対抗戦終了後
「リカルド、何でも頭ごなしに突っ込んでいくんじゃなくて、柔軟性の大切さがよくわかっただろ?」
って、ルシフェルはめちゃ得意満面である。
「ひ、卑怯者!早く魔法を解け!」
「え? 今柔軟性が大切って言ったばっかなのに、その発言、ちっとも面白くなくね? 『この粘着糊の海で、一緒に泳ぎませんか』ってお誘いの言葉のひとつくらい、優雅に言ってみろよ」
と言って、また笑いだした。
そうこうしてるとクラウス先生が来られて「もういい加減にしなさい」と仰って、皆の魔法を解いてくれた。
相手チームの生徒たちは「助かった」と言って安堵している。でもリカルド様というお名前のそのルシフェルのお友達?の男子生徒は、
「王様まで出して、不敬だぞ!」
と、怒鳴り返した。
「戦いとは、相手の裏をかいてなんぼ。絶対に用いないと思い込んでいる思考を持ち込んでこそ作戦。それに、一年生は無礼講ってことで」
とルシフェルは余裕の表情だ。
……一年生は無礼講というルールは初めて聞いたな。
にしても、今の話を聞く限り、この荒唐無稽な作戦は、ルシフェルが考えたみたいだ。
らしいっちゃらしいなって思える作戦だ。クラウス先生も、半ば呆れ顔だったし。
私が二人のやり取りを面白いなあと思って見ていると、リカルド様っていう男子と何となく目があったような気がした瞬間、彼は顔を真っ赤にして悔しさを前面に出し、
「覚えていろ!」
とどこの世界でも聞く定番の捨て台詞を吐いて、その場を去った。そして、自分が所属しているチームが集まっている場所へ、怒り心頭みたいな足取りで、どしどしさせながら向かって行った。
それにしても何だろう、あのリカルド様って男子にも、私、嫌われてるのかな? ”私のことキライ勢力”が、光クラスにまで及んでたら、凄くイヤなんだけどな……。
ルシフェルからルーク兄様、養父様や養母様、そしてクラウス先生にまで知られたら、本当に困るんだけど……。
情けないし、恥ずかしいし、本当に申し訳ないから、何としてでも隠し通したいんだけど……。
私が俯きながらそんなことを考えていたら、ルーク兄様とルシフェルが、私のところへやって来た。
「やあ、ソフィー」
「よお!」
私は顔を上げると、いつもと変わらないルーク兄様とルシフェルの笑顔がそこにあった。
マントを翻し、歩いてくる二人……ほとばしる汗が、キラキラ光って本当にステキ、さすが、光の一族って感じがする。
ルーク兄様の笑顔は相変わらず穏やかで、心暖かくなるし、ルシフェルはいつものように、右手をおでこの辺りで”チャッ”って前後に振って、ニカって笑った。
……でも今、私ひとりで座ってて、私が今置かれている状況……バレないかな……
ルーク兄様とルシフェルに声をかけてもらって、笑顔を向けてもらって、ホントにすごくうれしいんだけど……
だけど、さっきのリカルド様の態度も気になるし、今どんな顔していいか、私、わからない……
ただ、二人の笑顔を見る限りでは、今のところなにか感づいている様子はないような気もする。
だから、ひとまず危機はないと解釈し、心まずを落ち着けよう。
私は、笑顔で私のところへ歩いてくる二人に、頑張って笑顔を作って出迎えた。
「ルーク兄様もルシフェルも、本当にカッコ良くてステキでした。以前神体山で剣のお稽古を、クラウス先生につけて頂いているのを見たことありましたけれど、実戦はこれまたスゴイですね。模擬戦とはいえ、臨場感もあるし、本当に素晴らしかったです」
私は笑顔でそう言うと、二人とも笑顔で応えてくれた。
「そうかな? まだ実力の半分も出してないけれど」
と、はにかみ優しい笑顔のルーク兄様。そして、
「俺も。ただ今日は、いつも突っかかって来る奴が鬱陶しいんで、ちょっとお灸を据えられればいいと思ったんだよな」
いつもの突っかかって来る奴……さっきのリカルド様という男子のことか。
「その鬱陶しい?っていう男子、ひょとして緑色の髪に琥珀の目をした男子ですか? さっき、試合中にも係わらず舌戦が凄かったので、正直、何の戦いかと思いました」
「ああ、聞こえてた? なんかさあ……前から妙に突っかかってくんだよ、あいつ。リカルドって言って、バーンスタイン伯爵の息子らしいけど、なんちゅーか、オレオレ系なのに頭固いわで、俺、けっこう苦手」
