エレガンドゥード山の山道
わぁ! クラウス先生、武術系先生二人も連れて来て下さった! めちゃ嬉しい! それにクラウス先生だってめちゃ強いし、ルーク兄様やルシフェルだって実戦レベルとクラウス先生のお墨付きだし、すごく心強いなって思った。
……ただまあ、神体山解放後に夕日が出てたら、エイデン先生が私たちを走らせるかも知れないんで、夕日が出ない時間帯に終了するか、お空が曇っていることを、めちゃ祈ろうとは思った。
なんだか皆んなとの会話が楽しく弾んじゃって、緊張がやわらいできたのかな、いつもの私の調子が出てきた気がする。この調子で一気に神体山解放まで、いけたらいいな。
「こちらがソフィー様ですの? まあ、とても可愛らしいわね」
妖艶な笑みを浮かべるアドリアーナ先生、薄青い髪がふわふわ風になびいて、めちゃステキです。
「よろしくお願いします、アドリアーナ先生」
私は、アドリアーナ先生に挨拶した……でも、視線の先が、何て言うか、目のやり場に困りますね、これ?
身長は170センチくらいおありだろうか、そのダイナマイトボディがこんなに間近にあると、すごい何ていうか、”ぼんっ!”って感じの存在感、迫力満点って感じで、おんなじ女性だというのに、何だか目のやり場に困っちゃって、本当ドキドキしちゃいます。
「君が、ソフィー君か! 私が来たからには安心だぞ! 全ての心配事を、どぶに捨ててしまえ!」
こ、これはスゴイな、ここまでハッキリ言いきれるとは。ここまで言われると、色々不安を抱くことのほうが、悪いことのような気がしてきた。
にしても言葉のチョイス、『心配事をどぶに捨ててしまえ』とか、相変わらず個性的だな。
「よろしくお願いします、エイデン先生」
ガシっと握手を求められるエイデン先生……て、手を握る握力、強すぎませんか? めちゃ痛いです……。
でも、身長は二メートル近くはおありだろうか、筋骨隆々で、ガタイ大きすぎのエイデン先生がいて下さったら、本当に何の心配もいらない気がしてきた……いや、違うか、心配事は今日の天気、夕日が出るか出ないか、だけになったかな。
ひとしきり先生方とのご挨拶が終わると、クラウス先生は、先生方のさらに後ろの方にいる生徒たちのほうを見るよう、手で促された。
「王立学院の生徒には他にも何名か実戦レベルの生徒がおりますので、その生徒たちも連れて参りました」
ほほう、そのように優秀な皆さまも王立学院にはいらっしゃるのか。前途有望で素晴らしいと思う。
「ですがまだ、ルーク様、ルシフェル様レベルではありませんので、主に騎士団と共に行動するよう、修行がてら帯同します。良い経験になると思いますよ」
そうか、それでもやっぱりルーク兄様やルシフェルとは差があるんだな。
まあ、貴族一の光の一族の子息で、騎士団長の養父様に小さなころから稽古つけられてたんじゃ、そうなるのも当然なのかも知れないけれど。
私は、そんなステキな二人が義兄弟であることにとっても誇らしい気分になり、クラウス先生に満面の笑みを向けて、頷いた。
「ルーク兄様とルシフェルの凄さが改ためてわ分かり、嬉しいです。また、他の生徒さんたちも、優秀な方がいらっしゃり、とても素晴らしいなと思います」
クラウス先生は私の笑顔に、笑顔で返して下さった。
その笑顔が相変わらずめちゃ眩しすぎると思っていると、今度はクラウス先生が、私に質問された。
「ソフィー様、ちなみに今モーゼの光、どちらの方角挿してますか?」
「あっちの方角です」
私は、光の筋が伸びてる方角を指差した。
「やはり、そうですね。”神の御意思”と同じ場所、行き先は神体山”エレガントゥード山”です。すでに騎士団も門のところで待機しているはず。では早速参りましょう」
私は、クラウス先生はじめ、皆さまの顔をひとりずつ拝見した。
力強く、そして笑顔で、私に向けて頷かれた。
私もモーゼの杖をぎゅっと握り、皆さまに、決意とともに頷いた。
神体山”エレガンドゥード山”には、”イラエ山”と同様、神体山の入り口に大きな凱旋門があって、同じように転移陣もあり、私たちはそこに転移してきた。
視界が開けると、目の前には養父様を筆頭に、めちゃ強そうな騎士団の皆さまもいらっしゃった。
わあ! 養父様の騎士団長姿! めちゃ凛々しくて、ステキです!
