対抗戦の季節がやって来た
早いもので十二月に入り、一気に寒くなった。
ううん、早くないな。凄く長い時間を、この王立学院で過ごしているような気がする。
ボールドウィン侯爵家での日々は、毎日が楽しくて、ホントあっという間に時が過ぎたんだけどな……。
ちなみに十二月になると、制服が冬服になる。生地が冬仕様で厚めになり、女子はケープ、男子はマントの着用が許される。別に、寒くない人は着用しなくてもいいんだけど、王立学院での冬がどんだけ寒いか分かんないし、あとケープも見た目可愛いんで、制服採寸のときに購入を決めると、ドミが今日着ていけるように用意してくれた。
……本当なら、もっとわくわくした気持ちで、ケープ、羽織りたかったな。
でも今日は、久しぶりにルーク兄様とルシフェルを遠巻きながらも見ることができるので、それを考えると少しずつ、心が軽くなってきた。
今日は、入学式のようなセレモニーではないけれど、毎年恒例、十二月になると開催される、実践練習を兼ねた王立学院対抗戦が行われる。
それに出場するルーク兄様とルシフェル。
私は、二人が素晴らしくステキな雄姿を見せてくれるであろうこの日を、今か今かと指折り数えて待ちわびていた。
ちなみに、同じ学年のルシフェルとは、王立学院に入ってほとんど話をしていない。
ルシフェルとは同じ学年なので、廊下でたまに見かけるとかはあったけど、私はいつも一人で、向こうは友達に囲まれていたから、私は見かけるとすぐに方向転換し、極力合わないようにしていた。
皆んなと仲良くできない、友達がひとりもいない、無視されている、嘲笑われている……そんな自分を、大好きな人たちには知られたくないっていう思いが、凄く強いんだよね……。
なので、休憩時間はもちろん、ランチタイムも食堂には行かず、ひとり寮に籠っていた。
別に、お昼ご飯は食べられなくてもいいんだよね。
朝ご飯と晩ご飯は女子寮で取るんで、ひとりでも平気だから。
クラウス先生も、ファイフの授業以外では会わなかった。めちゃ優秀な先生だから、高学年を受け持たれることが多いみたい。
ファイフは一応最上級クラスだから、何とか時々お会いできるけれど……でも、ファイフの授業だけで良かったと思う。
ファイフの授業はルーク兄様もいるし、何とか誤魔化せるけど、他の授業ももし習うとなったら、あの女子たちの雰囲気に、クラウス先生なら気づかないはずない。先生は、殊更私に『ご自分を大切に』とか仰って、私のことを本当に大切に思って下さっているから。
そんな先生に、今の状況を見せるのが凄く情けなくて、先生が大切にしているものを、コケにされている様子を見せるのが申し訳なくて、だから、ファイフの授業だけで、やっぱり良かったと思う。
私のクラスが教えてもらっている先生は、ジョルジュ先生や、その他もっと若い、魔法師団で研究職も兼ねている先生や様々いらっしゃるけれど、他の先生方は私のことを良く知らないし、なので、私のことは、人見知りなんだなあぐらいの認識しかないと思う。
あの女子たちも虐めが分からないように、上手く隠してるからね。
でも、今は十二月、そして来年の三月になると長期休暇となり、また来年の八月まで王立学院はお休みとなる。
あと四か月、じっとしてればきっと大丈夫。
向こうだって一応侯爵家養女の私に、あからさまなことして来ないと思うし、無視や、陰口、こそこそ笑い、たまに「ごめんなさぁい」とか言いながらぶつかって来られるぐらいなんで、これはもう修行だと思って、我慢しようと決めている。
やっぱり、大好きな皆んなにはどうしても、ぞんざいな扱いしかされない私のことを、知られたくないんだよね。
皆んなは私のこと、とても大切に扱ってくれているのが本当に良く分かるから、自分たちが大切にしている人が蔑ろにされているのを知ったらショックを受けるだろうし、皆んなを傷つけてしまうかも知れない。
私は、私の不甲斐なさで皆んなを傷つけるのは、できるだけ避けたいと心から思っている。なので、そんな感じで皆んなには、今の状況を悟られないように、私は日々頑張っていた。
そんな日々を送る中、唯一のオアシスであるクラウス先生のファイフの授業のときに、先生から対抗戦のことをちょっと聞いて、ルーク兄様やルシフェルが出場することや、あと王立学院の闘技場は、めちゃ最新設備だと教えて頂き、また、ルーク兄様も一緒になって、説明して下さった。
何でも、大型スクリーンまであり、審判の先生の声まで拾うという。
そんなハイテクなものが、この世界にあったなんて……いやでも、そういうアニメもあった気もする。見かけたのは、魔法学園もののアニメだったような気がするな。
どういう原理なんだろう……さっぱりわかんないな……
クラウス先生が仰るには、スクリーンには陰影が必要なので光と闇の魔法を両方、巧みに組み合わせた魔法陣だと、かいつまんで説明された。で、それ以上、私は質問しなかった。聞いても分からないので。
あと、白い壁っぽいものがあるんだけど、そこに映像が映し出されると仰ってた。
そして、闘技場はハイテクなのはもちろん、広さも、王立学院敷地内で、一番広い建物だそうだ。
武術を選択している生徒たちは、闘技場も授業のときに使うそうだけど、私は魔法の授業しか取ってないんで、闘技場に行くのは今回初めて。
初めての場所に行くのは、ちょっと緊張するな……。
私は恐る恐る、闘技場の扉を開けた。
すると、ルーク兄様とルシフェルが、肩慣らしとばかりに既に剣の手合わせをしていた。
わあ、二人ともめちゃカッコいい!
