魔力消費術の数々で、皆んなを驚かせてしまった
そして私はここに来るまでにしてきた数々の魔力消費術を、クラウス先生に伝えることとなった。
まずドミに、私にどんな魔力を使って欲しいか尋ねたところ、ドミは、だだっ広いお庭に水やりするが大変なので、お水をあげて下さると助かる、と言った。なので、まずはお庭の水やりをしてみることにした。
でも、まだまだ魔力は残っている。
仕方がないのでお屋敷のぐるりを回ってお庭だけでなく芝生とか、バラ園とか全部に水やりをして、
お屋敷内の食器などの洗い物や、大量の洗濯物を洗ったり、
ついでにお屋敷丸ごと全部洗ったり、
それでもまだまだだなって思ったので、お屋敷のぐるりを囲む塀なども含め、全方位囲んだ規模大きめの丸洗い魔法を上空からかけて、キレイにしてきたことを告げた。
「水やりには『アクア』、丸洗いには『ラババントゥール』が非常に役立ちました。今日、この訓練場を立ち去るときは、まず訓練場全体を見てみて下さい。すっごくキレイになってますよ!」
私は自身たっぷりに、満面の笑みで言うと、クラウス先生も、ルーク兄様も、そしてあのルシフェルでさえも口をあんぐりと開けて、驚いている。
そう言えば、ドミも驚いてたな。私がドミと一緒に門の外に出たとき、ドミは、塀のぐるりを回りながら何回かに分けて洗っていくのかと思ってたらしいんだけど、まさか一気に丸ごと敷地内ごと洗浄するとは思わなかったようで、空に浮かんだ大きすぎる魔法陣に、そう言えば、腰抜かしてたな。
『ラババントゥール』は、上から水みたいな液体を、一度バシャってするだけで綺麗になり、その水みたいな液体もどっかにいってなくなるので、乾燥要らずのスゴイ便利な魔法だ。ゴシゴシこすることもないので、洗濯物の生地も痛まない。お庭の植物だって、害虫を一掃できるんで、植物を大事に育ていらっしゃる養母様も、きっと喜んで下さるに違いないな。
でも、皆んなの顔は、どう見たって驚きのほうが強い。
なので、普段はそんな使い方はしないんだろうなって、ちょっと思った。
クラウス先生は困惑しきりの顔で仰った。
「と、とりあえず、私の認識が甘くて大変申し訳ありませんが、それほどの大規模な魔法となると……とにかく、それほど規模の大きな魔法は、今後私の許可なく使うのは控えて下さい。他にどのような影響が出るか、想像できませんので」
そして、そのあと小声で、何のために王宮で魔法の練習をさせていたのか、なぜ教えてくれなかったのかとか、ぶつぶつ仰っている。
ちなみに、『なぜ教えてくれなかったのか』っていう感じになってしまったのかというと、そもそも簡単な魔法しか習ってなかったし、今まで通常の使用方法でしか使う機会もなく、でも今日突然、魔力消費が必要になったので、ドミの提案のもと、慌ててやたらめったら思いつく範囲で使ってたら、こんな感じになってしまい、実は今まで自分も知らなかった、というのが真相なのである。
いや最初はさ、通常の使用方法で魔力消費してたんだよ。自分の部屋の中で、花瓶に生けてあるお花に水を上げたり、自分が今着ている衣服を洗浄したり、部屋中洗浄したり、今日使うことが分かっている闇の結界魔法を実際使ってみたり……。
でもそれじゃあ、あんまりにも非効率っていうか、体感あんまり魔力消費を感じないっていうか、ちまちましすぎて魔力消費が魔法の授業までに間に合わないって思って、めちゃ焦っちゃって、そばにいるドミに相談し、そして現状に至るって感じなんだよね。
そんなことをクラウス先生に伝えてみると、ただひたすら頭を抱えて、「全て自分の認識ミスだ」と仰った。
こんなに優秀で賢過ぎるクラウス先生を、こんなに悩ませて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
でも、憂いあるお姿も超カッコいいんで、申し訳ないフリしつつ、こっそり見て堪能しているけれど。
だからといって、もちろんワザとクラウス先生を困らせたりなんてこと、絶対しないけど。恩もあり、いつも優しく接して下さるから。
ただ、まあ、こんな時だけ、ちょっとだけ、ね。
と、私が悪い心を覗かせていると、ルシフェルは負けず劣らずお調子者なので、
「俺、スゲーその魔法、見てみてー! とりあえずこん中でちょっとやってみてよ?」
って、超陽気に言ってきた。
「え、『ラババントゥール』って誰にでも使える簡単な無属性魔法って聞きましたけど」
「いやいや、そんな規模のでかいのする奴、普通いないから。本当はボールドウィン侯爵家の敷地内全部のやつ見たいんだけど……」
クラウス先生が、ギロリとルシフェルを睨んだ。
「なりません」
「っていうわけなんで、この中なら良くね? なあ、先生!」
押しの強いルシフェルに根負けしたのか、クラウス先生はしぶしぶ頷かれた。
そんなに珍しいことなのか。じゃあ張り切ってしてみようかな。訓練場の中も、綺麗になるしね。掃除するメイドさんや下働きの皆さんも、喜ばれるだろう。
私は訓練場の中全部を綺麗にするイメージで、呪文を唱えた。
すると、天井いっぱいに大きな魔法陣が現れ、次の瞬間、ザバッて滝のような水っぽい液体が振ってきたかと思うと、次の瞬間にはすっかり乾いていた。
訓練場の中だけでなく、私たちも何となく、こざっぱりしたような……?
