シロツメクサで遊んだり、素材採集したり
意気消沈したルシフェルが、あんまりにもフラフラと地面に倒れこむので、
あれ? ひょっとして『奥義・酔剣』発動の前フリかのようなフラフラ感? ちょっとスタンバイ入ってるように見えるんだけど??
と、内心思いつつも、ルシフェルをその気にさせてはいけないので、絶対に心の声を表に出しまいと心に誓いを立てつつ、一枚岩のほうを見ると、そこにはウルルが魔力奉納に来ている貴族たち相手に、ツアーガイドっぽいことしていた。
お日さまの下で見るウルルはとても新鮮。岩の丸っこいところに陽の光が当たって、つるんとしてるのも、めちゃ可愛いな。
そのめちゃかわウルルのそばには、小さなお子さまたちがたくさんいた。七歳以降は魔力奉納が義務付けられているので、魔力奉納に来たお子さまたちだろう。ウルルはお子さまたちに大人気だ。
本当はウルルに話しかけるの楽しみにしてたんだけど、お子さまたちの間を割って入るほど大人げないことはしない。私は体力増強のためしばらくは神体山を往復することになっているので、焦ってはいけないよね。今度話かける機会があったとき、張り切って『お仕事頑張って偉いね、いつも見てるよ』って、めちゃ褒めてあげることにしよう。
ボールドウィン侯爵家の皆さまが魔力奉納に来られたのは、それこそ私が神体山を解放してほぼ直後くらいにお呼びがかかり、一度だけ魔力奉納されたことがある。魔力奉納の順番は、”神の御意思”と言われているけど、聞いてる限りでは位の高い貴族から順番になっているようだ。貴族は、基本的には位が高ければ高いほど魔力量が多いとされていて、一度に魔力をたくさん奉納できるほうが効率がいいので、”神の御意思”とかいうのも、ちゃんと理にかなっているんだなあって思った。
それで、ルーク兄様とルシフェルはそのときが初めての一枚岩への魔力奉納で、それまでは、凱旋門より上に上ったことがなく、先日の神体山の偵察入れても今回で、ここに来るのは二回目なので、神体山に行くのは、とても新鮮な気持ちだと、昨日ディナーの席でルーク兄様が教えて下さった。
……まあ、約一名、新鮮な気持ちよりも、今は心労のほうが上回っている人も、いるけれど。
私は、しょんぼりしているルシフェルの隣に座り、シロツメクサで花冠を作り始めた。
「ソフィー、何してんの? ……っていうか、手先、めちゃ早いじゃん?」
少し驚いた表情で、私のことを見るルシフェル。私は、
「シロツメクサでね、花冠作ってるの。すぐできるよ」
と、前世で修行に修行を重ねた技を存分に発揮しつつ、説明した。
ルーク兄様もクラウス先生も、こっちにやって来てその場に座りこまれる。
「驚いた、シロツメクサで冠、作れるんだね?」
「はい、でも今回は小さめにして、ブレスレットにしようと思ってます」
「ソフィー様は手先が大変器用でいらっしゃいますね。私には職人技に見えます。驚きました」
私は三人の顔を見ると、驚きの表情で、私の顔と手元をご覧になっていた。
おお、ルシフェルに続き、ルーク兄様もクラウス先生も驚いていらっしゃる!
私、今まで何でも教えてもらってばっかりだったんだけど、初めて皆んなが知らなくて、私が知ってること、披露できた! 嬉しい!
私は得意になりつつ、物凄い手際の良さを発揮していると、クラウス先生が私に質問された。
「これは昔、よく作ってらしたのですか? 確かに平民街にはシロツメクサなど雑草は、至るところに生えてそうですが、巷で流行っていたとか?」
う、なんて答えたらいい?
