少女マンガみたい?薔薇がお似合いのルーク兄様
すっかり春になったなあ。
気候も爽やかだし、朝起きたときもなんか気持ちいい。
良い季節になったなあって思っていたところ、ルーク兄様からお茶のお誘いがあった。以前私が『光の一族のこととか、良ければ少し教えて欲しい』と兄様にお願いしていたのを覚えて下さっていて、良い季節なのでバラ園を散歩したり、お茶したりしながらお話しよう、と提案して下さった。
そう言えば、以前魔力消費のために水やりには行ったことあるけど、入口から全体を水やりしたので、中にはちゃんと入っていなかった。そのときもバラは咲いていたけれど、今頃は季節的にも満開だろうと思う。めちゃ楽しみだなって思った。
お茶会当日になって、ルーク兄様が私の部屋まで迎えに来て下さった。
こんなイケメンお兄様が私のお兄様というだけでも未だ信じられないのに、迎えにまで来て下さるとか、ホント、どんな天国に迷い込んだのかな? マジで、今が人生のピークと思う。素晴らしすぎる。
前世はピークどころか、ボトムばっかりだったんで、余計に有難みを感じる。日々、感謝して生きようと、ルーク兄様の笑顔を見て、私はしみじみ思った。
お屋敷を出て、バラ園まではそう遠くない。すぐに大きなアーチ状の、白のバラで飾られた入口が目に入った。
最初にボールドウィン侯爵家に来た時、敷地に入るところにあった大きな門には、四季咲きのソフィーロシャスという品種のピンク色のバラでいっぱいだったけど、白のバラも実に品があって美しいなって思った。
私が白いバラの門にウットリしていると、ルーク兄様が「ソンブレイユという四季咲きのつるバラだよ」と教えて下さった。
四季咲きというと、一年中咲いてるやつか。どうりで前に水やりをしに来たときも、綺麗に咲いていたように思う。
大きなアーチをくぐると、石畳の小道になっていて、五メートル間隔くらいかな、小さなバラのアーチをくぐりつつ、道を進んで行けるようになっている。そして左右にはもちろん、たくさんのバラの花。色んな色があって、凄く華やかだ。
視界に広がる様々なバラは咲き乱れ、少し風になびき、時々花びらが風に舞っているのを見ると、本当に夢の世界にいる心地がした。
ルーク兄様は、私のそんな様子を見て、このバラは何なのかと、ひとつひとつ丁寧に説明して下さる。
兄様は本当に博識でいらっしゃるなあ……
って感心しきり、さらなる尊敬の念を持ち、正直バラより兄様に見惚れながら、兄様と一緒にバラ園の小道をゆっくりと歩いていく。
ひと通りバラの説明が終わったあと、ルーク兄様が、
「ルシフェルも誘ったんだけど、バラには興味がないと言って、断られた」
と仰って、苦笑いされた。
背景がバラなので、本当に少女マンガから出てきたみたいにカッコいいな、ルーク兄様。うん。
「『バラとかよりも、今度屋敷内でかくれんぼでもしようぜ!』っていう伝言を、ルシフェルからもらったんだけど、何て返事しようか?」
る、ルシフェルは、ホントにかくれんぼが好きなんだな。先日も『かくれんぼができる』って言って、ハスノハグサくれたし。
でも、ボールドウィン侯爵家のお屋敷は超広すぎて、実はまだお部屋の配置というか、邸内図をまだ暗記していない。さすがに自分の部屋から食堂には、ドミがいなくても行けるようにはなったけど、正直、ルーク兄様やルシフェルのお部屋には、自分ひとりでは未だ辿り着けない。私は以前お屋敷内で迷子になり、ルーク兄様に救助された経験があるので、さらなる迷惑はかけられないと思い、お断りした。
「私、多分またお屋敷内で遭難すると思いますので……」
「私がまた、助けてあげるよ? ソフィーが鬼になったら、一緒にルシフェル探してあげるし、ルシフェルが鬼になったら、一緒に隠れよう。私が鬼になったら、一番にソフィーを見つけるから」
う、笑顔が眩しいです、ルーク兄様。
にしても、ルシフェルが鬼になった場合が超恥ずかしすぎるわ。一緒に隠れるって、どこか狭い暗い場所で、ふたりで息をひそめて長い時を過ごすということ? もう恥ずかしすぎて、心臓が破裂しそうで、無理だわ、ホント。
「それでは、色んな意味で、かくれんぼが成立しない気がします……」
私は顔真っ赤にしながら、それだけ頑張って、とりあえず伝えた。
ルーク兄様は、私が顔真っ赤な理由はお分かりにならないようだけど、
「分かった、伝えておく」
と仰ったのちに、
「ソフィーは色が白いから、頬が赤らむと、綺麗なバラ色になるね」
と、優しく微笑まれた。
ちょ、ちょっと、爆弾発言過ぎませんか!?