しかも冬服のマントがめちゃひらひらして、カッコよさが二割増しアップだよ!?
私は試合には出ないので、観客席の好きな場所に座っていいと言われているんだけど、特に座りたいところもないので、今の二人がよく見えるところに、とりあえず座った。
すると、ところどころで女性の黄色い声援が聞こえてくる。全て、ルーク兄様に向けられたものだ。
ルーク兄様は本当に、王立学院のアイドルなんだなあ……しみじみ思っちゃう。
でも、ルシフェルだって、甲乙つけ難くカッコいいとは思うんだけどな。
ただルシフェルの場合は、カッコよさよりも面白キャラのほうが目立ってしまっているみたいで、女子人気よりも、男子人気の方が高いみたいだった。
カッコいいのは分かるけど、友達としてしか見れない、みたいな?
そんなセリフを時々アニメで聞いた気がする。
で、試合に出場する他の生徒たちも色々手合わせしたりしてるんだけど、なんといっても身びいき抜きにしても、二人が超目立ってるんで、私はとても、誇らしい気持ちになった。
また、見た目が超カッコいいだけじゃないんだよね、二人は。
やはり、クラウス先生のお墨付きで、あの若さで実戦レベルの流麗な剣裁きが本当に素晴らしいと思った。
前回のエレガンドゥード山解放のときに数人実戦レベルの生徒たちが参加されてたけど、クラウス先生曰く、その生徒たちはまだルーク兄様やルシフェルレベルではないそうなんで、やっぱり二人が輝いていることには、間違いないと改めて思う。
以前、神体山解放後の神体山頂上で、クラウス先生含めた三人が剣の稽古されていたけれど、一番最初に見たその剣技が、私的世界遺産レベルの剣技だったんで、その素晴らしい剣技と比べるとやっぱり、他の生徒たちは少し見劣りするかもって、ちょっと思った。
まあ、ルーク兄様とルシフェルが、”さすが光の一族!”ってばりに光輝いているのもあり、余計にそう思うんだとろうけれどね。
そんな感じでルーク兄様とルシフェルがあんまりにもステキなんで、今日のうちに目いっぱい、光系の気持ちを高めていきたいなって、決意を新たにした。
ちなみに、一年生は基本出場しないことになっていて、初年度は見学という形だ。
二年生、三年生は、優秀な生徒を集め、選抜チームを作り、対抗戦に臨むという。
で、私は当然見学なんだけど、ルシフェルは既に実践レベルなんで、試合に出るよう先生に言われたそうだ。
他にも一年生の中で出場する生徒がひとりふたりいるらしいけど、私は武術を選択していないので、どんな生徒かは知らない。きっと、エレガンドゥード山解放時にも選抜された生徒じゃないかなと思うので、見たら分かるかも? 騎士団の皆さまと合流されているのを、遠巻きながらちょっと見たことがあるので。
まあ、同じクラスの生徒だったら、それでも分かると思うけど、今パッと見た感じ同じクラスの生徒がいないので、その選抜された一年生が光クラスの生徒か、それとも魔術具などを準備する係で奥に引っ込んでるか、どっちかだなって思った。
ちなみに見学の私は、来年になり、選抜チームに選ばれたら、私も魔法部隊として出場することになる。クラウス先生の私への鍛え方は結構スパルタのように思うし、恐らくは来年は、選ばれるんじゃないかな?