心の声が出なかったことに、ホッとしつつ、私は養父様のところに駆けて行った。
「養父様、お勤めご苦労様です」
「ソフィー、制服がなかなか似合ってるじゃないか?」
きゃあ、養父様に制服姿褒められたよ? めちゃ嬉しすぎる!
「ありがとうございます、今日はよろしくお願いします」
「周りの魔物は我々が退治する。神体山解放に集中して欲しい。安心するといい、大丈夫だから」
そう仰って、私の肩をぽんとされる養父様、本当に頼りになります、日頃の感謝を込めて、必ずやご期待に添えてみせますって、めちゃ思っちゃうな。
そして私たちは、クラウス先生のあとをついて、エレガンドゥード山の凱旋門をくぐり、山道に入った。
山頂までの道筋はやっぱりイラエ山の時と同様、めちゃ光っている。でも、誰も道が光っていることに対して驚いている様子はないので、皆んなには全く光って見えてないのだと思う。
それよりも皆さんが驚いているのは、道の両サイドにあると思われる、透明のバリア、防御結界のほうだ。
魔物が山の中から私たちに攻撃しようとしてくるんだけど、皆さんはそれに対抗しようと武器と盾を構えてんのに、突然何にも見えない壁のような何かにぶつかって、粉々になって消えていく。普段は山道に防御結界は張られていないし、しかも、完全に無色透明なんで、皆さまは驚いていらっしゃった。
恐らくは大天使ウリエルの御加護の何かなんだと思う。実は、魔力もじわじわ使ってるんだよね。前回のときは、魔力とか考えもしなかったから分かんなかったけど、今はクラウス先生と一緒に魔法の練習もしているし、分かる。
でも大天使の御加護って、ホントすごいな、あんな大量の魔物を、防御結界で一気にやっつけちゃうんだもん。防御結界って、敵の侵入や敵の攻撃を防御するのみと思ってたけど、あんな風に粉々になったり、攻撃もできちゃうんだな。ウリエルさまさまだ。皆さまも安堵の表情をされているし、とても良かったと思う。
ちなみに私が驚いたのは、イラエ山の比にならないほど魔物の数が多いことだ。これはやはり、神体山に七大悪魔がいるからなのだろうか。
……めちゃ、怖くなってきた。
すると、ルシフェルが大笑いし始めた。
「こんなに多くの魔物が透明壁に”ビターン!”とか、ちょーウケる!」
る、ルシフェル、ここは笑うところじゃないよ?
