私が、ひとりで後始末に
あの時私も、変な頼み事だなとは確かに思ったんだ。
でも、大好きな皆んなに知られなければそれでいいっていう一心で、それで後は事無きを得られるならそれでいいって思って、私はその案に乗ってしまった。
でも、それは全て、間違いだった。
どうりで昨日、私にあんなことさせた訳だ。
『魔法書を盗んだ』という証拠のないものより、目撃者多数で物的証拠もあるこの作戦のほうが、確実に私を嵌められると思ったのだろう。
そういえば以前刑事もののアニメで、犯人が『自分が殺した』と自供しても犯人にはならないけれど、犯人が凶器の場所を指定して、その指定した場所から凶器が出て来たら犯人となるっていうアニメ、見たことある。
つまり、私は自供はしてないけれど、数々の目撃者が『私がいた』と指定する場所に凶器……つまり、”貪汚の魔石”があれば、私を犯人にしたて上げられると踏んだんだ。
そして、今までのイジメの総仕上げとして、この方法で私を犯罪者に仕立て上げ、陥れようと思ったんだ。
私はなすすべなく呆然と立ち尽くしていると、ジョルジュ先生が私に尋ねられた。
「ひとまず、犯人捜しは後です。ソフィー様、昨日はどちらに行かれましたか? まずはこの貪汚の魔石を探し出し、解呪しなければ、王立学院が混乱に陥れられます」
私は、ジョルジュ先生の言葉に、今までずっと我慢していた涙が、ぽろっと溢れてこぼれた。
ジョルジュ先生は私に、『ソフィー様が犯人ですね』とは仰らなかった。
私のことを信頼して下さってるとまでは言わないけれど、とにかく私の意見を聞いて下さる猶予は下さったような気がした。
だからなんか私、思わずほっとしてしまった……。
でも、ほっとしてばかりもいられない。マケイラ様が物凄い剣幕で、ジョルジュ先生に突っかかっていた。
「ソフィー様が犯人ですわ! 目撃者が多数ございますのよ! それにソフィー様は恐ろしいほどの闇属性の魔力の持ち主、こんな魔石を作れるのは、ソフィー様以外、考えられませんわ!」
すると、ジョルジュ先生はマケイラ様に仰った。
「マケイラ様、授業で何度も申し上げておりますでしょう? 闇属性の魔力と貪汚は全く異なるものです。闇属性の魔力が強いからといって、貪汚を自由自在に作り出せる訳ではありません。ただ、貪汚に落ちないように気をつけなければならない、というだけです」
「それですわ、ジョルジュ先生! 既にこの方は、貪汚に落ちてしまっているのですわ!」
「戯言もいい加減にしなさい! 貪汚に落ちているというならば、ソフィー様は悪魔に片足突っ込んでいるとでもいうのですか? 王立学院に悪魔が入り込める隙はありません! それに今は一刻を争うのです! 犯人捜しは後だと言った私の言葉が、貴女には、理解できないのですか!?」
と叱り飛ばし、マケイラ様を黙らせてしまった。
あんなに優しいジョルジュ先生を怒らせるなんて、どっちが悪魔なんだかって感じだ。
そしてジョルジュ先生は、再び私に昨日の行動を尋ねてこられた。それで私は、指示されるがまま魔法訓練施設、闘技場、武術訓練施設、それに至るまでの渡り廊下、途中にある吹き抜け、噴水広場、庭、そして素材採集の林など、正直言って、立ち入り可能な王立学院内にあるほとんどの施設に行ったと申し上げると、ジョルジュ先生は考えあぐねてしまわれる。
それもそうだろう。私が言ったことは、つまりこの王立学院のほぼ全部を探さなければならないと言っているに等しいからだ。
それでもなにか場所を絞れないかとジョルジュ先生が考えていらっしゃると、どこか遠くの方から悲鳴が聞こえて来た!
「な、なんでこんなところに、魔物が!?」
どうやら素材採集場だけでなく、校舎からも魔物が現れ始めたようだ!
もしも、魔法が使えない平民たちも行き来できる共通スペースにも現れ始めたら、学生だけでなく、メイドや下働きの人たちも危ない!
