モーゼの杖が光で道を示す
そんなこんなで入学式が終わり、ドミに連れられて、寮の自分の部屋に戻ってきた。
なんか、入学式だけだったのに、疲れちゃったな。
私は、ベッドに突っ伏した。
きっと、驚き疲れたに違いない。ルシフェルはめちゃカッコ良かったし、しばらく会えないと思ってたクラウス先生が、王立学院の新任の先生として壇上に立ってるし。
特に先生にはびっくりしたな。しかも、う、ウィンクしてたし。
私は思い出しちゃって、恥ずかしくなって、思わずベッドの上で左右にゴロゴロ行ったり来たりしてしまった。
「ソフィー様、お茶が入りましたよ」
とドミが言ったので、とりあえず顔の赤みが少しひいてから、テーブルに着いた。
「入学式が始まる前、ソフィー様をお席にご案内したあと、実はクラウス先生とバッタリお会いしたんですよ」
おお、ドミはクラウス先生にお会いしたの? どんな話をされたのかな?
「私も非常に驚きまして、どうしてここにいらっしゃるのかとお尋ねしたところ、壇上で説明されていたように、王命で今年から教師に着任したと仰ってました」
「その王様の命令、いつ出されたのでしょうか、どうしてクラウス先生は、私たちに内緒だったんだと思います? それも、王様命令でしょうか?」
「その点についてもお伺いしましたよ。どうして知らせてくれなかったのか、ソフィー様がしばらくクラウス先生にお会いできないことを、とても寂しがっておられたのに、と」
……ドミ、余計なことを言うんじゃないですよ、恥ずかしいじゃないですか、全く。
私は聞こえないふりをし、わざとらしく紅茶をすすった。でも、めちゃ顔が赤いのが自分でも分かるんで、聞こえないふりは全くできてなかったと思うけど。
「なんでも二カ月ほど前に辞令が出たそうですが、ちょうどその頃、ソフィー様だけでなく、ルーク様、ルシフェル様からも、何やらプライベートなことで詮索を受けたとかで、自分は秘密主義であるということを、良い機会なので主張しておこうと思われたそうですよ」
ん、二か月前? ……っていうと六月、あれか、神体山に蛍を見に行ったときか。
そう言えば、最初にルーク兄様とルシフェルが、クラウス先生の結婚かプロポーズかなんかの話題を振って、私もそれに便乗したっけ。でも、私の便乗は、冷やかしとかではなく、めちゃ心配して申し上げたものではあったんだけど。
……まあ、完全に『余計なお世話』的なお返事だったんで、ご迷惑だったのは良く分かってるんだけど。
それで、話の流れから『ライト』と『サイレント』の合作魔法陣を作るだの、翌日魔法陣を作って来られたはいいものの、なんかちょっと言葉尻がとげとげしいなって思ったりはしてたんだよね。
で、今日の秘密主義アピール……。
なんか若干、根に持っていらっしゃりそう……。
とは言いつつ、魔法陣のときも、自信作を披露され、私が『サイレント』で口パクパクで驚愕したのを見たあとは満足気でいらしたし、今日も壇上で、う、ウインクとかされてたし、少し仕返しして驚かせてみたかっただけ、みたいな感じかも知れない。
クラウス先生、なんか最近茶目っ気がおありだな。これはボールドウィン侯爵家に家庭教師に来た影響が如実に出てるんだろうか? ルシフェルとは毎日会ってらしたから、『ルシフェル・マジック』に少々かかっているのかも知れない。ルシフェルもイタズラめちゃ好きだからな。
これは、いいのだろうか……。
私は全然構わないけれど、っていうか、今日のウインクは、めちゃ目の保養になったけれど、王様的には大丈夫なのかな、ちょっと心配になった。
でもまあクラウス先生は元々超優秀で真面目だから、少しくらい影響は受けても、どっぷりハマったりされることはないかも知れない。それに王様だって、”神の御意志”である以上、拒否できないとも思うしね。大丈夫と思っておこう。
でも私、男性からウインクとかされたの初めてだから、ホントどんな顔していいか分かんなかった。こういうことはホント慣れないんで、”男性からウインクされたとき”、”男性からお誘いを受けたとき”、等の淑女のマナー講座とか、あったら受けてみたいほどだ。
一応、最初宮殿で、超付け焼刃的なマナー指導を受けたあとは、基本的な立ち振る舞いなどは、ドミが指導してくれているんだけどね。
ちょっと、ドミに訊いてみようか。
「ねえ、ドミの位置からは、クラウス先生がウインクされたの見えました? 私、凄くビックリしたんですよ」
「はい、見ておりましたよ。してやったりのお顔、されていましたね」
ドミは、クスクスと思い出し笑いしている。
「ああいうとき、どんな顔すればいいのかなって、ちょっと疑問に思って……」
「それは、教師と生徒というお立ちばのお二人でいらっしゃいますから、微笑むだけで結構だと思いますよ」
まあ、確かにそれはそうか。喜んで『お会いできて嬉しいです~』って感じで手を振りまくるのも、変だよね、あの場所で。
ま、まあ、私の場合は、恥ずかしすぎて、俯いてしまったんだけれども。まあそれでもいっか。無難だったと思うことにしよう。
「それにしてもクラウス先生は、とても上機嫌のようにお見受け致しました。私が、『ソフィー様がお寂しそうにしていらした』とお伝えしたあとのクラウス先生の表情が、とても和やかな表情で微笑んでいらしたので。ウインクされるまでの流れ、私には非常に、水の流れる如くと思いましたよ」
と言って、ドミはまたクスクスと思い出し笑いを始めた。
う、ウインクまでの流れが、水の流れるが如くって、いったいどういう意味ですかね??