めちゃ焦ったものの、とにかく私は記憶喪失設定なんで、適当に誤魔化すことにした。
「あの、私も良く覚えていないんですが、なんか手だけは覚えていて、すらすら作れて、懐かしく、楽しくて、つい調子に乗ってしまいました」
と言って、私は苦笑いした。
「申し訳ございません、記憶がまだ戻ってはいらっしゃいませんでしたね……ですが、記憶は定かではなくとも、習慣として体が覚えているものは、何となくできたりすることもあるのですね。勉強になります。
また、ソフィー様がこれほどまでに手先が器用と知れたのは朗報です。今後多大な魔力量を生かして、魔石作りや魔術具作りに才能を発揮されるかも知れませんね」
シロツメクサの花冠が、なんでそんな仰々しい話になんのかさっぱり分かんないな。ただの慣れなんだけど。
でも否定することで変に話が食い込んでくるのもイヤなんで、笑って誤魔化していると、
「あとソフィー様は、体力さえつければ何も申し上げることはございません。なので、私と一緒に頑張って参りましょうね」
と仰って、クラウス先生は二コリと微笑まれた。
さすが私担当の家庭教師、現状把握が素晴らしい。
とりあえず私は、「体力増強、頑張ります」と小声で答え、花冠の作業に戻ると、あっという間にひとつ、作り終えた。
私は、しょんぼりしているルシフェルのほうを見て、言った。
「じゃあこれは、ルシフェルにあげる」
私はシロツメクサのブレスレットを、ルシフェルの手首にはめた。
「え、俺?」
「うん、ちょっと元気ないみたいだし。せっかく春になったんだからさ、落ち込んでるよりも、華やぐ気持ちに少しでもなれるかなって……。あの、迷惑だったかな……?」
私は恐る恐るルシフェルを見た。ルシフェルは、少し驚いて目を見開いたあと、スッと視線を逸らして、自分の手首に視線を落とし、微笑んだ。
「いや、嬉しい。ありがとう」
そう言ってルシフェルは、ニカって笑い、いつものルシフェルの笑顔になった。
私はその笑顔を見てほっと安心し、満面の笑みで微笑み返した。
するとルーク兄様も、クラウス先生も、
「ルシフェル、いいじゃないか、私も華やいだ気持ちになりたいと思っていたんだ」
「確かに華やぎますね。私には、作り方を教えてもらってもいいでしょうか?」
などと仰るんで、私はルーク兄様の分を作りつつ、今度はゆっくりと、皆んなに教えながら、和気あいあいとした時間を過ごしていた。
私はいつも、一人でしか作ったことなかったから、私の周りに人がいるのが、本当に不思議で仕方がなかったけど、皆んなの笑顔が眩しくて、そして嬉しくて、心に春の日差しが差し込んで来るような暖かさを感じた。
クラウス先生とルーク兄様、あとルシフェルも便乗して花ブレスレットを作っている間に、私は早わざを発揮して、兄様とクラウス先生の分を作り、手首にはめてあげた。
お、お二人の笑顔が眩しいです。正直、お花のブレスレットより、お二人の笑顔のほうが、よっぽど私、華やいだ気持ちになります。
と、めっちゃ見惚れていると、次はルシフェル始め、ルーク兄様やクラウス先生が、私の手首に次々と花のブレスレットをはめた。
ひとつはとてもふんわりした作りで可憐でキュートなブレスレット、もうひとつはかっちりしっかりした作りで密度の濃い少しボリューミーなブレスレット、最後のひとつは、ときどきちょっとしたアレンジも入るアイデア溢れるブレスレット……
誰がどれを作ったのか、言われなくてもすぐに分かる。個性って出るんだなあって思って、楽しく眺めつつ、私は心に花が咲いたように、華やいだ気持ちになった。
「とても嬉しいです。ありがとうございます」
私は満面の笑みを浮かべて言うと、皆んなは私に優しい笑顔を向けて下さった。
私は自分の幸せを噛みしめ、頂いたブレスレットをそっと触って確認しながら、自分の胸に、手首ごと抱え込んだ。
「休憩はこのくらいにしまして……」
と、クラウス先生は、お話を始められた。
「せっかくここまで来ましたので、神体山の偵察を、もう少ししてみましょうか。前回はこちらのほうをしたので、今回はあちらのほう……」
クラウス先生は指を指しながら説明されている。
「また、前回来たときとは違い、ハスノハグサの花も咲いていますので、素材採集もしてみましょう。ルーク様は王立学院の授業で必要になるかも知れませんので、ぜひこの機会に採集しておいて下さい」
ルーク兄様は必要で、私とルシフェルには必要ないということは、二年生の授業で使うのかな? 実に楽しそうだなって思った。なんか、ハスノハグサのお花って、ぽってりしてて、可愛いと思うんだよね。色が深紅なのも、女子の心を惹きつけるしさ。
っていうかさ、この世の丸くてぽってりしたものって、どうしてあんなに可愛いのかな?