元々皆んな超イケメンだけど、それがさらに髪もサラサラ、何となくキラキラ感も増し、さらなるイケメンになられ、私も非常に喜ばしく思った。
でも皆んなはそれよりも、私の魔法のほうが気になる様子で、
「……これを、敷地内全部に、かけられたわけですね……?」
「普通、もっと小さなものを洗ったり、遠征時などで身綺麗にするための魔法だから、半径1メートルの範囲でしか、私は使ったことなかったが……」
「ちょーウケる! 汚いところが突然キレイになってるっていうイタズラで、人を驚かせられるな! しかも人から感謝もされるし、一石二鳥じゃん!?」
い、イタズラには使わないほうがいいと思いますけど、ルシフェル?
クラウス先生は、ふぅっとひと息つかれたのち、軽く頭を振りながら仰った。
「……まあ、ソフィー様のことは、大体分かりました」
なんか、非常にお疲れのように見えないこともないんだけど、今は、見て見ぬふりしとこうって思った。
「それでは、ルーク様も参りましょうか?」
少しだけ気を持ち直されたクラウス先生がそう仰ると、ルーク兄様が私たちのもとから離れつつ、
「分かりました。最初は加減しつつ、ですね?」
と仰って、準備に入られた。
ルーク兄様は、どんな魔法、使われるのかな?
クラウス先生に尋ねてみると、ルーク兄様は『サンセット』という魔法を使われるという。どんな魔法かというと、『サンセット』には日没、末期、晩年、斜陽、衰退、終焉、といった意味があって、その意味通り、生命体なら一気に老化させて死なせてしまう、恐ろしい魔法だそうだ。また、魔力を強めると生命体でないゾンビとかにも攻撃ができるようで、どんな攻撃なのかというと、太陽が沈むほどの引力で、圧し潰してしまうそうだ。
で、ルシフェル同様、光の一族であるルーク兄様は、光属性のこの魔法が得意で、普通に唱えても強い魔法なのに、ルーク兄様が唱えるとさらに強くなるという。
こ、怖いな。老化で一気に人生の終焉とか、圧死とか、それがさらに強力になるとか、光の一族マジ恐るべしだ。でも、そばにクラウス先生やルシフェルがいるから、今は安全、大丈夫なのだとは思うけれど。
私は緊張しつつ、でも、クラウス先生に促されるままに防御結界を張った。
「テネムルス」
そして、私の防御結界を確認されたルーク兄様は、呪文を唱えられた。
「サンセット」
すると、大きな魔法陣が浮かび上がり、辺りが一気に夕焼け色に染まっていった。
なんていうか、辺りの夕焼け色に呼応するかのように琥珀色の髪がなびき、その中で光る金色の瞳、それがすごく神々しくて、赤い空に君臨する王様みたいだ。見ていて本当に凛々しくカッコ良く、そして美しい。でもその美しさとは裏腹に、実はめちゃ恐ろしい魔法というのはクラウス先生から伺っているんで、見惚れてばっかりもいられない……ちょっと残念だな、うん。
でも、皆んな本当に凄い。剣だけじゃなくて、魔法もこんなに使えるんだもん。私はそれでなくても魔法しか使えないタイプなんだから、もっと頑張らないとなって、思ってしまった。焦ってもしょうがないんだけどね。まだこっちに来て数か月だし、クラウス先生も少しずつと仰ってたし、でも、皆んなが相当スゴイから、皆んなのお役に立つためには、私も努力を怠ってはいけないって、改めて思った。
決意新たにしていると、やっぱり先ほどのルシフェルのときのように、自分の中に魔力が段々と溜まってきた。
クラウス先生が注意深く私を見ている。私はまだ大丈夫という笑顔を返すと、クラウス先生とルーク兄様が顔を見合わせ、兄様の魔法がさらに強くなった。なんか、辺りが夕焼け色だったのが、夕闇色に近くなった気がする。いよいよホントに陽が沈むって感じだ。ルーク兄様の金色の瞳も、さらに光が増して、夕闇空に輝く一等星のようにも見えてきた。
お姿、ホント神々しいなあ。お体も、なんかオーラ帯びてきた気もするし……。
って私が見惚れていたら、ルーク兄様が「そろそろ限界です」と仰った。
その言葉を聞かれたクラウス先生は、ルーク兄様に『サンセット』の中止を指示され、私も闇属性の防御結界『テネムルス』の魔法を解いた。
「ソフィー様、魔力の器のほう、大丈夫ですか?」
「そうですね、感覚としては腹八分目……九分目にはならないくらいって感じでしょうか。大丈夫ですよ」
私があっけらかんと答えると、クラウス先生は、ひとつ大きく息を吐かれた。
「ソフィー様の魔力量が大変な量であることは、よく分かりました。今後は魔法の授業も、少し考えて参ります」