心に巨大な爆弾を落とされて、もう既に、かくれんぼしなくても心臓破裂しそうですよ!?
「あ、あまり、見ないで下さい、ませ」
「ああ、すまない。ふと目に入ったバラと、ソフィーの頬の色が似ていたから、思わず言ってしまった」
と優しく微笑まれるルーク兄様。思わず、が、爆弾級なのだから、ホント洒落になんないです……。
にしても、私の頬の色と似ているというバラか、いったいどのバラかな? バラ園に視線を移してみたけど、たくさんありすぎて正直どれか、分からない。
今、リアルに自分の顔色見てみたいな。よくよく考えたら赤面したときに自分の顔色確認するってことないから、いったいどんだけ赤いのか、正直良く分かんないんだよね……いつか、確認する機会、あるかな?
そんな私の他愛のない妄想は、ルーク兄様が知るはずもなく、何か思い出されたのか、話を変えられた。
「そうそう、今日の午前中、クラウス先生に槍の稽古をつけてもらってたんだけど、休憩時間に昨日のディナーでソフィーが作ってくれたハンバーグの話をしたら、凄く羨ましがっておられたよ」
実は少し前に、練習でハンバーグを作ったんだけど、それがモーゼの杖効果もありとても上手にできたので、昨日のディナーでご家族の皆さまに披露したのだ。ルーク兄様はもちろん、養父様、養母様、ルシフェルにもとっても喜んで頂けて、私も凄く嬉しかった。
養父様は、
「固い肉を粉砕して再度固めると、このように柔らかい肉になるのか」
と、驚いていらっしゃったな。養母様も、
「アイデアの勝利ですわね。さすが、わたくしの養女」
と、何故か自分の手柄かのように喜んでいらっしゃるご様子。私は申し訳ない気持ちになって、
『養母様、ごめんなさい。そのアイデアは私じゃなくて、ハンバーグさんのなんです』
と、心の中で謝っていると、ルシフェルが、
「粉砕系の魔法って、敵をやっつけるだけじゃなく、固い肉を粉砕して美味しい料理を作ることができるのか。だったら、”食いしん坊勇者”っていうのが今後現れてもいいかもな。少年小説の編集室意見箱に、今度投稿してみよう」
とか、よく分からないことを言っていた。
そのぶっ飛んだ発想は、いったいどこから来るのだろう? 意見を投稿するのはもちろん全然構わないけれど、正直ルシフェル自身で小説書いちゃったほうが早いんじゃないかな? ちょっと読んでみたい自分がいる。
すると養母様はさらに便乗して、
「まあ、それはなかなか面白いアイデアじゃないの、ルシフェル。『さすらいの料理人、食いしん坊勇者』の伝説ね。物語を読んでいる最中も読者は、今日の料理が、食事の料理なのか、魔物を退治『敵を料理してやるぜ!』系の料理なのか、最後の最後まで分からないのよ。ミステリー要素と料理要素が勇者伝説に見事に融合、少年だけでなく、少女にも人気が出るわね。ほほほ」
と、品良く笑いながら仰った。
正直、養母様は今から小説家を目指されてもいいと思うな。荒唐無稽で面白すぎる小説を、たくさん生み出されると思う。
っていう、昨日のディナーの光景を、思い出してしまった。
で、ルーク兄様いわく、クラウス先生が羨ましがっていらっしゃったんだっけ。
「それで、休憩後のクラウス先生がいつもと違ってさ、なんか妙にイヤなところを突いてくるというか、太刀筋がイヤらしい感じでさ、それはそれで練習になるんだけど、案外子供っぽいところもおありなのかも知れないって、ちょっと親近感湧いたよ」
ほほう、あのいつも大人なクラウス先生が、子供っぽいとこがおありとか? 初耳だな。食にはちょっと執着がおありなのかも知れない。
「ルシフェルも、『今日のクラウス先生は、ブルー・スリーのランスロットみたいだ! カッコいい!』と、興奮していたし」
ブルー・スリーのランスロットと言えば、そういえば、槍の勇者だった気がする。
確か、『全関羽・青龍の呼吸 豪傑ノ型 偃月冷艶鋸大車輪』が必殺技だっけ? 私、ちゃんと覚えてるじゃん、ウリエル効果、マジ凄い。
で、あれかな、大車輪っていう必殺技なんで、前世でめちゃ流行ってた、ナントカの型の水車か、改・横水車みたいな技を披露されたのかな?