「光クラスにいらっしゃるから、光の魔力が強いんですか?」
「まあ、バーンスタイン伯爵家っていうのが光属性が強い家系だから光も強いけど、一緒に受けることがある魔法の授業を見る限り、半々よりもちょっと光が強いかなってな感じかな? 剣も魔法もまあまあ器用に使いこなしてんじゃねーの? まああれだ、器用さを全部、剣と魔力に全振りしたもんだから、性格はあんな頑固で融通の利かない男になったんだなって、めっちゃ思ってる」
ルシフェルはそう言って、ニカって笑った。
まあ、ルシフェルに関しては、融通が利きすぎるというか、発想が自由過ぎるところがあるとは思うんだけど、それはまあ、置いておくことにする。
でも、ルシフェルが褒めるくらいだから、良いところはあるのか。
だけど、何かさっき睨まれた気がしたから、ちょっとひっかかるというか。
気のせいだといいんだけど……。
私は、ちょっとリカルド様から話題を逸らしたいなと思い、さらに二人を褒めることにした。
「実力の半分であれほどだなんて、ルーク兄様もルシフェルも、本当に凄いんですね。私、義妹として義姉として、本当に誇りに思います」
私は、言ってることはめちゃ事実なので、笑顔でそう言った。
すると、ルーク兄様は何故か少し顔を赤らめ、
「本当は、もっとカッコいいとこ見せたかったんだけど、コイツがこの作戦で行くってどうしても言うから……」
「そりゃそうだ、だってリカルドを、ギャフンと言わせなければならなかったからな」
……あれ、おかしいな。ルーク兄様が、指揮官じゃなかったっけ?
「でもルーク兄様、よくルシフェルの提案を吞みましたね? 指揮官は兄様のように思ったのですが……」
「ああ、それは……」
なんか言葉を躊躇われるルーク兄様、どうしたんだろう?
「それはな、俺が兄上に、『兄上は、真っすぐ過ぎてモテないんだ、真面目なのもいいけど、時には不意を突いたり、柔軟性も必要』とか、めっちゃ適当なこと言ったら、折れてくれた」
と言って、ルシフェルは高笑いした。
ルーク兄様は必死になってルシフェルに「余計なことを言うな」とか仰って、牽制されているけれど、顔を赤くされているのがとても良く分かる。
……ルーク兄様、好きな方がいらっしゃるのか。
なんだか私は、とても寂しい気持ちになった。
ルーク兄様がお慕いしている女性だもん、きっとステキなご令嬢に違いない。
もちろん、先日義兄弟なら結婚できるっていう話を聞いたからと言って、もと平民貧民街出身の私が、貴族一の家系であるルーク兄様やルシフェルの相手になれるなんて、そうそう考えてもいない。だけど……何て言うのかな……クラスの生徒たちから嫌われたり煙たがられたりしてる今の私の現状を思うと、その女の子とは、天と地ほどの開きがあって、自分の酷さを目の当たりにし、現実を突きつけられて、とてもショックだというか、何だか悲しい気持ちになってしまうな……
もちろん、ルーク兄様の恋愛は、心から応援したい気持ちでいっぱいなのだけれど。そもそも私は恋愛対象外なんだし……
ルーク兄様が、何だか遠い存在になってしまったかのような寂しさを感じつつも、それでも私は頑張って笑顔を作り、言った。
「ルーク兄様は王立学院のアイドルと言っても過言ではないほど、モテモテだし、私も義妹として本当に誇らしいです。なので、そのままの兄様で、大丈夫と思いますよ」
するとルシフェルが、すかさず口を挟んで来た。
「何だよ、それ? 俺のアドバイスが的外れとでもいいたいのか?」
「そもそもルシフェルは、ルーク兄様ほどモテてないのに、どうしてアドバイスができる立場にいると、思ってるんですか?」
「え、ひょっとして私は、ルシフェルに騙されていたのか……?」
ルーク兄様は、ルシフェルをジロリと見た。
すると、ルシフェルは兄様の言葉にめちゃ慌てて、人差し指を口に持って行き「しーっ! しーっ!」って必死に私のほうを向いてやっている……その様子を見ているのは、面白くもあり、可愛くもあり、思わず笑ってしまう。
「そんなお人柄も含めて、ルーク兄様は、とても素敵と思います」
と言って、ルシフェルへの怒りが少しでも和らぐように、フォローしておいた。
人の意見に真摯に耳を傾けるルーク兄様のことを、素敵と思っているのは事実だしね。
するとルーク兄様は、お顔を少し赤らめて仰った。
「そうか、それならばまあ、良かった」
