大天使ウリエルが、私の守護天使に?
私の目の前に現れた天使は、大きな羽を広げ、頭には天使の輪、古代ローマの偉い人が着てそうな服を身にまとい、神々しい光を放っている。
天使なんて今まで当然見たことないので、あまりの神々しさに圧倒されていると、天使は私の脳に直接語り掛けるように言った。
「私の名はウリエル。七大天使のひとり。光で行く道を照らし、問題の解決を手伝う大天使です。
あなたは神に認められました。よってモーゼの杖を授けます。
かつて、モーゼが民を導いたように、神はあなたにも、同じ使命をお与えになりました」
と、とんでもないことを仰る大天使様、マジですか? 神に認められたって何でまた? 魔力量が多いからかな? それとも転生者特権ってやつ??
まあ、何にしても、このモーゼの杖をもらえるのは嬉しいな、何かと便利そうだし、この世界でも何とか生きていけそうな気がする。
でも、民なんて導けないよ? っていうか、誰も私の言うことなんか、聞かないだろうし。神様それでもいいのかな? 大丈夫?
ああそうだ、そう言えばさっき、ウルルが色々私のこと知ってたの、大天使ウリエルが先に私のこと教えてたのかな? 例えばモーゼの杖がずっとこの山のことを光指してたけど、その光の中にウルルへのメッセージも含まれていたとか、あるかも知れない。
にしてもこの大天使、恐ろしく美しいなあ……この世のものとは思えない、って、厳密にはこの世のものではないのか、天使だもんね。
などと、色々考えてたことが瞬時に頭の中で交錯し、混乱して、ただただ大天使ウリエルを、呆然と見上げることしかできなかった。
大天使ウリエルはさらに続けた。
「神は……まだ、この世界に期待していらっしゃいます。なので私はあなたの守護天使として、あなたを通してこの世界を、光と共に導いて参りましょう。全ては神の御導きのままに……」
そう言って、大天使ウリエルは、光と共に姿を消した。
ちょ、ちょっと待って? 突然消えないで? いったい何? ウリエルが私の守護天使って??
頭パニックになりつつ、でも私は、自分の体をパパパっと色々触ったり、肩越しに後ろを見て見たり、その他あちこち見たりしてみた。
ウリエル、どこにいるのな? さっぱり分かんないな。守護天使になったっていうのは、本当なのかな? 全く実感湧かないけど……
私は試しに心の中で、ウリエル!って念じてみた。
……何も起こらない。
ウリエルは、光で行く道を照らし、問題の解決を手伝う大天使って言ってたので、ただの呼び出しには応じてくれないみたいだ。
まあ、友だちじゃないしね。ひょっとしたら、天界でのお仕事とかが忙しいのかも知れないし、きっと問題が発生したり、私がピンチになったときに、私の行く道を照らし、問題解決に協力してくれるのだろう。
すっかり光りの祝福がなくなった後、この山を照らすのは、美しく輝くまん丸な満月と、ほんのり光りを放つ一枚岩だった。
最初ここに来たとき、一枚岩は何の光も放っていなかったので、きっと魔力が奉納されたら一枚岩は光るシステムなんだなって、思った。
でも光り方がほんのりなのは、あれかな? まだ私ひとりだけの魔力だけでは山を解放するのがやっとの魔力量で、まだまだ全然足りなくて、もっとたくさんの魔力が奉納されたら、もっと光るシステムなのかも知れない。
でも、結構な魔力量を奉納したとは思うんだけど……今、体が今フラフラするんで、感覚的にそう思う。貧血みたいな感じだ。私は前世では、ろくなものを食べてなかったので、そう言えば保健室の先生に『貧血です』って言われたことあったな。
魔力はあれかな、アニメみたいに、時間経過と共に自然と回復するのかな? ポーションがこの世界にもあれば、ポーションも一度、飲んでみたいな。どんな味だろう。
そんなことを取り留めもなく考えながら、辺りを見渡した。
さっき家を出たときは夕方くらいの感じだったんだけど、季節的にこの寒さからしても冬なのか、日が暮れるのも早く、辺りはすっかり暗くなっている。
そんな暗闇にぼんやり光る一枚岩、幻想的だなあ……
などとぼんやりと考えていたら、岩の精霊ウルルが一枚岩からポンっと現れて、一枚岩の上をぐるぐると転がり回り始めた。
おお、ウルル! 転がるときはちゃんと球形になるのか!