私はまたわざとらしく聞こえないふりをしつつ、紅茶を飲み干し、ドミを下がらせ、またベッドの上でゴロゴロ始めた。
私を寂しがらせたり、驚かせて面白がったり、上機嫌でウインクしてみたり、いったいどういうつもりなんだ、クラウス先生は?
ま、まあ、相変わらず国宝級にカッコ良くて美しかったんで、別に全然いいけどさ。
私はまたクラウス先生のめちゃイケメンぶりを思い出して、赤面しつつ、またベッドの上で枕を抱えながら、左右にゴロゴロ行ったり来たり、色々妄想巡らせてしまった。
そんな感じで私はベッドの上でゴロゴロ、悶々としてたんだけど、さすがに右に左にゴロゴロしてたら、なんか疲れてきちゃって、必要以上に疲れる必要もないなと思い、とりあえず大の字になって、ふーってひと呼吸した。すると……
突然、私の右手にモーゼの杖が現れた。
しかも、光の筋が伸びて、壁にぶち当たっていて、さらにどこかに伸びているように見える。
……これ、転生してきてすぐ神体山に行ったときと、同じ光じゃない?
これは、大天使ウリエルのお告げかも知れない! この光の先にはきっと神体山があって、そしてその神体山を、解放しなくちゃいけないんじゃ!?
私は慌ててベッドから飛び起きた。
クラウス先生に知らせなきゃ! 王立学院内にいるよね!?
私は急いでベルを鳴らしてドミを呼び、事情を話した。
「ドミ、覚えてますか? ほら、モーゼの杖が何かしらの変化を起こしたら、すぐに王宮にいるセバスチャンさんに知らせて欲しいってお願いしてたの。転移陣の魔石も渡してたでしょ? 今まさに、その状況になったから、クラウス先生のところに急いで行かないとダメなんだけど、王立学院内にある先生の自室とか、先生がいらっしゃるところ、見当つきますか?」
するとドミは、私が困らないように予め、既に王立学院内の校内図を把握してくれていたので、
「クラウス先生は、王立学院内に個人の研究室をお持ちです。すぐに参りましょう」
と言い、私をクラウス先生のところへ連れ出してくれた。
王立学院の教師の皆さまは、それぞれ教える分野に特化した研究室をお持ちで、クラウス先生はめちゃ文武両道だけど、教えるのは魔法と座学なので、王立学院内にある魔法訓練施設、その敷地内に、個人の研究室をお持ちということだった。
「ドミ、ありがとう! 本当に助かります!」
「これくらい、たいしたことではございません」
私がひと言ドミにお礼を言うと、ドミも笑顔で応えてくれる。
私はドミと一緒に小走りで急ぎながらも、クラウス先生のところに向かった。
女子寮から王立学院学舎、王立学院学舎から魔法訓練施設、そして、それぞれの施設を繋ぐ渡り廊下があり、渡り廊下の中心には休憩所というか、吹き抜けの丸い広場がある。ドミと一緒に女子寮からその広場に出てくると、ドームの窓から日差しが差し込んできて、眩しい。まだ八月だもんね。日差しもきついはずだ。
ちなみに女子寮は男子立ち入り禁止だけど、この丸い広場のところまでは来れることになっている。また、男子寮も女子寮と同じ作りになっているので、女子は、男子寮の手前にある丸い広場までは行くことが可能だ。
そして、王立学院学舎に進み、魔法訓練施設と繋ぐ渡り廊下に入る、魔法訓練施設には男女問わず入れるので、普通に丸い広場を過ぎ、さらに渡り廊下を進むと、女子寮の中に入って行くのと同じような扉が見えたので、女子寮に入って行くかのように、扉を開けて、中に入った。
扉を開けるとまた廊下があり、突き当りが魔法訓練施設だという。廊下の左右には部屋がいくつかあり、その中のひとつが、クラウス先生の研究室だ。
「こちらがクラウス先生の研究室でございます」
ドミがひとつの部屋の前に立ち、言った。
私はモーゼの杖を右手に持ち、左手で扉をノックした。
「どちら様ですか」
扉の向こうから、クラウス先生の声が聞こえてきた。どうやらお部屋にいらっしゃるみたいだ。
「ソフィーです。突然申し訳ございません。今、お時間よろしいですか? 至急、お話したいことがございます」
扉を開けて下さるクラウス先生、開けた瞬間は笑顔で迎えて下さったんだけど、私たちが血相を変えて急いで来たのが表情や、呼吸の乱れ具合からも丸わかりだったので、クラウス先生はすぐさま表情を引き締められ、私たちを部屋の中へ入れてくれた。