はにかんで笑われるルーク兄様の笑顔が眩しくて、それでいて何だか寂しくて、今の自分の境遇を思うと情けなさ過ぎて、何だか少し、目頭が熱くなるのが分かった。
ほどなくしてアドリアーナ先生が、先ほどの対抗戦の勝者である生徒たちを集合させた。
「それじゃあ、ソフィー」
「ちょっくら行ってくるわ」
ルーク兄様とルシフェルは笑顔を残し、アドリアーナ先生の招集に応じ、闘技場の中心に向かって走っていく。
遠ざかる背中が、いつもよりさらに遠く感じるな……
遠く感じるだけでなく、何だか今日は、ぼやけて滲んでも見える……。
私は手で、目をぎゅっと押さえた。
先ほどの対抗戦で勝った生徒たち、二十人ほどいる生徒たちが集まったのを見計らい、アドリアーナ先生がお言葉を述べられた。
「先ほどの試合は見事でしたわ」
とまずはお褒めの言葉があった。どうやら王様に対する不敬はなさそうだ。
ちなみに負けた生徒たちは、男子生徒限定で隅の方で正座させられている、よく分かんない指導法だよね、ホント。
そして、薄青い髪をふんわりさせて艶めかしく仰るご様子、相変わらず色気がスゴイなって思った。
「特にあの奇策は非常に見ものでしたわ。あたくしも正攻法ではない、不意を突かれる方法で、攻められてみたいものです。時には趣向を凝らすのも、良いですわね」
そう言って、腰に巻いている帯をハラリと手に取った。
お、落ちそう!
生徒たち皆んな、度肝抜いているけれど、先生は平気そう。どうやら自身で色々実践済みで、簡単には解けない仕様らしい。まあ聖具だし、簡単にはほどけないか。そんなやわな作りじゃ、攻撃どころじゃないもんね。
それにしてもまあ、仰ってることの意味や、帯をはらりとさせる意味が、全く分からないのだけれど……。
「さあ、これからあたくしとの特別対決に臨まれる、あたくしを楽しませてくれる殿方は、どなた?」
そうアドリアーナ先生がめちゃ色っぽく仰った瞬間、ルシフェルは顔真っ青にして、言った。
「せ、先生!先ほどの試合で負傷しました! この試合は棄権します!!」
そう言ってダッシュで出口に向かっていく。すると、慌ててルーク兄様も、
「わ、私は、弟の看病をしなければなりません! 失礼致します!!」
と仰って、慌ててルシフェルを追いかけて行かれた。
二人、光の速さで闘技場を退出する。さすが光の一族だ。
大体、負傷したのに光の速さで逃げれるっていうのが、矛盾甚だしいんだけれど、そこはまあ、逃げ切った者勝ちなのだろう。
それにしても、二人にとってはあのアドリアーナ先生の恰好、やっぱり刺激が強いのかも知れない。アドリアーナ先生がどんな試合をされるのかは知らないけれど、二人は私の大切な家族なので、妙な道に入る危険性がなくなり、ほっとした。
本当は、もう少し二人の雄姿を見たかったなっていう思いもあったんだけど、まあ、二人の将来には変えられないし、それにもう充分堪能したから、今日はこの辺で満足しておこうと思う。
アドリアーナ先生の呼びかけに、女子生徒は自然とその場を離れ、ルーク兄様とルシフェルに続いて慌てて逃げ出す男子生徒も数人いつつ、結局残ったのは八人の男子生徒だった。
息が荒い男子がいるのはエロいのに期待して、胸膨らませてるのかな?
闘志みなぎる眼差しの男子は、武勲をあげたいのかな?
一応学校の成績が良ければ就職に有利だし、王様の覚えがめでたければ目出たいほど側近に抜擢されやすいし、優秀だと認められると、家ごと出世なんてこともあるそうだ。
なので、対抗戦の選抜チームに選ばれることもそもそも栄誉あることだけれど、それに加え対抗戦に勝利し、特別戦に参加、武勲をあげるのも王立学院の成績に直結するので、エリートコースを望む野心のある生徒も、中にはいるだろうなと思った。
そういえばクラウス先生は王様の側近中の側近って感じだけど、やっぱり王立学院の成績も超良かったに違いないな。だって、知識量がハンパないもん。
それに加えてお家柄も良いのかもしれない。
家柄と魔力量はある程度比例すると聞いているんで、クラウス先生の魔力量と魔法の達人っぷりを見ると、高位の貴族と考えるのが普通だと思う。なので、家柄の良さもプラスされ、王様の側近されてるんだろうなって思った。
などと考えていたら、クラウス先生が私のいる観覧席まで来て下さった。