ジョルジュ先生は、すかさず指示を出された。
「生徒たちは、私について来なさい! 一緒に非難します! 助手の先生方は現場へ急行して下さい!」
そう仰って、ジョルジュ先生は生徒たちを束ねられてから、助手の先生を悲鳴のする方へ向かわせた。
そんな中、関わりたくない系生徒たちは、顔色を真っ青にさせているけれど、睨みつける系の生徒たちは、それこそここぞとばかりに思いっきり私を睨みつけている。
いつもなら、ジョルジュ先生がいるときは、イジメがバレないようにと遠慮しているのに、もう、私を犯人に仕立て上げ、悪者として紛糾する算段が付いたからだろう、一切遠慮することはなかった。
針の筵とは本当にこのことだと思った。
すると、マケイラ様は私に「ごめんなさぁ~い」と言いながら、ぶつかってきた。よろめく私を見て、取り巻き女子や睨みつける系の生徒たちは、蔑むように笑い、私を見ている。
「そういえば、まだこちらの素材採集場には貪汚の魔石がたぁ~くさん、残っているんじゃないかしら? まあ、それはわたくしの予想ですけれど。魔物が狂暴化する前に、貴女が退治したほうがよろしいんじゃなくて? 罪滅ぼしに」
最後の”罪滅ぼしに”があまりにカチンと来て、私は思わず言い返してしまった。
「私は、そんなもの置いていませんし、だいたい入手方法すら知りません。そもそも貴女はどうしてその貪汚の魔石が素材採集場に残っていると、知っているのですか!? 貴女が置いたんでしょ?」
「まあ、わたくし? 何の証拠があって? それに、この素材採集場の中にまだ貪汚の魔石が残ってるかどうかについては、それはあくまでわたくしの予想に過ぎませんわ。なので、わたくしの予想が外れていると思えば、行かなくてもよろしいのですよ、ソフィー様?」
ニヤリと笑う顔。口角がぐいっと伸びて、口裂け女のように気持ち悪い。
そして甲高い声で、高笑いした。
私は、どうすべきか迷った。
あの言いようじゃ、この素材採集場に、まだ何かあるんだと思う。それが、貪汚の魔石かどうかは分かんないけど、でも何かあって、それは、処理しなければならない物に違いない。
こんな事件を引き起こしてしまったのも、元はと言えば、私が甘言に乗せられたのも原因のひとつだ。だから、責任を持って私が対処にあたらなければならない。
本当は、大好きな皆んな、ボールドウィン侯爵家の皆んなやクラウス先生にはこんなこと、絶対に知られたくなかった。
なかったんだけど、もうここまでの騒ぎになって、何も知られないでいられるなんてことは、絶対にない。
もう、腹を括ろう。
そして、仮に私が罪に問われ、罰を受けたとしても、少しでも大好きな皆んなには迷惑をかけないよう、貪汚の魔石の回収と、狂暴化した魔物の退治に全力を尽くそう。
大体もう、ホント情けなくて、皆んなに合わせる顔なんて、ないんだよね……
むしろ申し訳なさすぎて、顔を合わさないまま、このままどこかに消えてしまいたい……
とにかく、『立つ鳥跡を濁さず』だと思った。
私は、決死の覚悟でたったひとり、生徒たちの集まりから離れるように踵を返した。
後ろの方で、ジョルジュ先生が、「ソフィー様! お待ちなさい!」と私を制止される声が聞こえていたけれど、聞こえていないフリをして、狂暴化した魔物がいる素材採集場に、私は入って行った。
素材採集場は、確かにさっきよりも、さらに魔物が強くなっているような気がした。また、先ほどよりも魔物の量も増えている。
私は、さっきよりも数が増えたダークウルフ、そしてここにもキマイラインジェンスが現れ始めたので、出会い頭に倒していった。
正直、めちゃ怖い、ホントめっちゃ怖いんだけど、でも私はここに、最悪死んでもいいという思いで来ている。
幸い魔力は溢れんばかりにある。手あたり次第に、ぶっ放してやる!
私は半ばトランス状態なのだろうか、とにかく闇雲に、魔物を倒して行った。
そして、進めば進むほど魔物の量が多くなって行って、しまいには、キマイラインジェンスの上位種、キマイラアグリネスにまで出くわしてしまった。
「セカーレ!」
私の攻撃は当たったけれど、でも、今までみたいにすぐスパっと切られてはくれない。弾き飛ばされてしまった。なので私は少し危ないかもと思い、闇属性の防御結界を張った。
「テネムルス!」
それと同時にキマイラアグリネスは、私にブレス攻撃を放った。
うわっ! これ毒だな! 浴びちゃったら大変だ!
とりあえず防御結界の中から、何か攻撃して、HPを減らすことにした。
「テネブリスフェーラ!」
闇系の球をぶっ放す魔法である。
私はとにかく闇属性は得意なので、今の段階で結構もう最上級の闇属性魔法もそこそこ使えるようになってしまっている。なのでクラウス先生曰く、次の春休みには、闇系魔法は全て網羅する勢いなのだ。
来年も、クラウス先生の授業を受けられたらだけど……。
キマイラアグリネスは結構よろめいている。攻撃は効いているみたいだ。
でも、お返しとばかりに今度は火の玉をぶっ放してきた。
でも私は闇属性の防御結界を張っているので、ついさっき使った魔力が、これでまた補われていく。でもキマイラアグリネスには、そんなことは分からない。
私は、ちょうどキマイラアグリネスがぶっ放してきた分と同じ魔力量の攻撃を、そのまま攻撃への魔力と転嫁し、『テネブリスフェーラ』をほぼエンドレスにぶっ放しつつ、次の手を考えた。
このまま放っといても、敵のHPとMPが失くなって、私は勝てるんだろうけれど、ちょっと時間もかかるので、試しに、ミンチ肉でお馴染みの『フラクトゥス』、やってみようか……?
私は、キマイラアグリネスの様子を見た。大分体力を削ぎつつあるように思う。良い頃合いではないだろうか?
私は、呪文を唱えた。
「フラクトゥス!」
すると次の瞬間、キマイラアグリネスは粉々に砕け散って行った。
ああ、良かった……倒せたんだな……。
私は『テネムルス』を解除して、一呼吸ついた。そして、キマイラアグリネスの魔石を拾い、思った。
まだ油断はできない。貪汚の魔石を見つけるまでは。
でも、何故か目の前には魔物がすっかりいなくなっていて、貪汚の魔石もどこにあるのか、さっぱり分からない。
このキマイラアグリネスに辿り着くまでは、魔物の量も多くなっていって、いよいよ近づいているのかと思っていたのに。
どういうことだろうか。貪汚の魔石は、いったいどこだろう?
私は、辺りを見回りながらゆっくりと前に進んだ。
すると、カサッという音が聞こえ、木陰から人影が見えたので、私はその方向へ顔を向けた。
そこにいたのは、マケイラ様だった。