私は、スゴイ、可愛いって思って、思わずめっちゃ拍手してしまった。
でもウルルは特に、芸を披露したわけではなかったようで、私の前でポンっと姿を現して、私の胸に飛び込んできた。
突然飛び込んで来たんで、私はすごく驚いたんだけど、でも反射的にウルルを抱きとめることができた。体力激減してたんで、凄い体ふらついたけど。でも、意外と軽くてよかった。そして少し弾力もある。イメージ的にはバランスボールよりも小さくて、でもしっかりした作りっていう感じかな? まあ、元の姿に戻ったウルルは、バランスボールみたく、まん丸ではないんだけどさ。
でも、岩の精霊なんで、重くて固くてケガしたらどうしようかと、一瞬頭に過ったけれど、問題なくて良かった、良かった。
ウルルは元の姿に戻って、私に抱っこされつつ、そしてとっても喜びながら言った。
「魔力を奉納して、この神体山を解放してくれてありがとう。もう本当にこのまま魔力もなくなって、僕も消えてしまうかもって思ってたから。本当に助かった。この一枚岩も、そしてこの一枚岩にを頂点としてそびえ立つこの神体山も、これでしばらくは魔力不足を心配する必要なくなったよ。
でもね、この世界の魔力不足は深刻で、この神体山もそのひとつ。だからまた魔力を定期的に奉納しに来て欲しいんだ。あと、ここの他にも六つの神体山があって、そこもジミマイのような七大悪魔に乗っ取られ、魔界に魔力を奪われてるんだ。だから、残りの神体山も解放して欲しいな。
これらの山は『七ツ山』と呼ばれ、神体山なんだけど、七つの神体山が魔力で満たされたとき、さらなる神の御導きがあると思うよ。こんなこと頼めた義理じゃないのは分かってるんだけど、他に頼める人もいなくて困ってるんだ。だから、お願いしてもいいかな?」
ウルルの話、やっぱ長いなあ、まあ、伝えないといけないことがたくさんあるってことなんだろうけど。
などと思いつつ、どさくさに紛れてウルルの頭ナデナデを堪能しながら、色々話を整理してみた。
この山は神体山と言って、この世界にはこういう一枚岩を頂点にした神体山が七つある。
他の神体山もここみたいに、ジミマイのような七大悪魔に乗っ取られている……って、ちょっと待ってよ、ジミマイってここじゃなくて、現世での母親に乗り移ってなかったっけ? で、さっきの神体山解放でも確かに悪魔の声聞こえたけど、ジミマイの声ではなかったような……
私はその辺りのことを、ウルルに尋ねてみた。
ジミマイは、ここの神体山を乗っ取っていた七大悪魔のひとりだった。
七大悪魔レベルになると、貪汚に落ちる人間の魂が分かるそうで、そういう人間を見つけては、普通なら手下の悪魔たちに指示を出して、自分の食糧にしたり、魂だけゲットして魔界に持ち帰り、他の悪魔の食糧にしたり、乗っ取らせて人間界で暗躍させるための手駒にしたりするらしい。
でも今回はジミマイ本人が行ったということで、そういうことは、極めて珍しいことと言っていた。せっかく奪った神体山を空けることになるなんて、普通はしない。
で結局、神体山奪い返されちゃったんだもんね。
そう言えば、ジミマイが最初現れたとき、『サタンの命』とか言っていた。サタンの命令で本来なら守るべき神体山を空けて、私を魔界へ連れ去るとか何とか。でも、私のモーゼの杖を見た瞬間のあの取り乱しよう。
『どうやって手に入れた!? 私が手に入れようとしても無理だったのに!』とか何とか。
意味不明にもほどがある。
それに、手下の悪魔に人間乗っ取らせて、人間界で暗躍させるための手駒にするとか。
……え? じゃあこの世界には、人間の皮を被った悪魔ってのが存在するってこと?
