思念が、酷すぎる!!
山頂の雑草生い茂る広場に入ると、さっき、透明防御結界に”ビターン!”ってなってた魔物たちが、めっちゃ襲い掛かってきた!
すかさずクラウス先生、一発魔法を唱えられる。
「アルバラディス」
かざした掌から眩い光と共に光エネルギーが放出され、光線上にいた魔物たちは、一気に消滅した。
……すごい、めちゃ大量の魔物を、一気に始末しちゃったよ。
一枚岩までの道筋ができ、私たちはそこへ向かおうとする。けれど、魔物は次から次へと容赦なく私たちに襲い掛かってきた。
クラウス先生、ルーク兄様、ルシフェル、そしてアドリアーナ先生とエイデン先生が私を守りながら攻撃し、やっつけてくれる。そして、少しずつ一枚岩のほうへ歩みを進める。
正直、めっちゃ、怖い! 私のことも心配だけど、皆んなが怪我しないか、そんなことも心配してしまう!
私はあんまり怖いんで、ほぼほぼ地面か前にいるクラウス先生の足を見ながら進んで行くんだけど、でも、やっぱり皆んなが心配だから、一瞬だけ顔を上げ様子を見てしまった。
クラウス先生もそうだけど、私の両サイド少し前くらいにいるルーク兄様とルシフェルも、目にも止まらぬ速さで剣を振り、魔物を倒している。
私が一瞬顔を上げたタイミングは、二人のお顔が見えない角度の時だったけど、恐ろしいほどにカッコいいに違いないな、
もちろんクラウス先生も。
そして、私の両サイド後ろにいるアドリアーナ先生とエイデン先生も、めちゃご活躍のようだ。
「まあ、これくらいの魔物、大したことございませんわね」
っていうアドリアーナ先生の涼しい声が聞こえてきた。
た、大したことないって、ホントですか!?
斜め後ろにいらっしゃるから、入学式のときに仰ってた得意な剣裁きは全く見えないけど、剣を振る音や魔物たちの断末魔は聞こえてくるので、相当やっつけて下さってると思った。
頼りがいあるこの上ないな、ホント。
そして、一瞬視界に入ったのは、エイデン先生の槍の穂先だった。めっちゃ魔物をブスっと刺してたんで、恐ろしくてすぐ下向いてしまったけど、槍をびゅんびゅん振り回してる音と魔物たちの断末魔は聞こえるんで、エイデン先生も相当なご活躍をされているに違いない。
「いや、なかなか五月蠅いコバエではないか」
こ、コバエって、このおどろおどろしい魔物たちが、コバエと一緒に見えるって、ホントですか? ちょっと縮尺、間違えてませんか!?
本当にもう驚くしかない。
お二人はもうきっと、今までに実戦に実戦を重ねたプロでいらっしゃるのだろう。私ごときが心配することのほうが、おこがましいのだ。
私はエイデン先生が最初に仰った、『全ての心配事は、どぶに捨ててしまえ』の本当の意味を噛みしめつつ、ひたすら地面とクラウス先生の足元と、そしてモーゼの杖が放つ一枚岩中心部まで続く光の筋を見ながら歩いていくと、一枚岩の端の辺りに着いたのが分かった。
すごい黒くて時々紫色がちらほら見える貪汚の瘴気を視界に捉えたからだ。
「ソフィー様、お願いします!」
皆んなが中に入ることができない貪汚の瘴気、それにしても私も最初、よく中に突っ込んでいったな? とは言っても、モーゼの杖がめっちゃ光指してるんで、行かざるを得ないって感じではあったんだけど。
そしてそれは、今もだ。
「分かりました、行って参ります!」
「ソフィー、頼んだ!」
「あとのことは、任せなさい!」
今もなお激しく戦っているだろうルシフェルとルーク兄様の声を背に、私は一枚岩に上がり、貪汚の瘴気の中に、入って行った。
な、何だろう、これは? 残酷極まりない映像、音声、人の思念が私の脳に一気に入ってきた。
これが、ウルルが言ってたやつに違いない。これに絶望したら貪汚に落ちちゃうから、絶対に跳ね除けないと、ダメなんだよね。
でもこれホント、見るのも聞くのも、おぞましすぎるよ……。
性欲押さえられない複数人の男に、女の人がレイプされて泣き叫んでるし、
女性が被害を訴えると、やれ隙があるからだ、着ている服が悪い、自業自得、頭悪そう、教育が悪いとか言って、その女性のこと罵ってるし、
女もおんなじような性欲を持てば、苦痛どころかむしろ楽しみが増えるのに、だとか、訳の分からない提案をする男もいるし、
提案ならまだマシなほうか、上から目線で女に怒鳴りつけて、無理強いを楽しめと強要している男もいる。
