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闇と光の物語 ~神が人間を創造した理由~  作者: synaria
転生から王立学院一年生
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宮殿に来た

 転移先に着くと、目の前には凄く豪華そうな外観の大きな門があって、キョロキョロ周りを見渡して見ると、門から左右に塀がどこまで続いてんのってくらい伸びていた。辺りが暗くなっているのでよく見えないだけかも知れないけれど、相当大きな敷地だなって思った。

 クラウスさんが門に近づいて魔法をかけて解錠すると、そのやたら豪華な大きな門は、ゆっくりと厳かに開いていく。私がその様子に圧倒されていると、クラウスさんは一緒に中に入るよう、私を促してくれた。

 門の前にある宮殿まで続く小道に一歩足を踏み入れ、顔を上げてみると少し先に、とてつもなく大きくて、荘厳な宮殿が、堂々と建っているのが見えた。


 前世のアニメで見たまんまだ、めちゃ大きくて、豪華すぎる……


 私は門に続き宮殿にも圧倒されつつ、クラウスさんの後をついて行った。

 宮殿の、大きく重厚な扉の前には、身なり整った老紳士が立っていた。


「執事のセバスチャンでございます」


 おお、こちらの世界でも、やっぱり執事はセバスチャンなのか!


 と、少し内心感動しつつ、もちろん執事さんはそんな私の内心なんて知る由もないので、何事もないように私たちを宮殿へ招き入れてくれた。


 それからは私は客室っぽいお部屋に案内され、クラウスさんに「こちらに滞在中、貴女のお世話をするメイドたちです」とメイドの皆さんを私に紹介され、クラウスさんと執事さんは部屋から出ていかれた。


 メイドさんたちはとても手際よく、お風呂の準備をされたり、用意されていた服に着替える手伝いをして下さったり、夕食の準備をして下さったり、ベッドを整えて下さったり、甲斐甲斐しく私を世話してく下さった。

 こんな経験は当然今まで一度もないので、思考がピタリと止まり、抗うこともできず、ただ呆然となされるがままにされていた。

 ひとつだけ「ここはどこですか?」と質問したら、「宮殿の客室でございます」と丁寧な口調で教えてもらった。


「それではおやすみなさいませ」


 と言って、メイドさんたちが部屋から出て行ったので、とりあえずベッドにゴロンと寝転がった。


 押し入れで寝るよりか、断然寝心地がいいなあ……


 とか、今日起こった出来事をぼんやり思い出しているうちに、私はいつの間にか寝てしまっていた。



 翌日、メイドさんに起こされて、準備された朝食を食べていると、クラウスさんが客室に入って来た。

 クラウスさんは最初、何だか目をぱちくりされた後、すぐさま笑顔で「眠れましたか?」と私にご機嫌伺いしつつ、私の向かいの席に腰掛けられた。


「王より勅命がありました。まず貴女は、この世界の騎士団長であるボールドウィン侯爵の養女となってもらいます」


 突然の申し出に、私は朝食を食べる手が止まった。

 もう、意味がわからないです。私がここにいて、私をお世話して下さるメイドさんたちがいて、それだけでも意味不明なのに…

 何を質問していいのかもわからない。


「貴女の住んでいたところは平民街で、平民は通常貴女のように魔力は持っていません。よって魔力を持つ貴族の養女となり、十二歳から王立学院に通って頂きます。

 それで記憶がまだ戻らないということで、とりあえず今日が誕生日。十二歳になったということにして、夏からは学院に通っていただきます」


 なんか知らないうちに、誕生日まで決められてしまった。

 前世では十三歳だったんだけど、いいのかな? まあこっちの世界のこの体の女の子の実年齢は分かんないし、まあ、いいのかな。


 クラウスさんが仰るには、私の母親の年齢と思われる女性がなくなった家を、昨日あのあと王宮の特殊隠密行動部隊っていう人たちが探し回ったのだけど、該当する女性が見つからなかったそうだ。現在独りになってしまった酒乱、もしくは暴力的な既婚男性も一緒に探したけれど行方が分からないらしい。