私は驚いてウルルに質問すると、
「うん、悪魔にもよるけどね。悪魔の姿にしかなれないのもいるし、人間に憑依、擬態できるのもいるし、悪魔の姿と人間の姿を使い分ける悪魔もいるし、色々だよ」
と、あっさり言った。
こ、怖い。今ここまで来るとき、何人か人々とすれ違ったけど、その中にひょっとしたら悪魔もいたかも知れないの?
迂闊にモーゼの杖出したら狙われるかも。
っていうか、人前でモーゼの杖とか出していいもんなのかな?
でも、魔法の杖とかロッドとか、異世界だし普通にあるだろうし、それは問題ないのかな?
この世界の設定っていうか、一般常識が分かんないと困っちゃうな。誰か教えてもらいたいって、すごく思った。
でもそうなると、ここの神体山はたまたまジミマイがいなくて、一気に魔力奉納、神体山解放ってできたけど、他の神体山ではいったいどうなるのか。
ウルルは悪魔の甘い囁きとかに気を付けてって言ってたけど、さっきの悪魔が私の脳というか妄想世界に直接送り込んできた映像音声付きの思念みたいなの、七大悪魔が直々にしてくんのかな?
全く分かんないけど、これはもう大天使ウリエルがさっきみたいに、良い頃合いになったら光で道を示してくれるもんなんだろうと、思い込んでおくことにした。
あとは、この世界の神体山、七つとも奪われてて、魔界にここの、つまり人間界に必要な魔力を奪われ過ぎて、ウルルも存在できるかどうかの危機だったらしい。でも、その危機は何とか脱したみたいで、本当に良かったと思う。
こんなに可愛い子がいなくなるなんて、世界の損失だよね、ホント。
私はウルルのナデナデを堪能したあと、むぎゅっと抱きしめた。
するとウルルがひと言、「また来てね、待ってるよ」と言って、私の腕の中からポンっとはじけ飛び、一枚岩の中に消えていった。
うう、可愛い、いつ来れるかは大天使ウリエル次第と思うけど、またお呼びがかかるだろうし、それを待つとしよう。
ウルルがいなくなった後、辺りはシンと静まり返っている。この静寂が、私の寂しさ、心細さを余計に引き立たせる。
今からあの、酒乱暴力父親のところに、帰らなければならないのか……他に行くあてもないしな……
住まいと食糧をゲットする方法を知ることができれば、モーゼの杖もあることだし、できるだけ早とこ、出ていけるとは思うんだけど……
とにかく、出戻りだけは許されない。だって、虐待がさらに酷くなるから。
だから、万全の準備をして、絶対にここに戻ってくることがないと確信を得られるまでは、慎重に慎重を重ねて行動しなければならない。特にここは異世界で、右も左も分からない。生きていくのに必要最低限の情報を得るまでは、迂闊な行動もできないと思った。
家に帰り、また虐待かと思うと、本当に心が荒むけれど……。
私はパッとモーゼの杖を出してみたけど、別にどこか光りを指して行き先を示すわけでもない。
ウリエルに問いかけても反応なし。
私は小さくため息をつき、モーゼの杖をしまい、来た道を帰ろうとした。
でも来た道は来た時と違って、道が光で照らされててなく真っ暗だった。
何か明かりになるものをと思い、モーゼの杖を出そうとすると、後ろのほうから人の声が聞こえた気がして、私は振り返った。