酷すぎて、見てられないし、聞いていられない。でも、映像も音声も、直接脳に入ってきているイメージなので、目を閉じようが、耳を塞ごうが、私にそれらを拒否することはできない。心が病んでしまいそうだ。
これが、ウルルの言ってたやつだなって思った。これは本当に、私の心をえぐる。全てを放り投げたくなってしまう。
でも、絶対にそれはダメだ。悪魔の思うつぼになってしまう。
にしても、これだけ性欲関係の思念が多いということは、七大悪魔のひとり、色欲のアスモダイがこの神体山を乗っ取っているのかも知れない。七大悪魔と七大天使については、クラウス先生の授業で少し習ったから知っている。
ちなみに思念に現れるのは、前世の映像と音声のみだ。すごく不思議な感じがする。今この世界は悪魔が蔓延ってるんで、この世界の思念ばかりなのかと私は思ってたんだけど、むしろこの世界の思念は、ひとつもない。
これはあれかな、この世界では心の限界まで行くとすぐ貪汚落ちし、死ぬか悪魔になっちゃうんで、そうすると人間としての記憶がなくなっちゃうから、ない記憶は見せられない、つまり、凄惨な思念を見せられないから前世から引っ張ってくんのかな。
貪汚落ちがない前世のほうが、凄惨な記憶が残り、さらなる酷い思念を与えられるんで、絶望を与えたい悪魔にとって都合がいいって事なんだろうか。
あと、実際に喋ってる、怒声や悲鳴だけでなく、その人の心の声も聞こえてくるのは本当に不思議な感じがした。
あまりにも見るに聞くに堪えない思念ばかりなので、思いっきり心の中で拒否ってみると、一瞬だけ視界が開けて、貪汚の瘴気の隙間から、皆んなが頑張ってくれている姿が見れた。
そして、私がその一瞬の中で、私の視線の先にいらして、しっかり目を捉えたのはアドリアーナ先生だった。入学式で得意と仰っていた剣術、”得意”という言葉では表現しきれない見事な剣裁きだったように思う。
……その、私の感想が”思う”になってしまうのは、貪汚の瘴気で皆んなが見えにくいのと、それ以上に早すぎて何が何だか分からないからなんだけど、とにかく、みるみるうちに魔物が消えていくんで、それは凄いんだろうなって、想像した。
もちろん、ほんの一瞬だったけど、他の皆さまも頑張っていらしたの、私には見えた。
皆んなが頑張っている、どんなに酷くても、辛くても、絶対に投げ出してはならない。
モーゼの杖の光が指している一枚岩の中心部分に着いた私は、地面に膝をつき、両手をついた。
数々の思念で貪汚落ちしてしまいそうなほどに、今、私の闇の魔力が増えてしまった。これを魔力エネルギーに変換して、魔力奉納しないと。
今来る時に、山道が光ってたやつと透明防御結界に、結構な魔力を使ったんだけれど、まだ残ってるんで、その魔力の器にまだ残っている魔力エネルギーを、魔力奉納しつつ、今さっき増えてしまった闇の魔力を、魔力エネルギーに変換っていうのを、同時平行で行わなければならない。
正直、ここまでのことは序の口と思っている。まだまだ来るはずだ。だってまだ、悪魔の声、悪魔のささやき、聞こえてこないもん。
これからさらに酷いのが来るかもしれないと想定し、できる限りのことを可能な限り行わないといけないと思った。
もし万一悪魔の思念が酷すぎて、魔力が溢れて自分の器では支えきれなくなったら大変なので、さらに同時並行で、魔力の器も広げなければならなくなる可能性もあるということも、しっかり念頭に置いておこうと思う。
魔力を奉納し始めると、また思念がまとわりつき始めた。
私が元日本人だからか分かんないけど、モデルの撮影と騙して無理やりAVに出演させている思念だ。
そのひとりの女の子を、大の大人が何人も取り囲んで、「やる」と言うまで帰さない、
帰さないどころか訴えてやる、
多くのスタッフが集まって多大なお金がかかってるんだから弁償しろ、損害賠償払え、
この現場にのこのこ出てきたことを親や友達に言う、などと寄ってたかって、考える隙間を与えないほど間髪入れずに抑圧的な物言い、ほとんど怒鳴り口調で、女の子を追い詰めている。
その思念も本当に酷すぎるけど、おんなじくらい酷いのが、その女の子に対する罵詈雑言だ。
男は性欲の塊だから仕方ない、女はとりあえず我慢しとけ。
騙される方が悪い。女は愚かだ。バカだ。教育が悪い。
などと言って、女性を擁護する声は一切ない。まあ、悪魔が私を貪汚落ちさせようと送って来る思念なんで、擁護の声がないのは当たり前だけど、それにしても酷い物言いだ。女性のこと、自分と同じ人間だと思ってんのかな?
