大事に思っているという、ひとつの物の例えでして……」


 クラウス先生の、その戸惑ってる様子が、いつもと違って可愛らしくて、私は思わずクスッと笑ってしまった。


 クラウス先生は、動揺を隠すようにひとつ咳ばらいをされてから、今後、対内及び対外向けに、この事件をどのように説明するかについて、かいつまんで私にお話された。


「事件の前日にソフィー様は、王立学院中をくまなく歩かれていますが、それは、『モーゼの杖を授けた”予言”を司る大天使ウリエルのお告げを聞いたソフィー様が、事前にくまなく学院内を捜索、様々な対処を施し、ソフィー様のお陰で被害は最小限に済んだ』、という方向性で、皆には大々的に報告することになりました」


 え、なんという、そんな嘘八百、大丈夫なんですか?

 確かにウリエルは”予言”も司ってるって習ったけれど、それをこんなところで使っても、大丈夫なんだろうか?

 ちょっと心配になってきた……


 でも、クラウス先生は私の心配をよそに、さらに話を広げられる。


「それに加えて、モーゼの杖所持者であるソフィー様は、王族同等で、王族に庇護される存在であることを公言、また合わせて、神と王族の剣である”光の一族”にも守られるべき、尊い存在であることを、宣言致します」


 な、なんという恥ずかしいことになるんだ、そんなに守られては、友達は一生できないな……できなくてもいいのか、今までだって、いなかったんだし。


「この世界を救うモーゼの杖を持つソフィー様に、危害を加える者は、生徒であろうと誰であろうと、何人たりとも許さない、というメッセージを大々的に出して、今後このような事件を二度と起こさぬよう、生徒たちの意識を早急に改革して参りたいと思っております。どうぞ、お任せください」


 クラウス先生はそう、決意に満ちた表情で、きっぱりと私に宣言された。

 これは、反論とかは、できない感じなんだろうな。

 恥ずかしいの極みだけれど、でもそれで、被害が最小限になるのなら、そっちのほうが全然いい。


 もしも私が、一番最初に『空気が悪いな……』と感じたときに、早急に問題を報告していたら、あの取り巻き女子たちは下級悪魔に乗っ取られて死ななかったかも知れないし、その他の貪汚に蝕まれた生徒たちだって、貪汚精神病患者専用の隔離病棟送りにならなかったかも知れない。

 だから、この世界のことをまだキチンと知らない私が、素人の浅知恵で考えるのではなく、例え恥ずかしくても、全て、クラウス先生たちに委ねたほうがいいんだ……

 私も考えをそう改め、決意を新たにした。


 新たにしたんだけど……

 でも、恥ずかしいのは恥ずかしいんで、顔が赤面してしまうのは、仕方ないよね。


「……その、私が、大天使ウリエルの予言を受けて、学院内をうろつき問題解決とか、他にもいろいろ恥ずかしいと思うところが多々ありますが……でも、先生たちが様々な視点から考えて、そのように取り計らって下さったに違いありませんから、先生たちの決定に、全て従いたいと思います。よろしくお願いします」


 私はそう言って、少し困りながらもはにかみ笑うと、クラウス先生が今までにないというくらい、ほっとした表情になられて、私の頭をぽんぽんとし、優しく微笑まれた。



 クラウス先生がこの客室から退室され、私が残りのシチューを頬張り、キレイに完食した後、宮殿のメイドさんの付き添いで寮に戻ると、ドミが出迎えてくれた。


「ソフィー様、よくぞご無事で……!」


 跪いて私に敬意を現すドミ……でも、そんなことしないで、ルーク兄様にすぐに知らせてくれたドミは、私の命の恩人同然なんだから……

 私は屈み、ドミの腕をそっと取って、立ち上がるように促した。


「ドミ、心配かけました……ルーク兄様に伝えてくれて、ありがとう。お陰で助かりました。心から、感謝します」


 ドミの目は、涙で潤んでいた。よっぽど心配していたんだな……

 私は、ドミの手を取って、きゅって握った。するとドミも、私の手を握り返してくれる。


「もったいないお言葉です。主に危険が及んでいると思えば、ありとあらゆる手段を講じるのは当然のこと。お役に立てて、何よりです……」


 お互い、頬に涙が伝わる。でも、もちろん悲しいわけじゃない。

 安堵の表情で、微笑み合った。



 それで、ドミと感動の再会を果たした後は、着替えとか手伝ってもらって、ベッドに突っ伏した。

 丸一日寝ていたというのに、どうしてかな、お腹がいっぱいになると、また眠くなってくる。本当不思議。


 ほっとしたのかな……


 ドミははなんか、「お茶を入れましょうか」とかなんとか言ってるの、遠くのほうで聞こえたような気がしたけど、最後までは聞き取れなくて、私はそのまま、知らない間に眠りについてしまった。