……考えてって、何するんだろ? まあ、私は言われたことをコツコツするだけだけど。
ちなみに、ルーク兄様やルシフェルの現在の魔力量は、自身の魔力枯渇にならないように三割程度魔力を残した状態だという。最初魔法をかける前の状態がMAX状態だったかは分からないけど、っていうか、剣の稽古とかしてらしたし、何かと使ってらっしゃったかも知れないけど、仮に五割ずつ二人が魔力を使ったたとして、未成年とはいえ、貴族の中でもトップを誇る光の一族の魔力量を超える魔力の器を、私は持ってるということは、分かった。
そしてクラウス先生は、私はまだ未成年なのにこの魔力の器は、既にもう広すぎるけれど、でもまだ成長段階であるのと同時に、神体山解放もあるので、今後はもっと広がっていく、いやむしろ、広げなくてはならないと仰った。
ルーク兄様は私の手を取り、”お手々ぎゅっ”して仰った。
「さすが、モーゼの杖所持者であり、私たち誰もができなかった神体山を解放しただけのことはあるね。正直、とても驚いたよ」
なんか、目がキラキラしていらっしゃる。金色の瞳がキラキラしだすと余計に眩しいな。そしてその眼差しが、私に向けられた尊敬と期待でいっぱいなのが分かるなので、恥ずかしくて思わず目を逸らしてしまう。
”お手々ぎゅっ”は、とても嬉しいんだけどな。
「いえ、それよりルーク兄様のほうが、あんなに剣の達人なのに、あれほどの魔法まで使えて、正直チートかと思うレベルです」
するとルシフェルが、話に寄ってきた。
「いや、チートなのは、ソフィーのほうだから。どんくらいチートかというと、イメージとしては『ブルー・スリー』くらい」
いやいや、あのお三人と並べるのは止めて欲しい。だって、イミフだもん。ホント。
「まあ、おおよそのことは把握致しました。皆さま未成年ながらこんなにおできになり、私も専属の教師として鼻が高いです。ですがソフィー様の魔法の授業は、今後王宮のみで行いましょう。よろしいですね?」
クラウス先生の黒に近いコバルトブルーの瞳が、キラッて光った気がした。きっとこれは、さっきも仰ってたけど、王宮以外で先生の許可なく勝手に魔法を使うなよっていう釘刺しっていうか、確認の視線なのだと思う。
私はとりあえず怒らせたらまずいなと思ったので、首を縦にぶんぶんと振って意思表示すると、クラウス先生は安心して頷かれ、今日の魔法の授業は終わった。
あのルーク兄様とルシフェル合同での魔法の授業から、その後も時々魔法の授業がある。もちろん、王宮の魔法訓練施設でである。やはり魔法に特化した施設なので、色々やりやすいのもあるし、何より、私が万一変なことをしでかしても、情報漏洩の心配がないので、クラウス先生もとても安心なようだ。
もちろんまだ簡単な魔法しか習ってないんだけど、まずは普通の使い方をマスターし、その後で施設中にその簡単な習ったばかりの魔法をかけ、魔力消費はどんな感じか尋ねられる。例えば私が、「体感一割の魔力を消費しました」とクラウス先生に告げると、先生は、「では、ソフィー様はこの魔法を、その十倍の規模で使用可能と判断致します」みたいなこと仰って、そしてまた私に新たな魔法を教えたりして、なんか統計みたいなものを取ってらっしゃるようだ。
とはいっても、習ったばかりで魔力使用が慣れていなかったり、私自身成長途中なので、あくまで暫定的なものらしいけど。それでも今後、私が魔法を使う上である程度の予測が立てられるのは、とても重要なことだそうだ。
先日の魔法の授業みたいに、突然真実を突きつけられるのは、やはり心臓に悪いとか仰ってた。悪いことをしたなって、ちょっと思う。
あと、魔力消費が自身の平均値を考えると多めだな、とか、少なめだな、とか知ることができると、魔法の得意不得意の傾向も分かるので、そういうことも調べていると仰ってた。
それにしても、そんな多岐にわたる範囲で色々調べて統計を取られているのに、クラウス先生はメモのひとつも取られない。何でも、見ればすぐに暗記できるそうだ。凄く凄く、羨ましい限りの頭脳だ。
クラウス先生は、科学者とか研究者とかも向いてると思う。
でも、クラウス先生が王様の側近をされてるのは、その科学者ばりの頭脳と、達人並みの武術で側近に引き抜かれたんだろうな……
まあ私はクラウス先生が、国宝級の美形であることも、非常に買ってるけどね。
って、私の評価は、全くもってどうでもいいんだけど。