 平民は貴族と違って戸籍がないので、人が生まれたり死んだりしても、親戚などの身近な人か、近所の人くらいしか存在が分からないらしく、いくら探しても見つからなかったそうだ。


 父親であるほうの男性は、暴力振るう相手がいなくなったので、心が暴走し、瞬く間に貪汚たんおに落ちて、死んでしまった可能性が高いだろうと、クラウスさんは言っていた。


 ちなみに今日は何日だろうと思って尋ねてみたら、「今日は一月七日。つまり、その日があなたの誕生日です」とクラウスさんが教えてくれた。

 そして、テーブルの上に置いていた私の手を取って、仰った。


「……こんなに骨が浮き出た指に腕、小さい体、本当はとても十二歳には見えませんが……。それが虐待という食事もまともに取れなかった環境のせいなのか、本当に年齢が低いのか私にはわかりませんが、ただ、我々は貴女の力を必要としており、事実、この世界は危機に瀕し、後がない状態なのです。ですので、多少無理をお願いしなければなりません。本当に申し訳ございません……」

 クラウスさんは、申し訳なさそうに言いながら、私の手をテーブルの上に、そっと置いた。


 いえ、まあ構いませんよ。前世では十三歳だったんで。

 と、内心こっそり返事しといた。


「あと、王が貴女の名前はソフィーでどうかと仰っていました。どうでしょう?」


 え? 理代子がソフィー? ちょっと何だか恥ずかしいなと思って、下を向いてもじもじしていると、クラウスさんはお願いするように、私の顔を覗き込んだ。


「知恵、英知、などの意味がございます。先ほど、神体山を下山するとき、大天使ウリエルが守護天使に就いたと仰ってましたよね? ウリエルは、光で行く道を照らし、問題を解決できるように導く天使ですが、それと同時に、聡明、予言、哲学などを司る天使でもあります。ぴったりだと思うのですが、どうでしょう?」


 え、英知とか、聡明とか、いったい何の話ですか? そんな言葉とは真逆の世界で、今まで生きてきましたけど?

 私は恥ずかしさが耐えられなくなって、クラウスさんから顔を覗き込まれないように、さらに顔を下に向けた。


「あなたが期待されることが苦手なのは知っています。それは、貴女の負の感情、闇の感情が、大きくなり過ぎているせいもあります。

 闇の感情は悪いものではありません。人間誰しも持っているし、それを乗り越えた時の魔力エネルギー、闇の心や負の感情を吸収し消化して、自分の糧としたときの魔力エネルギーが世界を支えているのも事実です。貴女が先日モーゼの杖で魔力エネルギーを奉納したのも、そのエネルギーです。なので、もっと自信を持ってもらいたいです」


 自信を持つ…… そんなのは今までの人生で持ったことないので、いったいどうすればいいんだか……


 私は押し黙るしかなくて、じっと俯いていた。でもクラウスさんは話を続けられる。


「余談ですが、王族は、光と闇の魔力がほぼ均等なんですよ。人間である以上、どちらの感情も存在するのは極めて普通ですが、王族は、どちらも均等に使用、制御できるようになることが望ましく、この世界を導いていくためのバランス感覚が非常に重要で、王族の大事な務めのひとつでもあります。ですが貴女には、育ってきた環境のせいで光属性の魔力がほぼないように思われます。王族でないのでバランスは必要ありませんが、光属性の感情が育たなければ、貪汚に落ちる危険性も高まりますし、また、人間には光、愛、満たされる心から得られる魔力エネルギーや、自身の前向きな気持ちによって得られる魔力エネルギーもあり、こちらもとても重要になります。ですので貴女にはこれから、期待されたり、愛されたり、心満たされたり、達成感を感じたりすることを、まずは少しずつ、感じて頂きたいと思っています」


 愛され満たされることによって得られる光属性の魔力エネルギー、

 自身の前向きな気持ちによって得られる属性の光魔力エネルギー、

 そんなの、覚えられるのかな?