……それは、相当スゴイな……私もコッソリ見てみたかった。
「という感じで、ちょっと先生のことを気の毒に思ったから、一度作ってあげて欲しい」
と仰って、お優しい笑みを浮かべるルーク兄様。
そうか、クラウス先生……それほどご所望だったとは知らなかった。
ミートソースパスタを作ったとき、喜んで頂いたのはとてもよく覚えてるけれど、まさか、稽古のとき兄様たちに、勇者並みのイヤミな太刀筋にまでなってしまうとは、全く予想してなかった。
っていうか、大車輪のごとく槍を振り回しているのに、太刀筋なんて、あんのかな?
むしろ、槍を振り回して太刀筋もへったくれもないから、イヤミってことなのかな?
武術は奥が深すぎて、私にはさっぱり分からないな。早々に断念して良かったと思う。
で、私がハンバーグを作ろうと思った経緯なんだけどさ。
前に、クラウス先生との魔法の授業で、色々統計みたいなのを取られる中で、そろそろ頃合いいいかなあと思って、
『ボールドウィン侯爵家の皆さまに、ミートソースパスタを作ってさしあげたいのですが、クラウス先生がいらっしゃらなくても、簡単で規模の小さい魔法なら、使ってもいいですか』
って尋ねたときに、
『厨房で、簡単で、規模の小さい魔法なら使っても良いですよ』
と許可を得たんで、張り切って作ってみたんだけど、ミートソースパスタがボールドウィン侯爵家の皆さまには大好評で、とても喜んで頂けたので、調子に乗ってハンバーグもいつか作ろうと思い、先日作ってみるに至ったというわけなのだ。
でも、クラウス先生的には新たな料理まで私が作るとは、想像されてなかったということか。
ぜひ今度また厨房に呼んで、料理の様子を見て頂きつつ、一緒にランチを食べるのもいいな。提案してみよう。お気に召したら、また宮廷料理になるかも知れない。
それにしてもルーク兄様はお優しいし、人間できてるな。勇者並みのイヤみな太刀筋に、不満ひとつ漏らされないどころか、クラウス先生の人間性を分析しつつ、先生の願いを叶えてあげて欲しいと私に仰るルーク兄様。クラウス先生に日頃お世話になってるからっていうのもあると思うけど、お心寛大過ぎて、とってもステキだ。
私は、いっぱいの笑顔をルーク兄様に向けて、快諾した。
そんな風にお話しながらしばらく歩いていると、小さめの広場に辿り着き、ドーム状の天井の下に、噴水があった。そんなに大きくはないけど、その噴水もバラで飾られていて、凄く作りがこっている。水の音も爽やかだ。
小さなテーブルと椅子があり、席に着くようにルーク兄様に促されると、ルーク兄様のメイドが手際よくお茶の用意をしてくれる。ルーク兄様のメイドは、ドミくらいの年齢の若い女性だ。
そういえば、以前ドミから聞いた話では、ルシフェルのメイドは年配者だと言ってたけど、ひょっとしたらルシフェルは小さなときからやんちゃとかで、あえてしっかり躾けられる年配者を、メイドにしたのかも知れないなって、ちょっと思った。
あとそう言えば、ルシフェルのメイドだけ私、見たことないかも。
ディナーのときは給仕人がいるので、よっぽどの用か、それこそ私の最初の歓迎会のときとか、そういうときでないといないことが多い。
でも、私も最初にディナーのときは、緊張と大笑いで記憶が定かでないところがありつつも、そのような年配者のメイドは、いなかった気がするんだけど……。
まあきっと、ルシフェルのメイドは激務に違いないから、少しでも休めるときに、休んでいらっしゃるのかも知れないな。
でも、あんまりにも見かけないんじゃ、万一のことがあったんじゃないかって、ちょっと心配しちゃうかも。
近いうちに初対面が叶い、生存を確認させて頂く機会があればいいなって、心から願っていようと思う。