なので、今日選抜チームに選ばれた生徒の皆さんたちの戦いぶりを、真剣に拝見しようと思っている。
今はまだ魔法を習う授業ばかりで、戦闘に準じた授業とかはないけれど、この対抗戦以降、つまり、一年生の後半からそういう授業も入って来るんで、そういうことにも備えたいと思う。
そう言えば以前、私の闇の防御結界を試すのに、ルーク兄様とルシフェルに手伝ってもらったことがあったけれど、ああいうことも今後するかも知れないな。
上級生が行う対抗戦を見学するのは、とても勉強になると思う。それでなくても神体山解放時の皆んなの戦いぶりは見れないので、この機会はとても貴重だ。少しでも皆んなの力になれるよう、いっぱい吸収しよう。
対抗戦の内容は、基本、陣地に大将に見立てた人形を置いといて、相手チームの大将風人形に致命傷を与えるか、もしくは全員が戦闘不能になるかで決まるっていう方式なんだけど、細かいルールや内容については、対抗戦を取り仕切る教師の胸三寸で決まるそうだ。
で、今年はアドリアーナ先生だという。張り切っているという噂を、どこからともなく聞いた。
……なんだろう、イヤな予感しかしない……。
クラウス先生がエレガンドゥード山解放後にお話しされたことが、頭に過ってしまう。
まあ、私は出場しないから、別にいいっちゃいいんだけど。ルーク兄様とルシフェルの無事を、心から祈らずにはいられないな。
アドリアーナ先生流、今年の対抗戦のルールは、一チーム二十人、光クラスと闇クラスの生徒が半々になるようにチームを構成、そのチームを二チーム作り、戦わせるという。
一学年の生徒数がだいたい百人程度、ほぼ二年生と三年生で構成されるので、生徒の五分の一弱が試合に出場するというわけか。
きっと、戦う武術や魔術系よりも、研究職が向いてる人とかは、出場されないとかあると思う。今年はアドリアーナ先生流だから、参加人数やルールに関しても、今年だけかも知れないけれど。
まあ、来年は私も出場すると思うし、いつかきっと私も、魔物相手とか、実戦で戦うことになるわけだから、そういう経験は、ちゃんとしておいたほうがいいとは思っている。いつかの日に備えて、頑張ろう。
あと、対抗戦の審判は、試合の勝敗や、不正を見るだけでなく、命の危険がないように、生徒を強制リタイアさせる権限も持っている。
それを聞いて私はとても安心した。だってこの世界、めっちゃ魔法とかも使うし、攻撃力ハンパない。もし対抗戦で死んじゃったら、親御さんもホント浮かばれないよね、うん。
まあ、クラウス先生が緊急蘇生魔法を使われるかも知れないけれど、でも、そんな死ぬ思いは、一生に一度でいい。
まあ私は、一生に一度死ぬような思いですら、老死か安楽死を熱望、切望しているけれど。
そして、試合の進め方はチームの作戦の範疇になってくるんだけど、概ね、前線で戦う騎士生徒、弓などで後方援護する騎士生徒、さらに後方で回復係や特殊な魔法道具を準備し手渡す生徒という感じに、分けられるそうだ。
以前、クラウス先生から聞いたお話を踏まえて生徒たちの動きを見てみると、なるほどなあと思うところがいっぱいあるなと感心しつつ、私は対抗戦が始まるのを待った。
ほどなくして、アドリアーナ先生とクラウス先生が、闘技場に入って来られた。
……あれ、アドリアーナ先生、いつもの中世女性騎士風露出激しい衣装じゃない。なんていうか和風というか、でも宝帯なんで中国風なの?分かんないけど、そんな着物風な装いでいらっしゃる。
そして、相変わらず胸元は超オープンで、露出が激しすぎるのはお約束だ。あと、裾もはだけ気味で、太もももめちゃ見えてるのは、動きやすさを重視しているのだろうか? それとも先生ご自身の趣味なのか……まあ、ご趣味なんだろうと思う。
そして、着物を留めているのは聖具である宝帯、結び目もめちゃ豪華でひと際美しい。大天使ハニエルがアドリアーナ先生に適性があるって言ってたけど、確かにあの宝帯は、本当にアドリアーナ先生によくお似合いだ。
あの帯の豪華な結び目は、成人式の女性の皆さんがよくされている飾り帯の、さらに豪華バージョンだなって思った。
で、隣にいるクラウス先生は、なんかどことなく、目のやり場に困っていらっしゃるようだ。
うん、分かるよ。同じ女性の私でも、しかもこんな遠目なのに、目のやり場に困るもん。
でも、クラウス先生が一緒にいらっしゃるのは何でかな? 副審とか、されるのかも知れないな。
私は、アドリアーナ先生の美しさに、時々目のやり場に困りつつも見惚れつつ、かつクラウス先生に同情しつつお二人を眺めていると、アドリアーナ先生が口元に魔法陣を出現させて、試合の挨拶を始めれた。