 翌日ドミに見送られ、授業に出席しようと教室に入ると、既にジョルジュ先生がいらして、私に話しかけて下さった。


「この度は本当に、全てが至らず申し訳ございませんでした」


 深々と謝罪されるジョルジュ先生、とんでもないことだ、謝らなければならないのは、私のほうなのに。


「顔を上げて下さい、ジョルジュ先生。私はケガもありませんし、大丈夫ですから。それよりも、今回のこと、もっと先生に早く相談すべきでした。私のほうこそ申し訳ありませんでした」


 私もジョルジュ先生に習って、深々と頭を下げる。


「いいえ、もっときめ細やかに状況を見るべきでした」

「そんなことはありません。私はあの時、ジョルジュ先生が私が犯人ではないと信じてくれたから、だからとても心強かったのです。だから感謝しています。ありがとうございました」


 お互い何だか手を取り合って、半ばエンドレス風の謝罪や感謝の言葉を被せ合っていると、授業が始まる時間になった。


 クラスの中にいるのは、五人ほどの生徒だった。

 あまりに少ないと思う。

 半数ほどの生徒たちが、私のことを妬ましく思い、貪汚に蝕まれてしまい、酷い生徒は死んでしまったり、命が助かっても貪汚精神病患者専用の隔離病棟送りになったけれど、残っている生徒が五人ということは、絶対にない。

 きっと、恐怖のあまり授業に出てこれないとかで、単位さえ足りていれば、もう今学期は授業に来ないのかも知れないな。


 それもそうか。ひょっとしたら自分も、最悪死んでいたのかも知れないんだから。


 闇クラスに来て私やクラスメートたちを見たら、いろんな過去がフラッシュバックすると思い、恐怖で足がすくんで来られないのかも知れないな……

 そして、私を睨みつける層がいなくなったクラスは、少しほっとはするものの、関わりたくない層が完全に萎縮してしまっていて、空気がとても、張りつめている。


 これはもう、私ではどうしようもないよね……


 変に話しかけて、恐怖に怯えさせるわけにもいかないし、私も残りの登校日、残すところあと十一日なんで、消化試合のように、日々過ごそうと思う。

 人からイジメられなくなっただけでも、大前進よね、うん。一日ずる休みもしてしまったし、残りは最後まで、きちんと通いたいな。


 ジョルジュ先生の授業は、今日は本当なら、魔石の勉強&収集した魔石の基本的な使い方などを説明する授業だったんだけど、それは急遽なくなって、一連の上級悪魔王立学院侵入事件の話になった。

 事件の経緯から始まって、謎のウリエル予言で、学院内散策による私のお手柄設定話は、聞いてるだけで穴に入りたいほど恥ずかしく、ひたすら俯いていたけれど、いかに悪魔のささやきに耳を貸さず、自己を保てるか、ご自身の教育不足を謝罪されつつ、熱心に、丁寧に説明されていた。


 ふと見ると、涙ぐんでいる生徒もいるな。それもそうだよ。私は現場にはいなかったけれど、突然同級生が、下級悪魔に変貌し、暴れまくるんだから。

 こういうのを見ると、改めて自分の浅はかさを恨んじゃうよね。もちろん、諸悪の根源は上級悪魔なんだけど、でも、絶対にこれからは、何か異変を感じたら、ありとあらゆる人に相談しようって、もう、心に誓わずにはいられないな、うん。


 ちなみに、貪汚精神病患者専用の隔離病棟送りになった生徒たちは、精神が壊れていて回復の見込みがないので、ただひたすら魔力供給だけのために、生きていくことになるそうだ。

 最初の妬みは、ほんの少しだけだったかも知れない。

 でも、その妬み増幅させた慣れの果てが、その一生だ。

 まあ、人をずっと妬んだまま、怒りに震え心を焦げつかせて生きていくのか、何も考えずにひたすら魔力奉納だけする一生か、どちらがいいのかは、私には、分からないけれど。


 それからジョルジュ先生は、これまた恥ずかしい、私が王族同等だとか歯の浮くような話をされてから、授業を終えられた。


 私はいつも授業と授業の休憩時間は、教室の雰囲気がイヤで寮に戻ってるんだけど、今日は雰囲気がイヤというよりも、ジョルジュ先生の話が恥ずかしすぎて顔めっちゃ赤いんで、とっとと教室を出ようと思った。

 でもその時、私のことを引き留める声がした。


「ソフィー様」


 私が振り返ると、そこにはハンナ様がいらっしゃった。

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