 この世に産み落とした親にすら愛されない私のことを、いったい誰が愛するというんだろう?

 そんな中で、どうやって前向きな気持ちになれるっていうんだろう?


「急にではなく、少しずつ、少しずつですよ」


 不安に思う私に、クラウスさんは、優しく微笑みかけてくれた。


「ですが、夏から王立学院に通うための勉強は、少しずつとは参りません。こちらは私がみっちりお教え致します」


 お任せくださいと言わんばかりの自信みなぎる声で、クラウスさんは言った。


 べ、勉強か、全く自信ないな。私、前世では特に成績が良かったわけでもなく、むしろぼんやりしていて注意力散漫とか言われてたっていうのに、ちゃんと集中して勉強し、期待に応えることができるだろうか。

 他にも色々不安が浮かんできた。


「多分私、記憶にはないですが部屋の様子から見て勉強道具らしきものがひとつもありませんでしたし、今まで勉強したことないと思うのです。それでも本当に、大丈夫でしょうか。

 あと先ほど私は騎士団長であるボールドウィン侯爵の養女になると仰いましたが、そのご家庭からクラウス…… 先生のところに通うのでしょうか。先生は王様の側近でいらっしゃるようなので、王宮まで通うのでしょうか」

「いえ、私がボールドウィン侯爵家の家庭教師になります。侯爵家には数ヶ月後に十二歳になるご子息と、王立学院一年生にご在学の十三歳のご子息がいらっしゃり、今まで別の家庭教師の方がいらっしゃいましたが、今回の事もあり、私が任につくことになりました。

 あと、私は教えるのも上手な方だと自負しておりますし、それほどの闇の力を蓄えられる力の持ち主、覚えられることも無限大ではないでしょうか? 今から楽しみです。平民出身で今まで勉強のご経験がないかと思われますが、ぜひ安心して頂きたいと思います」


 おそらく、無限大とか何とか仰るのは、魔法の能力のほうかな? なんか昨日も無詠唱がどうとか仰ってたし。

 でも、勉強のほうはどうだろうか? いくらクラウス先生が教えるのがお上手でも、限度ってもんがあると思う。

 前世では、まともに勉強できる環境になかった。

 家ではもちろんそうだけど、学校でも、私がそのような家庭環境だと薄々分かっていつつも、誰も助けようとはしないし、誰も近づかない、手を差し伸べない環境だったので、何もかも諦めたように、ただ教科書と黒板をぼんやり眺めることしかできなかった。

 そんな私が、一から勉強を教えようと意欲を持ってくれる人に教わることができれば、少しは勉強ができるようになるのだろうか。


 それに、養女先のお子様達はすでに家庭教師をつけて勉強されているらしい。私がついていけるだろうか。


「ボールドウィン侯爵家のお兄様は既に王立学院生、弟様も既にお勉強されているとのことで、その、私はご迷惑ではないのでしょうか」


 私が恐る恐る尋ねると、クラウス先生はにっこり笑って言った。


「大丈夫ですよ。ご長男のルーク様は、真面目でありコツコツと努力をされ、我慢強くどんな厳しい課題にも音を上げず、邁進し、ご自分の糧にされ、またそれを人々のため、世界のために使おうとなさる、高い志をお持ちの、お心本当にお優しい、正に勇者の気質をお持ちのお方です。もし万一あなたが勉強についていけなくても、自分の事のように親身に接して下さるでしょう。

 弟君のルシフェル様は底抜けに明るいお方で、兄上のルーク様より年下というのもありルーク様より勉強は少しばかりお得意ではないご様子ですが、自由気ままで楽しいお方。もし貴女が勉強についていけなくても、それはそれで問題ない、死ぬわけでもないしね、と言って笑い飛ばしてしまわれるご気性。

 私も勉強の理解度をきめ細やかに見て参りますし、何の心配もございません」


 仮に私が勉強わかんなくて、でも克服したい!って時にはお兄様が根気よく励まして下さり、

 万一もう嫌だ!って投げ出したくなちゃったら、弟君が笑い飛ばして下さるのか。


 すごい万全整えられた勉強環境だなあ。


 私が関心して聞いていると、

「ご兄弟もそうですが、ボールドウィン侯爵家は光の一族で、強い光属性の魔力を持つ家系なのです。ですので闇属性の魔力が強い貴女には、ぜひともこのご家庭で暮らして頂き、光の影響を受けて頂きたいと思っています。これは王の御意思でもあります」

 光の一族って、何かすごいな。そんなとこに養女に行っても大丈夫なのかな?