前世ではゴマちゃん、枝豆しば、なすあざらしとか大好きだったし、現世ではウルルを筆頭に、ハスノハグサのお花も仲間に入ってしまった。可愛いものが世の中に溢れているのは、実に素晴らしいと思う。
などととりとめのないことを思いつつ、私たちは、クラウス先生が指示された場所へ向かった。
指定の場所に辿り着くと、皆んなそれぞれクラウス先生の指示通り動いた。
ルーク兄様は、主にハスノハグサのお花を見ていらっしゃる。少しでも状態の良いものをと吟味されているようだ。
私とルシフェルは、クラウス先生の指示を伺い、野生動物の戻り具合とか、周りに魔物がいないかとか、貪汚がどこかに残っていないかとか、調べ始めた。
クラウス先生は、貪汚で腐ったヒノキを入念に調べていらっしゃるみたい。時々魔法を使って切り取り、腰に下げている持ち帰り用の袋に入れたり、あと、正常なヒノキもいくらか切って、袋に入れていた。
比較研究されるのかな?
もしくはヒノキは素材としてとても優れていると、行きがけのお話で仰ってたので、正常なヒノキのほうは、何かに使われるのかも知れないなって思った。
ぼんやりしてたらクラウス先生に呼ばれたので、いけない、いけないと思いつつ、急いで行くと、簡単な魔法の訓練をすると仰った。
ここに倒れているヒノキを、クラウス先生自身がお持ちの、持ち帰り用の木材と同じ大きさに切り分けて欲しいという。
魔法で大事なのは、何よりもイメージと仰るクラウス先生の言葉に頷き、私はモーゼの杖を出した。
「セカーレ」
私が魔法を唱えると、倒れているヒノキが一瞬の内に全部等間隔に綺麗に切り分けられていた。
おお、上手くできた!
と、私が喜んでいると、
「最初にしては、驚きです。数本だけ切って頂こうと思っていたのですが、まさか倒れている木、全部を木材にしてしまわれるとは。しかも全部が等間隔。これほどの魔力量を緻密に扱えるのは非常に素晴らしいことですよ」
と、凄く褒められた。とりま、めちゃ嬉しい。
「想像力が豊なのですね、ソフィー様は。甚大な魔力量に聡明さ、手先の器用さに加え、想像力もおありで、さすが、モーゼの杖に選ばれた方でいらっしゃると感服致しました」
そ、それは色々誤解があるような。賢くはないし、器用ではなくただの慣れだし、想像力は、ただの妄想癖で持病とも言うし……。あ、あまり期待値を上げないでおきたいな。
私はモーゼの杖を片付けて、笑顔を取り繕っていると、クラウス先生が寂しそうに仰った。
「……まだ、褒められることには慣れませんか?」
いや、そんなことはない。むしろ随分慣れてきたように思う。
クラウス先生やボールドウィン侯爵家の皆さまは、とても親切かつ私を褒めて下さるので、私も実は最近調子に乗りつつあるくらいだ。
だいたい調子に乗ってなければ、『剣持ってみたい』などと無茶で無謀なこと言ったりしないし、養母様やルシフェルの影響も強いのか、不貞腐れてても面白しょうもない発想が次々出てきたりして、自分で自分が面白かったりする。
っていうかむしろ、最近調子に乗り過ぎてる気もするので、少し自分を見つめなおさなければと思ってるくらいなんだよね。
「そんなことないです、クラウス先生。そうでなかったら、突然『剣を持ってみたい』とか言いだしたりしないですよ。むしろ、自重しなければと思っているところでした」
「なるほど、そうでしたか。ですがソフィー様はまだお若いのですから、少々無茶して、壁にぶち当たるくらいのほうが丁度いいです。今日はルシフェルを叱りましたが、まあ、ルシフェルは行き過ぎにしても、ソフィー様に関しては、あれくらいの勢いがあっても良いくらいです。ですので先日、剣の稽古を望まれたときは、私もとても嬉しく思いました」
と仰って、思い出し笑いされた。
う、私の黒歴史、恥ずかしいから思い出さないで欲しいな。
「光の魔法も徐々に使えるようになってきていますし、ソフィー様のご成長は、極めて順調で私も嬉しいです。なのでもしよろしければ、また他の武器も試されると良いですよ」
と仰りながら、また笑っていらっしゃる。
きっと私と同じような想像をされているのだろう。弓だと自分の爪先を射抜きかねないし、槍だと杖にしかならない、みたいな。まあ、その通りだけど。
「確かに壁にぶち当たることは、若い頃とても貴重な経験になると私も思っていますが、似たような経験は、まあ、一度でいいかな、とも思っております」
と、丁寧にお断りしておいた。
クラウス先生は、「それは残念です、見てみたかったのですが」と笑いながら仰るんだけど、ひょっとしたらルシフェルに似た危険思想がおありなんだろうか? ちょっとだけ、気を付けようと思った。