でもそう言えば、私も前世で見たことある。バラエティの番宣CMで芸人さんが透明ガラスにぶち当たってたり、あとバラエティ系アニメとか、あとリアルでもあるな、前世で時々、ちょっぴり軽いパラパラ立ち読みをしようと、ショッピングモールに行くことがあったんだけど、前にある透明ガラスを自動ドアと勘違いした人が、それこそ”ビターン!”って感じで、ぶつかってらして、めちゃビックリしたことあった。
……確かにそれに、似てるかも知れないな。
っていうか、ルシフェルの”ビターン!”っていう表現が、めちゃ面白過ぎるんだよね。
次々と透明防御結界に”ビターン!”&消滅を繰り返す魔物たち……なんかだんだん、不安に思うことのほうが、負けなような気がしてきた。
エイデン先生も『心配事は、どぶに捨ててしまえ』と仰ってたしね。
っていうか、この辺り、”どぶ”、ないけどね。
まあ、こういう下らない妄想してたら、心配事も知らずとなくなるだろうという、これはエイデン先生ならではのご配慮なのだろうか? 上級テクニック過ぎて分かりづらいな、ちょっと。
まあ、心配事するのもバカらしくなるような気持ちになれるのは、自分の心に嘘ついて誤魔化して前向きになるとか、そんなんじゃなくて、無理なく心を落ち着けられるので、これは良いな。さすが王立学院の先生されてるだけあるな……まあ、知らないけど。
そんなことをつらつら考えていると、ルーク兄様がルシフェルをめちゃ窘められていた。
「ルシフェル、もういい加減、笑うのは止めなさい。戦う前に疲れてしまう」
ルシフェルが未だに大笑いしているんで、さすがに制止されていた。確かに大笑いすると、疲れるもんね。
私的には見てて面白いし、気分が紛れていいんだけど。
まあ、今のような緊張感ある場面では、少々不適切な行いなのかも知れないので、騎士団の皆さまもいることだし、そろそろ自重するのは良いことだと思う。
あとはまあ、悪目立ちし過ぎてエイデン先生に目を付けられないことを、心から、めちゃお祈りしておくね。
私は、まあそんな感じで、この状況を不安に思うのも負けたような気がするし、心配事を抱えるのもバカバカしく思い始めながら山道を歩いて行くと、段々と山頂が見えていた。
前回のイラエ山と同じところは、一枚岩が、めちゃ黒くて時々紫色している貪汚の瘴気に覆われているところだ。
前回と全然違うところは……山頂に、めちゃめちゃたくさん魔物がいるところだ。
そのおどろおどろしい形をした魔物たちは、私たちが、このウリエルが張ったと思われる透明防御結界を抜け出すのを、待ち構えるように山頂で待機している。ウリエルの防御結界はどうやら山道だけのようだ。
皆んなの表情が険しくなった。
クラウス先生が告げる。
「まもなく山頂だ。山頂には防御結界が張られていない模様。騎士団は魔物の退治に専念、エイデン、アドリアーナ、ルーク、ルシフェルそして私はソフィーのガードだ。ソフィーを一枚岩に送り届けてから、騎士団と共に魔物退治に合流、他の王立学院生徒は騎士団長の指示を仰げ、その後は状況の変化とともに追って指示を出す。以上だ!」
「はい!」
騎士団の皆さまの士気が上がった。最初に騎士団長である養父様から、クラウス先生はこの神体山解放作戦の指揮を執る人物と、聞かされていたんだなって思った。
にしてもクラウス先生、私やボールドウィン侯爵家の皆さまと接しているときの、いつもの敬語口調じゃない先生を初めて拝見したけど、すごく新鮮だ。
そして、めちゃ凛々しくてステキでいらっしゃる。
王様の側近だし、配下の人たちもたくさんいらっしゃるんだろうけれど、きっと配下の皆さんには、こんな感じで接していらっしゃるんだろうな。
普段と違うクラウス先生を拝見できて、なんかちょっと得した気分……
ついでに言っちゃうと、ソフィー”様”呼びもいいけど、呼び捨ても、なかなか痺れるな……
って、そんなことを考えている場合ではなかった。いけない、いけない。そうだ、質問があったんだ、早くしないと。
「クラウス先生、私を送り届けたあとは、騎士団の皆さまと一緒に魔物退治とのことですが、クラウス先生たちは私と一緒に、一枚岩の上に上がって来られないのでしょうか」
「ソフィー様、極めて残念ですが、我々が一緒に一枚岩の上に登ることはできません。貪汚の瘴気に体が包まれ、その状態が続けば、我々が貪汚落ちしてしまうからです。本当に申し訳ございません」
クラウス先生は苦痛の表情で、頭を下げられた。
とんでもないです、できないものは、仕方ない、一枚岩の上に上がれるのは、やっぱりモーゼの杖所持者だけのようだ。それなら、私が頑張るだけだ。
もちろん不安しかないけど、ウルルが前に言ってたことに気を付けて、注意を払い、焦らず、全力で行おう。
確か、悪魔によるひどい幻影に惑わされず、甘い囁きにも耳を貸さず、心奪われなければいいんだよね。
いよいよと思うとめちゃ緊張してきた。
でも私は腹を括って、皆んなと一緒に、魔物が大量にうごめく山頂に、突入して行った。