 まあ、王の勅命ってさっきクラウス先生が仰ってたから、受け入れるしかないんだろうけど。侯爵家の皆さまも。


 それにしても、とても親切なお兄様と、底抜けに明るい弟君、光属性のご兄弟か。

 仲良くして下さるといいな……


「そうそう、先ほどお名前を決めたというのに、先ほどから全くお名前を呼んでいませんでしたね、ソフィー様。……なかなか良い響きの名前、貴女にピッタリです」

「さ、様?」

「それはもちろんです。あなたは侯爵家の養女になるのですから、様を付けるのは当たり前ですよ」


 そうは言っても……と口ごもりまた俯てしまう。


「……お育ちがお育ちですから色々慣れないのは、最初のうちは仕方ありません。これから少しずつ克服されるよう、私たちは共に歩みだそうとしているところではありますが、とりあえず、そうですね、まずは鏡でも見てみましょうか。きっと自信がつきますよ。ソフィー様と呼ばれるに相応しい見目麗しいご容姿です」


 そう言ってクラウス先生が片手をあげると、メイドさんが手鏡を持ってきて下さった。


 ………


 驚くほどの美少女が、鏡の中にいた。

 黒くて長い髪はさらさらで、艶やかに光っている。なんか少し、作り物みたいな光沢感もあるような気もする。でも、自分の毛根から生えているんで自分の髪に違いない。

 瞳の色も深い深い黒だった。日本人でもこんなに真っ黒な瞳の人いるのかな?ってほど黒いと思う。

 そして潤んだ瞳は、髪と同じように艶やかに輝いていた。

 色白で、頬がこけてるせいか目も大きく見え、まつ毛の存在感もすごい。鼻筋も通っていて、口はちょこんと小さめだ。


 驚いた。自分の顔が、こんなことになっているなんて……


 私はとにかく驚いて、鏡からゆっくりと、クラウス先生に視線を移す。

 クラウス先生は、クスクス笑っていらっしゃった。


「記憶がなくなっているとはいえ、自分の顔をみて、そんなに驚く人は初めてみました。”ソフィー様”でも問題ない……と言いますか、様付けのほうが、よほど相応しいでしょう?」


 な、何て言えばいいのか……

 驚きすぎて、顎が抜けるかと思いましたと、正直に申し上げるわけにもいかないし……


 私は目をぱちぱちして下を向いた。顔面が熱い。


「ソフィー様の本当の誕生日はいつか分かりませんが、今日がお名前の誕生日であることには違いありませんから、一月七日はお名前記念日、つまりソフィー様のお誕生日ということで、何の問題もありませんね」


 クラウス先生が優しく微笑んで、そう仰るんで、私はとりあえず、顔真っ赤になりながらも頷いた。


 それからクラウス先生は、簡単に今後の予定を教えてくれた。

 とりあえず、ここでランチを食べながら、メイドの皆さんから食事の作法を指導してもらい、その後は、これまたメイドの皆さんから貴族風お辞儀の仕方とか、簡単な作法を学び、準備が整ったらボールドウィン侯爵家に行くそうだ。

 そうか、やっぱり何の作法も知らないで、いきなり貴族のお屋敷に乗り込むのは具合悪いよね。

 私はクラウス先生に「承知いたしました」と軽く告げ、とにかく自分にできる限りのことを精一杯頑張ろうと決意しつつ、貧乏性で食い意地の張っている私は、腹が減っては戦はできぬとばかりに、残りの朝食を頬張った。

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