それともこれは日本男性特有の男尊女卑傾向だろうか?
私がそう思った瞬間、日本のAVシェア率は、全世界でおよそ六割だという思念が入ってきた。
これは、どういうことだろう。
全世界の六割が日本のAVだなんて、日本男性にとって日本女性は性処理玩具としてしか見なされてないんだろうか?
それとも、日本女性はそういった性処理玩具的扱いで良いと、世界中の男性からそう思われているという現れなんだろうか?
教育が悪いっていう思念もあったけど、教育が悪くて、日本女性はバカばっかりで、よく騙されるんで、だからこんなに多くの、世界の六割も占めるほど、AVに出てしまうんだよねって、日本女性はバカばっかりと、全世界に表明しているのだろうか?
もしも被害に遭う女性はほんの一部というならば、AVに出てる日本女性たちは真症のエロばっかりなんで、日本のAVが全世界の六割を占めるほど、日本女性は股の緩い女ばっかりと、全世界にアピールしているのだろうか?
もしくは日本女性は、そのような性行為を全世界に曝け出してでも、目立ちたい欲求が押さえられない、自己顕示欲の強い、欲深い女ばかりだと、つまり、日本女性は欲深くて、おまけに股も緩いとでも、言いたいんだろうか?
本当に、酷い話である。
別に、世の中女性がめちゃエロい人もいるだろうし、自己顕示欲が強い人ももちろんいるだろうし、男性もAVが好きで、お互いwin win なら別にいいと私は思っている。
でも、世界で六割も占めるって、おかしくない?
せめて他の国と同じくらいの量で、本当にwin winでお互いがハッピーで、人を騙したりして傷つけたりしないというのなら、全然いいとは思うんだけど。
でもさ、この酷い状況、被害を訴えるのが女性ばかりというのが、余計にダメなのかも知れない。やっぱりそれは、根強い男尊女卑思想からだろうか。だって、世界的にも日本の男尊女卑レベルは先進国の中でもめっちゃ下位って、ニュースで見たもん。
なので、女性が被害を訴えるばかりではなく、むしろ男性のほうが、『仮に女性がどんなにバカだったとしても、騙していいことにはならない。しかもデジタルタトゥーが残る昨今、人権侵害も甚だしい』と女性を擁護してくれるなら、まだマシなんだけどな。
まあ、もちろんそういう人も、中にはいるとは思うけど、それよりも女性を非難する声のほうが、圧倒的に多いと思う。
だって、例えば”オレオレ詐欺”に遭うお年寄りたち、今も結構いるけど、その人たちに向かって『教育が悪い』って言って非難する話、聞いたことないもん。
そもそも、『教育が悪い』って何よ?
私は、虐待を受けて育った。
誰からも、何の期待もされたことがなかったんで、勉強とかも特にしなかった。ただ学校では日々ぼーっと過ごしていただけで、何か学校で習ったことが自分の身についているとは、全く思えない。
学校では、虐められていたこともある。
その時も、家にいるときに虐待を受けているときと同じで、抑圧的に虐めをする人たちに、私は反抗することが出来なかった。ただ、虐めに耐えるしかできなかった。
そんな虐待という家庭環境のせいで、強い者である母親の前では反射的にうずくまり、耐えることしか出来なくて、虐めに遭っても拒否する行動を取ることができなくて、そんな一種の洗脳状態から抜け出せない、まともな教育を受けていない育ちの悪い人間、人から虐め被害に遭っても抵抗できない人間は、そういう被害に遭っても、当然というのだろうか?
また、この世の中にいる子供たち、全員が、まともな教育を受けられるとは限らない。前世の世界では、七人に一人が貧困世帯という。私の家も、貧困世帯だった。お金がないと、心が荒む。裕福な生活を今まで送ってきた人なら想像も出来ないだろうけれど、貧乏というのは本当に、心を卑しくするのだ。ストレスの吐け口として、子供にうっ憤を晴らすかのように、虐待をする親もいる。
それに、毒親、親ガチャとかもあって、まともな教育を受ける機会がない子供たちもいるけれど、そういう子供たちは、被害に遭っても致し方ないのだろうか?




